親の家を売る方法3つ【費用や税金・節税に使える特例まとめ】
この記事でわかること
- 子どもが親の家を売却する方法がわかる
- 親の家を売却するときの流れ、かかる費用や税金がわかる
- 親の家を売却するときの注意点がわかる
親が年をとって要介護となり、自宅での一人暮らしが難しくなってしまうと、子どもが自分の家で同居させたり、病院や施設に入れたりするケースは多いですよね。
空き家となった実家はそのままにしておくと維持管理費用がかかるので、売却して今後の資金に充てたいところです。
しかし「使う予定がない実家は売却したいけれど、親名義の家を売却するのは難しそう」と考えている方は少なくありません。
今回は、親の名義になっている実家を子どもが売却する場合の手続きを詳しく解説します。
かかる費用や税金について、また税金の特例についても紹介します。
目次
親の家を売る方法3つ
親の名義である不動産を、何も手続きせずそのまま子どもが売却することはできません。
名義人である親の状態によって必要な手続きが異なりますので、しっかり理解しておきましょう。
1)親が元気なうちに代理人になって売却
親は自宅を売却したいけれど、売却するための手続きがわからないというケースは多いです。
そういった場合、子どもが親の代理人となって代わりに売却の手続きを行うことができます。
代理人になるには、売却についての委任状を作成します。
委任状には決まった書式はありませんが、委任する範囲や売却する不動産の内容、売却の条件などを記載する必要があります。
また委任状には、委任する人の本人確認書類、住民票、印鑑証明書、代理人の本人確認書類を添付します。
2)親の判断能力が不十分な場合は成年後見制度を利用して売却
もし親が認知症や知的障害、精神障害などを理由に判断能力が不十分である場合は、子どもが勝手に代理人になることはできません。
そのような場合には、成年後見制度を利用することで不動産を売却できるようになります。
成年後見制度には二種類ある
成年後見制度とは、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力の不十分な方が、不利益な契約を締結するのを防ぐためにある制度です。
大きく分けると、法定後見制度と任意後見制度の二種類の制度があります。
法定後見制度とは、現在すでに判断能力が不十分な場合に裁判所が成年後見人を選定する制度です。
弁護士などの第三者が選任される場合や、複数人が選任される場合があります。
任意後見制度とは、親に現在判断能力があるうちに親が後見人を決めておく制度です。
任意後見人とは公正証書で契約を締結し、判断能力が低下したら後見を開始します。
3)親が亡くなったあとに相続して売却
親が亡くなり空き家になった自宅を売却したいという場合には、子どもが自宅を相続してから売却することになります。
売却するには、相続登記をして自宅の名義を親から子どもに変更しなければなりません。
他の相続人がいれば、相続人同士で遺産分割の話し合いをする必要があります。
遺産分割で合意ができ、相続登記が完了して自宅の名義が子どもになれば、自宅を売却することが可能になります。
親の家を売る流れ
親の家を売る場合、親の状況によって事前に必要な手続きは異なりますが、委任状や後見制度、相続登記などの準備が完了したら、その後は売却活動となります。
親の家を売却する流れを詳しく解説します。
【STEP1】不動産会社へ査定を依頼する
まず不動産会社に売却価格の査定を依頼します。
できるだけ正確な査定金額を見積もるためには、最低3社には依頼をすることと、不動産業者が訪問する訪問査定にしてもらうことです。
【STEP2】不動産会社と媒介契約をする
査定を依頼した不動産会社の中から、媒介契約をする会社を選定します。
媒介契約は、1社とのみ結ぶ専任媒介契約と、複数の会社と結ぶ一般媒介契約があります。
専任媒介契約は、窓口が一つになるため複数の不動産会社とやりとりをするわずらわしさがないというメリットがあります。
一般媒介契約は、複数の不動産会社が買主を探してくれるため、間口を広く売却活動ができるというメリットがあります。
【STEP3】売却活動~内見
売却活動が開始すると、買主による内覧が行われます。
買主にとって物件を知ることのできる重要な機会なので、内覧が行われるときには必ず室内を清掃しておきましょう。
購入を決めた買主から、値下げ交渉が入ることも多いです。
どのくらいの値下げ幅が可能なのか、事前に検討しておきましょう。
【STEP4】売買契約~引き渡し
買主と売買条件が一致したら、売買契約を締結します。
売買契約を締結する際に買主から手付金が支払われますが、この手付金は万が一契約解除となっても返済することはないものです。
売買契約から1~2か月程度で、決済および物件の引き渡しが行われます。
【STEP5】翌年の確定申告
