土地家屋調査士による測量間違いのトラブル事例【測量図の訂正はできる?】
この記事でわかること
- 土地家屋調査士による測量間違いのトラブル事例がわかる
- 測量図の間違いが訂正できるかどうかわかる
- 測量図の間違いを訂正申請できる人がわかる
- 測量図の間違いを訂正申請する際の必要書類がわかる
土地の測量が必要になるケースは様々ですが、売却を予定している場合は測量精度が重要となります。
「過去に測量してあるから大丈夫」と考える人もいますが、登記情報と現況が異なっている例はそれほど珍しくありません。
地価の高いエリアでは、わずか1~2㎡の誤差が数十万円~百万円単位の違いになるため、測量ミスがあれば不動産売却にも大きく影響するでしょう。
基礎工事や建物建築にも影響しますが、土地家屋調査士の測量に間違いがあった場合、どのように対処すべきでしょうか?
今回は土地家屋調査士の測量ミスについて実例を紹介し、測量図の訂正など、間違いが判明した場合の対処法をわかりやすく解説します。
不動産売却の予定がある方はもちろん、過去に測量している方もぜひ参考にしてください。
土地家屋調査士による測量間違いのトラブル事例
不動産売却のために測量する場合、売却後の登記も必要になるため、土地家屋調査士へ測量依頼するケースが一般的です。
ほとんどの土地家屋調査士は高精度な測量を行ってくれますが、人的な作業であるため、測量間違いなどのミスも発生してしまいます。
ここでは測量間違いによるトラブル事例をいくつか紹介しますので、金銭的な影響なども参考にしてください。
(1)測量間違いによる再測量や再登記費用の請求事例
土地を分筆するため、土地家屋調査士に測量や分筆登記を依頼したところ、4㎡の測量間違いがあり、地主から再測量や更正登記の費用を請求された事例です。
損害額は以下のような内訳になりました。
地積更正登記費用:約5万8,000円
合計:38万8,000円
39万円近い損害額になりますが、この事例では40万円程度の慰謝料も請求されていました。
なお、慰謝料は裁判所から却下されており、損額額は保険によってカバーされています。
(2)境界測量の間違いによる土地代の請求事例
土地を売却するため、確定測量を土地家屋調査士に依頼した結果、7.8㎡ほど過大に測量された事例です。
売買完了後に測量間違いが判明したため、買い主は7.8㎡分の土地代金を請求しています。
この事例では1㎡あたりの路線価が19万3,000円程度であり、請求額は以下のようになっています。
決して大きな面積ではありませんが、路線価が影響するため、エリアによっては200万円を超える請求額にもなるでしょう。
(3)境界標の間違いからブロック塀を再施工した事例
測量間違いから境界票もずれてしまい、隣地に10㎝以上越境して境界杭が設置された例もあります。
そのままブロック塀が建てられたため、隣地から90万円以上の損害額が請求されていますが、ブロック塀の規模によってはさらに高額な請求額になっていたでしょう。
(4)境界票の間違いから擁壁を再施工した事例
先ほどと同じく、測量間違いから境界杭の位置が12㎝ずれてしまい、土留め用の擁壁を再施工した事例です。
このケースでは擁壁の撤去と再施工が必要だったため、以下の損害額が請求されています。
擁壁の再施工費用:約58万円
重機等の使用量:約10万円
合計:88万円
擁壁工事としては低い金額ですが、規模によっては数百万~1千万円以上になるため、基礎系の工事には測量が大きく影響します。
(5)確認漏れから発生した土地代等の請求事例
分譲用の土地を分筆する際、A案による分筆が決定していたが、確認を怠った土地家屋調査士がB案で境界票を設置し、建物・ブロック塀ともに施工された例です。
建物はすでに入居済みであり、以下の費用が測量依頼者へ請求されました。
土地代金:約350万円
合計:438万円
土地家屋調査士が最終確認を疎かにしたため、B案のままだと思い込んで測量されたケースですが、初歩的なミスでも損害額は400万円以上です。
