相続不動産の査定方法|売却する際の流れも解説
亡くなった被相続人に複数の相続人がいる場合は、遺産の相続について話し合うことになりますが、相続財産に自宅などの不動産が含まれている場合、問題となるのが価値の評価です。
不動産は査定を行わないと、適正な価値を把握するのは難しいものがあります。
また、遺産相続にあたって分割しにくいため、売却するのも選択肢の一つです。
そこで、相続不動産の査定や相続の方法を解説したうえで、売却の手順について紹介していきます。
目次
相続した不動産を査定する理由
遺産に不動産が含まれている場合に査定が必要なのは、遺産の時価総額を把握して、遺産分割協議をスムーズに進めるためです。
亡くなった被相続人が遺言を残していない場合には、相続人による遺産分割協議で、遺産の分け方を決定します。
遺産分割協議を行うにあたって、遺産の時価総額がわからなければ、公正な話し合いを行うのが困難です。
あるいは、遺産の相続方法を決定して、相続登記の手続きを行ってから、1,000万円程度だと想定していた土地が、実際には500万円の価値しかなかった場合にはトラブルになるかもしれません。
そのため、現金や預金は額面通りの価値となりますが、不動産、車、骨とう品などは、時価を調べる必要があります。
不動産の時価がわかれば、現金など他の遺産と合わせてどのように分けるか、公正な話し合いがしやすくなります。
あるいは、不動産を売却して現金化して分ける場合にも、見込み額を把握できます。
また、借金などのマイナスの財産がある場合には、不動産の価値によっては、相続放棄をするという選択肢もとれます。
不動産を相続する方法
複数の相続人がいる場合に不動産を相続する方法は、現物分割と代償分割、換価分割、共有名義の4つの方法があります。
それぞれの方法の特徴やメリット、デメリットについてみていきます。
現物分割
現物分割とは文字通り、不動産をそのまま相続する方法です。
不動産の相続で一般的なのは現物分割になります。
たとえば、遺産に不動産が2つある場合には相続人2人で分ける、遺産が不動産と車、現金であった場合は1人が不動産、もう1人が車と現金を相続するといった形です。
あるいは、土地の場合には文筆して分割し、各相続人が相続するという方法もあります。
現物分割は、相続人のそれぞれが対象の不動産を相続する手続きを行うことになるため、手続きが簡単なことがメリットです。
一方で、現物分割は各相続人が同等の価値のものを相続するように分けにくいため、不公平な分け方になりやすいというデメリットがあります。
また、土地を文筆する場合は、条例で一筆の土地の最低面積が定められているケースや土地の文筆が禁止されているケースがあるほか、文筆によって接道義務を満たさなくなるケースも文筆ができない点に注意が必要です。
文筆を行ってそれぞれの土地が狭くなった結果、用途が限定されて資産価値が下落してしまうこともあります。
代償分割
代償分割とは現物の財産を相続した人が、他の相続人に代償財産を支払う方法です。
たとえば、代償分割は子供2人が相続人の場合、1人が1,000万円の価値の土地を相続して、もう1人に対して500万円の代償金を支払うといった形が該当します。
これは法定相続分通りに分けて、2分の1ずつの遺産を相続するケースですが、必ずしも法定相続分通りに分割しなければならないわけではありません。
双方の合意があれば、この場合の代償金は300万円や100万円といった金額にすることもできます。
代償分割は公平性を保ちやすいという点ではメリットがありますが、不動産を相続する人が代わりに渡す財産を持っている場合でなければ現実的に難しいという点がデメリットになります。
換価分割
換価分割とは不動産を売却して、相続人で現金を分割して相続する方法です。
たとえば、子供2人が相続人で不動産を売却して4,000万円になった場合に、2,000万円ずつ分けるといったケースが該当します。
換価分割が選択されるのは、不動産として相続することを希望する相続人がいないケースや、不動産の相続を希望する相続人がいても代償分割を行うための財産を持っていないケースです。
また、相続税の資金を捻出するために、換価分割が選択されるケースもあります。
換価分割は、相続人が公平に遺産を分割して相続できることがメリットです。
