3000万円の譲渡所得控除も?相続した空き家は早めに売るべし!
目次
地方の過疎地だけでなく、都心やその近郊でも空き家の増加は社会問題となっています。
空き家が増える根本的な原因の1つに、被相続人の家屋を相続する人がいてもその家に実際に住むことがない点が挙げられます。
そこで導入されたのが、相続した空き家を譲渡した場合の控除の特例です。
どのような場合に適用できるのか、そしてそれはどれくらいの効果があるのか、解説していきます。
空き家を譲渡した場合の特例とは
相続した空き家を譲渡した場合の特例とは、正確には「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」といいます。
相続によって取得した被相続人の住んでいた自宅を売却し譲渡所得が発生した時に、一定の要件を満たす場合にはその譲渡所得から最大3,000万円を控除することができるものです。
その要点をあらわして「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」といわれることもあります。
特例の適用を受けるための要件とは
「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」の適用を受けるためには、要件を満たさなければなりません。
最大3,000万円を控除できるということで、とてもメリットが大きいのですが、その分いくつもの要件が定められています。
家屋に関する適用要件
- ① 昭和56年5月31日以前に建築された区分所有登記以外の建物であること
- ②相続の開始直前において、被相続人が1人で生活していた家屋であること
- ③ 売却時点で一定の耐震基準を満たすこと
- ④ 相続開始から売却までの間、居住用や事業用などほかの用途に使用されていないこと
このように多くの要件が定められていますが、特にポイントとなる要件を確認しておきましょう。
譲渡(売却)を希望する家屋の安全性が第一
①の要件により、建物の建築時期が昭和56年5月31日以前に建築されたものと限定されています。では、どんな建物でもOKかと言えば、そうではありません。
こちらの特別控除を受けるためには、③の要件でまず家屋が地震災害に耐えられるかどうかが注目されます。
例えば、最近日本全国で地震被害が多発し、残念ながら日本列島で地震が起きないと断言できる場所はどこにもありません。
この日本で頻発する地震による揺れで倒壊してしまっては、空き家に住む方々の安全は守れなくなります。そのため、空き家を譲渡するためには、このような災害に耐え得る強度が必要なのです。
家屋を安全に利用できるよう、現在の建築基準法が制定される前の古い建物についても、現在の耐震基準を満たす必要があるのです。
耐震基準を満たさないケースに該当したら、その古い建物を取り壊して、取り壊して敷地を譲渡することになるでしょう。
なお、建築時期については、登記簿謄本の表題部に書かれた年月日を確認するのが最も正確といえます。
ただし、相続人である自分達が、空き家の所有者だった被相続人(親等)から既に独立し、自分の家を所有しているとしても、独立前に家族で住んでいた空き家を取り壊すのは忍びないと思う人もいるはずです。
空き家も一緒に譲渡するのであれば、③の要件があるため耐震工事を行う必要があります。なお、マンションのような区分所有家屋は対象とならないことも覚えておきましょう。
譲渡(売却)を希望する家屋は完全な空き家
この特別控除はあくまで被相続人1人で住んでいたことが要件です。
相続開始(被相続人の死亡)直前に同居していた人がいては、特例の対象外です。
前述した②の要件により、同居人がいた家屋はこの特例の適用対象とならないことに注意しましょう。
もっとも、実際にその家屋へ住んでいた人が譲渡した場合は、居住用家屋を譲渡した場合の3,000万円控除など、別の特例を適用することのできる可能性があるため、あわせて検討する必要があります。
また、④により、被相続人が亡くなってから家屋を他人に貸したり、敷地を駐車場として貸したりした場合には適用できません。
一方、その家屋に居住していた人(被相続人)が、実は死亡する直前まで別の場所に住んでいた場合はどうなるでしょうか?
