不動産の譲渡損失の繰越控除と住宅ローン控除は併用できる!併用事例を紹介
この記事でわかること
- 譲渡損失の繰越控除と住宅ローン控除が併用できるかわかる
- 譲渡損失の繰越控除の制度内容がわかる
- 住宅ローン控除の制度内容がわかる
- 譲渡損失の繰越控除と住宅ローン控除の併用事例がわかる
不動産を売却するとまとまった資金が手に入りますが、状況によっては損してしまう可能性もあります。
たとえば4,000万円で購入した自宅でも、売却額が3,000万円であれば1,000万円の損失となり、税金を差し引くと自由に使えるお金は半分近くになってしまいます。
ただし、居住用不動産(マイホーム)の買い替えで損失が出た場合、いくつかの要件をクリアすれば「譲渡損失の繰越控除」が利用できます。
また、買い替え後の住宅が一定要件を満たせば住宅ローン控除も併用できるため、それぞれの控除が使えれば税負担は大幅に軽減されます。
手元資金にも余裕が出るので必ず使いたい制度ですが、問題はそれぞれの要件をクリアできるかどうかです。
今回は不動産の買い替えが有利になるよう、譲渡損失に使える優遇税制や、住宅ローン控除との併用事例をわかりやすく解説します。
目次
住宅の譲渡損失の繰越控除と住宅ローン控除は併用可能
居住用の住宅を売却して譲渡損が出た場合、「マイホームを買い替えた場合の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例」により、所得と譲渡損を損益通算できます。
損益通算とは、給与などの所得と譲渡損を相殺するイメージですが、譲渡損失の繰越控除を使うと最長4年間に渡って所得税や住民税が軽減されます。
また、新たに購入する住宅にも住宅ローン控除が使えるため、併用できれば税負担は劇的に軽くなるでしょう。
ただし、どちらも一定要件をクリアしなければ使えないため、居住期間や住宅の使用状況、物件の種類などを理解しておかなければなりません。
それぞれ次のような要件になっているので、不動産売却を検討中の方は参考にしてください。
譲渡損失の繰越控除とは
不動産の売却は「譲渡」と呼ぶことが一般的であり、自宅を譲渡した場合の利益や損失は以下の計算式で求めます。
- 不動産売却による譲渡所得:譲渡価格-(取得費+諸経費)
結果がマイナスであれば譲渡損失となりますが、譲渡損失の繰越控除を受けると所得との損益通算ができ、控除しきれなかった金額には繰越控除も使えます。
譲渡損失が出た年と、その翌年から3年間は控除が適用されるので、最長4年間は所得税や住民税が安くなります。
譲渡損失の繰越控除を使った例
仮に給与所得者が譲渡損失の繰越控除を受ける場合、還付請求の手続きによって源泉徴収された所得税等が戻ってきます。
たとえば給与所得500万円に対して譲渡損失が1,000万円あれば、所得についても以下のように計算できます。
- 譲渡損失がある場合の給与所得:500万円-1,000万円=▲500万円
すでに年間500万円の所得として源泉徴収されているため、納め過ぎた部分は年末調整によって返還されます。
譲渡する住宅の要件
譲渡損失の繰越控除を利用する場合、譲渡する住宅は以下の要件を満たしている必要があります。
- 2021年12月31日までに譲渡すること
- 居住用の住宅であること
- 居住しなくなった日から3年後の12月31日までに譲渡すること
- 譲渡する年の1月1日時点で所有期間が5年以上あること
- 住宅を解体した場合、売買契約の締結までに賃貸(駐車場棟)に使っていないこと
- 同一生計の親族など、特別な関係にある人への譲渡ではないこと
新たに購入する住宅の要件
買い替え後の住宅が以下の要件を満たしていれば、譲渡損失の繰越控除を利用できます。
- 住宅の床面積が50㎡以上あること
- 以前の住宅を譲渡した年の前年1月1日から、翌年12月31日までに購入すること
- 購入した年の翌年12月31日までに入居、または入居の見込みがあること
- 返済期間10年以上の住宅ローンで購入すること
その他の要件
譲渡損失の繰越控除には以下の要件も必要です。
- 確定申告していること
- 譲渡した年、または前年や前々年に3,000万円特別控除などの特例を使っていないこと
なお、損益通算と繰越控除では提出書類が異なります。
【損益通算の場合】
- 居住用財産の譲渡損失の金額の明細書(確定申告書付表)
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算及び繰越控除の対象となる金額の計算書(租税特別措置法第41条の5用)
