教えて!不動産一括借り上げのメリット・デメリット
目次
相続税対策として遊んでいる土地にアパートを建てる、不動産投資の一環としてワンルームマンションを購入するなどなど、賃貸マンションやアパート経営をはじめる動機はさまざまです。
それでも、賃貸物件の管理は何かと煩わしいことが多く、とくに自宅と賃貸物件が離れている、あるいはサラリーマン大家や家業で忙しい自営業となると尚更です。
マーケティング活動も、やらなければなりません。
入居者を集めるために駅前の不動産屋に相談して仲介してもらったり、家賃の設定をあれこれ考えあぐねます。
問い合わせがあるだけでぬか喜びし、断られて落胆したりと気が休まる暇もありません。
そんな賃貸物件の運営・管理を一手に引き受けてくれるのが、不動産一括借り上げです。
しかも、空き室状況にかかわらず一定金額を家賃として保証してくれます。
面倒は一切任せて家賃で稼げるのですから、こんなにおいしい話はなさそうです。
でもちょっと待ってください、どこかに落とし穴はないのでしょうか?この記事では、不動産一括借り上げのメリット・デメリットについて解説します。
不動産一括借り上げとは何か
不動産一括借り上げとは、賃貸マンションやアパートなどの賃貸物件を不動産会社が一括して借り上げる取引契約でマスターリースとも呼ばれます。
借り上げた不動産会社は、毎年一定額を賃料として賃貸物件所有者に支払います。
その上で不動産会社は、借り上げた部屋に入居者を集めまた貸しします、これがサブリースです。
マスターリースとサブリースは表裏一体の取引契約ですが、一般的にはこれをまとめてサブリースと呼びます。
不動産一括借り上げのメリット
アパート・賃貸マンションの面倒な維持管理から手が離れる
昔から、大家は決して楽な仕事ではありませんでした。
とくに、家賃徴収は今では振り込みに代わっていますが、滞納者への督促は厄介な仕事です。
アメリカでは家賃滞納者に対し一定期間の警告後に強制退去(ロックアウト)させることができます。(アメリカ映画でも出かけている間に荷物が外に出され鍵も替えられているシーンがよく登場します)
しかし、借地借家法により入居者の権利が守られている日本ではそんなことは認められません。
それ以外にも入居者が転出するときの対応(室内クリーニング・敷金の清算・室内の傷み確認と入居者との交渉)、更新契約手続き、長期的なリフォームプラン、ガス・電気・水道設備の点検計画、共有設備の定期的な清掃、さらには計画的な資金繰りなど、やるべきことは山ほどあります。
さらに、近隣同士のトラブルへの対応(とくに騒音)や各種契約、規約違反への対応(ペットの飼育やゴミ出しルールなど)なども大切な仕事です。
これらに対し手を抜けば、建物や付帯設備の劣化、環境の悪化(ごみ・異臭)、コミュニティの崩壊(ルールの形骸化)を招き、賃貸物件の価値が低下してしまいます。
それでも大家さんがそのアパート内あるいは隣家に住んでいる昔ながらの形態なら、目も行き届くでしょうが、今では少数派です。
離れた所に住みながら、別に仕事を持ちつつ、賃貸物件をきめ細かく管理することはもはや不可能です。
不動産一括借り上げの場合、こうした面倒な賃貸物件の管理一切を、プロフェッショナルである不動産会社が請け負ってくれるから安心です。
入居者や家賃に関係なく一定額を補償
不動産一括借り上げのもう1つのメリットは、安定した家賃収入で、柱となるのは「家賃保証」と「空き室保証」です。
家賃保証は、入居者から受け取る家賃水準にかかわらず一定額をオーナーに支払う契約形態です。
空き室保証は、一定の保証空き室率(通常は10~15%)を設定、実際の空き室率が上回ってもオーナーには一定の賃料を保証する契約です。
この2本柱により、オーナーは毎月一定額を不動産会社から受け取ることができます。
もちろん、家賃滞納とも無縁です。
賃貸経営は、常にリスクと背中合わせです。
より利便性の高い場所に競争相手のマンションが現れた、近くにあった大企業の工場が閉鎖になり入居者が減ってしまったなど、いくら手を打っても入居者が集まらないなどさまざまな要因で家賃が確保できない、場合によっては、赤字に陥りローンを返済できない事態も起こりえます。
不動産一括借り上げは、こうしたオーナーさんが抱える不安を解消してくれるのです
確定申告も簡素化できる
賃貸経営で厄介なのは、確定申告です。
日々のこまごまとした出費や家賃収入を会計帳簿につけ、税務上のルールを確認しながら期限(3月15日)までに申告しなければいけません。
一括借り上げなら、不動産会社との取引のみ記帳すればよく、経理処理は一気に簡素化します。不動産会社によっては、確定申告作成のサポートを請け負うところもあります。
不動産一括借り上げのデメリット
では次に、デメリットについて解説します。
一定期間が経過すると賃料が減額されるリスク
不動産一括借り上げ契約の賃料月額は、契約期間中(通常20~30年)ずっと一定なわけではありません。
賃料月額は2~10年のサイクルで見直され、その時点の家賃相場や空き室状況が反映されます。そして、ほとんどの場合で減額されます。
通常の賃貸物件は、新築した時が最も人気が集まり、やがて建物が古くなり競合物件が現れるにつれて徐々に人気が落ちてきます。
空き室も目立ち出し、募集に当たって家賃を下げざるを得なくなってきます。
不動産会社は、賃料改定時にこうしたリスク一切をオーナーサイドに転嫁しようとします。
高い賃料がずっと続くことを前提に建築費用のローンを組んだものの、資金計画が破綻してアパートを手放すはめになったオーナーも少なくありません。
契約解除されるリスク
ひどいケースになると、賃料切り下げに応じないオーナーに対して契約解除の強硬手段に訴え、入居者全員を自社物件に転居させる不動産会社も少なくありません。
「終了プロジェクト」と称して、会社ぐるみで契約解除を推進する業者の存在も、国民生活センターではレポートされています。
「そんな乱暴な行為はその辺のゴロツキ企業がやることで、CMに出ているような企業なら安心」と思いますか? これは中小不動産会社の話ではなく、れっきとした上場企業がやっているのです。
見通しが甘いオーナーが悪いのか
では、「こうした賃料減額や契約解除のリスクを見通せなかったオーナーにも責任がある」そう言い切れるでしょうか。
不動産会社の多くは、一括借り上げ契約時に不利益条項をきちんと説明していません(2016年の法改正により説明義務が課されましたが、現実には豆粒のように細かい字の重要項目説明事項を棒読みしていくだけなのでリスク説明の体をなしていません)。
「アパートを建てて安定した収入を確保しませんか?リスクは保証しますし、管理も私どもが請け負います」多くの不動産会社は、こうした営業話法で不動産一括借り上げを売り込んでいたようです。
まとめ
一括借り上げを推し進める、不動産会社の真の目的は更地にアパート・マンションを建てさせることです。
その時点で数千万円から億単位の利益を確保できてしまえば、利幅の薄い一括借り上げが途中で破綻してもトータルとしては充分プラスです。
賃貸経営をもし考えるなら、安易に業者を信用するのではなく、一括借り上げの内幕を理解したうえで主体的に判断することをお勧めします。