不動産売買の流れと司法書士に依頼する内容を解説!【司法書士の役割や費用相場も紹介】
この記事でわかること
- 不動産売買の流れがわかる
- 不動産売買で司法書士に依頼する内容がわかる
- 不動産売買における司法書士の役割や費用相場がわかる
不動産売買は、売却の相談に始まり、査定、媒介契約など普段聞きなれない言葉や仕組みと向き合いながら進めていきます。
大切なマイホームや資産を売却する際の流れがわからなくて不安な方も多いのではないでしょうか。
加えて、まだ住宅ローンのための抵当権がついたままでも、無事に買主に不動産を売却できるのか?
安心して登記の手続きをしたり、代金をもらえたりできるだろうか?
さまざまな疑問がわくでしょう。
この記事では不動産売買を安心して行えるように、サポートしてくれる司法書士の役割を解説します。
登記や決済の意味、司法書士に依頼するときの費用相場もお伝えしますので、不動産売買を検討中の方は、ぜひ参考にしてください。
目次
不動産売買の一般的な流れ
不動産売却の一般的な流れは、大きく分けると次の3場面に分かれます。
- ・不動産会社への相談・査定
- ・媒介契約締結、売却活動
- ・売買契約~決済、引き渡し
それぞれの場面ごとに見ていきましょう。
不動産会社への相談・査定
不動産売却を考えるとき、不動産会社に媒介を依頼することが多いでしょう。
不動産会社の媒介とは、一般的な言葉で言えば「仲介」で、売主と買主を結び付けて円滑な取引を主導することです。
不動産会社が土地や建物の媒介を行う場合、まず、物件価額を査定します。
「査定」には、簡易査定と訪問査定があり、一般的に不動産会社は無料で査定を行います。
簡易査定と訪問査定は同じ査定でも、やり方が違うので注意しましょう。
査定の意味と種類
査定の意味 | 物件の値段を見積もること |
---|---|
簡易査定(机上査定) | 現地を見ずに行う査定 メールや電話で聞き取った内容を基に価格を算出する |
訪問査定 | 売却物件を見て行う査定 |
不動産会社は物件を実際に見てから媒介業務を締結しますから、売却の意思が固まっている方は、早めに訪問査定を受けましょう。
もし、1社の査定だと不安なら、複数の不動産会社に査定してもらうとよいでしょう。
ただし、高い査定額を出す不動産会社が必ずしも早く物件を売却してくれるとはかぎりません。
査定額の算出根拠や、物件についての不動産会社の所見をきちんと聞き、比較検討することをおすすめします。
媒介契約締結、売却活動
査定額や担当者の対応などで満足いく不動産会社が見つかったら、媒介契約を締結します。
媒介契約締結の種類
媒介契約は次の3種類があります。
一般媒介契約 | 複数の不動産会社に依頼することができる媒介契約 |
---|---|
専任媒介契約 | 1社のみに依頼することができる媒介契約 (ただし、自分で買主を探してきても良い) |
専属専任媒介契約 | 1社のみに依頼することができる媒介契約 (ただし、自分で買主を探した場合でも報酬を支払う義務有り) |
なお、一般媒介契約には、他に依頼している不動産会社を明示するもの(明示型)と明示しないもの(非明示型)があります。
それぞれの媒介契約は、複数の不動産会社に依頼できるかどうか以外にも、次の点で違いがあります。
レインズの登録義務 | 業務処理状況の報告義務 | 有効期間(拘束期間) | |
---|---|---|---|
一般媒介契約 | なし | なし | なし |
専任媒介契約 | 媒介契約締結の翌日から7日以内 | 2週間に1回以上 | 3カ月 |
