使わない方が有利なことも…事業用の資産を買い換えたときの特例について確認しよう
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個人が自営業を営んでいる場合、また相続によって事業用資産を持つことがあります。
この事業用資産は、買換えの必要があるなどの理由で売却するケースも多くありますが、基本的に高額な資産であることが多いのです。
そのため通常の申告手続きを取ったのでは多額の所得税等が課税されます。
このようなケースに対応するため、所得税法では「事業用資産の買換えの特例」という制度を設けています。
事業用資産の範囲
買換えの特例を受けられる事業用資産とは
この特例を受けるためには、売却した土地や建物等(船舶も対象となりますがこの記事では扱いません)が、事業に使われていたものでなければなりません。
また、一定の期間内に買換えで取得した資産を、一年以内に事業で使うことが要件となります。
事業用資産として認められないもの
以下に掲げる資産は事業用不動産とはされません。
- ①棚卸資産(販売用商品など)
- ②この特例を受けるためだけに、一時的に事業に供したと認められる資産
特例を受けるためのその他の要件
- 1. 譲渡資産と買換え資産が、一定の組合せであること
- 2. 買換え資産が土地等である場合に取得する土地等の面積が、譲渡資産の5倍以内であること(5倍の範囲までは特例を受けることができ、5倍を超える部分は対象となりません)
- 3. 前年中に取得した資産を買換え資産とするためには、取得した年の翌年3月15日までに「先行取得資産に係る買換えの特例に関する届出書」を税務署長に提出すること
- 4. 土地等の譲渡については、原則、譲渡した年の1月1日現在の所有期間が5年を超えていること
- 5. この特例を受ける前に、同じ土地等について他の特例を受けていないこと
- 6. 譲渡資産の譲渡が収用、贈与等でなく、買換え資産の取得が贈与や交換等でないこと
事業用資産の買換えの特例の仕組み
資産の譲渡による所得は、所得税法が区分する所得のうち、分離課税される「譲渡所得」に該当し以下の算式で計算されます(譲渡所得は複雑に分類されますので、詳しくは税理士又は税務署に確認することをお勧めします)。
総収入金額―(※取得費+譲渡費用)=譲渡所得の金額
※建物は減価償却資産であるため、取得費は(取得価額―減価償却費)で計算されます。
土地は値段の変動こそあれ、減価という考え方が存在しないため、取得費=取得価額です。
そして、この特例を受ける買換え資産の取得費は、実際の購入金額ではなく譲渡資産の取得費を引き継ぐため、購入金額に比べてかなり低い金額となります。
つまり、収入に対して費用が少ないため、利益が大きくなります。
ここが事業用資産の買換えの判断に際して一番注意すべき点と言ってよく、以下のようなメリット、デメリットがあります。
事業用資産の買換えの特例のメリット、デメリット
この特例は、一般に「課税の繰り延べ」といわれます。
譲渡資産についての高額な所得税等が非課税となるのではないことに注意が必要です。
例えば、買換え資産が建物の場合には減価償却費が抑えられるため、毎年の事業の利益は大きくなり、将来の税負担が重くなります。
また、買換え資産が土地の場合には土地の取得費が抑えられるため、将来の土地売却時に売却益が大きくなり、税負担が重くなります。
申告手続について
事業用資産の買換えの特例を受けるためには、次の書類を添付して確定申告をする必要があります。
- ①譲渡所得の内訳書
- ②買換え資産の登記事項証明書等、資産の取得を証する書面
(注)買換え資産の取得をする見込みでこの特例を受けた場合には、登記事項証明書等は買換え資産を取得した日から4ヵ月以内に提出する必要があります。 - ③譲渡資産と買換え資産が特例の適用要件とされる地域内にあることを証する、市区町村長等の証明書
まとめ
事業用資産の買換えの特例は、売却益が出た年度の所得税額等を下げる効果がありますが、将来にわたっては納税額が増えていく制度です。
注意していただきたいのは、この特例は確かに便利な制度ですが、譲渡資産及び買換え資産の種類、所有期間、納税者の所得によってかなりの納税額の変動があります。
確定申告の際に慌てないよう、このようなケースがあった場合には早めに税務署や税理士に相談することが重要です。
不動産の相続での相談先については「不動産相続 誰に相談する?」をご参照ください