不動産売却による譲渡所得|長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いとは?
「不動産売却の譲渡所得には長期譲渡所得と短期譲渡所得があると知った。それぞれの違いが知りたい」
不動産を売却すると、譲渡所得にかかる税金を納めなければなりません。
この際、譲渡所得は長期譲渡所得と短期譲渡所得とに区分され、それぞれかかる税金が変わってきます。
ご自身のケースでは、長期譲渡所得と短期譲渡所得のいずれに該当するのかを把握しておくことが大切です。
この記事では、不動産売却における長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いについて解説しています。
この記事を読むことで、長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いが分かるほか、それぞれに対してどのように税金がかかるのかなどについても知ることができます。
目次
譲渡所得とは
「譲渡所得」とは、所得の一種で、不動産その他の資産を譲渡したことによって生じる所得のことです。
不動産以外には、株式、美術品・骨董品、ゴルフ会員権など、広く価値のある資産を譲渡したときにも譲渡所得は発生します。
譲渡所得課税の本質
譲渡所得に対する課税の本質は、資産所有中の値上がりによる価値増加に対する課税であり、値上がりによって得る利益への課税を、資産を手放す時にまとめて行うというものです。この考え方を「清算課税説」といいます。
これは、最高裁判所が昭和50年判決の中で採用を明らかにした立場です。
これに対して、譲渡時点での価値増加分のみに着目してこれに対して課税するべきとの考え方を「譲渡益説」といいます。
清算課税説の立場に立てば、直接的には資産の譲渡によって利益を得たことに対して課税されるわけではありません。
もっとも、実際の課税実務の上では、長期譲渡所得と短期譲渡所得の区分が設けられるなど譲渡益の性質等に着目した制度設計がなされており、清算課税説と譲渡益説の両方の考え方を考慮して課税がなされるものということができます。
不動産に対する譲渡所得課税
原則として、譲渡所得に対する課税は総合課税によります。
「総合課税」とは、個人の1年間の所得を合算してその合計額に対して決まる税率を適用して税額を算出する課税方式です。
これに対して、不動産の譲渡所得は特別に分離課税の方式で課税されます。
「分離課税」とは、他の所得とは合算しないで個別に所得を計算して税率を適用し、税額を算出する課税方式です。
不動産の譲渡所得は、分離課税のうち申告分離課税の方式により納税します。
「申告分離課税」とは、源泉徴収によらずに確定申告をして税額を計算し納付する方式です。
このことから、不動産売却後に譲渡所得が生じた場合には必ず確定申告をしなければなりません。
長期譲渡所得と短期譲渡所得の定義
譲渡所得は、長期譲渡所得と短期譲渡所得に分けることができ、そのいずれであるかに応じて課税のされ方が異なります。
「長期譲渡所得」とは、資産の所有期間が5年超である場合の譲渡所得のことです。
これに対し、「短期譲渡所得」とは、資産の所有期間が5年以下である場合の譲渡所得のことです。
長期譲渡所得と短期譲渡所得は、それぞれ適用される税率などが異なります。
長期譲渡所得と短期譲渡所得は、このように譲渡する資産の所有期間に応じて決まり、所有期間がどれだけであるかは重要です。
「5年」という区切りの年を覚えておくようにすると、長期譲渡所得と短期譲渡所得を見分けることができます。
不動産売却における長期譲渡所得と短期譲渡所得の違い
不動産売却における長期譲渡所得と短期譲渡所得の違いについてご説明します。
違い1:所有期間
長期譲渡所得と短期譲渡所得を区別する最も基本的な違いは、所有期間です。
先ほどもご説明したとおり、所有期間が5年超か5年以下かで長期譲渡所得と短期譲渡所得とが区別されます。
不動産売却の長期譲渡所得・短期譲渡所得の区分では、「5年」という所有期間の境界が重要であり、長期譲渡所得・短期譲渡所得の区分が5年以外の所有期間になることはありません。
なお、不動産を相続した場合には、所有期間が被相続人から引き継がれることがあるなど、特例があります。
相続によって得た不動産を、相続した時から5年以内に売却する場合には、必ずしも短期譲渡所得として扱われるのではなく長期譲渡所得として扱われる可能性もあるため、注意しましょう。
違い2:税率
不動産売却における長期譲渡所得と短期譲渡所得とでは、税率が異なります。
それぞれの税率は、次のとおりです。
- ・長期譲渡所得:20.315%(所得税15.315%、住民税5%)
- ・短期譲渡所得:39.63%(所得税30.63%、住民税9%)
なお、この税率には復興特別所得税を含みます。復興特別所得税は所得税額の2.1%であり、2037年12月31日までに得た所得に対して課税される特別な税です。
このように、長期譲渡所得のほうが税率は低く設定されています。
長期譲渡所得の税率が低く、短期譲渡所得の税率が高く設定されているのは、短期間での投機的な不動産の売買が加熱して不動産価格が乱高下するのを防ぎ、不動産価格を安定させることを目的としている点にあります。
歴史的には、不動産価格が著しく高騰したバブルの時代にいわゆる「土地転がし」のような短期的かつ投機的な不動産売買が加熱して不動産価格が乱高下したことがあり、このことへの対策の意味も含めて短期譲渡所得の高い税率が設定されるに至りました。