専属専任媒介契約 | 媒介契約締結の翌日から5日以内 | 1週間に1回以上 | 3カ月 |
なお、「レインズ」とは、指定流通機構という不動産会社の公的な団体です。
レインズに媒介物件を登録することで、媒介依頼業者以外の不動産会社にも広く物件の情報が伝わり、買主が見つかりやすくなります。
媒介契約書の記載内容
宅地建物取引業者である不動産会社は、媒介契約締結後、遅滞なく媒介契約書を依頼者に交付しなければなりません。
媒介契約書には売買すべき価額などを記載し、宅地建物取引業者が記名・押印します。
媒介契約書の記載事項に疑問があったら、遠慮なく不動産会社に確認しましょう。
参考:媒介契約書記載事項
- ・物件を特定するために必要な事項
- ・売買すべき価額または評価額(査定額とは限りません)
- ・媒介契約の種類(「専属専任」「専任」「一般」のいずれか)
- ・報酬
- ・有効期間
- ・解除に関する事項
- ・媒介契約違反の場合の措置
- ・指定流通機構への登録に関する事項
- ・既存建物の建物状況調査を実施する者のあっせんに関する事項
- ・標準媒介契約約款に基づくか否か
不動産会社の宣伝・売却活動
不動産会社は売主と媒介契約締結後、次のような宣伝・売却活動を行います。
- ・新聞折り込みチラシ
- ・インターネット広告
- ・自社の購入希望者への営業活動
- ・現地案内会
- ・オープンハウス
売買契約~決済・引き渡し
通常、売買契約締結後すぐに、売買代金支払いと物件の引き渡しが行われるわけではありません。
以下、売買契約時の注意事項や、決済時に何が行われるか見ていきましょう。
売買契約の締結
媒介の依頼を受けた不動産会社が売買契約書を作成します。
売買契約書には、宅地建物取引士の記名押印がなされます。
そして、不動産会社は、売買契約締結後遅滞なく、売買契約書を売主と買主の双方に交付する義務を負います。
一般的に、売買契約書に押す売主・買主の印鑑は、実印とされています。
押印された印鑑が実印であることを証するため、売主・買主の住所地の市区町村長が3か月以内に発行した印鑑証明書を提示または添付します。
実印の登録や印鑑証明書の取得が必要になるので、忙しい方は早めに実印の登録だけでも済ませておきましょう。
参考:売買契約書の記載事項例
- ・既存建物であるときは、建物の構造体力上主要な部分等の状況について当事者の双方が確認した事項
- ・代金の支払時期・支払方法
- ・移転登記の申請時期
- ・物件の引渡時期
- ・租税その他公課の負担
- ・契約の解除に関する事項
- ・損害賠償額の予定、違約金の定め
- ・代金以外の金銭の額、授受時期、授受目的
- ・代金に関する貸借のあっせんが不成立のときの措置(買主のローンが不成立の場合)
決済とは?
不動産売買約締結時にその場で代金全額の支払い、登記や引き渡しを行うことは稀で、売買契約締結後、1~3か月内に決済が行われるのが一般的です。
売買代金全額の支払い、抵当権の抹消登記や所有権移転登記をまとめて「決済」と呼ばれます。
通常、決済時に売主から買主に物件を引き渡しますが、買い替えなどのケースでは、売主が引っ越すまで引渡猶予の特約をする場合もあります。
決済に必要な書類は、登記済証(登記識別情報)をはじめとして非常に数が多いので、売買契約後、早めに準備しておきましょう。
なお、決済が終わったら、売主は不動産譲渡所得になるので確定申告をする必要があります。
不動産の買主が司法書士に依頼する内容
不動産売却では、買主はどのようなことを司法書士に依頼するか確認します。
買主にとって安全な取引か?
