この記事でわかること
- どのような事情があれば養育費を支払わなくて良いかがわかる
- どのような場合に養育費を減額できるかがわかる
- 養育費を払わないとどうなるかがわかる
- 養育費を減額する具体的な方法がわかる
養育費は子どもの健全な成長のために必要なお金であり、それを支払うことは親としての重要な義務です。
しかし、自分の生活を維持しながら、毎月数万円の養育費を支払うのは、経済的に難しいということもあるでしょう。
そういった場合、養育費の支払義務者としては、どのような方法をとることができるのか、養育費を支払わなくて良いのはどういった場合かなどについて、詳しくご説明していきます。
なお、以下ではわかりやすいように、養育費を支払う人を義務者、養育費を受け取る人を権利者と呼ぶことにします。
養育費を支払わずに済む方法は存在するのか?
養育費は、基本的には離婚時に夫婦が話し合って決めるべきものです。
その他にも、財産分与や慰謝料など、離婚時に決めたことは離婚協議書という書面に残しておくべきです。
ところが、半分以上の夫婦が、相手と関わりたくないなどの理由により、養育費の取り決めをしていません。
取り決めがないのに養育費を支払うというケースは稀でしょう。
つまり、養育費の取り決めをしていなければ、支払わなくて良いとも考えられます。
しかし、それは養育費を受け取る権利者から請求されないというだけで、支払う義務がなくなったわけではありませんし、離婚後に、改めて請求されることもよくあります。
養育費は、子どものために必ず支払わなければならないお金です。
離婚後に支払っていくことが難しいと想定されるのなら、夫婦でしっかりと話し合って、金額を低く抑えたり、支払開始時期を少し先延ばしにしたりするなどの取り決めをしておきましょう。
養育費を支払わなくて良いケース
養育費を支払わなくても良い場合というのがいくつかありますので、順にご紹介します。
子どもが養子縁組した場合
例えば、母親を親権者と指定して離婚後、母親が再婚し、再婚相手と子どもが養子縁組をしたというケースです。
この場合、子どもの養育に関しては、再婚相手が第一次的な義務者となり、実父は第二次的な義務者になります。
ただし、子どもの養育について再婚相手の資力が不足する時には、実父は不足分の養育費を支払わなければなりません。
これが、第二次的に義務を負うという意味です。
義務者に収入がない場合
子どもを扶養する義務というのは、生活保持義務と言って、子どもの生活レベルを自分と同程度に維持する必要があります。
場合によっては、自分の生活レベルを落としてでも養育費を支払わなければなりません。
言い換えると、自分よりも良い生活をさせる必要まではない、ということです。
ですから、自分に収入がない場合には、養育費の支払が免除される可能性があります。
子どもが実子ではない場合
戸籍上は自分の実子として登録されているが、本当は自分の子どもではないという、少々特殊なケースですが、実際に問題になった事案も少なくありません。
実子ではないのだから、養育費を支払う義務がないのは当然だと思われるかもしれませんが、必ずしもそうとは言えないのです。
法律的に親子関係をなくすのは困難
養育費の支払が免除されるためには、法的な親子関係を解消する必要があります。
その方法としては、嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴えの2種類があります。
しかし、嫡出否認の訴えは、子の出生を知ったときから1年以内という条件があるため、利用できる期間が非常に短いという問題があります。
また、親子関係不存在確認の訴えについては、最高裁判所が、懐胎の時期に、夫婦の実態がないとか、性的関係を持つ機会がなかったという事情がある場合に限って利用できるとしています。
したがって、親子関係を解消するハードルは高く、養育費の支払義務が免除されるのも容易ではありません。
DNA鑑定でも難しい
いくら法律的に親子関係の解消が難しいとは言ってもDNA鑑定をすればすぐに判明するのではないか、と誰しも思うはずでしょう。
ところが、最高裁判所の判例は、生物学上の親子関係がないと科学的に明らかだとしても子どもの身分関係の法的安定を保持する必要があるとして、親子関係不存在確認の訴えによって争うことはできないとしています。
実子でなければ、養育の義務を負う必要はありませんが、そのために法的親子関係を解消するのは、非常に困難だということです。
子どもが成年に達した場合
2019年現在、成年に達する年齢は、民法第4条によって20歳とされています。
そのため、養育費の支払について、特に終期を決めていない場合には、20歳になる月までというのが通常です。
なお、民法753条は、成年擬制について規定しています。
第753条
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。
つまり、結婚した場合には成年とみなされるため、養育費も支払う必要はなくなります。
子どもが就職した場合
子どもが就職した場合には、養育費を支払う必要がなくなります。
就職により、経済的に自立し、養育の必要がなくなると考えられるためです。
養育費の減額が認められるケース
養育費の免除までは認められないが、減額が認められるという場合もいくつかあります。
離婚後に義務者の収入が減少した場合
離婚の段階では予測できなかった事態によって、義務者の収入が減少することがあります。
勤務先の業績不振による減給や倒産、リストラ、また、義務者が怪我や病気によって十分に働くことができなくなるなど、いくつも考えられます。
