この記事でわかること
- 財産分与の期限についてわかる
- 離婚成立前に財産分与が終わらない場合の対応方法がわかる
- 期限が過ぎても財産分与ができるケースについてわかる
財産分与はいつまでに請求すればよいのでしょうか。
離婚成立までに請求しなければ請求できなくなると考えている人もいるかもしれませんが、そういうわけではありません。
ただし、無期限でいつまでも請求できるものでもありません。
ここでは、財産分与の請求できる期限について説明していきます。
財産分与に時効はある?「時効」と「除斥期間」とは?
何かを請求する権利には、「時効」があることを知っている人も多いでしょう。
たとえば貸したお金の返済を請求する権利(貸金返還請求権)には時効があります。
また、時効とは別に、「除斥期間」というものも存在します。
それぞれについて説明していきます。
時効とは
時効には、「取得時効」と「消滅時効」があります。
取得時候とは、一定期間を経て権利が認められることです。
一方、消滅時効とは、一定期間経過の後、権利を行使される側の人が消滅の意思表示をすることにより、権利を消滅させることです。
権利消滅の意思表示をすることを「時効の援用(えんよう)」と言います。
一定期間が経過すると自然に権利が消滅するわけではなく、援用することが必要となるのです。
消滅時効には、その期間を延長したり中断する方法があります。
たとえば、お金を貸しているAさんと借りているBさんがいるとします。
AさんはBさんに対して貸金返還請求権(借金の返済を請求する権利)があります。
この権利は、AさんがBさんに請求しないまま放っておくと、10年で時効となり、Bさんが時効を援用すれば権利が消滅してしまいます。
結果、AさんはBさんに借金の返済を請求できなくなってしまいます。
ただし、AさんがBさんに対して貸金返還請求の裁判を起こすと、時効は中断します。
中断というのは、時効の進行が止まって、また新たにゼロから時効になるまでのカウントダウンが始まることです。
このケースでは、裁判を起こした時からまた10年経過しなければ、Bさんは時効を主張することはできないのです。
なお、今回解説する財産分与を請求する権利については、この消滅時効ではなく、次で説明する除斥期間が関係します。
除斥期間とは
除斥期間というのは、権利を行使することができる期間のことです。
権利を行使しないまま除斥期間が過ぎてしまうと、権利を行使することができなくなります。
除斥期間がなぜ存在するかというと、権利が行使されるかどうかが不安定な状況が永遠に続くことを避けるためです。
時効と除斥期間には、どのような違いがあるのでしょうか。
時効の場合、時効の援用をしなければ権利が消滅しないことは先ほど説明したとおりです。
一方、除斥期間を過ぎてしまうと、誰かが意思表示をする必要はなく、自然と権利を行使することはできなくなってしまいます。
しかも、時効とは異なり、この期間を途中で中断させたり延長させる方法はありません。
財産分与を請求する権利は、除斥期間が2年となっています。
2年が経過すると、財産分与を請求することはできなくなってしまうのです。
いつから数えるかというと、離婚が成立した時点から2年となります。
離婚前に別居していた場合はいつまでに財産分与をすべき?
離婚前に別居をするケースも多くみられます。
この場合には、いつまでに財産分与をすべきでしょうか。
請求できる期間
財産分与を請求できる期間は離婚成立から2年であり、別居した時期から数えるわけではありません。
別居して実質的には夫婦としての関係が終了していたとしても、戸籍上の離婚から2年以内であれば請求可能ということです。
別居の場合の注意点
別居の場合には注意する点があります。
対象となる財産
別居する場合には、財産分与の対象となる財産について注意が必要です。
財産分与の対象となる共有財産は、「夫婦で結婚期間中に協力して築いた財産」です。
そのため、別居して以降の財産については、夫婦で協力しているとは考えにくく、共有財産とは通常は認められません。
ただし、別居中も夫婦には生活扶助義務があり、収入の多い方が少ない方に対して生活費を支払う義務があります。
この生活費の未払いがあれば、この費用も財産分与に含めて清算することができます。
財産隠しの対策
別居してしまうと、共有財産を把握することが難しくなるケースが多くなります。
相手が財産を隠したり、勝手に財産を処分してしまう可能性もあります。
別居前に財産調査をしっかりしたうえで、財産分与の話し合いをすることが大切です。
どのような財産があるかを一つ一つ書き出して、それを証明できる証拠もできるだけ揃えておきましょう。
財産を書き出したら、どの財産がほしいか、どの財産は譲ってもよいかを自分なりに考えておきましょう。
財産価値を考えて、ある程度公平になるような提案を相手にすることで、話し合いがスムーズに進みやすいでしょう。
また、相手が財産の処分などをしてしまう可能性がある場合には、勝手に財産の処分ができないようにすることも検討したほうが良いでしょう。
具体的には裁判所に「処分禁止の仮処分」の申し立てをする方法があります。
期間内に財産分与が決まらなかった場合は?