こちらは測量技術以前の問題ですが、確認事項は書面やメールを使って記録に残し、測量依頼者や社内で情報共有すれば防止できたヒューマンエラーでしょう。
(6)測量間違いから建物の設計が変更となった事例
測量間違いによって境界杭が4㎝ずれてしまい、そのまま建物の設計図が作成されたため、以下の損害額を施主が土地家屋調査士に請求したケースです。
境界杭の撤去と再設置費用:約34万円
合計:66万円
建物の施主はもちろん、建築士との信頼関係も損なわれてしまう事例ですね。
(7)境界杭の設置ミスから工事遅延等が発生した事例
建物の建築用に境界を測量した際、境界杭を間違った位置に設置したため、以下の損害が発生した事例です。
工事遅延の補てん:約140万円(車両の駐車場代含む)
土砂減少分の土地代:約60万円
合計:440万円
この事例で認められた損害額は、建物1棟分の再設計費用170万円と駐車場代6万3,000円です。
合計176万3,000円ですが、過失割合6割として土地家屋調査士には100万円程度の損害額が請求されています。
また、マンション建築にも同様の事例があり、地積の減少から以下の損害が発生しています。
土地代金:約47万円
再測量費:約24万円
損害金:約352万円
合計:523万円
この事例では土地代金と損害額請求は却下されています。
(8)測量間違いから建築不能となった事例
地積測量図の計算や隣地境界を誤り、約21㎡分の面積が減少した事例です。
すでに住宅建築がスタートしていたため、施主は土地の減少分や造成費等を土地家屋調査士に請求しています。
道路補修工事費:約27万円
水道設備費:約30万円
建築資材費等:約252万円
販売損失補てん:約200万円
合計:514万5,000円
土地代金や販売損失の補てんは否認されましたが、道路や水道設備の工事は認められ、建築資材等についても7割程度が損害額として認められています。
測量図の間違いは訂正できる
地積測量図や建物の図面に誤りがあった場合、法務局へ正当な図面を提出すれば訂正は可能です。
ただし、訂正を申請できる人は限られており、図面に添付する書類も必要になるため、次に解説する「申請できる人」と「必要書類」は必ず確認しましょう。
測量図の間違いを訂正申出できる人
測量図の訂正については、登記事項証明書に記載される以下の人だけに申請が認められています。
- 土地や建物の表題部所有者
- 所有権の登記名義人
ただし、上記の人の相続人であれば訂正申請が可能であり、複数いる場合は1人が代表して訂正申請を行います。
測量図の間違いを訂正申出する際の必要書類
法務局で測量図を訂正申請する場合、以下の書類が必要になります。
- 相続等証明情報:表題部所有者や所有権の登記名義人および、その相続人等が地積測量図を訂正申請する場合
- 会社法人番号または代表者の資格証明情報:申請者が法人の場合
- 代理権限証明情報:代理人が訂正申請する場合
法人代表者の資格証明情報や代理権限証明情報については、作成から3ヶ月以内のものを提出します。
法務局備え付けの資料や提出書類から、訂正事由が明らかと認められた場合は短期間で訂正が完了しますが、登記官による現地調査が行なわれるケースもあります。
訂正完了までの期間は状況によって異なるため、急ぎの場合はあらかじめ伝えておきましょう。
まとめ
今回は測量間違いから発生するトラブルを解説しましたので、損害額についてもご理解いただけたのではないでしょうか。
各事例の損害額は保険金によって全部、または一部が支払われているため、金銭的には補償された形ですが、当初の予定と違った結果になっているケースもあります。
また、賠償責任保険に加入していない土地家屋調査士もいるので、すべて保険でカバーできるとは限りません。
不動産売却や測量の機会はそれほど多くないため、土地家屋調査士は信頼できる不動産会社から紹介してもらうとよいでしょう。
万が一に備え、弁護士や司法書士と連携している不動産会社が理想的ですね。