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不動産売却時の減価償却費の計算方法【不動産売却に使える特例や控除も紹介】

この記事でわかること

  • 建物の減価償却費を計算できる
  • 不動産を売却するときにかかる譲渡所得税がわかる
  • 不動産を売却した際に使える特例や控除がわかる

不動産において減価償却という言葉を「聞いたことはあるけど詳しくは知らない」という方は多いでしょう。

そもそも減価償却とは「資産の価値を経年に沿って修正すること」です。

経理、会計で多く使われる言葉なので、一般的には使うことのない方がほとんどです。

しかし実は、マンションや戸建てなどの不動産を売却するときに減価償却の計算が必要になることがあります。

不動産売却時にかかってくる譲渡取得税という税金を算出するために減価償却費が関係するからです。

初心者にはなかなか理解しにくい減価償却費やそれを使って算出する譲渡所得税について、この記事で詳しく解説し、さらに譲渡所得税に関して使える特例や控除もご紹介します。

減価償却とは

会計においての減価償却とは、経年により価値が減少する資産を取得した場合に、取得するのにかかった費用をその耐用年数に応じて分割して計上していく会計処理のことをいいます。

かかった経費を年度ごとに分割して計上するため、税額を抑えたり調整したりすることができます。

資産は減価償却できるものとできないものに分けられます。

減価償却ができる資産とは、建物、設備など経年や使用することによって価値が劣化するものです。

減価償却が可能な資産のことを償却資産といいます。

逆に、土地や土地の借地権など経年や使用することによって価値が劣化しないものは、減価償却できない資産です。

不動産では建物のみが減価償却の対象

不動産においては、土地や土地の借地権などは減価償却の対象にはならず、建物のみが償却資産となります。

償却資産である建物は、その種類や構造により税務上の耐用年数と償却率が定められています。

この法律で定められた耐用年数を法定耐用年数といいます。

建物の構造によって法定耐用年数が定められている

建物の法定耐用年数はその種類や構造によって財務省が定めています。

堅固な建物であればあるほど耐用年数は長くなります。

たとえば、鉄骨鉄筋コンクリートの非事業用住宅は法定耐用年70年ですが、木造の場合の法定耐用年数は33年です。

法定耐用年数は投資用アパートなどの事業用不動産と、マイホームなどの非事業用不動産で定められた年数が異なります。

住宅(非事業用)の構造別耐用年数

構造耐用年数
鉄筋コンクリート造70年
重量鉄骨造(骨格材肉厚4mm超)51年
軽量鉄骨造(骨格材肉厚3mm超4mm以下)40年
木造33年

参考:減価償却資産の耐用年数等に関する省令

売却時にかかる譲渡所得税の計算に減価償却が必要

一般的に、自分の住まいとしての不動産を所有するだけでは減価償却を使用することはありません。

しかし住まいを売却することになった場合、売却後に出た利益にかかる税金があります。

それが譲渡所得税です。

その譲渡所得税の計算をする際、取得費から減価償却費を控除する必要があります。

減価償却費の計算方法

それでは売却する建物の減価償却費を計算してみましょう。

減価償却費を計算するには「定額法」と「定率法」といった二種類の計算方法があります。

定額法毎年償却する費用の額を一定にした計算方法
定率法毎年残額から一定の割合で償却する方法

資産の種類によってどちらの計算方法を使用するかが決まります。

非事業用の居住用不動産は、基本的に定額法が使用されます。

定率法とは、不動産の取得費用を毎年計上する場合に、取得費用から減価償却累計額を差し引いた未償却残高に一定の償却率をかけて減価償却費を計算する方法です。

費用として計上される減価償却費は、毎年減額していきます。

定額法に比べて定率法のほうが減価償却のスピードが速く、資産の価値が先に減少していきます。

定額法を使った減価償却費の計算

定額法は毎年の償却額が均等になるように計算する方法です。

定額法で住宅の減価償却費を計算する式は下記のとおりです。

減価償却費=建物購入代金×0.9×償却率×経過年数

経過年数の6か月以上の端数は1年とし、6か月未満の端数は切り捨てます。

償却率とは、1年間で低下する価値の割合です。

非事業用の不動産の償却率は構造ごとに法令で下記のように定められています。

構造償却率
鉄筋コンクリート造0.015
重量鉄骨造(骨格材肉厚4mm超)0.020
軽量鉄骨造(骨格材肉厚3mm超4mm以下)0.025
木造0.031

参考:国税庁「「減価償却費」の計算について

建物購入代金を調べるには

減価償却費を計算するのに建物の購入代金を調べる必要があります。

注意が必要なのは、売買契約に記載された売買価格が建物の購入代金とはならない点です。

契約書に記載された売買金額は土地と建物を合計した金額であるため、内訳を確認して建物価格のみを調べる必要があります。

売買契約書に金額の内訳の記載がない場合は、下記の方法で建物の金額を調べることができます。

消費税から建物の金額を調べる

