監修弁護士:岸 周吾 先生(白金中央法律事務所)
■所属弁護士会:東京弁護士会
生涯を共にしたいと相手と離婚を決めることは人生にとって大きな決断のひとつでしょう。当職は弁護士登録以降、離婚をはじめ相続など身近な家族間のトラブルを多く経験してきました。弁護士に依頼したいと考えた場合、「話をきいてくれるかな」などという不安があると思います。当職は「依頼した弁護士との話すのが何よりもストレスだった」ということがないよう、ご依頼者様が話しやすくなるような雰囲気づくりを意識して対応しています。お話を伺い、ご依頼者さまが納得できる結果が得られるよう尽力しておりますので現在お悩みの方はお気軽にご相談ください。
この記事でわかること
- 経済的DVは必要な生活費を渡さないなどして経済的に精神を追い詰めること
- 経済的DVには一律の基準があるわけではない
- 経済的DVは法律で定められている離婚事由に該当する可能性がある
- 経済的DVによる離婚を望む場合、専門知識が必要となるため弁護士に相談すべき
経済的DVは、身体的暴力ではなく金銭的に配偶者を追い詰めていく行為です。
経済的DVはわかりにくいため、事例の紹介などをしながら説明し、対処法などについても紹介していきます。
経済的DVとは
DVというと、夫が妻を殴ったり、妻が夫を引っかいたりといった配偶者に暴力をふるうことをイメージする方が多いかもしれません。
しかし、実際には、身体的暴力の他にも、暴言を吐いたり、過度に配偶者の行動を制限したりして精神的に追い詰める行為もDVに含まれます。
経済的DVもその中のひとつで、必要な生活費を渡さず、困窮させることで配偶者を精神的に追い詰めることをいいます。
家庭の金銭状況は、仲の良い家族や友人であってもなかなか話しにくい話題です。
そのため、経済的DVは第三者からみてわかりにくく、当事者ですらDVの自覚がない場合もあります。
夫や妻があなたに対し、次のような行動をしていた場合には経済的DVを受けている可能性があります。
- ①必要最低限の生活費を渡さない
- ②配偶者が働いて収入を得ることを許さない
- ③配偶者が自由に使えるお金を与えない
- ④働けない事情もないのに配偶者の収入に依存する
- ⑤借金を繰り返したり、配偶者に借金したりするように強要する
経済的DVは一律の基準があるわけではなく、個別の状況によって判断は変わってきます。
どこからが経済的DV?具体的事例を紹介
経済的DVにあたるかどうかは、各家庭の状況によって大きく異なります。
例えば、普段の生活費を切り詰めていたとしても、家を買う目標があり、また夫婦双方が生活費を切り詰めることにお互い納得しているのであれば、それが一般的にみて過剰ものであっても経済的DVとはならないでしょう。
では、どのような状況であれば、経済的DVだといえるのか、具体的な事例を交えて考えていきたいと思います。
事例①共働きで片方だけが生活費を負担している
夫婦で共働きをしており、それぞれに生活できるだけの収入がある。
結婚当初は生活費を分担していたが、途中から夫が生活費を払わなくなった。
生活費を払うよう求めても夫はそれに応じず、妻一人が生活費を負担する状態が続いている。
上記のケースでは、妻が夫から経済的DVを受けている可能性があります。
というのも、夫婦にはお互いに扶助する義務を負っているためです。
今回の場合、夫が特別な理由なく生活費を支払わなくなっているのであれば、扶助義務違反になると思われます。
ただし、妻は生活できるだけの収入があるため、生活ができないほど困窮し精神的に追い詰められているとは考えにくいです。
また今回のようなケースは、経済的DVを立証する証拠を得るのが難しいため、慰謝料請求したとしても、精神的苦痛の程度や証拠の有無などで通らない可能性があります。
事例②小遣いを得るために働きに出たいが夫が許さない
専業主婦の妻は、夫の収入で生活しているが、夫がすべてのお金を管理しており、収入や貯蓄額を妻に教えず、最小限の食費程度しか渡さない。
妻が小遣いを得るために働きたいというと、夫がそれを許さず、働くのならもう食費も渡さないなどと言って脅し、妻に一切自由なお金が使えない状況を作っている。
このようなケースでは、経済的DVに該当する可能性が高くなります。
この夫婦の場合、夫は妻に自由なお金を持たせない状況でいることを強要し、自分の経済的な優位性を利用して妻を支配していると考えられます。
また、妻が働くことを認めずに自分の支配下におこうとする行為は、モラルハラスメントに該当する可能性もあります。
事例③仕事をすぐに辞めてしまい配偶者の収入に依存する
夫がすぐに仕事を辞めてしまい、妻の収入に依存して生活している。
夫は健康に問題もなく特別な事情もないのに仕事を真剣に探そうとせずぶらぶらしている。
このようなケースは、経済的DVに該当するかどうかの分かれ目は大きく次の2つです。
- ・夫が働かないことで経済的に困窮していないか
- ・夫が家事や育児などに協力しているかどうか
夫が働かないことで経済的に困窮していないか
経済的DVに該当するかの観点として、夫が働かないことで生活が困窮していないかどうかが考えられます。
働いていなくても生活が成り立つ場合には、経済的DVにあたらない可能性が高いです。
夫が家事や育児などに協力しているかどうか
夫が働かないことが経済的DVに該当するかどうかのポイントとして、働いていない夫が家事や育児に協力しているかどうかにあります。
家事や育児に協力している場合、働いていなかったとしても家事や育児を行うことで家庭に貢献していると考えられるので、経済的DVにならない可能性が高いです。
経済的DVは法的な離婚事由になるのか
