裁判上の離婚がどのような場合に認められるかについては、時代の流れと共に考え方が変わってきています。
裁判所の考え方の移り変わりを知っておくことで、離婚裁判になった場合にどのような主張、立証をしていくことが必要なのかを意識しておくことが大切です。
有責主義から破綻主義へ
裁判上の離婚がどのような場合に認められるかという考え方として、「有責主義」と「破綻主義」があるとされています。
かつて裁判所は、「有責主義」を採用していたとされていますが、現在では、「破綻主義」を採用しているとされています。
そして、破綻主義の中でも変化があり、かつては「消極的破綻主義」が採用されていたのが、徐々に「積極的破綻主義」へと移行していると言われています。
まずは、有責主義と破綻主義について説明します。
有責主義とは
有責主義とは、相手方配偶者が離婚の原因を作った場合にのみ離婚請求が認められるという考え方です。
この考え方は、原因を作った当事者からの離婚請求は認められないということになります。
そのため、長期間別居を続けていて一切の係わりがないなど、実質的な夫婦関係が完全に破綻していて結婚を継続できるとは到底思えない状況にある場合でも、相手に有責な理由がない限り、離婚は認められません。
破綻主義とは
破綻主義とは、婚姻関係が破綻していて回復の見込みがないことが客観的に認められる場合には、相手の責任の有無を問わずに離婚を認めるという考え方です。
夫婦の一方又は双方が、すでに真摯に共同生活を送る意思を失い、夫婦としての共同生活の実体がなく、回復の見込みが全くない状態に至った場合、戸籍上だけの婚姻を継続させることは不自然である、とされています。
破綻主義でも、有責配偶者からの離婚請求を認めるかどうかは、積極的破綻主義と消極的破綻主義で考え方が異なります。
積極的破綻主義と消極的破綻主義
積極的破綻主義は、婚姻関係が破綻した原因や責任を問わず離婚を認める考え方です。
この考え方では、破綻の原因を作った当事者からの離婚請求も認められます。
一方、消極的破綻主義は、相手が破綻の原因を作っていない場合でも、婚姻関係が破綻している場合に離婚は認めるが、有責者からの離婚請求は認めないとする考え方です。
裁判所は、かつては消極的破綻主義の立場をとっていたとされますが、有責配偶者からの離婚請求が認められた昭和62年の画期的な判決が出てから、積極的破綻主義に変わってきたと言われています。
すでに夫婦としての実体がなく、心身の結びつきも失われた事実上離婚同然の状態にある夫婦に、形式的な婚姻状態を継続させる意味はないという考え方が浸透してきたのです。
民法で定める離婚事由
裁判上の離婚が認められる離婚事由は、以下の5つと定められています。
これは法定離婚事由と呼ばれます。
- ①不貞行為
- ②悪意の遺棄
- ③3年以上の生死不明
- ④強度の精神病
- ⑤婚姻を継続し難い重大な事由
この5つのうち、①から④までは、離婚原因のある相手方配偶者に対して離婚を請求することを前提として規定されています。
一方、⑤の「婚姻を継続し難い重大な事由」については、相手に責任があることを必要とする文言とはなっておらず、どちらからでも離婚請求できるものと読み取れます。
そして、この「婚姻を継続し難い重大な事由」とは、婚姻関係が破綻している場合を指すとされています。
そのため、この規定は破綻主義の根拠となるものといえるでしょう。
調停への影響
昭和62年の有責配偶者からの離婚請求が認められた判決を受け、離婚実務全体が破綻主義へと考え方をシフトさせたと言われています。
裁判離婚の前段階である調停離婚では、法定離婚事由がなくても離婚はできます。
しかし、破綻主義が採用される以前は、調停であっても、調停委員は相手の有責性を重視した話の進め方をする傾向がありました。
破綻主義が採用されてからは、調停の場でも、相手の有責性は問題としつつも、相手が結婚生活を続ける意思が全くないのであれば、冷静に自分の将来を考え、人生の再出発を考えてみてはどうかと促すような方向付けの調停が多くなってきました。
調停での考え方
調停委員が安易に離婚を推奨することはありませんが、調停委員の目から見て、夫婦関係の修復が困難に見える場合には、新たな人生を歩む方が建設的だと判断し、離婚して再出発することを提案するケースもあります。
たとえば、有責配偶者である夫が、妻と別居して不貞相手と暮らしている場合に、夫には全く妻と修復する意思がないにもかかわらず、婚姻の継続を推奨したとしても、夫は離婚が成立しなくても不貞相手との生活を続けることになるでしょう。
同居の意思のない当事者を、強制的に同居させることはできません。
そうなると、事実上重婚のような内縁状態が続くことになり、かえって社会的な秩序を乱すような結果を生み出してしまいます。
