賃貸アパートは相続と生前贈与どちらがいい?節税方法や分割の仕方を紹介
この記事でわかること
- 賃貸アパートを相続と生前贈与、よいぞれぞれの適切なケースについて理解できる
- 賃貸アパートの相続でかかる税金や節税方法がわかる
- 賃貸アパートの相続手続きや必要書類、注意点を理解できる
親が不動産を所有していると、いずれ相続するのが一般的です。
また親が住んでいた実家同様に、相続対策などで建てた賃貸アパートも相続対象となります。
一方で、賃貸アパートの相続でこんな悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。
「生前贈与がよいのか、親の死後に相続したほうがよいのかわからない」。
賃貸アパートを受け継ぐタイミングは、生前贈与がよいケースと相続がよいケースがあるのをご存じでしたか?
本記事では、賃貸アパートを親から受け継ぐ適正なタイミングや、アパートの相続にかかる税金、相続税の節税方法などについて解説します。
この記事を最後までお読みいただければ、賃貸アパートの相続をスムーズに行えるでしょう。
目次
賃貸アパートは相続と生前贈与どちらがおすすめ?
親が相続税対策などの目的で建てた賃貸アパートには、「相続」か「生前贈与」という二つの選択肢があります。
ここでは、相続がおすすめのケースと生前贈与がおすすめのケースについてご紹介していきます。
相続がおすすめのケース
相続がおすすめのケースは、以下に挙げたとおりです。
- 贈与税や相続税などを節税したい
- 賃料収入は自らの収入にしておきたい
賃貸アパートで相続がおすすめの人は、親が相続税対策など節税を目的にして賃貸アパートを経営している場合です。
また、賃料収入を年金代わりにしているなど、親の生活に欠かせない収入源である場合も、相続がおすすめとなります。
賃貸アパートを相続する場合には、遺言書の作成を親に依頼しましょう。
遺言書は、故人の財産をどうわけるかについての意思を示したもので、特定の誰かに賃貸アパートを渡す効果があります。
なお、仮に特定の誰かに賃貸アパートを引き継がせるときには、遺留分を考慮した法的に有効な遺言書が必要です。
賃貸アパートを相続にするメリット
賃貸アパートを相続にするメリットは、以下に挙げたとおりです。
相続性評価額を抑えられる
賃貸アパートを相続すると、相続税評価額を抑えられ相続税の節税に繋がります。
アパートなどの貸家については、30%の評価減が適用されます。
建物の相続税評価額はもともと建築代金の60%~70%とされており、さらに貸家の場合は評価減もあります。その結果、貸家の相続税評価額は建築代金の約50%程度になるとされています。
不動産所得税などの税負担が軽くなる
賃貸アパートの相続により相続人がアパートを取得した場合、不動産取得税はかかりません。
また相続登記の際に課税される登録免許税も生前贈与より税率が低くなっています。
生前贈与がおすすめのケース
生前贈与がおすすめのケースは、以下に挙げたとおりです。
- 賃貸アパートの家賃収入を子など特定の人に引き継ぎたいとき
- 賃貸アパートの所有者の所得を分散させたいとき
- アパートの建物評価額が2500万円に満たない場合
不動産収入を子世代などにあらかじめ分散させることで、相続財産の増加を抑制できます。
また、アパートは建築後、築年数が下がるにつれて評価額は減少します。
アパートの評価額が2500万円に満たない場合は、相続時精算課税制度の利用で贈与税が非課税です。
なお、相続時精算課税制度を選択すると暦年課税に戻せなくなるため、利用は慎重に検討します。
なお生前贈与とは、所有者の存命中にアパートの「建物」と「土地」の贈与を受けることです。
しかし、アパートの生前贈与を土地と建物両方で行うと、子世代の贈与税負担が増えます。
よって、賃料収入がある「建物のみ」を生前贈与で受けるのが一般的です。
生前贈与するメリット
賃貸アパートを生前贈与するメリットは、以下に挙げたとおりです。
贈与財産の評価額を抑えられる