不動産の所有期間が5年を超えるかどうかで税率に約2倍の差が生じることから、この税率の違いは無視することができないものといえます。
譲渡所得にかかる税金の計算方法
不動産売却において、譲渡所得にかかる税金は次の計算式により算出します。
- ・譲渡所得=譲渡収入―取得費―譲渡費用
- ・課税譲渡所得=譲渡所得―特別控除
- ・税額=課税譲渡所得×税率
「譲渡収入」とは、不動産の売却価格のことです。
この計算式からも分かるように、不動産の売却代金の全額に課税されるわけではなく、さまざまな項目を差し引いた後の金額が課税対象となります。
「取得費」とは、不動産の取得に要した費用のことです。
例えば、土地の場合には土地の購入金額、建物の場合には建物の購入金額・建築金額から減価償却費相当額を差し引いた額が取得費となります。
「譲渡費用」とは、不動産の譲渡に要した費用のことです。
例えば、不動産仲介手数料などは譲渡費用となります。
譲渡収入から取得費と譲渡費用を差し引くと「譲渡所得」が算出されます。
譲渡所得を算出しても、これの全てが課税対象となるわけではなく、さらに「特別控除」の金額を差し引きます。
「特別控除」とは、政策的に税を軽減するために条件を満たすものに対して設けられた控除項目であり、さまざまなものがあります。
また、時限的な制度とされていることも多く、その時々に適用できる特別控除があるかどうかを確認することが必要です。
譲渡所得から特別控除を差し引くと課税譲渡所得となり、課税譲渡所得に所有期間に応じた税率を掛けることで税額が算出されます。
譲渡所得に適用される特別控除の特例
譲渡所得に適用される特別控除の特例には、次のようにいくつかあります。
- ・居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
- ・特定の居住用財産を買い換えたときの特例
- ・居住用財産を売ったときの軽減税率の特例
- ・被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
これらについてご説明します。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例
居住用財産(マイホーム)を売却したときには、一定の条件を満たす限り、最大で3,000万円までの特別控除を受けられます。
この特例は、条件を満たす限り、長期譲渡所得と短期譲渡所得のいずれにも適用されます。
特例の適用を受けるための主な条件は次のとおりです。
- ・自己が現在住んでいる、または過去に住んでいた家屋・敷地等を売却すること(過去に住んでいた家屋等を売却する場合は、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売ること)
- ・売却した年の前年および前々年にこの特例や「マイホームの譲渡損失についての損益通算及び繰越控除の特例」の適用を受けていないこと
- ・売却した年、その前年および前々年にマイホームの買換えやマイホームの交換の特例の適用を受けていないこと
- ・売主と買主が親子や夫婦など特別な関係でないこと
例えば、譲渡所得を計算したところ1,500万円だった場合、この特例の適用を受けなければ1,500万円に対して所有期間に応じた税率をかけて税額を算出し、納税しなければなりません。
これに対し、この特例の適用を受けることができれば、課税譲渡所得はゼロになるため、納税額もゼロになり、譲渡所得にかかる税金を納める必要がなくなります。
税額が数十万円ほど変わってくることもあるので、特例の適用を受けられる場合にはしっかりと受けることが大切です。
特定の居住用財産を買い換えたときの特例
特定のマイホームを売って代わりのマイホームに買い換えたときは、売却によって生じた譲渡益に対する譲渡所得課税を将来に繰り延べる(先延ばしにする)ことができます。
ただし、これは課税を先延ばしにするにとどまり、譲渡益が非課税となるわけではありません。
この特例の適用を受けるための主な条件は、次のとおりです。
- ・売却する家屋・敷地等の所有期間が売却年の1月1日時点で10年を超えること
- ・売却する家屋等の居住期間が10年以上であること
- ・売却代金の額が1億円以下であること
- ・売却した年の前年から翌年までの3年の間にマイホームを買い換えること
- ・新しく取得するマイホームに、取得後一定期限内に住み始めること
- ・新しく取得するマイホームの床面積が50平方メートル以上であること
- ・新しく取得する敷地の面積が500平方メートル以下であること
- ・売却した年とその前年、前々年に、3,000万円の特別控除の特例などの一定の他の特例の適用を受けていないこと
- ・売主と買主が親子や夫婦など特別な関係でないこと
- ・新築のマイホームに買い換える場合において、2024年1月1日以降に入居するときは、一定の省エネ基準を満たすこと
居住用財産を売ったときの軽減税率の特例
居住用財産を売り、一定の要件に当てはまる場合には、軽減税率の特例の適用を受けることができます。
軽減税率の特例の適用を受けると、長期譲渡所得の税額を通常の場合よりも低い税率で計算することができます。
この特例の適用を受けるための主な条件は、次のとおりです。
- ・自分が住んでいる(または住んでいた)家屋・敷地を売却すること