一方で、売却には相続人全員の合意が必要なため、手間がかかるというデメリットがあります。
また、売り急ぐことで安くしか売れないケースがあるほか、不動産会社への仲介手数料や測量費用などの経費が発生するため、想定したよりも手にできる現金が少なく感じるかもしれません。
また、売却益が発生したことによって、譲渡所得税がかかることもあります。
共有名義
共有名義にする方法は、相続不動産を複数の相続人で共有する方法であり、複数の相続人の持ち分を設定して相続登記を行います。
共有名義での相続は、遺産の不動産に居住する相続人がいる場合などでも、公平に分割できることがメリットです。
ただし、売却するには持ち分のある名義人全員の同意が必要となります。
また、共有名義の状態で、いずれかの相続人が亡くなった場合には配偶者や子供などが相続することになり、年数が経過するほど権利関係が複雑化していき、ますます売却するには手間がかかるため、困難になっていきます。
共有名義にすると、長期的にはデメリットが多いことを踏まえておきましょう。
相続不動産の査定方法
不動産の相続では査定を行うのが欠かせませんが、相続不動産の査定方法には主に、不動産鑑定士による査定、不動産会社による査定、相続人自らによる査定の3つの方法があります。
不動産鑑定士による査定
不動産鑑定士とは、土地や建物など不動産について、地理的状況や法規制、市場動向などを踏まえて適正な価値を評価する国家資格です。
遺産相続においても、不動産の適正な価値を知るために、不動産鑑定士に依頼するケースがあります。
不動産鑑定士に査定を依頼すると、税金の申告や裁判でも利用できるなど公的な証明力があるため、適正に価値を把握して遺産分割協議を円滑に行えることがメリットです。
ただし、不動産鑑定士査定を依頼すると鑑定費用がかかり、価格やサービスの質は依頼先によって異なります。
鑑定費用は、土地や戸建て、マンションといった不動産の種類や評価額によって違いがありますが、一般的に評価額が高い不動産ほど鑑定費用も高くなる傾向があります。
鑑定費用は土地のみの場合でも最低で20万円程度はかかり、20万円~80万円程度が相場です。
遺産相続のために不動産鑑定士に査定を依頼する場合には、鑑定費用の負担に関して相続人の話し合いが必要になります。
不動産会社による査定
不動産会社へ査定を依頼する場合は、基本的に無料で査定を受けられます。
ただし、売却を前提とした場合の査定となるため、不動産会社によって査定価格は異なることから、複数の不動産会社に依頼することが望ましいです。
また、査定価格を比較する際には、金額だけを見るのではなく、査定の根拠を踏まえるようにしましょう。
不動産の一括査定サイトを利用すると、簡単に複数の不動産会社に机上査定を依頼することができるので便利です。
机上査定とは、物件の情報をもとに簡易的に査定を行う査定方法です。
机上査定を行った不動産会社の中から2~3社へ訪問査定を依頼すると、現場の状況を確認して詳細な査定が行われます。
訪問査定による査定価格も、必ずしもその価格で売却できるとは限りませんが、遺産分割協議で遺産の分け方を決めるうえでの参考になります。
自分で査定を行う
不動産鑑定士や不動産会社へ査定を依頼する方法のほかに、相続税評価額から時価を推定して自分で査定するという方法もあります。
不動産の相続税評価額のうち、家屋は固定資産税評価額と同額のため、調べるのは難しくありません。
難易度が高いのは土地の相続税評価額を算出で、少し難しい計算が必要になります。
土地の相続税評価額の算出方法には、路線価方式と倍率方式があります。
路線価とは、路線すなわち道路に面した標準的な宅地の1平方メートル当たりの価額です。
路線価方式では、路線価に奥行価格補正率などの補正率を掛けたものに、土地の面積を掛けて算出します。
倍率方式は路線価が決められていない地域で用いられる計算方法で、固定資産税評価額に一定の倍率を掛けて算出するものです。
土地の相続税評価額の計算を正確に行うのは、補正率を用いることなどから、専門知識がない人にはハードルが高いといえるでしょう。
また、相続税評価額は時価の7~8割とされています。
相続税評価額を正確に算出できたとしても、あくまでも価値を推測するものに過ぎません。