離婚時に定めた養育費の金額が適正であったのなら、義務者の収入が減少した場合には、養育費の負担が大きすぎることになります。
したがって、このような時には、養育費の減額が認められる可能性があります。
離婚後に権利者の収入が増加した場合
養育費の金額は、子どもの人数と年齢、さらに、義務者と権利者の年収によって決まります。
義務者の年収が多く、権利者の年収が少ないほど、養育費は高額になります。
したがって、権利者の年収が多くなれば、義務者の負担が減少し、支払うべき養育費も少なくなる可能性があります。
義務者が再婚して扶養家族が増えた場合
義務者が再婚した場合や、再婚して子どもができた場合など、扶養すべき家族が増えた時には、養育費の減額が認められる可能性があります。
扶養家族が増えると、より多くの人間を養わなければならなくなり、養育費の支払い対象の子どもに割り振れるお金が少なくなるためです。
ただし、再婚相手が高収入であるなど、再婚によって、逆に義務者の経済的な負担が減少する場合には、養育費の減額は認められません。
また、再婚相手に稼働能力がある場合にも、再婚したというだけでは、減額が認められない可能性があります。
権利者が再婚した場合
権利者が再婚して、子どもが再婚相手と養子縁組した場合には、養育費の支払が免除される可能性があるとご説明しましたが、養子縁組していなくても、養育費の減額の可能性があります。
権利者が再婚することにより、世帯の総収入が増え、子どもの養育に使える費用が増加することが考えられるためです。
義務者の支出が増えた場合
義務者の収入が減少した場合だけでなく、支出が増えた場合にも、養育費に使える資金が少なくなるため、養育費が減額できる可能性があります。
例えば、親の介護費用や病気の治療費、災害による自宅の修繕費用などが該当します。
養育費の免除や減額が認められないケース
一見、養育費の免除や減額が認められそうなのに、実は認められないというケースをご紹介します。
子どもに会わせてもらえない
子どもを養育していない非監護親と子どもが会うことを、面会交流と言います。
母親が子どもを監護し、父親が養育費を支払っているケースにおいて、「子どもに会わせてくれないから、養育費も支払わない」と主張する父親がよくいます。
しかし、養育費の支払と面会交流の実施は何の関係もなく、交換条件とするようなものではありません。
したがって、子どもに会わせてくれないとしても、養育費を支払わなくて良いということにはなりません。
面会交流を望むのであれば、面会交流調停を申し立てましょう。
義務者の減収が想定できた場合
突然のリストラや会社の倒産などを想定することは難しく、自分の力が及ばない部分でもあります。
だからこそ、養育費の減額が認められるわけです。
逆に、想定できた減収や、自己都合による減収の場合には、養育費の減額が認められにくくなります。
例えば、脱サラをしてラーメン屋を開いたり、勤務時間を短縮するため、正社員からパート従業員になるなどです。
借金がある場合
養育費を払えないような多額の借金がある場合でも、養育費の免除は認められません。
なぜなら養育費の金額は元夫婦の収入によって決めるため、借金の金額は関係ないからです。
もし借金が返せなくなって自己破産しても、養育費は免除にはなりません。
一般的に自己破産をすれば借金は帳消しになりますが、養育費は例外なので、覚えておきましょう。
離婚後に養育費の金額が相場より高いと判明した場合
仮に、取り決めた養育費の金額が、相場よりも高額であるとしても、それを理由とする減額は認められません。
ただ、相場よりも高額であるため、結果として支払が難しいといった、合理的な理由があれば、減額が認められる可能性はあります。
養育費の支払義務が復活するケース
一度は支払う必要がなくなった養育費や、減額された養育費を、再び元のとおり支払わなくてはならなくなることがあります。
再婚した権利者が離婚した場合
権利者の再婚、及び、再婚相手と子どもとの養子縁組によって、一旦は養育費を支払う必要がなくなったとしても、権利者が離婚し、養子縁組が解消されてしまうと、養育費支払義務が復活します。
養子縁組の解消によって、第一次的な養育義務者であった再婚相手の子どもに対する養育する義務が消滅するからです。
権利者の再婚相手の収入が減少した場合
再婚相手の収入が減少し、子どもを養育する資金が不足するようになった場合には、義務者は、第二次的に養育義務を負う者として、不足する部分につき、養育費を支払う必要があります。
再婚した義務者が離婚した場合
再婚していた義務者が離婚して、扶養家族がいなくなると、義務者に経済的な余裕が出てくるということになりますので、減額前の養育費に戻すことになります。
義務者の収入が増加または支出が減少した場合
離婚後の事情変更により、養育費が減額されていた場合、事情が元に戻った時には、養育費の金額も元に戻す必要があります。
ただし、養育費の金額は自動的に戻るわけではなく、一旦減額した養育費を元に戻すには、養育費の増額の取り決めや調停をする必要があります。
これは、いずれのケースにも該当します。
養育費を払わないと差し押さえの可能性も
厚生労働省の調査によると、母子世帯において、養育費を1度でも支払ってもらったことがあると答えたのは、全体の39.8%で、現在も支払われていると答えたのは、24.3%にすぎません。
圧倒的多数の父親が養育費を払っていないわけですが、養育費を払わないとどうなるのか、この点についてご説明します。
養育費を払わない場合の罰則は?