賃貸アパートを生前贈与すると現金で生前贈与を受けたときと比べて、贈与財産の評価額を抑えられます。
たとえば、現金3,000万円を生前贈与するケースです。
贈与税の課税対象額は、下記のように計算できます。
3,000万円-110万円(基礎控除)=2,890万円
一方で、時価3,000万円の賃貸アパートを生前贈与すると、贈与時の評価額は時価の50%~70%程度となります。
贈与財産の評価額を圧縮できるため、贈与税の抑制に繋がります。
贈与後の収入は子のものになり、相続財産を少なくできる
アパートを生前贈与すると、贈与後の賃料収入は子のものとなります。
仮に年間300万円の賃料収入がある賃貸アパートの場合、生前贈与をしなければ単純に親の所得が増え、相続時の相続財産が増えます。
生前贈与して賃料を子が得ることで、子の所得が増えることや不労所得を得られるメリットがあります。
所得分散効果がある
賃貸アパートを生前贈与すると、所有者(贈与者)の所得を受贈者の所得にできるため、所得の分散効果があります。
所有者の所得総額が高い場合には、当然に所得税も高くなります。
所有者と受贈者の所得金額次第ですが、アパートの生前贈与は所得分散によって所得税を下げられる可能性があります。
アパートを特定の人に渡せる
アパートを生前贈与すると、特定の人に渡すことができます。
特定の人とは、子一人や相続人以外の人(内縁の妻など)です。
つまり、所有者の意図する人に財産を渡せるということです。
仮に相続の場合には、被相続人の遺言書がない限り、遺産分割協議を相続人間で行います。
よって、所有者の意図する形で贈与できないケースもあるでしょう。
アパート相続にかかる税金
アパート相続にかかる税金についてご紹介します。
相続税
相続税の計算方法は、以下のとおりです。
まず、アパートの建物部分の評価額は、下記のように算出できます。
建物の固定資産税評価額×(1-0.3%(借地権割合))
また、アパートの土地部分の評価は、下記のように算出します。
土地の自用地の評価額×(1-(借地権割合×0.3%(借家権割合))
借地権割合は地域によって異なりますが、概ね60%~70%となります。
さらに、借家権割合は30%です。
よって、更地の評価に比べ約18%(借地権割合60%の地域)または21%(借地権割合70%の地域)の評価減となります。
登録免許税
アパート相続時にかかる登録免許税は、下記のように算出できます。
固定資産税評価額×4/1000(税率)「建物・土地いずれも算出方法は同一)
アパートの遺産分割方法
アパートは、現金や有価証券と違い公平な分割がしづらい財産です。
アパートを含む全ての財産をどのように引き継ぐかを、遺産分割協議で決めていきます。
ここでは、アパートの分割方法をご紹介します。
代償分割
代償分割とは、ある相続人がアパートを相続する代わりに、他の相続人に現金等を支払い、相続資産の分配量を調整する方法です。
たとえば、2人兄弟の長男がアパートの土地と建物を相続した場合です。
アパートの評価額を2,000万円として他の財産がないと仮定すると、各人の法定相続分(=法的に決められた相続の割合、この場合法定相続分は各自1/2ずつとなる)は1,000万円となります。
長男は法定相続分を超える部分について代償金(1,000万円)を弟に現金等で渡します。
なお代償金の支払いには、将来的な家賃収入分を加えるのか、建物が古ければ修繕費用分を差し引くのか、という論点もあります。
代償分割は、相続人同士で納得のいく話し合いを行うようにしましょう。
換価分割
換価分割とは、相続したアパートを売却し、現金で分ける方法です。
アパート売却の手続きは、相続人の代表者が行います。
その後、売却で得た資金を遺産分割協議で決めた割合のとおりに分割します。
換価分割は、以下のようなケースで利用することをおすすめします。
- アパート経営を引き継ぐ人がいない
- 建物が古く経営が厳しい
- 相続人が現金化を望んでいる