- 譲渡した住宅と新たな住宅の謄本や売買契約書の写しなど
- 年末時点での住宅ローンの残高証明書
【繰越控除の場合】
- 損益通算を受けた年分について、一定の書類の添付がある期限内申告書を提出したこと
- 損益通算を受けた年の翌年分から、繰越控除を適用する年分まで連続して申告すること
- 確定申告書に年末時点の住宅ローンの残高証明書を添付すること
住宅ローン控除とは
住宅ローン減税とも呼ばれる制度ですが、正式名を「住宅借入金等特別控除」といい、住宅ローン残高の最大1%を所得税や住民税から控除できる仕組みです。
控除額の計算式は以下のとおりですが、年間最大40万円までの控除が可能であり、長期優良住宅などは控除額が最大50万円になります。
- 住宅ローンの控除額:年末時点の住宅ローン残高×1%
控除の対象期間は13年ですが、もともと10年であった期間が、消費税アップやコロナ禍の影響により延長されたものです。
自宅を買い替えた場合は譲渡損失の繰越控除と併用できますが、購入する物件は次の要件を満たしていなければなりません。
住宅ローン控除の要件
住宅ローン控除は新築物件、中古物件ともに利用できますが、それぞれ以下の要件が必要となります。
【共通する要件】
- 確定申告していること
- 登記上の延床面積が50㎡以上、居住部分の延床面積が建物の1/2以上ある(年間所得1,000万円以下の場合は延床面積が40㎡以上)
【新築住宅の要件】
- 年間の所得合計額が3,000万円以下
- 新築または取得日から6ヶ月以内に入居し、控除を受ける年の12月31日まで住み続けている
【中古住宅の場合】
- 取得日から6ヶ月以内に入居し、控除を受ける年の12月31日まで住み続けている
- 築年数が20年以内であり、マンションなどの耐火建築物は25年以内であること。ただし、新耐震基準の適合住宅など、一定条件を満たせば築年数に関係なく利用可能
- 同一生計となる親族等からの購入や、贈与された住宅ではないこと
2021年度税制改正の注意点
現在の住宅ローン控除は、2021年度の税制改正で13年間に期間延長されています。
基本的には10年間の控除期間なので、13年間の控除を適用するためには以下の要件も必要となります。
- 注文住宅の場合は2021年9月30日までに契約していること
- 分譲住宅や中古住宅、増改築の場合は2021年11月30日までに契約していること
- 2022年12月31日までに入居していること
なお、延長期間の3年間(11~13年目)については、以下2つのうちどちらか低い方が適用されます。
- 住宅ローンの年末残高(上限5,000万円)×1%
- 住宅購入額-消費税(上限5,000万円)×2%÷3
譲渡損失の繰越控除と住宅ローン控除の併用事例
では最後に、譲渡損失の繰越控除と住宅ローンの併用について解説しますが、住宅ローンや譲渡損失については以下の条件とします。
- 年収:800万円
- 譲渡損失:3,500万円
- 新たな住居の住宅ローン:4,000万円
- 1年目:800万円-3,500万円=▲2,700万円(損益通算)
- 2年目:800万円-2,700万円=▲1,900万円(繰越控除)
- 3年目:800万円-1,900万円=▲1,100万円(繰越控除)
- 4年目:800万円-1,100万円=▲300万円(繰越控除はここまで)
- 5年目:800万円-300万円=500万円(住宅ローン控除のスタート)
住宅ローン控除は所得税の還付になるため、所得が発生しておらず、所得税がゼロ円になる1年目~4年目には使えません。
繰越控除可能な4年目を経過し、5年目から住宅ローン控除のスタートとなりますが、控除期間が10年の場合は5年間のみ住宅ローン控除が使えます。
まとめ
不動産の譲渡損失の繰越控除は条件が複雑であり、期限も2021年12月31日であることから、熟慮する期間はほとんどありません。
駆け込み乗車的に買い替えを決めると要件の確認が疎かになってしまうため、専門家を交えた短期集中の決断が必要になるでしょう。
また、住宅ローン控除と併用する場合も、双方のメリットを最大限に活かせるかどうか、何パターンものシミュレーションが必要になります。
人によっては10年間の控除しか使えない状況になっているため、13年間使えると思い込んでいると資金計画にも大きな狂いが生じます。
不動産売却や買い替えの予定がある場合は、なるべく税負担を軽くできるよう、各種控除や特例、税務にも明るい不動産会社に相談するとよいでしょう。