不動産を売却して利益が出た場合には、翌年に確定申告をします。
不動産売却で得た利益は譲渡所得となり、その譲渡所得に所得税、住民税がかかってきます。
会社員で普段は確定申告をしない方も、不動産売却をした翌年はする必要があります。
親の家を売却するときにかかる費用・税金
不動産の売却価格は高額なため、それにかかる費用や税金もかさんでしまいます。
不動産売却にあたって比較的高額になる費用や税金について解説しますので、しっかり理解しておきましょう。
【費用】不動産会社に支払う仲介手数料
売却活動により買主を見つけて売買契約を成立させた不動産会社に、仲介手数料を支払います。
通常は売買契約と同時に仲介手数料を支払うことになっていますが、実際には決済および引き渡しが行われるまで時間があり、無事に引き渡しができるかどうか売主も不安です。
そのため、慣習的に売買契約時に50%、引き渡し時に50%を支払うこととなっています。
仲介手数料の金額は、売買金額によって決まっています。
売却価格が400万円超であれば、売却価格の3%+6万円となります。
別途消費税が発生します。
売買金額 | 仲介手数料 |
---|---|
(1) 200万円以下 | 取引額の5%まで |
(2) 200万円超から400万円以下 | 取引額の4%+2万円まで |
(3) 400万円超 | 取引額の3%+6万円まで |
【税金】売買契約書に貼付する印紙税
売買契約を締結するときに作成する売買契約書には、その売買金額によって納める税金分の印紙を貼付します。
この税金を印紙税といいます。
売買契約書は売主と買主の分の2通を作成し、それぞれに貼付する印紙税をそれぞれ自分達で負担します。
印紙税の金額は、売買金額によって決まっています。
売却価格が1000万円超5000万円以下であれば、10000円となります。
契約書に記載する売買金額 | 印紙税 |
---|---|
1万円未満 | 非課税 |
1万円以上10万円以下 | 200円 |
10万円超50万円以下 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 1,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 5,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 10,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 30,000円 |
1億円超5億円以下 | 60,000円 |
5億円超10億円以下 | 160,000円 |
10億円超50億円以下 | 320,000円 |
50億円超 | 480,000円 |
金額の記載なし | 200円 |
参考:国税庁
【税金】不動産の譲渡所得にかかる譲渡所得税
不動産を売却して利益が出ると、譲渡所得税という税金を支払うことになります。
不動産を売却して出た利益を譲渡所得といい、この譲渡所得に所得税と住民税がかかります。
この所得税と住民税のことを、譲渡所得税といいます。
譲渡所得とは、売却価格から不動産の取得費と譲渡時にかかった諸費用を引いたものです。
長年住んだ一般的な住宅を売却する場合は譲渡所得が出ないことが多いですが、居住年数が短期間だったり、住み始めた後に土地の価格が高騰したりした場合は、高額になることもあります。
譲渡所得税の税率は、不動産を所有していた期間が5年以下であれば短期譲渡所得、5年超であれば長期譲渡所得となり、それぞれ税率が異なります。
短期譲渡所得の場合、長期譲渡所得の約2倍となり税率が40%近くなるため、注意する必要があります。
所得税※ | 住民税 | 合計 | |
---|---|---|---|
短期譲渡所得の税率 | 30.63% | 9% | 39.63% |
長期譲渡所得の税率 | 15.32% | 5% | 20.32% |
※復興特別所得税率を含みます。
親の家を売却するときに使える税金の特例
親の家を売却するときにかかる譲渡所得税は、税率が高く支払いが高額になることもあります。
しかし譲渡所得税には特例があり、それを利用することで税額を抑えることができます。
主な特例を2つ紹介します。
マイホーム売却時に利用できる3,000万円特別控除の特例
親自身の名義のまま売却する場合、マイホームを売却したということで所有期間の長さに関係なく3,000万円特別控除の特例を使うことができ、この場合、譲渡所得から3,000万円を控除できます。
この特別控除を利用するには、下記の適用要件を満たす必要があります。
- 自分が住んでいる家屋の売却であること
- 住まなくなった日から3年を経過した日の年の12月31日までに売却すること
