根抵当権とは?抵当権との違いや設定するメリット・デメリットを解説
この記事でわかること
- 根抵当権について理解できる
- 根抵当権と抵当権の違いがわかる
- 根抵当権のメリット・デメリットがわかる
根抵当権という言葉を初めて聞く方も多いのではないでしょうか。
根抵当権とは「担保」の一種です。
担保と言えば最初に思いつくのは、抵当権だという方も多いでしょう。
根抵当権も抵当権と同様に、民法で定められている不動産担保の一つです。
ただ、根抵当権は抵当権にはない特徴があり、抵当権とは違う場面で活用されています。
根抵当権を含む「担保」制度は、不動産を売ったり買ったりするときや、お金を借りたりするときに非常に大切なルールです。
この記事では、担保制度の基本的な内容から根抵当権の特徴、根抵当権と抵当権の違い、根抵当権のメリット・デメリットまでわかりやすく解説します。
根抵当権がどのような場面で活用されるのかもご紹介しますので、銀行や保証会社から抵当権や根抵当権を設定するように言われた方は、参考にしてください。
目次
根抵当権とは?わかりやすく解説
根抵当権とは、債権を担保するための権利です。
担保とは「借りたお金を返さなかったり、代金を払わなかったりした人がいた場合に備える」権利であり、不動産など物で担保する場合と、人で担保する場合があります。
物で担保する制度
前述したように「担保」とは、万一債務者が期日までに約束通り弁済しない場合に備える制度のことです。
担保には根抵当権その他の「物的担保」と「人的担保」がありますが、人的担保の方がわかりやすいので、先に説明します。
人で担保する保証人
日常の生活の中で、友人や親戚、知り合いが「他人の借金の保証人になってしまった」ということを聞いたことがある方もいるのではないでしょうか。
「保証人」とは、「他人の借金を保証する人」のことで、「他人の借金を担保する人」とも言えます。
たとえば、Aさんが100万円を銀行から借りる際、Aさんは「必ず私が期日までに返します」と約束したとします。
しかし銀行からすれば「単なる約束」では安心できません。
一般的には契約書を作成すれば安心と思ってしまいがちです。
しかし、たとえ銀行とAさんがお金の貸し借りについて契約書を作成したとしても、契約書はあくまでも「証拠」にしかすぎません。
契約書がAさんの借金を確実に回収する手段ではないということです。
そこで銀行はAさんと関わりが深いBさんと保証契約をかわすことで回収を図ろうとします。
保証契約とは、Aさんが万一お金を期日までに返さない場合にそなえて、BさんにAさんの借金につき保証人になってもらうという契約です。
実際にAさんが債務不履行(お金を約束通りに返さない)に陥ったら、銀行は保証人Bさんに弁済(お金を返すこと)を求めることができます。
物で担保する根抵当権
保証人という制度で考えればわかるとおり、お金を貸す側にとっても担保を備えていなければ安心してお金を貸すことができません。
貸す金額によっては、人的保証(保証人)では不足かもしれません。
保証人にふさわしい人がみつからないケースもあります。
そこで必要になるのが、物的担保です。
物的担保には、根抵当権の他にも抵当権、質権などがありますが、特に重要なのが根抵当権と抵当権です。
根抵当権と抵当権は、不動産にしか設定することができない担保で、不動産投資や住宅ローンでの債務を担保する制度として活用されています。
根抵当権と抵当権は借金をした人の不動産に設定することもあれば、他人の不動産に設定することもあります。
根抵当権と抵当権の違い
抵当権 | 根抵当権 | |
---|---|---|
借入額 | 決まっている | 極度額の範囲内 (極度額範囲内なら何度でも借りられる) |
債権の特定 | 特定されている | 一定範囲であるが、特定されていない |
債権の移転 | 債務者の承諾は要らない | 債務者の承諾が必要となる |
連帯責任 | 必要なことが多く、認められる | 債務の額が上下するので、基本的に認められない |
付従性 | あり | なし |
随伴性 | あり | なし |
根抵当権と似た担保に、抵当権があります。
根抵当権は抵当権の1種ですが、共通点と違う点を見ていきます。
根抵当権と抵当権の共通点
根抵当権も抵当権も、債権を担保するための権利です。
つまり、根抵当権も抵当権も債権者を保護するための権利だと理解するとよいでしょう。
また根抵当権と抵当権は、不動産にしか設定することはできません。
車、指輪などどんなに高価なものであっても、根抵当権と抵当権を設定することはできないということです。
なお、根抵当権と抵当権を地上権に設定することはできます。
地上権とは「建物所有等の目的で、他人の土地を使う権利」と考えておきましょう。
根抵当権と抵当権の共通点は以下のとおりです。
- 担保物権である
- 不動産が目的物
- 登記が対抗要件である
- 優先弁済権を有する
根抵当権と抵当権で担保する債権が弁済されないときは、根抵当権者や抵当権者は設定した不動産を競売することができるというのが、債権者のメリットです。
そして、根抵当権と抵当権の最大の特徴は、目的不動産の競売代金から優先して、弁済を受けることができることでしょう。
「優先」とは、他の債権者に対して優先するという意味です。
たとえば、甲土地に、A銀行が根抵当権や抵当権を設定して登記(順位1番)をしていたとします。
その後、順位2番でB銀行が根抵当権と抵当権を設定することができます。
ただし、甲土地が競売されたとき、甲土地の競売代金から優先して弁済を受けることができるのは、A銀行となります。
B銀行はA銀行が受けた弁済額を控除した額しか、弁済を受けることができません。
これが根抵当権と抵当権の「優先弁済権」です。
将来発生する債権を何度も担保するためには?