- ・以前に住んでいた家屋や敷地の場合、住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- ・売却した年の1月1日時点で、売却した家屋や敷地の所有期間が10年を超えていること
- ・家屋等を売却した年の前年、前々年にこの特例の適用を受けていないこと
- ・他の一定の特例(マイホームの買換えや交換の特例など)の適用を受けていないこと(ただし、3,000万円の特別控除の特例や軽減税率の特例との併用は可能です)
- ・親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないこと
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
相続・遺贈により取得した被相続人の居住用家屋・敷地等を一定の期間内に売って、一定の要件を満たす場合には、譲渡所得の金額から最大3,000万円(2024年1月1日以後の譲渡で相続人が3人以上の場合は最大2,000万円)を控除できます。
この特例の適用を受けるための主な条件は、次のとおりです。
- ・相続した家屋が1981年5月31日以前に建築されたものであること
- ・相続・遺贈により被相続人の居住用家屋・敷地等を取得したこと
- ・相続開始から3年目の年の12月31日までに売却すること
- ・売却代金が1億円以下であること
- ・親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売却したものでないこと
- ・2016年4月1日から2027年12月31日までの間に譲渡すること
相続によって得た被相続人の空き家は、売却してしまうことも多いでしょう。売却した際にこの特例の適用を受けることで、税の負担をできるだけ減らすことができます。
相続によって得た空き家の売却で税金を納める負担を負うのは苦しいという方は、この特例の適用を受けることができないか積極的に検討してみるようにしましょう。
不動産を売却して譲渡所得が生じたら確定申告が必要
不動産を売却して譲渡所得が生じたら、所得税の確定申告をすることが必要です。このことについてご説明します。
所得税の確定申告とは
「確定申告」とは、所得税の確定申告義務のある人が自己の納税するべき所得税額を計算・申告し、納税することをいいます。
不動産を売却して譲渡所得を生じたときには、その売却した人は確定申告をする義務があります。
これは、自分自身で税の申告をするものであり、税務署が向こうから納めるべき税を計算して通知してくれるものではないということを意味しています。何もしないでいても税務署から納めるべき税額の通知が来るということはないので、必ず申告・納税を忘れないようにしましょう。
確定申告の期限
確定申告をするのはいつでもいいわけではなく、確定申告の期限内に行わなければなりません。
不動産を売却した場合の確定申告は、売却の翌年の確定申告期間に行います。
例えば、2024年中に不動産を売却した場合には、2025年の確定申告期間に確定申告を行います。
例年の確定申告期間は、暦の都合により多少前後しますが、基本的には2月16日から3月15日までの間です。
確定申告の期限内に申告・納税を行わなかった場合には、無申告加算税などのペナルティとしての税金が課せられることがあります。
また、あわせて本来納めなければならなかった税についても納めなければなりません。
このため、確定申告は必ず忘れずに行うようにすることが大切です。
確定申告について相談できる専門家
確定申告は、税の計算をしたり必要書類を用意したりする必要があり、負担が大きいものです。このため、ご自身だけで行うことは難しいことも多くあります。
もしご自身だけで確定申告を行うことが難しいという場合には、税の専門家である税理士に確定申告について相談することがおすすめです。
税理士に確定申告について相談すると、確定申告義務があるかなどをアドバイスしてくれるほか、依頼すれば代わりに確定申告の手続きを代行してくれます。
譲渡所得が生じたら必ず確定申告を行わなければならないので、少しでも困ったことがあれば税理士のような専門家に相談するようにしましょう。
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まとめ:長期譲渡所得にかかる税金は短期譲渡所得より少ない
長期譲渡所得と短期譲渡所得は、売却する不動産の所有期間に応じて異なります。
「5年」がひとつの区切りであり、所有期間が5年超であれば長期譲渡所得、5年以下であれば短期譲渡所得となります。
また、相続によって不動産を取得した場合には被相続人の所有期間を受け継ぐこともあり、この場合には注意が必要です。
長期譲渡所得は短期譲渡所得に比べるとかかる税率が低く、長期譲渡所得の税率は短期譲渡所得の税率の約半分程度にもなります。
このため、長期譲渡所得に該当すれば短期譲渡所得よりも少ない税金を納めればそれで済むという違いがあります。
譲渡所得が生じた場合でも、特別控除の特例の適用を受ければ納める税金を減らすことができます。特別控除の特例にはいくつかの種類があり、長期譲渡所得・短期譲渡所得の両方で使えるものと、長期譲渡所得についてのみ使えるものがあります。
また、譲渡所得税以外にも、不動産売却時には様々税金がかかりますが、それぞれ適用できる可能性のある控除があります。
しっかりと節税対策をして、手取り額を増やしたい方は、税金に詳しい不動産コンサルタントへの相談がおすすめです。