例えば、被相続人が要介護認定を受け、介護老人ホーム等へ入所していた場合があげられます。
この場合は相続の開始の直前に、たとえ被相続人の居住の用に供されていなかったとしても、その居住の用に供されなくなる直前まで被相続人が居住していた家屋なら、②の要件に該当することとなります。
その他の適用要件
- ①相続や遺贈によって被相続人の居住用家屋やその敷地を取得し、その家屋または家屋と敷地両方を売却すること
- ②相続や遺贈によって取得した被相続人の居住用家屋全部の取壊し等をした後、被相続人居住用家屋の敷地等を売ること
- ③相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日までに売却すること
- ④売却代金が1億円以下であること
- ⑤同一の被相続人から取得したほかの不動産で特例の適用を受けていないこと
- ⑥不動産を購入する人が親子や夫婦、親族などの特別な関係者でないこと
特例が適用される要件としては、次のような点もチェックする必要があります。
あくまで“空き家”が特例の対象
特例は①のように、空き家となった家屋または、その家屋と敷地が要件となります。
相続によってその家屋と敷地を一緒に取得した人なら、もちろん特例が適用されます。
この場合は家屋だけ売却しても良いですし、家屋と敷地両方を売却しても特例が適用されます。
しかし、家屋は別の相続人に分与され、ご自分は土地しか相続しなかった場合は、この特例の適用を受けることができません。
あくまで家屋を相続したかどうかが、特例適用の判断基準となります。
適用期間と譲渡価格の上限に注意
売却の時期について、②をみてもわかりますが、相続開始から3年間というわけではありません。
例えば2017年の10月31日に相続が開始されても、2020年の10月31日までに売却しなければいけないわけではありません。
②の要件では相続を開始した日から3年経過する年の12月31日ですので、2020年の10月31日までではなく2020年12月31日までとなります。
適用期間が経過したと勘違いして売却を諦めてしまうこともあるので、気を付けましょう。
また、高く売れそうだと感じていても、この特例を利用する場合はきっちり1億円で売値を設定することについて注意が必要です。
通常不動産の売買ならば固定資産税の精算が行われます。
その対価を含めた場合、1億円を超えてしまう可能性もあるからです。
親子間・夫婦間売買はダメ
3,000万円という大幅な控除目当てで、親族間で売買をした場合はどうでしょうか?
やはり⑥の要件で認められないことになります。
あくまで他人への譲渡(売却)であることが条件です。
では、内縁関係の人への譲渡(売却)は法定婚をしていないので大丈夫、ではなくやはりこちらのケースも認められません。
また、法人へ譲渡(売却)するなら、相手は法人なので認められると思われがちです。
ただし、こちらのケースも例えば親族が法人役員となっているような場合、やはり特例の適用はありません。
特例の適用を受けるための手続き
この特例の適用を受けるためには、空き家をのこしたまま譲渡(売却)するか、それとも空き家を全部取り壊し敷地等を譲渡(売却)したかで、必要な書類は異なります。
また、必要な書類を集めた上で確定申告しなければ、特例は利用できません。
手続きする際の必要書類
こちらでは、青色申告の際に貼付するべき各書類について説明しましょう。
家屋または家屋・敷地を譲渡(売却)した場合
①譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕
この内訳書は、土地・建物の譲渡(売却)による譲渡所得金額の計算用として使用する書類となります。
最寄りの税務署から取得できます。
②登記事項証明書等
法務局で取得可能な証明書です。
こちらの証明書で、
- ・特例の適用を受ける建物・土地が相続して得たものであること
- ・昭和56年5月31日以前に建築したものであること
- ・区分所有建物登記がされている建物でないこと
を確認します。
③被相続人居住用家屋等確認書
売った資産の所在地を管轄する市区町村長から交付される種類です。
市区町村の窓口(建築課または空き家対策課等が主な担当)で種類を取得します。
④耐震基準適合証明書又は建設住宅性能評価書の写し
耐震基準適合証明書は建築士が発行する書類で、建設住宅性能評価書は各都道府県の建築住宅センターが発行する書類です。
いずれかで耐震基準を満たしているかどうかをチェックします。