根抵当権と抵当権の最大の違いは、将来発生する債権を担保できるかどうかです。
たとえば抵当権では、令和3年7月21日に発生した債権を担保することができます。
抵当権で担保する債権はあらかじめ特定しなければなりません。
しかし、未来である令和4年7月21日に発生するかもしれない債権を想定して抵当権を設定することはできません。
これは、抵当権の被担保債権の特定性がないためです。
また、令和3年中に何度も債権が発生する債権を担保することを想定して、抵当権を設定することはできません。
一方、根抵当権は将来発生する複数の債権を担保することを想定して設定することができます。
なお、抵当権で担保される債権は、特定性があるため、債権額もはっきりしています。
これに対して、根抵当権は将来に発生する複数の債権を想定しているので、債権額はまだ明確でなく、「極度額」という担保限度額が決められます。
付従性と随伴性の有無
少し難しい話ですが、担保物権の性質に付従性と随伴性というものがあります。
付従性とは、担保されている債権が消滅したら担保権も消滅するという性質です。
随伴性とは、担保されている債権を売却すると、担保権も新しい債権者に移転するという性質です。
抵当権には付従性と随伴性がありますが根抵当権には認められていません。
根抵当権で担保する債権の1つが弁済されたとしても、根抵当権は存続するということを理解しておきましょう。
根抵当権が設定されるケース
次に、根抵当権が設定されるケースを見ていきます。
たとえば機械を作るメーカーが、機械の部品会社から部品を継続的に仕入れているケースで考えてみましょう。
機械メーカーは、日常的に複数回部品供給会社と取引しています。
1回の取引額が1,000万円のこともあれば、2,000万円のこともあるでしょう。
また、1年間で何回も仕入れているとします。
代金の支払いは1回ごとではなく、一定の回数の取引の都度となっています。
そうすると、部品供給会社の機械メーカーに対する売掛金は複数回たまっていき、売掛金総額は時期により変動します。
このように、継続的に行われる一定の範囲の取引により発生する債権(この例なら部品の売掛金)を担保するために適しているのが根抵当権です。
このケースであれば部品供給会社は、機械メーカーに対する売掛金を担保してもらうため、機械メーカー所有のビルや土地に根抵当権を設定することができます。
機械メーカーの社長が所有する不動産に、この売掛金を担保する根抵当権を設定してもらうこともできます。
なお、他人の借金担保のため所有不動産に根抵当権を設定する人を「物上保証人」といいます。
「物で保証する」ため、このように呼ばれているのです。
根抵当権のメリット
根抵当権のメリットは、なんといっても複数回の取引に備えて設定することができることでしょう。
また、様々な債権を担保することができる点も、根抵当権のメリットです。
将来の取引を担保
前述したように、根抵当権は将来に発生する複数回の取引による債権を担保することができます。
たとえば、不動産投資家が1つの物件だけでなく、複数の物件に次々に投資しようとする場合に、その投資家の所有する不動産に根抵当権を設定するケースが典型例です。
短期に2棟目、3棟目と投資していくとき、投資家所有の不動産にいちいち抵当権を設定していたのでは事務手続きが面倒です。
前述のように抵当権設定の前提は、銀行等から借入れた額に対して、1回1回担保を設定する契約をしなければなりません。
この点、最初に投資家が銀行とお金の貸し借りについて根抵当権設定契約を締結していれば、極度額の範囲なら、追加で借入れた借金も一括で担保します。
つまり「将来」に備えて担保を設定することができるということです。
投資額がわからない時も便利
不動産投資家にとって、1棟か2棟を仕入れた段階では将来の不動産投資の額や回数がはっきりしないことも多いでしょう。
そんなケースにも根抵当権は向いています。