養育費を支払わないことに対し、直接の罰則はありませんが、養育費が支払われない場合には、財産開示手続を請求できます。
これは、養育費を支払わない義務者を裁判所に呼び出し、財産に関する情報を、義務者に陳述させるという手続です。
もし、義務者が、正当な理由なく、裁判所からの呼び出しに応じない場合には、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金という、刑事罰が科せられます。
ただし、財産開示手続を請求するためには、養育費に関する調停調書や判決書、審判書、公正証書などが必要です。
養育費不払いによる差押え
養育費を支払わなくても罰則はありませんが、大きなリスクが存在します。
それが差押えです。
差押えというのは、義務者の財産に対して働きかけ、義務者を介さず、直接金銭を回収する方法です。
差押えには債務名義が必要
差押えには、債務名義というものが必要です。
養育費の不払いによる差押えという場面では、養育費の支払について記載された離婚協議公正証書や調停調書、審判書などが債務名義になります。
したがって、債務名義がない場合には、差押えに先立って、それを作成する必要があります。
逆に言うと、債務名義がなければ、どれだけ養育費を支払っていなくても、いきなり差押えをされることはありません。
給料の差押えは要注意
差押えの対象としては、土地や建物などの不動産、貴金属や車などの動産、それに銀行預金や給料などの債権、この3種類があります。
中でも注意しなければいけないのが、給料の差押えです。
通常、差押えの効力は、1回しか生じません。
しかし、養育費の不払いで給料を差し押さえられた場合、未払分の養育費だけではなく、将来にわたって毎月発生する養育費についても、差押えの効力が及びます。
つまり、1回給料を差し押さえられてしまうと、それ以後は毎月、勤務先の会社が権利者に養育費を支払い、残った金額についてのみ、給料として受け取ることになります。
また、貸金債権などの通常の債権の場合には、差し押さえられる給料は4分の1までと決まっていますが、養育費の場合には、給料の2分の1まで差し押さえることができるのです。
手取24万円の給料であれば、通常は6万円までなのに対し、養育費の場合は12万円まで可能で、義務者にとっては非常に大きな負担となります。
この差押えから逃れるには、権利者に差押えを取り下げてもらうか、養育費を支払い終えるか、会社を辞めるしかありません。
給料差押えの流れ
債務名義がない場合は、まず、家庭裁判所に養育費請求調停を申し立てます。
調停が成立すれば調停調書が作成されますが、不成立になった場合は、裁判所が審判で養育費の金額を決定し、審判書が作成されます。
この調停調書または審判書が債務名義となります。
債務名義ができたら、今度は地方裁判所に債権差押命令を申し立てます。
申し立てが認められると、裁判所から、義務者と義務者が勤務する会社宛に差押命令書が送達されます。
差押命令書が義務者に送達されてから1週間経過すると、権利者は会社から、義務者の給料の一部を養育費として受け取ることができるようになります。
養育費を免除または減額する方法
このように、養育費を不払いの状態にしておくことは非常に危険です。
下記では養育費が払えなくなった人がやるべきことを説明します。
権利者と直接話し合う
一番最初にやるべきことは、権利者との話し合いです。
養育費が免除または減額が可能な事情が生じた場合には、自分の一存で支払わなかったり、勝手に減額するのではなく、きちんと権利者と話し合う必要があります。
「こういう理由で養育費を免除してほしい」と伝えましょう。
権利者としては毎月もらえるお金がなくなってしまうため、交渉は難航するかもしれません。
交渉を成功させるためには、上記で説明したような法的根拠を出したり、弁護士に依頼したりしましょう。
養育費の免除・減額ができれば、その条件を書面に残して、合意書を作成してください。
書面で証拠を作っておかないと、今後のトラブルに繋がります。
養育費減額調停を申し立てる
それでも、権利者の合意が得られない場合には、養育費の免除または減額調停を申し立てましょう。
養育費減額調停とは、申し立てが受理されることで、裁判所から養育費の減額が認められる手続きです。
申し立てる裁判所は、権利者の住所地を管轄する家庭裁判所です。
離婚調停と同じように、調停委員を介して養育費の話し合いをします。
