この記事でわかること
- 親権についての一般的なルールと例外についてがわかる
- 専業主婦でも親権者になれるケースがわかる
- 親権を認められない可能性が高いケースがわかる
専業主婦が離婚を考えるとき、子供の親権をとれるかが心配になるかもしれません。
なぜなら、仕事をしていないことで、経済力に乏しいことが多いためです。
ここでは、専業主婦が親権をとるためにはどのようなことが求められるのか、とれないケースはどのようなものかなどを説明していきます。
親権とは
そもそも親権とはどのようなものでしょうか。
親権は、未成年の子供に対して親権者が行使する権利義務のことです。
親権には、大きく分けると二つの内容があります。
財産管理権
親権の一つ目の内容は、財産を管理することです。
具体的には、子供の預貯金や不動産などの財産を包括的に維持管理すること、子供の財産にかかわる法律行為に同意することなどがあります。
身上監護権
親権の二つ目の内容は、身上監護することです。
身上監護とは、子供と一緒に暮らして、実際に身の回りの世話をしたり教育することですが、その内容は多岐にわたります。
具体的には以下のような内容が含まれます。
- ① 子供の身分上の行為を代理すること…身分上の行為とは、相続や結婚などの法律行為のことです。
- ② 子供の住む場所を指定すること(居所指定権)
- ③ 子供に対して、しつけや懲戒をすること(懲戒権)
- ④ 子供が職業を営むにあたり、その職業を許可すること(職業許可権)
親権と監護権の関係
親権には、上述のように財産管理権と身上監護権が含まれており、通常はそれらをまとめて親権と呼びます。
ただし、親権の中の身上監護権のみを取り出して、「監護権」と呼び親権とは分ける場合があります。
通常、親権者は財産管理権と身上監護権の両方の権利義務を持つことになります。
監護権は親権の一部ですが、例外的にその一部を切り離し、監護権者を別に定めることがあります。
その場合、親権者は財産管理権を行使し、監護権者が身上監護権を行使することになります。
どのような場合に親権者と監護権者が分けられるのでしょうか。
たとえば、財産管理には父が適しているが海外赴任などで子供と一緒に暮らすことが難しい場合など、親権者を父として、監護権者を母とするようなケースがあります。
一般的に、親権者と監護権者が分かれると権利関係が複雑になり、子供にとっては不利益となる場合が多いです。
しかし、事情によっては、子供の利益のために親権者と監護権者を分けることができます。
親権者と監護権者を分けた場合、子供と一緒に暮らしている監護権者は、子供の財産にかかわる法的手続きを行うたびに親権者に連絡を取って同意を求める必要があります。
双方が親権を譲らず、親権と監護権を分けるというケースもありますが、離婚後の手続きの煩雑さなどもよく考えたうえで、親権者と監護権者について決定することが大切です。
専業主婦でも親権者になれるケース
専業主婦が離婚する場合、親権者になることはできるのでしょうか。
結論から言うと、離婚まで専業主婦だった人が親権者になることは十分可能です。
実際に、統計上では親権者の9割が母親となっており、その中には専業主婦だった人も多く含まれています。
子供の年齢が低く、特に乳幼児である場合は母親が親権者になるケースが圧倒的に多くなります。
親権の決定方法については、まずは夫婦で話し合い、それで合意できなければ調停や裁判に進んでいくことになります。
裁判所の手続きで親権を定めるときに一番優先されるのが、子供の利益と福祉です。
父母の意向や都合ではなく、あくまでも子供にとってどちらが親権者としてふさわしいかを判断することになります。
そうなったとき、離婚時の父母の経済力というのは、さほど重要な判断材料とはなりません。
なぜなら、どちらが親権者になったとしても、子供の養育費は子供が成熟するまで父母で分担するべきものと考えられているからです。
たとえ、経済力の低い方が親権者になった場合でも、養育費を受け取ることで経済面での不足は補うことができます。
また、母子家庭には公的な扶助制度も各種あるため、それらを活用することで、離婚後も生活を維持していくことは十分可能です。
専業主婦が親権者になるための基準5つ
専業主婦が親権者になれるかどうかは、どのような基準があるのでしょうか。
子供の利益と福祉を最優先することから、調停や裁判に進んだ場合、次のような内容が考慮されます。
これまでの監護実績
これまで父と母のどちらが主に子供の世話をしてきたかは重要です。
これまでに適切に監護してきた実績がある親であれば、監護の能力や意欲があり、離婚後も引き続き子供をきちんと監護することが期待できるからです。
離婚前に夫婦が別居している場合は、子供が一緒に暮らしている親と安定した生活を送っているのであれば、そのまま同居している親が親権者となることが望ましいと判断されます。
子供の生活環境が離婚後に大きく変わることは、子供にとって不利益だと考えられるからです。
ただし、子供を奪って一方的に別居を開始した場合などは、身勝手な行動をしたとみなされ、そのことが不利に扱われる場合もあります。
一方的に別居したり子供を勝手に奪うことは、子供のためにも親権のためにも避けるようにしましょう。
父母の心身の健康状態や子供への愛情
子供を養育するには、親の心身の健康状態が安定している必要があります。
重篤な病気を抱えていて入退院を繰り返している場合や精神疾患を抱えていて精神が不安定な場合には、子供を適切に養育できる状態ではないと判断されることがあります。
また、当然子供への愛情、監護に対する意欲も必要です。
身勝手な理由ではなく、子供の幸せを実現するための理由から親権を望む態度を示すことが必要です。
これまでの監護状況や裁判所における発言、態度から、子供への愛情や監護への意欲を持っているのかどうかも判断材料にされます。
離婚後の生活環境の見通し
