難易度が高い農地を売却する方法!売却の条件や税金・費用まで解説
この記事でわかること
- 農地の売却が難しい理由と使わない農地を早く売却すべき理由がわかる
- 農地売却の条件と売る方法がわかる
- 農地の売却にかかる税金と費用がわかる
「農業後継者がいない」「農地を相続したが担えない」といった、農業を取り巻く実情はますます深刻化しています。
そのため、農地の売却を検討している方が増えるのも道理です。
しかし、現実の農地の売却は宅地と違って「農地法」の制約があり、売却の難易度は高くなります。
事前に押さえるべきポイントを理解したうえで、農地売却を進めることが大切です。
この記事では難易度が高い農地を売却する方法をあわせて、知っておきたい売却の条件や税金・費用、さらには売却をスムーズにするポイントも詳しく解説します。
目次
農地の売却はなぜ難しい?
農地の売却が容易にできない、容易にさせない理由には、国内の食料自給率を維持・向上させる目的があるからです。
日本の食料自給率は40%(カロリーベース)程度と低く、国土面積の小さいわが国では約70%が山間部となっています。
そのため、食料を供給する農地の確保は重要であり、用途は「耕作」と決められています。
この保護目的で農地法のもと、農家や農業参入者には農地を自由に売却することは許されておらず、原則的には農地は専業農家にしか売れないことになっています。
もし非農家へ売却したいときは、土地の用途を変更できるかがポイントです。
農地を転用する際は、その地域を管轄する農業委員会または都道府県知事の審査をクリアし、許可をもらわなければなりません。
農地法の規制が重石に
農地を農地として売却するには、農地法第3条(所有権移転)の許可が必要です。
農地法第3条には買手側にもいくつかの条件が求められます。
例えば、農地の売買や贈与などを行えるのは、ある規模の耕作面積(下限面積)以上を所有している農業従事者に限定されています。
加えて、農地転用が許可されるためには「立地基準(農地の区分で許可・不許可を決めるもの)」をクリアしなければなりません。
とはいうものの、農地を5つに分類した「立地基準」のうち、3区分は不許可となっています。
詳しくは後述しますが、このように農地法による所有権移転はさまざまな条件があり、売買を難しくしています。
農業就業者の高齢化も背景にある
農業従事者数の減少や高齢化社会の影響などもあり、農業就業者は高齢化が進んでいます。
新しく農業に従事する若い世代が少なく、農家を引退すると跡継ぎがいなくなることから、農地が荒れ果てた状態になっている状況も見られます。
こうした耕作放棄地は農地全体の1割を占めるともいわれています。
規模を大幅に縮小して家庭用の農作物だけを栽培している遊休農地も含めると、土地はあるのに有効活用されていない場所が数多く存在します。
このことからも日本では耕作放棄地が増えている状況のため、農地を売却することは難しいことがわかるでしょう。
使わない農地を早く売却した方がいい理由
手入れをしない・できない農地は、害虫・害獣や雑草の発生などで周りの農地に被害を与えたり、周辺住民に迷惑がかかったりする恐れがあります。
農地を相続などで手に入れた際は、できるだけ早く使用用途を決定して必要な準備を進めることが大切です。
固定資産税はうなぎ登り
ここ数年で、耕作されず放棄状態になっているような農地の課税を強化する動きが活発化しています。
このような農地が増えていることを懸念して、農業振興地域内にある遊休農地に対して平成29年の税制改定により「限界収益修正率の調整」が撤廃されました。
今までは調整によって課税評価額が55%まで減額されていましたが、耕作をしていない遊休農地は減額なしの税額を納めることになります。
農業委員会から勧告を受けることになった場合は、通常の1.8倍もの固定資産税を納めなければいけません。
農地が荒れて買い手が見つかりにくくなる
農地を放置しておくと、雑草が生い茂り荒れていくことで、土壌の悪化や害虫を発生させる原因となってしまいます。
荒れ果てた状態の農地になってしまうと、売りに出した際に買主からの印象が悪くなってしまうのは明らかです。