不動産売却の決済時に、買主が司法書士に依頼する内容は「決済」と「登記」です。
ただし、「決済」と「登記」は一連の手続きなので、どちらかに支障があれば司法書士は決済を中止することを指示します。
まず、不動産売買での司法書士の役目は、買主にとって安全な不動産取引を担保することです。
具体的には以下の「決済」の一連の流れです。
安全な不動産取引を担保するための司法書士の役割
- ・売買代金を確実に受領できるように、売主の売却意思を確認すること
- ・売主の本人確認(なりすましでないことを担保)
- ・売買不動産に設定されている抵当権を確実に抹消できるよう確認すること
買主のための所有権の登記など
不動産売買が安全な取引が担保できたら、売買代金が売主に支払われたことを確認し、以下の登記を行います。
司法書士が買主のために行う登記
- ・買主名義への所有権移転登記
- ・買主の住宅ローン担保のための抵当権設定登記
不動産の売主が司法書士に依頼する内容
不動産売却の決済時に、売主が司法書士に依頼する内容は、買主が依頼するのと同様、「決済」と「登記」です。
本人確認及び売却意思の確認
先述の通り、安全な不動産取引を担保するために、司法書士は不動産売買の決済時には必ず、次のことを確認します。
- ・売主が登記簿上の所有者に間違いないこと
- ・売主の売却意思が確かであること
これは、買主のための行為ではありますが、売主が確実に買主から代金をもらうため、司法書士が担う役割でもあります。
本人確認と意思確認に問題がなければ、司法書士は登記に必要な書類を確認したうえで、代金の支払いにゴーサインを出します。
決済時に売主が用意する書類の例
登記原因証明情報 | 売買契約書など |
---|---|
登記済証(登記識別情報) | 物件の所有者であることがわかる書面の1つ |
(紛失していたら早めに担当司法書士に相談) | |
印鑑証明書 | 市区町村が発行するもので、発行後3か月以内 |
住民票の除票、戸籍謄本等 | 登記簿上の所有者の住所、氏名が変わっている場合 |
委任状 | 司法書士への委任状(売主は実印で押印) |
銀行の抵当権解除証書など抵当権抹消書類一式 | 物件に抵当権が設定されている場合 |
売主が司法書士に依頼する登記の種類
不動産売買で売主が司法書士に依頼する登記は、主に次に2種類です。
- ・所有権登記名義人住所、氏名変更登記
- ・抵当権抹消登記
所有権登記名義人住所・氏名変更登記
登記簿上の売主の住所が変わっている場合、「所有権登記名義人住所変更」という登記を行わなければなりません。
また、売主の氏名が変わっている場合、「所有権登記名義人氏名変更」という登記をする必要があります。
所有権登記名義人住所・氏名変更登記は買主への所有権移転登記の前提として、売主が司法書士に依頼しなければなりません。
抵当権抹消登記
売却物件に抵当権が設定されている場合、基本的に抵当権抹消登記を行うのが、買主への所有権移転登記の前提です。
この大切な抵当権抹消登記を担うのが司法書士です。
法律と実際は違う?「同時抹消」
よく「抵当権が付いたままだと買ってくれる人がいないので、抵当権を抹消しておきましょう」という説明がなされますが、これは実務と違います。
確かに、売主が住宅ローンを完済しているのであれば、売却前に抵当権抹消登記をしておくのもよいでしょう。
では、住宅ローンを完済していないケースでは、どうでしょうか?
住宅ローンを完済していない状態では、金融機関が抵当権抹消登記に応じてくれるわけがありません。
しかし、法律上は抵当権がついている家を売ることに制約はありませんが、抵当権の付いた物件を買う人はほとんどいないでしょう。
そこで、抵当権抹消登記と不動産売買による所有権移転登記を同時に行うのが実務です。
これを、同時抹消と呼びますが、次のようなイメージです。
〇月10日に不動産売買による売主から買主への所有権移転登記を行うとしたら、その日に売主が受け取る代金を住宅ローン完済に充てます。
住宅ローンを完済すれば抵当権を抹消できるので、所有権移転登記の直前に抵当権抹消登記を行います。
実際にはタイムラグを作らず、同日に、抵当権抹消登記→所有権移転登記の順で登記を申請します。
これを、抵当権抹消登記と所有権移転登記の連件申請と呼ぶこともあります。
抵当権抹消登記は司法書士だけ?