経済的DVは法律用語ではありませんし、厳密な定義があるわけではありません。
ですが、経済的DVは、状況によって法的な離婚事由になりえます。
経済的DVは、法律で最終的に夫婦一方の意思で離婚できる事由のひとつである、「悪意の遺棄」にあたるとされています。
悪意の遺棄とは、正当な理由なく夫婦の同居・協力・扶助の義務を果たさないことをいいます。
配偶者から受けている経済的DVが扶助義務に違反している場合、悪意の遺棄に該当する可能性があります。
悪意の遺棄というのは、夫婦の義務である「同居・協力・扶助」を守らないことです。
また、悪意の遺棄だと認められない場合でも、状況によって「その他婚姻を継続しがたい重大な事由」とみなされるケースもあります。
経済的DVの証拠になるもの
配偶者の経済的DVによって離婚したいとき、有利に交渉を進めたいと思ったり、自分自身が望む離婚条件を結びたいと考えたりしたときに重要となるのが証拠です。
経済的DVの場合、具体的にどのようなものが証拠となり得るのでしょうか。
経済的DVを立証する証拠として、主に次のようなものが考えられます。
- 1.生活費の振り込みがされなくなったり極端に少なくなったりしたことがわかる銀行通帳
- 2.少ない生活費でのやりくりの状況が詳細に記されている家計簿
- 3.配偶者の借金の契約書や督促状
- 4.配偶者の浪費の内容のわかるクレジットカード利用明細や記録した日記
その他、生活費が不足して経済的にひっ迫していることや、配偶者が身勝手なお金の使い方をしていることを証明できる証拠を用意しましょう。
とはいえ、家庭の状況によっては経済的DVの証拠として認められないこともあります。
またそもそも証拠を収集することが困難であるケースもありますので経済的DVで離婚したい場合には、弁護士に相談することを検討した方が良いでしょう。
経済的DVを受けた場合の対応とは?
経済的DVを受けた場合には、夫婦関係を継続したいのか、それとも離婚したいのかによって対応方法は異なります。
今回はどちらについても触れていきたいと思います。
当事者同士で話し合う
夫婦関係を継続する場合でも、離婚を望む場合でもまずは、当事者同士の話し合いによって解決を目指すといいと思います。
夫婦関係を継続する場合には、生活費の内訳を見せ、いくら足りないのかを伝えたり、そのためにどうしたりすればよいのかの解決方法を話し合うと良いと思います。
実際に家計の内訳を示し、何にいくら必要なのか具体的に示すことで、納得して生活費を払ってくれる可能性もあります。
一方で離婚したい場合には、相手に離婚の意思を伝えることが大切です。
できるだけ円満に離婚を成立させたいという場合には、自分の離婚の意思を伝えつつ、相手が意固地にならないよう、離婚に同意してもらう必要があります。
経済的DVを理由に慰謝料を得たい、または離婚の意思を伝えてもまったく相手が同意してくれないなどの場合には、「自力ではどうしようもない」と感じた時点で弁護士へ相談した方が良いかもしれません。
公的機関などに相談する
経済的DVを受けていた場合の対応策として、DV相談プラスなど公的機関が運営しているところに相談することです。
経済的DVの場合、明確な解決策を明示してくれる可能性は低いかもしれませんが、さまざま親身になって相談を聞いてくれ、アドバイスをくれます。
また、精神的DVだけでなく、暴力を受けているなどの事情があった場合には各所と連携して、さまざまな対応を講じてくれます。
円満調停・離婚調停を申し立てる
当事者同士の話し合いでうまくいかない場合には、婚姻費用分担調停や離婚調停などを申し立てて解決を図る手段があります。
調停とは、裁判所が仲裁役となって当事者同士が話し合いをすることをいいます。
夫婦間の調停は、家庭裁判所が管轄で、調停委員という人が当事者それぞれの主張を聞き、妥協案を提示して解決を目指すことになります。
円満調停とは夫婦関係を継続したいときに利用する調停制度です。
一方で離婚調停とは当事者同士で離婚条件などをめぐって離婚の合意が取れないときに利用する制度です。
なお、円満調停を利用したとしても話し合いの中で、すでに夫婦関係が修正できないほどこじれているとみなされた場合には、離婚の方向で話し合いが進むこともあります。
また、離婚調停の場合、調停でも双方の主張が折り合わず、不成立になったときには離婚を望む側が、家庭裁判所に離婚訴訟を提起することもあります。
離婚を検討する場合は弁護士に相談しよう
現在、経済的DVを理由に離婚を検討している場合弁護士に相談することをおすすめします。
経済的DVは、悪意の遺棄やその他婚姻を継続し難い重大な事由など、法的な離婚事由になりえます。
しかし法的に経済的DVにあたるか、また立証する対応などは一般の方ではほぼ無理といってよいほど困難なため、弁護士に相談した方が良いです。
なお仮に、証拠などが少なく、経済的DVの立証が難しい場合でも、弁護士は依頼者の意向に沿った対応をしてくれます。
結果、離婚に精通した弁護士を探すことで、離婚を有利に進められる可能性が高くなります。
また経済的DVの加害者はモラハラなども行っているケースも多く、自力で交渉することが難しいケースも多くみられます。
このような場合、弁護士が代理人としてあなたの配偶者との交渉をしてくれたり、話し合いの場に同席してくれたりします。
弁護士は依頼者にとってより良い結果が得られるよう尽力してくれるので、ぜひ相談してみてください。
まとめ
今回は経済的DVについて考えていきました。
経済的DVは、状況によって法的な離婚事由にあたる可能性があります。
現在、夫や妻から経済的DVを受けており、離婚を考えている方は、弁護士に相談することを検討してみてください。