離婚後の生活環境の見通しが立っているかどうかも判断材料になります。
専業主婦で不労所得などがないのであれば、離婚後の就業の準備をすることも必要でしょう。
養育費がもらえるといっても、それはあくまで子供の養育のためのものなので、通常は生活費を稼ぐ必要があるからです。
その際、子供の監護に協力してくれる人(監護補助者)がいるかどうかもポイントになります。
たとえば、子供が幼い場合には自分が働いている間に子供の世話をしてくれる親などがいるかどうかは大切です。
監護できる環境、体制が整っている方が親権において有利となります。
また、離婚後の住居をどうするかについても見通しを立てておく必要があります。
できるだけ子供の住環境に大きな変化がないことが望ましいですが、事情によっては実家を頼るなどの選択肢もあるでしょう。
母子家庭が優先的に入居できる公営住宅などもあるので、そういったことも調べておくとよいでしょう。
いずれにせよ、離婚後にどこでどのように子供と生活していくかの見通しは立てておく必要があります。
子供の年齢やきょうだいの存在
子供がまだ幼い場合、日本では子供には母親が必要という考え方がまだ根強く残っています。(母性優先の原則)
ただし、近年は裁判所でも必ずしもこの原則を重視するわけではなく、父親の方が従来の母親の役割を果たしているなど適切な監護をしてきた場合には、父親の親権を認めるケースも出てきました。
子供が複数いる場合には、通常はきょうだいを同じ親権者が育てることが望ましいと判断されます。
これは子供の精神面への影響に配慮したもので、一緒に育ってきたきょうだいを離れ離れにしない方がよいという原則があります。(きょうだい不分離の原則)
子供の意思や親との精神的な結びつき
子供の意向については、15歳以上であれば裁判所は必ず確認することになっており、本人の意向を尊重します。
それくらいの年齢であれば、ある程度の判断能力が備わっていると考えられるからです。
子供が幼い場合でも、子供の意思は尊重しますが、子供が状況を正しく判断できなかったり、自分の気持ちを正直に表現できなかったり、同居する親に気を遣うケースも多く、真意を見極めるのが難しいこともあります。
子供の発言だけでなく、これまでの親との関わりや監護状況などから、どちらの親と精神的な結びつきが強いかなどについても客観的に判断されることになります。
親権が認められない可能性が高いケース4つ
それでは、どのような場合に親権が認められない可能性が高いのでしょうか?
子供と別居している場合
子供と別居している場合には、親権において不利になります。
通常、裁判所は離婚によって子供の環境が大きく変わることを避けるべきと考えます。
そうすると、離婚前に一緒に暮らしている親がそのまま親権者となり、現状維持することが子供にとっての利益になると判断する傾向があります。
ただし、現在一緒に暮らしている親に親権者としてふさわしくない事情があり、子供にとって適切な養育環境が整っていない場合には判断が変わるでしょう。
現状の養育環境に問題がない場合には、同居の親を優先するということです。
やむを得ない事情で子供と別居している場合でも、子供との面会交流は続けるようにしましょう。
子供との面会すらしていない状況だと、子供への愛情や監護の意欲についても疑問を持たれてしまう可能性が高いです。
自分が子供と同居している場合にも、別居している配偶者が子供との面会交流を望んだときはそれに応じるようにしましょう。
子供のためでもありますし、面会交流を拒否することは身勝手な態度だと判断されて裁判所からの印象が悪くなる可能性があります。
親の心身に著しい不調がある場合
親の心身に著しい不調があり健康状態に問題がある場合は不利になります。
そのような場合、子供を養育できる能力がないと判断されるからです。
実際、入退院を繰り返していたり、精神が不安定な場合に単独で子供を養育するのは難しい場合が多いでしょう。
たとえば、親がアルコール依存症などの場合もふさわしくないと判断される可能性が高いです。
離婚協議中は心身が不安定になることも多いですが、できるだけ自身の心身の状態を整え、健康状態に疑問を持たれないように気を付けましょう。
虐待やDVをしていた場合
子供に対して精神的、肉体的な虐待をしていた場合には、親権者としてふさわしくないと判断されます。
子供の利益や福祉を重視する観点から、これは当然のことです。
また、子供に直接虐待をしていなくても、配偶者に対しDVをしていた場合にも、それが考慮されることがあります。
そのような暴力性、攻撃性のある親は、子供にも危害を加える可能性があり、子供の健全な心身の育成を妨げ養育者として不適任だと判断されるからです。
なお、DVは離婚原因にもなりえますが、離婚原因を作ったことがそのまま親権に不利になるというわけではありません。
たとえば、不貞行為が原因で離婚となった場合に、不貞行為をした親が必ずしも親権において不利になるわけではありません。
不貞行為をしていても、子供の養育はきちんと行っていた場合にはそれほど問題にされることはありません。
離婚原因の責任と親権は、あくまでも別の問題として扱われます。
経済力が著しく低く不安定な場合
経済力はそれほど重視されないとはいえ、著しく不安定であったり、財産管理能力に問題があるような場合は親権者として不利になります。
たとえば、ギャンブルなどで借金を繰り返しているような場合や、日雇い業などに就いていてその日暮らしをしているような場合には不利になる可能性が高いでしょう。
たとえ収入が低い場合でも、堅実に安定した暮らしを送る見通しが立っていれば、養育費などによって補うことができるため、不利になる可能性は低いでしょう。
まとめ
専業主婦が親権をとるのは決して難しいことではありません。
ただし、それは母親としての役割をきちんと果たしてきたことが前提です。
過度の心配をすることなく、日々きちんと子育てに取り組み、子供と向き合っていくことが大切です。