ただし、有責配偶者からの離婚請求の場合には、完全な破綻主義で離婚が認められるということはありません。
また、離婚が認められる場合でも、有責配偶者に対しては慰謝料等の財産的給付を請求することで、公平性を求めることができます。
婚姻関係の破綻とは
裁判所は、婚姻関係が破綻した夫婦に形だけの婚姻状態を維持させることを不自然だと判断するようになってきました。
では、婚姻関係が破綻しているとは、どのような状態でしょうか。
これについては、明確な定義があるわけではありません。
しかし、別居期間は大きな判断材料となります。
婚姻とは、夫婦が同居して協力して共同生活を送るものであるので、別居期間が長ければ長いほど回復が困難であるという裏付けとなるからです。
どのくらいの期間で破綻していると認められるかは個別の状況により異なりますが、夫婦双方に大きな有責事由がない場合、5年程度で破綻していると認められる可能性が高くなります。
ただし、別居期間だけでなく、同居期間、別居に至った原因、別居中の連絡の状況、婚姻費用の分担の状況など、さまざまな事情を総合的にみて、回復の見込みがあるかどうか判断することとなります。
近年の判例
破綻主義が採用されてから数十年の月日が流れましたが、近年の判例で、婚姻関係の破綻が認められて離婚が肯定されたもの、逆に婚姻関係の破綻が認められず離婚が否定されたものを紹介します。
別居期間1年半で離婚が認められたもの
平成21年の判例で、夫からの離婚請求が認められた判例です。
この夫婦の事実関係は、妻が夫の先妻の位牌を勝手に先妻の親戚宅に送付したり、夫のアルバムを捨ててしまったり、病気がちになり収入の減った夫に対し罵詈雑言を浴びせるなどしたことなどから、夫が夫婦関係の破綻を主張し、離婚を請求したものです。
結婚期間18年に対し、別居期間は1年半でしたが、裁判所は以下の理由から離婚を認めました。
「夫を軽んじる行為や自制の薄れた行為は、当てつけというには余りにも夫の人生に対する配慮を欠いた行為であり、これら一連の行動が夫の人生でも大きな屈辱的出来事として、その心情を深く傷つけるものであったことは疑う余地がない。
妻はこれらの行為について、自己弁護を述べているが、その理由とするところは到底常識にかなわぬ一方的な強弁にすぎず、夫が受けた精神的打撃を理解しようという姿勢に欠け、今後夫との関係の修復ひとつにしても真摯に語ろうともしないことからすれば、夫と妻との婚姻関係は、夫が婚姻関係を継続していくための基盤である妻に対する信頼関係を回復できない程度に失わしめており、修復困難な状態に至っていると言わざるを得ない。
したがって、別居期間が1年余であることなどを考慮しても、夫と妻との間には婚姻を継続し難い重大な事由があると認められる
妻のその後の対応などからも、信頼関係が破壊されており、別居期間は短くても婚姻関係が破綻していて修復の見込みがないと判断された判例です。
別居期間2年で離婚が認められなかったもの
平成25年の判例で、妻からの離婚請求が認められなかった判例です。
この夫婦の事実関係は、夫が特定の女性とチャットをしてその女性に会いに行ったり、共働きでの家事分担、金銭感覚のずれなどについて不満を募らせていたところに、夫から妻の親族に対する暴行もあったことから、妻が夫婦関係の破綻を主張し、離婚を請求したものです。
裁判所は以下の理由から、離婚を認めませんでした。
「女性問題や本件暴行等、夫に問題はあったが、別居については、性格や価値観の相違が大きな要因となっているというべきであり、妻が離婚を求めるのが当然であるとか、およそ修復が期待し得ないような重大な問題、衝突があったとはいえない。
妻からの別居の申出は、唐突なものであって、夫婦関係を改善するべく双方が相応の努力を重ねたにもかかわらず、問題が解消されず、客観的に婚姻関係に深刻な亀裂が生じた状態となり、別居に至った等の経緯もなく、婚姻関係が深刻に破綻し、およそ回復の見込みがないとまで認めるのは困難である。
夫に問題はあっても、いまだ婚姻関係が修復不能な状態にまで至っているとは認められなかったという判例です。
まとめ
離婚裁判における裁判所の考え方の移り変わりについて説明してきました。
近年においては、形骸化した夫婦に無理やり婚姻関係を継続させることは、良しとされなくなってきています。
これは裁判離婚の場合にとどまらず、調停でも同様の考え方が浸透してきています。
とはいえ、有責配偶者が離婚を求める場合は、厳しい目で判断される状況は依然として続いています。
破綻主義の考え方を理解したうえで、自分の状況を客観的に見て、どのような主張をしていくことが有効かを考えてみましょう。
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