相続不動産の売却にかかる税金と諸経費のシミュレーション
この記事でわかること
- 相続した不動産の売却にかかる税金と経費がわかる
- 相続した不動産を売却した場合の税金のおおよその額がわかる
- 相続不動産を売却する適切なタイミングがわかる
不動産の相続では、相続税が気になる方も多いのではないでしょうか?
しかし、相続した不動産を売却する場合、相続税以外にも税金がかかることがあります。
特に、譲渡所得にかかる所得税と住民税は高額になることもあるので注意しなければなりません。
そこで、相続税に加えて、相続した不動産の売却にかかる税金や経費、税金の計算方法など解説します。
目次
相続した土地の売却にかかる税金と経費の種類
相続した土地を売却する際、相続税支払いが終わっているか、相続登記が終わっているかにより、かかる税金が違います。
相続関連の手続きが終わっていない場合と、終わっている場合に分けて確認しましょう。
相続関連の手続きが終わっていない場合
非課税でないかぎり、相続税を支払う必要があります。
相続税の税率は以下の通りです。
相続税の税率
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 税額控除 |
---|---|---|
1,000万円以下 | 10% | - |
3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
1億円以下 | 30% | 700万円 |
2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
引用:国税庁ホームページ「相続税の税率」https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4155.htm
また、相続登記が終わっていなければ相続した不動産を売却できないので、相続登記をしなければなりません。
相続を原因とする登録免許税は、原則として、不動産の固定資産課税台帳の登録価格に0.4%を乗じた額です。
所得税と住民税
相続税を払えば、相続した不動産を売るときは税金や経費はかからないのでしょうか?
残念ながら、自分が買った土地を売却する場合と同じく、税金や経費がかかります。
印紙税、登録免許税、仲介手数料、司法書士報酬、仲介手数料や司法書士報酬にかかる消費税、譲渡所得税と住民税などです。
このなかで特に注意しなければならないのは、所得税と住民税です。
土地を売って譲渡所得が出た場合、取得費などを差し引いた譲渡所得に、所得税と住民税、復興特別所得税が課税されるためです。
土地を売って得た利益を譲渡所得といい、譲渡所得に対する所得税と住民税の税率は、所有期間により異なります。
税率
区分 | 所得税 | 住民税 |
---|---|---|
長期譲渡所得(所有期間が5年以下の場合) | 15% | 5% |
短期譲渡所得(所有期間が5年を超える場合) | 30% | 9% |
この所有期間は、家を売った年の1月1日現在が基準である点に注意しましょう。
引用:国税庁ホームページ「土地や建物を売ったとき」https://www.nta.go.jp/publication/pamph/koho/kurashi/html/05_2.htm
その他の税金:
相続した土地を譲渡して利益が出たら、所得税と住民税がかかることがわかりました。
ほかにも土地の譲渡には、税金がかかります。
印紙税 | 売買契約書など文書に課税される税金 |
登録免許税 | 登記、登録の際に課税される税金 |
消費税 | 司法書士報酬、仲介手数料にかかる消費税 |
相続した土地の売却にかかる経費
税金の用語で「譲渡費用」と呼ばれている費用があります。
簡単な言葉に置き換えれば「経費」をイメージすると良いでしょう。
この譲渡費用は、譲渡所得から控除できますが、売るために直接かかった費用しか認められません。
譲渡費用として認められる費用の例は、次の費用があります。
- ・土地や建物を売るために支払った仲介手数料
- ・印紙税(売主が負担したもの)
- ・土地を売るためにその上の建物を取り壊したときの取壊し費用
修繕費や固定資産税、売った代金の取立てのための費用は譲渡費用と認められないので、注意しましょう。
相続不動産を売却した場合の税金の計算式
実際に、相続した不動産を売却した場合の税金を計算してみましょう。
大きな額となる譲渡所得にかかる所得税と住民税、その他の税金に分けて考えます。
譲渡所得にかかる所得税と住民税
まず、譲渡所得にかかる所得税と住民税について、次の具体例で考えます。
- ・譲渡価格が5,000万円(収入金額)
- ・相続した不動産の取得費が1,500万円
- ・譲渡費用が200万円
- ・所有期間は譲渡した年の1月1日現在で6年(長期譲渡所得)
ケース1 相続した空き家の譲渡の特例が無い場合
まず、特別控除など特例が適用されないケースで考えてみましょう。
上記の例の場合、以下の式により課税譲渡所得金額を算出します。
5,000万円(収入金額)-(1,500万円(取得費)+200万円(譲渡費用))=3,300万円(課税譲渡所得金額)
この3,300万円(課税譲渡所得金額)に税率を乗じると所得税と住民税、復興特別所得税を算出することができます。
3,300万円(課税譲渡所得金額)×長期譲渡所得の税率15%=495万円(所得税)
3,300万円(課税譲渡所得金額)×住民税の税率5%=165万円(住民税)
3,300万円(課税譲渡所得金額)×復興特別所得税の税率2.1%=69万3,000円(復興特別所得税)
495万円(所得税)+165万円(住民税)+69万3,000円(復興特別所得税)=729万3,000円(主な税金の合計額)
5,000万円(相続した土地の売却代金)-200万円(譲渡費用)-729万3,000円(主な税金の合計額)=4,070万7,000円(手取り)
相続した土地を売却した代金5,000万円を受け取っても、譲渡費用と主な税金(所得税、住民税、復興特別所得税)を全て差し引くと、手取りは約4,000万円になってしまいます。