他に相続人がいる場合には、相続税評価額を根拠に遺産分割を行おうとすると、公正な遺産分割ができないとして、トラブルになる可能性があります。
相続不動産を売却する手順
相続不動産を売却するには、遺産分割協議で遺産の分け方を決定することや相続登記を行うことが前提となります。
相続不動産を売却する手順について、遺産分割から売却、その後の手続きまでの流れを見ていきます。
遺産分割協議を行う
遺言がなく、複数の相続人がいる場合には相続人全員による遺産分割協議を開き、遺産の分割方法を決めることが必要です。
未成年の相続人がいる場合には、代理人の参加も必要になります。
ただし、遠方の相続人がいる場合や仕事の都合などで、相続人などが一堂に会するのは難しい場合には、電話やメールなどのやり取りを通じて話し合うことも可能です。
遺産分割協議で相続人全員が遺産の分け方に同意をしたら、遺産分割協議書を作成して、相続人全員の実印を押印します。
相続登記を行う
遺産分割協議で遺産の分け方が決まったら、不動産に関しては相続登記を行います。
相続登記とは、相続による所有権登記のことです。
相続登記を行って相続不動産の名義を亡くなった被相続人から、相続人の名義に変更しなければ、売却をすることはできません。
相続登記には、登記事項証明書や被相続人が生まれてから亡くなるまでの戸籍謄本、被相続人の住民票の除票、相続人全員の戸籍謄本と印鑑証明書、名義人になる相続人の住民票、遺産分割協議書といった多くの書類が必要です。
相続登記は法務局で登記申請を行いますが、司法書士などに委任することもできます。
相続登記には登録免許税などの費用がかかるほか、司法書士などに委任する場合には委託報酬が発生します。
相続不動産の売却
相続登記によって名義人となった相続人を売主として、不動産会社に相談をして査定を受けた後、媒介契約を結ぶと売却活動がスタートします。
そして、購入希望者が現れたら、不動産会社を通じて価格や引き渡し条件の調整を行います。
換価分割を行うために相続不動産を売却する場合には、後々のトラブルを防ぐため、相続人全員で売り出し価格や最終的な売却価格を決めることが大切です。
購入希望者と売買契約を結んだ後、売却代金の受領と同時に不動産の引き渡しを行います。
売却後
換価分割のために不動産を売却した場合には、遺産分割協議書に従って売却代金を分割します。
また、相続税が発生する場合には、相続開始を知った日の翌日から10ヵ月以内に申告と納付を行います。
このほかに、不動産の売却によって譲渡所得が発生した場合には、譲渡所得に関する確定申告が必要です。
相続不動産を売却する際の注意点
相続不動産を売却する際には、亡くなった被相続人の名義のままの状態では、売主として不動産会社と媒介契約を結んで売却活動を行うことができない点に注意が必要です。
相続登記には期限はありませんが、相続不動産を売却できるのは、相続登記を行って相続人が不動産の名義人になってからです。
複数の相続人がいる場合には、遺産分割協議によって所有者を特定した後に、相続登記が行えるようになります。
特に、相続不動産の売却代金を相続税の支払いに充てる場合などは、速やかに遺産分割協議を進めていくことが必要です。
また、相続財産にローンの残債がある場合には、被相続人が団体信用生命保険に加入しているか確認しましょう。
住宅ローンの場合は団体信用生命保険に加入していることが多く、亡くなった場合には残債の相当額の保険金が金融機関に支払われるため、完済することになります。
団体信用生命保険に被相続人が加入していない場合は、ローンの残債はマイナスの財産として相続することになります。
現金や他の不動産などの相続財産も踏まえて、マイナスの財産の方が多ければ相続放棄の手続きを行うことも選択肢となります。
まとめ
遺産に不動産が含まれている場合は、査定を行って適正な価値を把握したうえで、遺産分割協議で遺産の分け方を決めていくことが大切です。
また、遺産分割協議や相続登記を行わなければ、相続不動産の売却は進められないため、相続税の支払いに売却代金を充てる場合には、スケジュールを逆算して組んでいくことが必要です。
売り急ぐと適正価格での売買が難しくなりやすいですので、まずは速やかに遺産分割協議を行うようにしましょう。