マイホーム売却で損したときに使える譲渡損失控除の特例とは?計算例や適用要件まとめ
この記事でわかること
- マイホームを売って損失が出たときに使える特例がわかる
- マイホームの譲渡損失控除の特例が使える条件がわかる
- 特例が使えなくなる適用除外の内容がわかる
- マイホームの譲渡損失を減らせる5つの方法がわかる
念願叶って購入したマイホームでも、建物や周辺環境に何らかの不満があったり、老後生活に適した住まいへ移るために売却する方は珍しくありません。
新型コロナウイルスの影響など、収入悪化で住宅ローンが返済不能になるケースもあり、賃貸への切り替えや、実家へのUターンを考えている方もおられるでしょう。
ただし、マイホームの売却では譲渡損失が出る場合もあるので、赤字分のカバーもしっかり考えておきたいところです。
マイホームの売却で損失が出た場合には税制上の特例があり、売却した年の合計所得から赤字分を相殺できるため、所得税などの税負担を軽減できます。
マイホームの売却で利用できる特例は「買い替えたときだけ」と認識されているケースが多いため、売却のみで使える特例もぜひ知っておいてください。
今回は、マイホームの売却で譲渡損失が出た場合に使える損益通算や、繰越控除の特例をわかりやすく解説します。
目次
マイホームを売って損をしたときに使える特例は2種類
不動産の売却で得たお金は譲渡所得になりますが、取得費と諸経費を差し引いた額がマイナスであれば譲渡損失になります。
譲渡損失が出た場合は、売却パターンに応じて2つの特例が使えるため、所得税や住民税を控除してもらえるようになります。
- (1) 特定のマイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
- (2) マイホームを買い替えた場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
2つの特例の共通点は損益通算と繰越控除ですが、損益通算とは、譲渡損失が出た年について、その他の所得と譲渡損失を相殺できる仕組みです。
また、譲渡損失が大きく1年で相殺し切れない場合は、売却年の翌年から3年間の繰越控除も可能なので所得税や住民税は大幅に軽減されるでしょう。
今回は譲渡のみの場合の特例を解説しますので、適用条件などを参考にしてください。
譲渡損失控除の特例の適用要件
マイホームの譲渡損失控除の特例を使う場合、以下の要件を満たす必要があります。
- (1)現在住んでいるマイホームの売却であること
- (2)空き家の場合は住まなくなってから3年後の12月31日までに売却すること
- (3)マイホームの所有期間が売却した年の1月1日時点で5年以上あること
- (4)家屋を解体した場合、解体日から1年以内に譲渡契約が締結されていること
- (5)家屋の解体から譲渡契約の締結日まで貸駐車場などの用途に使っていないこと
- (6)特別な間柄の者への譲渡ではないこと(親子、夫婦などの親族)
- (7)売買契約の前日の時点で返済期間10年以上の住宅ローンがあること
- (8)マイホームの売却額が住宅ローン残高を下回っていること
- (9)2021年(令和3)年12月31日までに売却すること
- (10)確定申告を行っていること(複数年にわたり損益通算する場合は年度ごとに申告が必要)
譲渡損失控除の特例が利用できないケース
マイホームの譲渡損失控除には、適用除外として以下の項目が定められています。
- (1)損益通算する年の前年以前3年以内に、他の特定居住用財産の譲渡損失について損益通算の特例の適用を受けている場合
- (2)譲渡した年の前年または前々年に行った資産の譲渡について次の特例の適用を受けている場合
- ・居住用財産を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例
- ・居住用財産の譲渡所得の3,000万円の特別控除
- ・特定の居住用財産を買い替えた場合の長期譲渡所得の課税の特例
- ・特定の居住用財産を交換した場合の長期譲渡所得の課税の特例
- (3)譲渡した年またはその年の前年以前3年以内に、居住用財産の買換え等の場合の譲渡損失の損益通算の特例を利用している場合
すでに上記の特例を使っていないか、売却前にきちんと確認しておきましょう。
マイホームを売るときの損失を減らす方法5つ