④売買契約書の写し
売却代金が1億円以下であることを証明するために添付します。
家屋をすべて取り壊し敷地を譲渡(売却)した場合
次の書類3点が必要となります。
- ・譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)〔土地・建物用〕
- ・被相続人居住用家屋等確認書
- ・売買契約書の写し
確定申告をする際の注意点
特例の利用のため、取得した各書類はいつでも税務署へ提出して良いわけではなく、確定申告期間中に、ご自分の納税地を管轄する税務署へ提出する必要があります。
確定申告期間は毎年2月中旬~3月中旬となっています。
なお、2020年の確定申告期間は、2020年2月17日(月)~3月16日(月)となります。
空き家等を売却した相続人が給与所得者の場合でも、年末調整ではなく必ず確定申告を行います。
自営業者・自由業者なら毎年申告しているので問題ないと思いますが、給与所得者の方々は初めて申告する人も多いことでしょう。
年末調整の申告と勝手が違い戸惑われることもあるはずです。
申告手続きで不明な点があれば、最寄りの税務署によく相談してから手続きを進めましょう。
特例適用による効果はどれくらい?所得計算の方法とあわせて確認しよう
譲渡所得の計算方法は、
譲渡価額-(取得費+譲渡費用)
となります。
譲渡価額とは、土地や建物を譲渡した際の収入金額をいいます。
お金を何回かに分けてもらうことがあるかと思いますが、契約書で決まっている収入金額となります。
取得費とは、その土地や建物を購入した際にかかった金額をいいます。
相続した土地や建物の場合は、その被相続人が当初に購入した金額です。
しかし、先祖代々の土地などで取得が分からない場合もあります。
そのような時は、譲渡価額×5%で計算される概算取得費を取得費とすることができます。
また、実際の取得費より概算取得費の方が大きい場合にも、概算取得費を用いることができます。
譲渡費用とは、仲介手数料や登記費用など、土地や建物の譲渡に要する費用をいいます。
「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」が適用できる場合には、この計算式で求められた譲渡所得から最大3,000万円を控除することができます。
特別控除を適用する前の譲渡所得金額が3,000万円以下である場合には、特別控除を適用することで所得金額がゼロとなり税金は発生しないこととなります。
また、税金が発生する場合でも3,000万円の所得金額が減少しているため、所得税・住民税を合わせると600万円ほど減税になったこととなります。
ほかの特例と同時に適用できるのか?
「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」と同時に適用できる特例には以下のようなものがあります。
居住用財産を譲渡した場合の3,000万円特別控除
これは、マイホームを譲渡した場合に適用できる特例です。
ただし、以前住んでいた家屋であっても、住まなくなってから3年を経過する年の12月31日までに譲渡した場合には適用できます。
なお、控除額は「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」とあわせて3,000万円となるため、注意が必要です。
マイホームの買換えに関する特例
居住用財産の買換えを行った場合に一定の要件を満たせば、買換えの特例により譲渡所得を繰り延べることができます。
また、譲渡損失が発生した場合の損益通算や繰越控除とも併用できます。
併用できない特例に、「相続税の取得費加算の特例」があります。
これは、相続した土地や建物を譲渡した際に、当該土地や建物を相続する際に支払った相続税を取得費に加えることができる特例です。
「空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除」と同時に適用することはできないため、いずれか有利な方を選択することとなります。
まとめ
増え続ける空き家の問題を解決するために、被相続人が住んでいた空き家を譲渡した際の特例が設けられています。
亡くなる直前に老人ホームなどに入所していた場合は、以前は適用対象外となっていましたが、改正により適用できるようになりました。
適用を受けるために特に注意が必要なのは、期限が決まっていることです。
相続開始から3年目の12月31日までに売却しなければならないので、相続してから計画的に手続きを進めていきましょう。