離婚成立までに財産分与が決まらない場合もあります。
そのような場合、どうすればよいのでしょうか。
財産分請求調停
財産分与について取り決めないまま離婚し、そのまま2年が経過してしまうと、財産分与を請求することはできなくなってしまいます。
そのため、2年経つ前に財産分与の請求をしましょう。
相手が話し合いに応じない場合や、2年のタイムリミットが迫っている場合には、家庭裁判所に財産分与請求調停を申し立てましょう。
離婚前であれば、離婚調停の中で財産分与についても話し合うことになりますが、離婚後の場合は財産分与請求調停となります。
なお、調停手続きの途中で2年を経過した場合でも、調停の手続きは続けられます。
調停の手続きでは、財産分与の対象となる共有財産がどれだけあるのか、分与する割合はどうするのかについて、調停委員が当事者の話を聞いて助言や解決案を提示していきます。
分与の割合については、たとえどちらかが専業主婦(主夫)で仕事をしておらず収入がなかった場合でも、家事などで貢献していたと認められれば半分ずつになることがほとんどです。
共有財産については、存在を証明できる証拠を提出できるように準備しておきましょう。
当事者双方が納得できる結論が出れば、調停が成立となります。
財産分与の審判
調停での話し合いでもお互いの合意ができず調停不成立となった場合、自動的に審判の手続きに移行します。
審判では、裁判官が一切の事情を踏まえたうえで、当事者の合意がなくても、財産分与の可否、財産分与の方法について判断をくだすことになります。
離婚前の場合、訴訟に移行するケースもありますが、離婚後の場合には訴訟にはならず審判で終了することになります。
審判では、裁判官が「支払い命令」を出してくれ、相手がそれに従わない場合には、財産の差し押さえをすることができます。
調停などで財産の引き渡しが決まった場合
協議や調停などにより、財産分与により財産を引き渡す権利(財産引き渡し請求権)が確定した場合には、この権利は10年間消滅しません。
財産分与請求の除斥期間は2年ですが、その請求によって確定した権利は2年で消えてしまうのではなく、普通の債権と同じように10年の時効となるからです。
たとえば、財産分与調停の結果、預金500万円を夫が妻に分与するという合意が成立した場合、調停成立から10年間は500万円を請求する権利があるということです。
万が一500万円を受け取れないまま10年が経過しそうな場合には、裁判を起こすことで時効を中断させることができます。
時効(除斥期間)が過ぎても財産分与ができるケース
除斥期間が過ぎると、一切財産分与をすることはできなくなってしまうのでしょうか。
必ずしもそういうわけではありません。
相手が合意している場合
除斥期間を過ぎていても、相手が任意で財産分与に応じてくれるのであれば、財産分与をすることはできます。
ただし、調停や裁判などの裁判所の手続きを使って財産分与の請求をすることはできません。
あくまでも相手が任意で話し合いに応じてくれることが必要です。
自分から手紙などで連絡する方法もありますし、弁護士に依頼して代理人として交渉してもらう方法もあります。
相手が応じてくれる可能性のある場合には、試してみる価値はあるでしょう。
相手が財産を隠していた場合
離婚時には共有財産がほとんどないと思って諦めていたものの、離婚後2年経過後に、相手が財産を隠していたことが発覚するケースもあります。
このような場合、民事訴訟を起こして財産の引き渡し請求をする方法があります。
民事訴訟をするには、財産の存在を証明できる証拠が必要です。
調停とは異なり、訴訟となると自力で行うことは難しくなりますので、弁護士に依頼することをお勧めします。
弁護士は、弁護士照会制度を使って相手の預金残高を調べることもできます。
なお、相手が意図的に財産を隠していた場合でも、これが犯罪になるわけではありません。
2年経過後の注意点
除斥期間経過後にも財産分与を請求できる場合を紹介しましたが、一つ注意点があります。
離婚から2年経過してから財産の移動がある場合、それを税務署が財産分与と認めてくれず、贈与税が課税される可能性があるということです。
心配な場合には、税理士への相談等も検討してください。
まとめ
財産分与を請求するには2年の除斥期間があります。
離婚前に財産分与についても取り決めておくことがベストですが、取り決めないまま離婚してしまった場合でも、あきらめずに請求する方法を考えましょう。
2年は長いようであっという間に過ぎてしまう期間です。
必要に応じて弁護士などの専門家に相談をしながら、速やかな対応をおすすめします。