譲渡損失が出た場合には損益通算や繰越控除を使えますが、できれば損失を減らし、少しでも有利に売却したいところです。
マイホームの売却には様々な諸経費もかかるため、不動産会社や契約形態の選び方も重要になるでしょう。
ではさっそく、譲渡損失を減らすために有効な5つの方法を紹介します。
売却額の見積もりは複数の不動産会社に依頼する
マイホームなどの不動産は業者によって査定額が変わるため、1社だけで判断せず、複数の不動産会社から相見積もりを取るようにしてください。
全国展開の不動産会社が有利な場合もありますが、地場の業者が高値を付けてくれることもあるので、最低でも3社分の見積もりは必要です。
納得できる査定額かどうか、算出根拠を聞いておくのもよいでしょう。
不動産会社へ出向く時間がない場合は、インターネットの一括査定も利用してみてください。
複数の不動産会社から連絡があるため、わずらわしく感じる面もありますが、連絡があったということは売れる見込みがあると判断できます。
査定額以外にも、各社の対応を比較する材料になるでしょう。
媒介契約の種類は慎重に検討する
マイホームの売却は不動産会社の仲介が一般的であり、契約には一般媒介契約と専任媒介契約の2種類があります。
立地条件などがよければ一般媒介契約で問題なく、高値がつく場合もありますが、接道状況が悪いなど、不利な要素がある場合は専任媒介契約も検討してください。
専任媒介契約は不動産会社が広告活動に専念しやすいため、一般媒介契約では売れ残りそうな物件でも早期売却できる可能性があります。
売れ残り物件は買い手側からみても印象がよくないため、高く売ることと同時に早めに売れることも考えておきましょう。
先に買い手を見つけて不動産会社へ仲介を依頼する
すでに買い手が見つかっている場合、不動産会社に広告費用が発生せず、契約書の作成など事務費用のみで売却が可能になります。
マイホームを売却する際には友人・知人などに声をかけておき、中古住宅の購入を検討している人がいないか探ってもらうのもよいでしょう。
ただし、新聞折り込みやポスティングなど、自分で広告宣伝を行うと効率が悪く、業者に依頼するより高額になる可能性が高いので注意してください。
内覧対策用にマイホーム状態をよくしておく
不動産会社の広告活動により購入希望者が見つかると、内覧または内見という見学が行われます。
ここで印象を悪くすると買い手が離れていくため、マイホームの状態は常に良好を保つようにしてください。
建物の外装に傷みがあれば補修が必要ですし、内部にも不要なものは置かない方がよいでしょう。
また雑草が伸び放題の庭も印象を悪くするので、小まめに草むしりもしてください。
賃貸マンションなどに引っ越した場合は管理も手薄になりますが、荒れた状態を放置するとゴミの不法投棄も誘発しかねません。
「売り物」であることを意識して、定期的なチェックを欠かさないようにしましょう。
マイホーム売却にかかる諸経費の相場を把握する
譲渡損失を減らせる有効策ではありませんが、まず不動産売却にかかる経費の種類と、大まかな総額を把握しておくとよいでしょう。
主な経費には以下のようなものがあり、一戸建ての場合は売却価格の4~6%、マンションでは3.5%程度の経費がかかるといわれています。
- ・仲介手数料
- ・印紙税
- ・抵当権抹消費用
- ・ローン返済手数料
- ・譲渡所得税および住民税
仲介手数料は不動産会社との交渉で安くなる可能性もありますが、広告活動に影響するため得策にならない場合もあります。
登記関係の費用もそれほど高くないので、司法書士との交渉で安くなっても、圧縮効果はほとんど感じないでしょう。
なお、隣地との境界が不明な場合は調査や測量が必要になるため、土地家屋調査士への支払いが発生することもあります。
まとめ
マイホームの売却や買い替えには優遇税制が使えるため、譲渡損失が出たとしても金銭ダメージは少なくなる可能性があります。
国としても不動産取引を活性化させる方針を打ち出しているため、有利な制度は積極的に使っていくべきでしょう。
ただし、ネックになるのが適用条件の複雑さであり、不慣れな人でも確定申告を行わなければならないことです。
適用条件の判断を誤ると納税額に大きく影響しますし、源泉徴収しか経験のない方であれば、確定申告書の作成はかなり重荷になるでしょう。
特例が確実に使えるかどうかの判断も含め、不安がある場合は必ず税理士へ相談するようにしてください。