- 売った年の前年および前々年にこの特例や譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例の適用を受けていないこと
- 売った年または前年および前々年にマイホームの買い替えの特例を使用していないこと
- 買主が親子や夫婦など特別な関係でないこと
相続空き家売却の3,000万円の特別控除の特例
親から相続して自分名義になった不動産を売却する場合、親が亡くなるまでその家に住んでおり親の死後は空き家になる家であれば、相続空き家売却の3,000万円の特別控除を使うことができます。
その場合、譲渡所得から3,000万円を控除できます。
この特別控除を利用するには、下記の適用要件を満たす必要があります。
- 昭和56年5月31日以前に建築された建物であること
- 区分所有建物登記がされている建物でないこと
- 相続の開始の直前において亡くなった親以外に居住をしていた人がいなかったこと
- 相続又は遺贈により不動産を取得した人が売ること
- 相続から譲渡(売却)の時まで、事業、貸付け、居住に使用されていないこと
- 譲渡の時において一定の耐震基準を満たすものであること
- 相続の開始から3年を経過する日の年の12月31日までに売ること
- 売却代金が1億円以下であること
親の家を売却できないときの対処法
売却活動をしてもなかなか買い手がつかない場合があります。
そういったときに有効な対処方法を紹介します。
隣地の所有者に売却を打診する
売却活動を始める前に、隣地の所有者には売却を打診しておくとよいでしょう。
土地を最も有効に活用できるのは隣地の所有者です。
合筆で土地をひとまとめにしたり、子どもや親を近居させたり、色々な使い道があります。
家の内外装をリフォームして売却する
親が長年住んだ家であれば、内外装とも古くなっているために買い手がなかなかつかない場合があります。
そういったときには、家の内外装をリフォームして売却する方法があります。
ただしリフォーム費用がかさんでしまうと、売却金額に見合わなくなってしまうこともありますので、金額に気をつけて最低限のリフォームとする必要があります。
リフォームする箇所は、外壁、水回り設備、クロスや床の張替えなどです。
また、外周りのリフォームをすることで買い手の印象をよくすることもできます。
不動産業者に買い取りの依頼をする
売却を急ぎたい場合には、不動産業者に買い取ってもらうことも検討しましょう。
不動産業者は、買い取った家屋をリノベーションしたり、壊して新しく家を建てたりして再販します。
ただし、再販を前提にするため買取価格は通常の売却価格に比べて7割から9割程度になります。
金額が安くても早さを優先したい場合に有効です。
親名義の家を売却するときの注意点
親名義の家を売却する場合、自分で把握していないことも多いため、思わぬことで難航してしまう場合があります。
どんなことに注意するべきなのか、見ていきましょう。
土地の境界によるトラブルに注意
土地の境界は、通常の売買でもトラブルになりやすいものです。
親名義の家の場合、自分が住んでいるわけではないので、土地の境界について隣地の所有者とどういった経緯があるのかわかりません。
どこが境界線なのかが明確になっていないと、たとえば庭を作りたいというときに思わぬトラブルになる可能性があります。
売却後のトラブルを避けるためにも、売買活動に入る前に土地の境界確定測量をすることをおすすめします。
土地の境界確定測量は、土地家屋調査士が隣地の所有者と境界についての合意を得た上で土地を測量し測量図面を作成します。
かかる費用は、土地の面積や隣地の所有者の人数によって変わりますが、大体30万円から80万円程度です。
土地の境界を明確にしておくことで、思わぬトラブルを避けることができますので、ぜひ検討しましょう。
契約不適合責任による損害賠償に注意
不動産を売却した場合、売主には契約不適合責任があります。
これは、売却した不動産と売買契約書に記載された内容との間に食い違いがある場合、買主は売主に対して修理費用の負担、代物請求、損害賠償や契約解除を求めることができるというものです。
前述したように、親の家を売る場合は、自分が住んでいた家ではないためこういったトラブルが起こりがちです。
しっかりと家の状態を把握するとともに、保険料はかかりますが既存住宅売買瑕疵保険に加入しておくのもよい方法です。
まとめ
親の家を売却するのは、自分の所有している不動産を売却するのに比べると、手続きも多く大変なものです。
しかし、いずれどうにかしなければならないものであれば、できるだけ早く動いておくのにこしたことはありません。
親が住まなくなってから空き家のまま放置しておくと、税金の優遇が受けられなくなったり、空き家トラブルが起きたりすることもあります。
そして当然、家が古くなればなるほど売却価格も下がってしまいます。
売却することが決まっているなら、できるだけ早く準備を進めることをおすすめします。