抵当権抹消登記そのものは、司法書士でなくても行えます。
ただし、先述の通り、不動産売買の決済時には売買代金を住宅ローンに充てるための一連の手続きがあります。
不動産売買決済時の抵当権抹消登記は、司法書士に依頼しなければならないと考えてください。
残高証明書や抵当権抹消登記書類
不動産売買の売主になる予定の方や、すでに売却した方は、早めに金融機関に住宅ローンの残高証明書発行を依頼しましょう。
ローン残高の把握には利息や端数の計算もしなければなりません。
自分で計算せず必ず借入先に早めに依頼しておきましょう。
また、不動産売買の決済日に完済し、抵当権抹消できるように手続きを頼んでおく必要があります。
なお、住宅ローン借入先の金融機関が発行する書類について分からないときは、抵当権抹消登記を依頼する司法書士に相談しましょう。
一般的に「抹消書類」と呼ばれる書類が整わないと、抵当権抹消登記はできませんが、司法書士に頼めば整えてくれます。
司法書士は確実に抵当権抹消登記をしなければならないので、金融機関とのやりとりの労はいといません。
参考:抵当権抹消登記書類
- ・抵当権解除証書
- ・抵当権の登記識別情報(または登記済権利証)
- ・金融機関の代表者の登記事項証明書
- ・金融機関の司法書士への委任状
相続登記未了の場合
売主が相続した不動産売買では、相続による所有権移転登記をしなければなりません。
この相続による登記も司法書士に依頼したほうが、不動産売買の決済がスムーズに済むでしょう。
売主が自分で相続による登記だけ行おうとすると、書類不備で登記が却下されたり、補正に時間がかかったりすることも多いので注意しましょう。
もし、相続による登記が決済までに終わらないと、決済そのものが中止になってしまい売買代金ももらえなくなります。
契約も白紙になる可能性があり、住み替えや住宅ローン完済もできなくなります。
相続による登記が未了の場合、司法書士に相続登記も依頼することをおすすめします。
不動産の売主が司法書士に依頼する費用相場
次に、売主が不動産売買の決済で司法書士に依頼するときの費用相場を確認しましょう。
基本的に所有権移転登記や決済立ち合い料は買主が負担します。
売主が負担するのは次の登記の登録免許税と司法書士報酬です。
不動産の売主が司法書士に依頼する費用相場
司法書士報酬の相場 | 登録免許税 | |
---|---|---|
所有権登記名義人住所・氏名変更登記 | 1万円~3万円前後 | 不動産1つにつき1,000円 |
抵当権抹消登記 | 1万円~3万円前後 | 不動産1つにつき1,000円 |
相続による所有権移転登記 | 5万円~10万円前後 | 不動産価格の1000分の4 |
ただし、相続の登記では不動産の数や数次相続かどうかなど、ケースバイケースで司法書士報酬も変わります。
遺産分割協議書作成や戸籍謄本取り寄せなど他の手続きも依頼したり、不動産の数が多かったり、交通費などがかかったり、事情により報酬額は異なります。
他の登記も、相場や登録免許税は「目安」として、実際に司法書士に依頼するときは、事前に見積もり書をもらいましょう。
なお、次のケースでは、売主に司法書士報酬や登録免許税はかかりません。
不動産の売主に司法書士費用や登録免許税がかからないケース
- ・不動産の登記簿上の所有者の氏名や住所に変更がない
- ・抵当権は設定されていないか既に住宅ローンを完済して抹消されている
- ・相続登記は済んでいる
不動産売却時に依頼する司法書士の探し方
司法書士を探す方法は色々あります。
知り合いから紹介してもらったり、金融機関や不動産会社が提携する司法書士に依頼したりなどの方法です。
決済日までスケジュールに余裕があれば、インターネットで司法書士を選んで依頼しても支障ありません。
しかし、不動産売却時は、通常、買主または抵当権者である金融機関指定の司法書士が決済業務や登記を担います。
特に、抵当権抹消登記を所有権移転登記と同時に行うケースでは、買主の権利保護を重視しなければなりません。
そのため通常、不動産会社や金融機関が選んだ司法書士に依頼することになります。
まとめ
不動産売買の流れや、司法書士の役割、司法書士に依頼するときの報酬について見てきました。
不動産売買では「この額の物件で?」という一般的な住宅売買でも、売主になりすました詐欺師が、登記を自分名義にしてしまうこともあります。
司法書士は専門的な知見と経験により、円滑で安全な不動産取引をサポートする役目と、真正な登記を行うのが使命です。
世間では「自分で登記を行う方法」など様々な情報があふれているので、簡単に考えすぎると思わぬ被害に遭いかねません。
また、時間がかかりすぎると、不動産売買の決済が流れてしまいます。
自分でできることと、司法書士に依頼するほうが安全なケースと、しっかりと分けて考えるようにしましょう。