売買契約書の売買金額の内訳に消費税額が記載されている場合、そこから建物の金額を調べることができます。

消費税は建物の金額のみにかかり、土地の金額にはかかりません。

そのため消費税額から逆算することで建物の金額を計算することが可能です。

計算するときは不動産購入時の消費税率を使用するよう注意しましょう。

固定資産税評価額から建物の金額を調べる

固定資産税評価額の比率から土地と建物の金額を按分することができます。

土地、建物を合わせた購入金額を、土地、建物のそれぞれの固定資産税評価額の比率で按分し建物の金額を算出します。

標準建築単価から建物の金額を調べる

国土交通省の建築統計年報に公開されている「建物の標準的な建築価額表」から建物の金額を算出することができます。

対象となる建物の築年数を調べ、その年数における標準建築価額に建物面積をかけて計算します。

譲渡所得税の計算方法

土地や建物などの不動産を売却して得た所得を譲渡所得といいます。

給与所得や事業所得などの他の所得とは分離して譲渡所得に所得税と住民税が課税されるのですが、この所得税と住民税を総称して譲渡所得税といいます。

譲渡所得を算出する際に不動産の取得費を計算するのですが、前述で計算した減価償却費はこの取得費を計算するのに使います。

譲渡所得税は次のようなステップで計算します。

  • ステップ1 減価償却費を計算する
  • ステップ2 取得費を計算する
  • ステップ3 譲渡所得を計算する
  • ステップ4 譲渡所得税を計算する

実際に譲渡所得税の計算シミュレーションをしましょう。

譲渡所得税のシミュレーション

構造木造の一戸建て
購入時期2014年3月
購入価格建物2,000万円/土地3,000万円
売却時期2020年3月
売却価格4,900万円

ステップ1減価償却費を計算する

減価償却費は下記の式で計算をします。

減価償却費=建物購入代金×0.9×償却率×経過年数

建物購入代金2,000万円、木造の償却率0.031、築6年を当てはめてみると、

減価償却費=2,000万円×0.9×0.031×6=334.8万円(A)
となります。

ステップ2取得費を計算する

取得費とは、土地や建物などの不動産の購入代金に、購入時にかかった手数料や所有中に支出した改良費や設備費を諸費用としてプラスしたものです。

建物の取得費については、所有期間中の減価償却費を差し引いて計算します。

取得費=土地の購入代金+(建物の購入代金-減価償却費)+購入時の諸費用

今回は簡略化するために購入時の諸費用は0円とします。

取得費=3,000万円+(2,000万円-(A)334.8万円)=4,665.2万円(B)
となります。

ステップ3譲渡所得を計算する

譲渡所得とは不動産を売却した際に得た所得のことです。

下記の計算式によって算出します。

譲渡所得=売却価格-(取得費+譲渡時の諸費用)

今回は簡略化するために譲渡時の諸費用は0円とします。

譲渡所得=4,900万円-(B)4,665.2万円=234.8万円
となります。

ステップ4譲渡所得税を計算する

不動産を売却して得た譲渡所得に課せられる所得税と住民税の総称を、譲渡所得税といいます。

譲渡所得税=譲渡所得×譲渡所得税率

譲渡所得税は不動産を所有していた期間によって税率が異なります。

所有していた期間が5年以下の場合は短期譲渡所得となり、5年を超える場合は長期譲渡所得となります。

住宅の短期譲渡所得、長期譲渡所得の場合の税率は下記のとおりです。

短期譲渡所得所得税30.63%
住民税9%
合計39.63%
長期譲渡所得所得税15.315%
住民税5%
合計20.315%

今回は所有期間が6年間で長期譲渡所得にあたるため、

譲渡所得税=234.8万円×20.315%=476.996万円

となります。

不動産売却時に使える特例や控除

譲渡所得税は不動産を売却し終わったあとにかかる税金です。

売却で得た所得の額によっては思わぬ高額な課税になることもありますので注意が必要です。

実は、自ら居住する不動産を売却した方や所有期間が10年を超える不動産を売却した場合の税負担が重くならないように設定されている特別控除や特別軽減税率があります。

ただし特別控除や特別軽減税率については期間が定められているものもあるため、現在の規定をしっかり確認しましょう。

所有期間が10年超の場合の3,000万円特別控除

自ら住んでいる自宅を売却した際には、売却で得た譲渡所得から3,000万円を控除することが可能です。

譲渡所得が3,000万円に満たなかったとしても控除することができるため、譲渡所得税がかからなくなるケースもあります。

マイホームを売ったときの特例
譲渡所得から3,000万円控除
適用要件
  • 不動産の所有期間が10年を超えていること
  • ・自分が住んでいる不動産または以前住んでいた場合は住まなくなった不動産を3年経過した年の12月31日までに売っていること
  • ・売った年、その前年および前前年に同様の特例を受けていないこと
  • ・親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものではないこと など