調停作業の中で、相手が減額に応じれば、その内容が調停条項として明確化されます。
相手が減額に応じない場合は、審判といって裁判所が養育費についての判決を下します。
もし審判になった場合は、裁判所側に「なぜ養育費を減額すべきなのか?」という理由を伝えなくてはいけません。
裁判所が納得するような減額理由が提示できれば、養育費減額の審判が出る可能性が上がります。
申し立ての費用は、子ども1人につき1,200円と、郵便切手が数千円分必要です。
申立書等は、裁判所に備え置かれていますし、インターネットでダウンロードすることもできます。
養育費の減額で悩んだら弁護士に相談しよう
養育費の支払いで悩んでいるなら、弁護士への依頼がおすすめです。
なぜなら弁護士に入ってもらうことで、有利な減額交渉ができるから。
養育費の減額交渉は、権利者の合意が必要なので、難しい話し合いになります。
法律のプロを味方につけることで、有利な交渉をすれば、減額できる可能性も高くなるでしょう。
多くの弁護士事務所では初回の相談を無料で行っているため、弁護士費用を払うだけの余裕がない方でも、気軽に相談できます。
養育費を減額・免除したい人がやるべきこと
上記では養育費が減額・免除されるケースを紹介しました。
ここからは養育費を減額・免除したい人がやるべきことを説明します。
「養育費を減額させたい」と思っているなら、ぜひ参考にしてみてください。
権利者との話し合い
養育費を減額・免除したい人が最初にやるべきことは、相手との話し合いです。
養育費が支払われる権利を持っている人と、「こういう理由で減額して欲しい」という交渉をしましょう。
養育費の減額・免除に関して法的な根拠は必要ですが、相手が合意さえすれば、どんな内容でも問題ありません。
離婚の時点で、話し合いの協議離婚を選んでいたなら、養育費の支払いに関しても話し合いで変更できます。
まずは「相手に減額・免除の合意をもらうこと」を最優先に考えて、交渉してください。
相手としては毎月払われる養育費がなくなってしまうと損するため、なかなか合意しないかもしれません。
養育費の減額調停をする
話し合いで解決できない場合は、養育費の減額調停に進みます。
養育費の減額調停とは、調停委員を交えて話し合いをして、養育費の減額を決める作業です。
権利者の管轄地域にある家庭裁判所へ申し立てをします。
調停作業をしている中で、相手が養育費の減額に応じてくれれば、その条件で調停が完了されます。
調停を通じても相手が養育費の減額に応じない場合は、裁判所の審判によって判決が下されます。
裁判所が審判するケース場合だと、「どうして養育費を減額すべきなのか?」という法的根拠を伝えておきましょう。
より多くの法的根拠を伝えておけば、養育費減額の判決が下る可能性も高くなるかもしれません。
申し立てには、下記のような書類が必要になります。
- ・養育費調停申立書
- ・事情説明書
- ・調停に関する進行照会書
- ・未成年者の戸籍謄本
- ・申立人の収入関係書類
- ・収入印紙 子供ひとりにつき1200円
- ・郵便切手代(8000円前後)
申立書は、裁判所のホームページからダウンロードできます。
養育費で困ったら弁護士に依頼しよう
養育費の減額は、相手との交渉・調停委員や裁判所への証拠提出など、やるべきことがたくさんあります。
どれも法的な知識が必要となる作業なので、もし自分に法的な知識がないと、養育費の減額が難しくなります。
そこでおすすめなのが、弁護士への依頼です。
弁護士に依頼すれば、相手との交渉・裁判所への証拠提出など、専門的なアドバイスを元にサポートしてくれます。
調停に必要な書類の作成も代行してくれるため、作業が楽になります。
初回の相談は無料で引き受けてくれる弁護士事務所も多いため、費用のことを気にせず、相談できるのもメリットでしょう。
まとめ
義務者に、養育費が免除や減額になる事情ができたとしても、権利者が素直に受け入れるとは限りません。
特に、義務者が再婚した場合や子どもができた場合、権利者には何の関係もないわけですから、それによって養育費が減額されるのは不条理だと感じても不思議ではありません。
養育費の免除や減額を求める場合には、権利者や子どもも経済的に苦しくなるのだということを理解した上で、誠実な対応を心がけることをおすすめします。
自分で直接交渉するのが難しいと感じるのなら、弁護士などの専門家に相談することも検討しましょう。