農地売却時の税金に使える特別控除は?控除額や手続き方法・必要書類を解説
この記事でわかること
- 農地売却時にかかる税金の種類がわかる
- 農地売却時の譲渡所得税に使える特例を理解できる
- 農地の売却目的の違いがわかる
農地の売却を検討する際、やはり気になるのが税金ではないでしょうか。
農地売却時には、通常の土地売却時と同じように税金がかかります。
しかし、通常の土地売却時と農地売却時にかかる税金は、税金を安くするための特例が違います。
通常の土地売却と違い、農地を耕作目的で使いたい人に売るのか、農地を宅地などに転用したい人に売るのかによって、適用できる特例が変わってしまうのです。
また、農地売却時にかかる税金の特例を活用するためには、確定申告手続きをおこなわなければなりません。
そこで、この記事では農地売却時にかかる税金の種類、特例、確定申告の注意点などについて、詳しく解説します。
リタイアのため農地を売却したい方や、相続した農地の売却を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
農地売却時にかかる税金の種類
農地売却時には、一般の土地売却と同様の税金がかかります。
譲渡所得税、住民税、復興特別所得税、印紙税、登録免許税の5種類です。
農地売却時に掛かる税金の概要
税金の内容等 | 注意点など | |
---|---|---|
譲渡所得税 | 農地売却の利益に掛かる | 給与、事業所得とは分離 |
住民税 | 市町村・都道府県が課税 | 譲渡所得税とともに掛かる税金 |
復興特別所得税 | 所得税と併せて掛かる税金 | 納税義務者は個人 |
印紙税 | 一定の書面に掛かる国税 | 売買契約書、請負契約書などが対象 |
登録免許税 | 登記するときにかかる税金 | 通常、売買による移転登記の場合は買主が負担 |
農地売却時の譲渡所得税に使える特例
農地売却時に利益を得た場合、その利益を譲渡所得といいます。
譲渡所得に対して所得税がかかるので注意しましょう。
譲渡所得税の簡単な内容、節税になる特例を解説します。
譲渡所得税とは
譲渡所得税とは、農地を売って出た儲けに対してかかる税金です。
また、譲渡所得には住民税もかかります。
課税譲渡所得の計算方法は、通常の土地売却のときと同じく、次の算式によります。
収入金額(売却代金)-(取得費 + 譲渡費用)=課税譲渡所得
この課税譲渡所得に所得税や住民税の税率を乗じます。
農地の所有期間が5年を超える場合、長期譲渡所得となるので、次の計算となります。
課税譲渡所得 × 15%=税額(所得税)
課税譲渡所得 × 5%=税額(住民税)
農地の所有期間が5年以内の場合、短期譲渡所得となるので、次の計算となります。
課税譲渡所得 × 30%=税額(所得税)
課税譲渡所得 × 9%=税額(住民税)
なお、農地を相場以下で譲渡した場合、一定の割合の儲けが出たものとして課税されることがあるので、注意してください。
農地の譲渡所得の特例
課税譲渡所得からさらに控除できる額があれば課税譲渡所得が低くなり、所得税や住民税が安くなります。
課税譲渡所得から特別に控除できる特例を「特別控除」といいます。
収入金額(売却代金)-(取得費 + 譲渡費用)-特別控除=課税譲渡所得
農地の課税譲渡所得では、農地政策推進の観点などにより次の特例が認められています。
- ・800万円特別控除(農地保有の合理化などのために譲渡した場合)
- ・1,500万円特別控除(買入協議により農地中間管理機構に譲渡した場合)
- ・2,000万円特別控除(農業経営基盤強化促進法の農用地利用規程に基づき農地中間管理機構に譲渡した場合)
転用目的の譲渡の特例の控除額・手続き方法
公共事業の用地として転用する予定で、農地を土地収用法に基づき売却した場合は、収用交換の5,000万円特別控除が認められます。
収用交換の5,000万円特別控除は通常の土地売却でも、農地売却でも認められています。
農地の収用交換の5,000万円特別控除の条件
収用交換の5,000万円特別控除を受けるためには、次の要件を備える必要があります。
- ・売却対象が宅地や農地などの土地及び建物など、固定資産であること
- ・農地を売却した年に、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例を受けていないこと
- ・最初に買取り等の申出があった日から6か月を経過する日までに、農地の売却がおこなわれていること
- ・農地の譲渡人が最初に買取等の申し出を受けた者であること
ただし、当該農地を相続または遺贈により、その者より取得した人を含む
農地の収用交換の5,000万円特別控除の注意点
収用交換により農地を譲渡した人に過度に有利にならないよう、特例の適用には制限があります。
まず、同一公共事業において、2以上の年にまたがって資産を売るときは、注意しなければなりません。
たとえば、令和3年に公共事業のために農地を売却し、令和4年にも同一公共事業のために農地を売却する場合、農地の収用交換の5,000万円特別控除は、最初の年である令和3年の譲渡についてのみ受けることができます。
また、先述の通り、農地の収用交換の5,000万円特別控除は、収用等に伴い代替資産を取得した場合の課税の特例を重ねて適用を受けることはできません。
5,000万円特別控除の手続き方法