ただ、この方法には手数料が別途発生することや、売却額によっては譲渡所得税がかかるといったデメリットがあることも覚えておきましょう。
現物分割
現物分割とは、被相続人の個々の財産を現物のまま引き継ぐ方法です。
たとえば、自宅、アパート、車、貴金属、絵画、有価証券などを誰が引き継ぐかを相続人の間で決めていきます。
なお、現物分割では相続人間の公平性を保つことが難しいため、代償金の支払いを併用し、均衡を図ります。
共有分割
共有分割とは、アパートを相続人全員で共同所有する方法です。
遺産分割協議時に相続人間で揉めているケースなどに用いられます。
アパートは実質共同経営となり、今後の経営方針や修繕についてその都度兄弟間での話し合いを行うことや、売却を行うには全員の同意が必要です。
また、共有分割後の相続等で権利関係が複雑になるデメリットがあります。
アパートにかかる相続税の節税方法
賃貸アパートの相続により発生する相続税は、少しでも安く抑えたいところです。
ここでは、相続税の節税方法をご紹介します。
小規模宅地の減額(貸付事業用宅地)を利用する
小規模宅地の減額とは、適用対象面積200㎡までの土地に対し評価額を50%減額する制度です。
以下が適用条件です。
- 被相続人の不動産貸付事業の用に供されていた宅地で、被相続人の不動産貸付事業を引き継ぎ、申告期限までに引き続き貸付事業を営んでいる親族が取得しているとき
- 被相続人と生計を一にする親族の不動産貸付事業の用に供されていた宅地で、その生計を一にする親族が取得し、相続開始前から申告期限まで引き続きその自己の貸付事業を営んでいるとき
(参照元: 国税庁)
相続時精算課税制度を利用する
相続時精算課税制度とは、生前贈与のときに2,500万円までの贈与税が非課税(2,500万円超の部分は一律20%の贈与税がかかる)となる制度です。
総額2,500万円を超えるまでは、何回でも利用できます。
なお、相続発生時には改めて相続税の計算を行い、超過分として贈与税で支払い済みの分は相殺します。
これにより、相続時の課税対象額が減るため、相続税の節税に繋がります。
土地の分筆を行う
土地の分筆を行うことで、相続税評価額が変わるときがあります。
相続時の土地評価は、土地が面する道路、間口の広さ、土地の奥行や形状により変わります。
分筆することで土地の間口や形状が変われば、評価額が下がる可能性があります。
評価額が下がれば、その課税額も小さくなります。
アパートの相続手続き・必要書類
本章では、賃貸アパートの相続手続きの流れと必要書類をご紹介していきます。
アパートの相続手続きの流れ
アパートの相続手続きは、以下のように進めていきます。
①専門家に相談
アパート相続時には、はじめに専門家へ相談します。
たとえば、相続税の計算や相続税以外にかかる税金についての相談は、税理士です。
また、親族間で相続のトラブルがあれば弁護士、相続登記に関する相談や登記に必要な書類については司法書士となります。
これら専門家の意見を活用することで、相続はスムーズに進むでしょう。
②ローンの有無を確認
次に、ローンの有無を確認します。
相続はプラスの資産だけでなく、ローンなどのマイナス資産も引き継ぎます。
仮にアパートローンの残額がある場合には、相続後にローンの支払い義務が残ります。
また、ローン返済が難しい場合、被相続人が団体信用生命保険に加入していたなど、借り入れ状況や付帯される保険の状況で対応は変わります。
③相続税の概算を試算
アパートを相続する場合、アパートだけの相続ということはできません。
つまり、相続が発生した時点でアパートを含めた全体部分で相続税の概算を試算する必要があります。
相続税の概算が分かることで、税負担ができるか否かがわかり、現実的に相続できるか否かが判断できます。
④相続するか放棄するかを決定
相続開始の翌日から3か月以内に、相続放棄するか否かを決定します。
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産及び債務について一切受け入れないことです。