なお、根抵当権の対象は不動産1つとは限りません。
複数の不動産に設定したり、後から根抵当権の対象を追加したりすることもできます。
根抵当権のデメリット
最後に、根抵当権のデメリットを見ておきましょう。
根抵当権には他銀行の融資が難しくなるなどのデメリットがあります。
他銀行の貸付を受けにくくなる
根抵当権の最大のデメリットは、極度額が大きくなるケースが多いことです。
極度額が大きくなると、他の銀行からの借り入れが難しくなることもあります。
銀行は、複数回の貸し出しを想定して根抵当権を設定することが多いでしょう。
たとえば、不動産投資の為に借り入れを予定する人が根抵当権を設定する場合、その投資エリアによっては何十億という極度額となることも少なくありません。
大きな額の極度額が設定された根抵当権が登記されている不動産は、他の金融機関が担保評価する際はその価値が下がるのです。
たとえば時価5億円の不動産に、A銀行の為に第1順位で極度額が5億円の根抵当権が設定されたとしましょう。
実際にA銀行と債務者の間で発生した借入れ額は、2億円だとします。
しかし、登記簿を見る人には実際の借入額はわかりません。
つまり、その不動産の担保価値が3億残っているということは他の銀行にはわからないということです。
たとえA銀行以外の銀行が融資の判断をする際に、すでに設定された根抵当権で担保される債権が2憶にとどまっていたとしても、担保価値は上がりません。
「極度額5億円」という根抵当権が設定されている以上、A銀行以外の銀行はこの後も5億までは、A銀行による貸し付けがおこなわれるかもしれないと判断します。
担保価値が残らない不動産を担保にして、新たな貸し付けを行う銀行はないでしょう。
根抵当権付きの物件は売れない
通常、不動産を売却する際は、銀行に根抵当権や抵当権を抹消してもらってから買主に権利を移転します。
理論的には、根抵当権や抵当権がついたままの不動産を売却し、買主に所有権を移転することは可能です。
しかし一般的には、根抵当権や抵当権がついたままの不動産を買う人は多くありません。
万が一借金をした人が弁済しない場合は、根抵当権や抵当権を実行されて、裁判所の競売にかけられてしまうからです。
せっかくお金を出して買った不動産を競売にかけられて失うかもしれないリスクを負う人は少ないでしょう。
そこで実務的には、不動産の代金を借金返済に充てて根抵当権や抵当権を抹消してもらいます。
抵当権の場合は債権額が明確であり、また額も高くないことも多いので抹消しやすいでしょう。
しかし根抵当権の場合は、事前に債権額を確定することが難しかったり、根抵当権で担保する額が高かったりします。
そうすると、買主から売主が貰う代金額では、根抵当権で担保する額を弁済できないこともあり、根抵当権抹消が難しいケースもあります。
根抵当権抹消ができなければ、前述の通り、根抵当権付き不動産を買う人も出てきません。
根抵当権のデメリットは、以下の2点であることを理解したうえで、銀行との取引に臨みましょう。
- ・他の銀行の貸付を受けられないことがある
- ・不動産を売却しづらくなることがある
根抵当権でなく抵当権の方がよいのではないかと思ったら、しっかりと銀行の担当者と話しあってください。
まとめ
根抵当権とは何か、根抵当権と抵当権の違いや、根抵当権を設定するメリット・デメリットを詳しく解説してきました。
その中で解説したとおり、一般的には根抵当権は商売や投資を行っている人や、会社が所有する不動産に設定します。
通常の住宅ローン借り入れでは抵当権を設定しますので、根抵当権の性質を心配する必要はありません。
商売や投資のため根抵当権を設定する方は、抵当権との違いやメリット・デメリットを理解したうえで利用するとよいでしょう。
特に、なぜ抵当権ではいけないのかについては銀行の担当者に聞いてみることも必要です。
根抵当権は便利な担保ですが、リスクも大きい制度です。
上手に根抵当権を利用してください。