農地の印象が悪くなってしまうと、当然ながら買い手は見つかりにくくなるでしょう。
売却する際に苦戦することを防ぐためにも、使わない農地は早めに売却するのが賢明な判断です。
農地のまま売却する方法
農地のまま売却する際は、売却先が農家または農業生産法人に限定されます。
また、以下の要件を満たしていなければ、買い手としては認められません。
- 農地を50a(アール)以上所有している
- 全ての農地で農業を営んでいる
- 継続的に農業が行われている見通しがある
- 農業に適した機材や人材が揃っている
農地のまま売却するときの流れ
農地を農地のまま売却する場合の流れは次の通りです。
農地を農地のまま売却する流れ
- 1.農地の購入者(農業従事者に限定)を探す
- 2.許可を条件に売買契約を締結する
- 3.農業委員会に売買許可申請を提出する
- 4.所有権移転請求権の仮登記を申請する
- 5.許可されたら本登記と代金精算を行う
なぜ、農業委員会の許可よりも先に売買契約を結ぶ必要があるのでしょうか。
その理由は売買の成立が不鮮明であることや、購入者が不明の状態では許可されない可能性が高いからです。
申請から許可までに要する期間は1~3カ月かかるケースが一般的なので、並行して売却を進めるのが慣例で、売買の成立を確実とする狙いもあります。
農地のままの売却は長期化や値下がりを招くことも
自分の農地を農地のまま売るには、知人の農家や周辺の農家などに買ってもらう方法が早いでしょう。
しかし、後継者不足や生産性の低さはどこも同じで、大規模に農業を営む専業農家が買い手とならない限り難しくなります。
「売却が長期化」「買い手がいない」などが恒常化しているのが現実です。
それゆえに、昨今の農地の売却価格はずっと右肩下がりの状況が続いています。
このような背景から、転用を検討した方ががいいかもしれません。
農地を転用して売却する方法
農地の地目変更を行うことを農地転用といいます。
地目(ちもく)とは「土地の用途」のことを示しています。
つまり、田・畑の地目を宅地に不動産登記で変更するのです。
転用すれば売却後の用途は農地に限定されなくなるため、買い主の条件限定が不要です。
農地を転用すれば、農地のままの売却と比べて要する時間も少なくて済み、収益の面でも有利になると言われています。
農地を転用して売却するときの条件
農地を相続した後に農業を引退した場合に、地目を変えて貸家を建てたり駐車場や店舗を建てたりする例があります。
しかしこの場合も自己判断での転業はできず、農地委員会から許可が下りていることが条件になるため注意が必要です。
この許可は「立地基準」と「一般基準」という2つの基準審査を経ることにより、その可否が決定されます。
立地基準を確認する
立地基準とは、農地転用を申請する予定地の営農状況、その周辺の市街地化の状況に応じて5つに区分し、区分ごとに許可要件を定めたものです。
農用地区域内農地 | 市町村が定め農業を行う区域に指定の農地、不許可 |
甲種農地 | 機械耕作に適し、改良工事後8年以内の良質農地、不許可 |
第1種農地 | 10ha以上の大規模な営農に合う条件の農地、不許可 |
第2種農地 | 市街地発展の可能性がある駅500m以内の農地、許可もある |
第3種農地 | 市街地化の傾向が著しい駅から300m以内の農地、原則許可 |
市街地に近い農地ほど許可が下りやすいことがわかります。
それは市街地にある農地や小規模で生産性の低い農地は「別の事業用途での活用の方が良い」と判断されるからです。
所有する農地がどの区分かわからない場合は、最寄りの農業委員会や市役所の農政課へ問い合わせをしましょう。
一般基準をクリアする
「一般基準」とは、農地転用の確実性や周辺農地等への被害の防除措置の妥当性などを審査するものです。
この主旨は、転用後にその土地をきちんと利用できるかどうかを判断するためと理解しましょう。
行政が行う土地の造成だけをするような転用は認められません。
具体的に目的が何で何を建てるのか、そしてどういう風に使うかを明確に提示しなければなりません。