なお、相続人がアパートの連帯保証人の場合、相続放棄は可能ですがローンの返済義務は残るので注意しましょう。
⑤遺産分割協議を行う
遺産分割協議とは、被相続人の遺産を誰がどのくらい相続するかを決める相続人間の協議です。
法的に有効な遺言書がない場合には、相続を確定するために遺産分割協議が必要となります。
遺産分割協議で出た結論は、遺産分割協議書という合意内容を証明する書類を作成します。
⑥準確定申告を行う
相続開始の翌日から4か月以内に、所得税の準確定申告を行い納付します。
不動産所得や事業所得などの所得税の申告は、通常翌年の3月15日までに行います。
しかし、個人が死亡した場合には、相続人が被相続人のその年の1月1日から死亡の日までの期間の所得について準確定申告し納付しなければなりません。
⑦書類の準備を行う
アパート相続時には、相続登記のために書類の準備が必要です。
必要書類を全て準備し、司法書士に代理で手続きを依頼します。
⑧法務局で手続きを行う
相続登記の申請書類などを法務局に提出すると、申請手続きは終了です。
法務局で手続きをする際には、登録免許税分の費用を持参します。
なお、これらを司法書士が手続きを行うとき、登記費用は司法書士に預け代理で納付してもらいます。
⑨相続税を納税する
相続発生の翌日から10か月以内に相続税を納付します。
相続税は、現金一括納付が原則です。
相続税の納付は、税理士が納付書を作成後、銀行・郵便局・税務署・クレジットカードで決済します。
アパート相続時の必要書類
アパート相続時に必要な書類と取得場所は、以下のとおりです。
アパート相続時の必要書類と取得場所
必要書類 | 取得場所 |
---|---|
アパートの登記事項証明書(登記簿謄本) | 法務局 |
被相続人の住民票の除票と戸籍謄本 | 役所 |
アパートを取得する相続人全員の戸籍謄本と住民票 | |
アパートの固定資産評価証明書 | |
アパートの相続人全員分の印鑑証明書 | |
遺産分割協議書 | 自身で用意 |
アパートを相続した際の注意点
アパートを相続した際には、気を付けるべきポイントがあります。
本章では、相続時の注意点を紹介します。
経営を続けられるかを確認しておく
相続した場合に最も大切なのは、アパート経営を続けられるかの確認をすることです。
アパート経営は、借主から毎月賃料収入を得るだけではありません。
固定資産税や共用部の光熱費などの負担、設備機器に故障等があれば補修費用がかかるなど、一定の出費が伴います。
また、そもそもアパートの稼働率が下がれば経営は右肩下がりです。
さらに、築年数が経過すると建物や設備が古くなり賃料下落のリスクもあります。
よって、アパートを相続で引き継ぐときには、稼働率の見込みや賃料収入のシミュレーションをします。
今後設備機器にどの程度の補修費用がかかるかを試算し、経営的に黒字が見込めるかを検証しましょう。
仮に経営が難しい状況であれば、売却し手放すことを検討します。
収益性に問題ないかを確認する
アパート経営の収益性に問題がないかです。
アパート経営には、多くのリスクがあります。
たとえば、家賃滞納、火災、築年数経過による家賃下落、稼働率下落による空室リスクなどがあります。
特に相続したアパートは、築年数が経過しているケースが多く、今後これらのリスクは顕著に表れます。ケースによっては、自己資金の持ち出しが発生し、収支が赤字になる可能性も十分に考えられます。
アパートの収益性に問題があり経済的に影響があれば、相続後に即売却がおすすめです。
相続税の支払いを行うことが可能かを確認する
アパートを相続するには、相続税の支払いを相続開始から10か月以内に現金で納付します。
つまり、アパートを相続したくても、所定の相続税の支払いができなければ相続はできません。
まとめ
賃貸アパートを相続か生前贈与するかは、各々の特性やメリットなどから自らの考えに合致するほうを選択しましょう、
また、アパートを相続する流れや相続時にかかる税金と節税方法などをしっかりと理解することで、相続は円滑に進められます。