ケース2 相続した空き家の譲渡の特例を受けられる場合
次に、上記の例で、相続した空き家の譲渡の特例により3,000万円の控除を受けられるケースで考えてみましょう。
5,000万円(収入金額)-(1,500万円(取得費)+200万円(譲渡費用))-3,000万円(相続した空き家の譲渡の特例による控除)=300万円(課税譲渡所得金額)
このように、相続した空き家の譲渡の特例の適用を受けることができれば、課税譲渡所得金額が3,000万円も低くなり、
(所得税)45万円+(住民税)15万円+(復興特別所得税)6万3,000円=66万3,000円(主な税金の合計額)
となります。
ケース1とケース2を比べると、約660万円も税金が安くなり、手取り額は約4,700万円となります。
その他の特例
相続した空き家の譲渡の特例以外で、節税につながる主な特例は、以下のものがあります。
- ・取得費加算の特例(相続不動産を相続開始日から3年10カ月以内に譲渡した場合、相続税額のうち一定金額を取得費に加算できる)
- ・居住用財産譲渡の特例(相続人の居住用財産である場合の特例)
- ・居住用財産譲渡の軽減税率(所有期間10年を超える居住用財産を譲渡した場合の軽減税率)
ただし、ここでご紹介した税金を安く抑えるための特例を受けるためには、細かい条件に該当しなければなりません。
特例を受けられるかどうかはケースバイケースなので、注意しましょう。
その他の税金
相続した不動産を譲渡した場合の主な税金について見てきましたが、印紙税と登録免許税、消費税について簡単に確認しておきましょう。
まず印紙税ですが、売買契約書記載の売買代金を基準として税額が定められています。
売買代金が5,000万円と記載されている売買契約書記載であれば、2万円の印紙税が課税されます。
売主が負担する登録免許税は、住所変更登記は不動産1つにつき1,000円、抵当権抹消登記は抵当権1つにつき1,000円です。
仲介手数料にかかる消費税は、課税事業者であれば仲介手数料額の10%、免税事業者であれば4%です。
2,000万円の土地を相続した際の税金シミュレーション
相続した不動産の売却時にかかる税金の計算方法を見てきましたが、相続税についてもシミュレーションしておきましょう。
まず、土地を相続した際の相続税を計算します。
次の事例で考えましょう。
- ・相続財産は2,000万円の土地のみ(死亡保険金無し)
- ・相続人は妻と子1人
- ・課税価格の合計額は2,000万円とする
- ・相続は令和2年に発生
- ・債務など他の条件は無いものとする
相続税の計算は非常に細かい算式に従いますが、ここでは簡単に速算します。
(合計課税価格)2,000万円-(基礎控除額)4,200万円=課税遺産総額=0(相続税非課税)
このように、基礎控除額の範囲内であれば、相続税は課税されません。
基礎控除額は、3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数です。
法定相続人には養子も含まれますが、基礎控除の対象となる養子の人数には制限がありますので注意してください。
また、相続放棄をした者も、放棄をしなかったものとして法定相続人の人数を確定します。
5,000万円の一戸建てを相続した際の税金シミュレーション
相続税が非課税の場合で計算しましたが、今度は、同じ事例で5,000万円の一戸建てを相続した場合はどうなるのでしょうか?
相続税率は相続財産の額に左右される
次の事例で考えましょう。
- ・相続財産は5,000万円の一戸建てのみ(死亡保険金無し)
- ・相続人は妻と子1人
- ・課税価格の合計額は5,000万円とする
- ・相続は令和2年に発生
- ・債務など他の条件は無いものとする
(合計課税価格)5,000万円-(基礎控除額)4,200万円=課税遺産総額=800万円
80万円×2分の1(法定相続分の割合)=40万円(各相続人の課税遺産総額)
各相続人の課税遺産総額が40万円なので、相続税率は10%です。
このケースでは、各相続人の相続税は4万円となります。
このケースでは、相続税率が10%なので相続税額の負担は目立ちません。
しかし、先述した通り、相続税率は課税遺産総額により上がっていくので、高額の相続税額を支払わなければならないケースもあります。
相続不動産を売却する適切なタイミング
最後に、相続不動産を売却する適切なタイミングについて考えます。
タイミングにより節税できるので、相続してすぐに売却するのが良いのか、しばらく経ってからが良いのか悩む方は、参考にしてください。
相続税の申告期限までに売る
相続税は、相続開始日(死亡日)から10カ月以内に申告しなければなりません。
相続財産は、原則として、相続開始日を基準として算定します。
ただし、相続税申告期限までに相続不動産を相続税の評価額よりも安く譲渡した場合、その売却額を相続財産の額とすることができます。
相続税が課税されるケースでは、相続税申告期限までに相続不動産を売却すれば、相続税が安くなることがあるので、早めに売却を検討しましょう。
ただし、申告期限前の売却については、税理士や不動産会社への相談をおすすめします。
相続開始から3年10カ月以内に売る
先述の通り、相続不動産を相続開始日から3年10カ月以内に売却した場合、相続で取得した不動産を売却して譲渡所得が出た場合、相続税の取得費加算の特例があります。
相続不動産の売却をお考えの方は、遅くともこの期間内に売却することをおすすめします。
まとめ
生まれ育った家、両親や兄弟の思い出が詰まった家など、相続した不動産は家族の思い出がたくさん詰まった宝物です。
処分しなければと考えていても、思い入れのある相続不動産の行く末を考える余裕もなく日々が過ぎてしまった方もいるのではないでしょうか?
気持ちに区切りをつけるためにも、不動産会社に相談してみましょう。
売却の相談だけでなく、各不動産会社が提携する税理士に、相続税や所得税につき相談することもできます。
相続税や、相続不動産の売却にかかる税金の算出は、細かな知識と経験がなければ概算しか出せません。
忙しい中で慣れない計算をするのは大変です。
ぜひ、不動産と税金のプロに頼ってください。