また、転用したあとの事業をそつなく運営していける資金の証明、その計画性があるかどうかも判断材料になります。
農地を転用して売却する手順
農地を転用して売却するときの流れは次の通りです。
農地を転用して売却する流れ
- 1.農地の購入者を探す
- 2.同意したら売買契約を締結する
- 3.農業委員会と相談・協議する
- 4.農業委員会、もしくは都道府県知事に転用許可の申請を行う
- 5.仮登記(所有権移転請求権)を行う
- 6.許可が出たら本登記と代金精算を行う
農地のまま売却する場合と違って、農地の状況によって申請を受付・許可する相手先が、農業委員会か都道府県知事のいずれかに変わります。
農地売却にかかる税金と費用相場
農地を売却することで収入を得る機会もありますが、売却した金額がすべて手元に残るわけではありません。
農地売却にかかる税金
農地を売却するときは、以下のような税金がかかります。
- 住民税
- 所得税
- 印紙税
- 登録免許税
このような税金がかかることを知った上で、農地を売却するかどうか、売却する場合はどのような方法で売却するのか検討しましょう。
状況によっては特例・控除が活用できる場合もあるので、確認しましょう。
農地売却にかかる費用
農地売却は専門知識と煩雑な手続きが必要なことから、経験豊富な不動産会社に仲介を依頼するケースがほとんどです。
農地転用にかかる初期費用などが該当しますが、具体的には以下の通りです。
仲介手数料 | 売却価格×3%+6万円+消費税(上限額) |
---|---|
測量費 | 官民ともに境界が明確でない場合に必要。35~45万円相当が相場 |
農地転用手続き代 | 市街化区域外16万円・市街化区域内10万円程度 |
登記費用 | 農地転用工事後の変更登記。4万円程度 |
上記の他、司法書士への報酬(事務所ごと、売却方法により違いがある)が必要となり、ある程度まとまった資金を用意しなければいけません。
農地の売却に関するよくあるQ&A
農地の売却をする際には、さまざまな疑問があることでしょう。
ここで、よくあるQ&Aを紹介していきます。
農業委員会の役割は?
農業委員会は、農地の売買や貸借を許可すべきか判断を行っている行政委員会です。
そのほか、農地転用案件について意見の具申や遊休農地についての措置などを主に行っています。
原則として、農業委員会は市町村に1つ設置されています。
売買は不動産会社に相談すべき?
農地を売買するときは、仲介を依頼した方が買い手を見つけやすいでしょう。
ただし、悪質な不動産会社も存在するため注意が必要です。
売買を検討する際は、農地の売却に慣れているところに相談するのがおすすめです。
農地を相続した場合は?
農地を相続した場合、まず農業委員会に届け出を行いましょう。
もし相続人が農地をそのまま受け継いで農業を続ける場合、農地にかかる相続税の納税猶予があります。
相続税が発生するのであれば、納税猶予を賢く活用することが大切です。
農地にかかる相続税の納税猶予とは
農地にかかる相続税の納税猶予は、本来の相続税額のうち、農業投資価格を超える部分に対してのみ相続税が課税される仕組みです。
制度が適用される農地は、
- 被相続人が農業の用に供していた場合
- 特定貸付けを行っていた場合
- 認定都市農地貸付けなどを行っていた場合
などの条件を満たしたものです。
また被相続人には、以下の要件があります。
- 死亡した日まで農業を営んでいた
- 農地等の生前一括贈与を行った
- 死亡した日まで特定貸付けなどを行っていた
相続人は、引き続いて農業に従事する場合、生前一括贈与を受けた場合、特定貸付けなどを行った場合に該当します。
ただし納税猶予の手続きは煩雑な流れになっているため、不安な場合は税理士などの専門家に依頼すると安心できるでしょう。
まとめ
農地の売却は、宅地よりも「買い手探し」「専門知識を備えた手順」が格段に大変なことから、難易度が高い不動産取引です。
最大の課題は、許可が下りないと売却できないことです。
農地売却の相談は、農地売買の実績が豊富で、司法書士などの専門家と連携する不動産会社を選ぶようにしましょう。