参考:国税庁「マイホームを売ったときの特例

所有期間が10年超の場合のマイホームの軽減税率の特例

譲渡所得税には所有期間が5年未満の短期の場合と、5年超の長期の場合それぞれに税率が異なるということを前述しました。

自分が住んでいる不動産を売却するときに所有期間が10年以上となる場合にはさらに別の特例を受けることが可能になります。

それが「マイホームを売ったときの軽減税率の特例」です。

マイホームを売ったときの軽減税率の特例
6,000万円以内の部分所得税10.21%
住民税4%
合計14.21%
6,000万円超の部分所得税15.315%
住民税5%
合計20.315%
適用要件
  • 不動産の所有期間が10年を超えていること
  • ・自分が住んでいる不動産または以前住んでいた場合は住まなくなった不動産を3年経過した年の12月31日までに売っていること
  • ・売った不動産について同様の特例を受けていないこと(3,000万円の特別控除を除く)
  • ・親子や夫婦など特別の関係がある人に対して売ったものではないこと など

参考:国税庁「マイホームを売ったときの軽減税率の特例

マイホームを買い替えた場合に譲渡損失が生じたときの特例

一方、不動産を売却したからといって利益が出ることばかりではありません。

マイホームの買い替え時に譲渡損失が出た場合に使える特例もあります。

それが「マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例」です。

自分が居住する不動産を買い替えたときに譲渡損失が出た場合、その損失をその年の給与所得や事業所得などから控除することが可能です。

さらに控除しきれなかった損失がある場合、翌年以後3年以内に繰り越して控除することができます。

マイホームを買い替えたときの譲渡損失の損益通算および繰り越し控除の特例
譲渡損失の損益通算が可能
3年以内繰り越し控除が可能
適用要件
  • 不動産の所有期間が5年を超えていること
  • ・自分が住んでいる不動産または以前住んでいた場合は住まなくなった不動産を3年経過した年の12月31日までに売っていること
  • ・新たに取得したマイホームに翌年12月31までに住むまたは住む見込みであること
  • ・新たに取得したマイホームについて10年以上の住宅ローンを有すること など

参考:国税庁「マイホームを買い換えた場合に譲渡損失が生じたとき(マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)

住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたときの特例

前述した譲渡損失がでた場合損益通算および繰り越し控除は、新たにマイホームを取得することが条件ですが、住宅ローンが残っており新たにマイホームを取得しないケースでも適用できる特例があります。

住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたときの特例
住宅ローンの残高から売却価額を差し引いた金額を限度額として、譲渡損失の損益通算が可能
3年以内繰り越し控除が可能
適用要件
  • ・自分が住んでいる不動産を売るか、以前住んでいた場合は住まなくなった日から3年を経過した年の12月31日までに売っていること
  • ・不動産の所有期間が5年を超えていること
  • ・新たにマイホームを取得しない場合であっても適用可 など

参考:国税庁「住宅ローンが残っているマイホームを売却して譲渡損失が生じたとき(特定のマイホームの譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例)

不動産の減価償却費の計算でよくある質問

不動産の減価償却費についてよくある質問に解答しつつ解説します。

質問「古いマンションで契約書に売買契約の内訳の記載がないが、取得費を算出できるのか」

答え:建築年の標準建築単価から建物価額を求めることができます。

解説:特に古いマンションの場合は、契約書に売買金額の内訳を記載していないケースが少なくありません。

昔の契約書だと消費税の金額記載もない場合があります。

そういった場合は、マンションの築年数と構造をもとに標準建築単価から計算する方法をおすすめします。

質問「土地の減価償却はしないのか」

答え:土地は減価償却できません。

解説:減価償却とは使用や経年によって価値が下がるものに対して適用します。

土地は値下がりすることはあっても使用や経年によって減価することはないので減価償却は適用されません。

質問「事業用の不動産の減価償却は何が違うのか」

答え:減価償却費の計算方法、耐用年数、償却率が異なります。

解説:事業用不動産とは、投資用の賃貸マンションや貸事務所などのことです。

同じ構造であっても建物の価値が下がるスピードが速いため、耐用年数、償却率が異なります。

また定額法のほかに定率法を使って減価償却費を算出します。

事業用不動産と非事業用不動産の耐用年数や償却率の違いは下記のとおりです。

構造事業用不動産非事業用不動産
耐用年数償却率耐用年数償却率
鉄筋コンクリート造47年0.02270年0.015
重量鉄骨造
(骨格材肉厚4mm超)
34年0.03051年0.020
軽量鉄骨造
(骨格材肉厚3mm超4mm以下)
27年0.03840年0.025
木造22年0.04633年0.031

事業用不動産の償却率は非事業用不動産のおよそ1.5倍程度あります。

いろいろな人が短期的に住む建物であることから、その分建物の減価償却のスピードが速いと考えられています。

まとめ

不動産を売却したとき高値で売れたと喜んでいても、譲渡所得が多くなると思いがけず高額の譲渡所得税が課税されてしまうことがあります。

そうならないように、減価償却費の計算など譲渡所得税にかかる計算は早めにしておくことが重要です。

また所有期間が長い自ら住んでいる不動産を売却する場合は、譲渡所得税の特例や控除を受けられる可能性が高いです。

売っても買っても税金がかかるのが不動産といわれています。

負担を少なくするためにも、事前準備はしっかりとすることをおすすめします。

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