農地の譲渡所得が発生した場合に農地の収用交換の5,000万円特別控除を受けるためには、確定申告をおこなわなければなりません。
この5,000万円特別控除を受けるための確定申告書に添付しなければならない書面は次の通りです。
- ・収用証明書(公共事業の施行者等から発行される収用したことを証する書類)
- ・公共事業資産の買取り等の申出証明書
- ・公共事業資産の買取り等の証明書
これは、収用の事実や買取申出者など、農地の収用交換の5,000万円特別控除の適用要件を満たすか否か確認してもらうための重要な書面です。
農地利用目的の譲渡の特例の控除額・手続き方法
農地利用目的の譲渡では、農業経営基盤強化促進法の農用地利用集積計画等により譲渡した場合、買入協議により農地中間管理機構に譲渡した場合の特例などが認められます。
800万円特別控除の条件と注意点
800万円特別控除は、農用地区域内の農地の譲渡でなければ適用を受けられません。
また、次の譲渡である場合のみ適用を受けることができます。
- ・農業経営基盤強化促進法に基づく農用地利用集積計画、農業委員会のあっせん等により農用地区域内の農地を譲渡した場合であること
- ・農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合であること
また、次の場合には800万特別控除を受けられないため、注意しましょう。
- ・農地法の許可を受けずに農地を取得した者が、その農地について現実に耕作したことがない場合
- ・転用目的で農地を取得した者が、その農地を現実に耕作の用に供した事実がない場合
800万円特別控除の特例を受けるためには、確定申告をおこなわなければなりません。
確定申告する前に、まず、最寄りの税務署で農地保有の合理化などのために譲渡した場合に該当するかどうか尋ねる必要があります。
また特例の対象に該当する場合、必要書類についても最寄りの税務署に確認してください。
農地売却時の譲渡所得に特例を受けられるかどうかの判断は非常に難しいので、税務署や農地譲渡の特例に詳しい税理士に譲渡前に相談することをおすすめします。
1,500万円特別控除、2,000万円特別控除の条件と注意点
農地売却時に受けられる特例には、1,500万円特別控除と、2,000万円特別控除もあります。
1,500万円特別控除 | 農業経営基盤強化促進法に基づき市町村長が通知する農地中間管理機構との買入協議により農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合 |
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2,000万円特別控除 | 農業経営基盤強化促進法に基づく農用地利用規程に基づき農用地区域内の農地を農地中間管理機構に譲渡した場合 |
1,500万円特別控除と2,000万円特別控除の特例を受けるためには、800万円特別控除と同じく確定申告をおこなわなければなりません。
特例の対象に該当するか否か、必要書類については最寄りの税務署に確認しなければならないので注意しましょう。
農地に関する法律
最後に、農地売却にかかわる農地関連法について概要を解説します。
まず、農地関連法の中心は、農地法です。
農地法の目的は国内の自給自足を維持するために必要な農地を保護することです。
農地法では農地を保護するために、農地の売却や転用につき、許可制をとっています。
次に、農業経営基盤強化促進法という法律があります。
農業経営基盤強化促進法では、次の3つの措置を講じています。
- ・意欲ある農業者に対する農用地の利用集積
- ・これらの農業者の経営管理の合理化等の措置
- ・農地集積を促進するため、農地法の特例として主に利用権設定等促進事業を措置
次に、土地収用法です。
土地収用法は農地だけでなく宅地にも適用があります。
土地収用法の目的は、公共事業に必要な土地等の収用に伴う損失の補償です。
特に農業経営基盤強化促進法は、農地売却時の譲渡所得の特例適用要件に当たるかどうかの基準となる非常に重要な法律です。
農地売却時の所得税の特例は、厳格な農地保護のための法律も関連していることを理解しておくとよいでしょう。
また、土地収用法についても、財産権補償のための法律であることを知っていると、代替資産買い替えの際など、参考になります。
まとめ
農地売却時にかかる税金の種類、特例及び特例を活用するための手続きについて見てきました。
農地の売却は買い手を見つけるだけでも大変ですが、税金についても通常の土地売却と異なる注意点が沢山あります。
また、農地売却で注意すべきことの中で重要なのが、農地法による許可を得られるかどうかです。
農地法の許可がおりなければ、権利を移転できず代金を貰うこともできません。
地域によっては、農業振興のため特別な規制がかかっている農地もあります。
農地売却時にかかる税金、農地法の許可など行政機関との折衝など、農地を売却する時は専門的な知識がなければ対応が難しいかもしれません。
農地の売却を検討する際は、農地の税金に詳しい税理士、農地法の許可に知見のある行政書士に早めに相談することをおすすめします。
税理士、行政書士を自分で探すのが不安な方は、幅広い専門家と提携する不動産会社を訪ねてみるのがよいでしょう。
安心して農地を売却できるよう、情報を集めておきましょう。