不動産売却により翌年の住民税が上がるケースと控除について解説
「不動産の売却で翌年の住民税は上がる?」
不動産を売却すると、一定の場合には翌年支払う住民税が上がります。
もっとも、税負担を軽減できる控除の制度も存在するため、うまく活用すれば住民税の負担を減らせます。
この記事では、不動産売却により翌年の住民税が上がるケースと税負担を軽減できる控除について解説しています。
この記事を読むことで、不動産売却と住民税の関係について正しく知ることができます。
目次
住民税とは
「住民税」とは、ある地域に住む住民がその地域社会を維持するためにかかる費用を分担するために市区町村や県などに納める税金です。
住民税は所得税と同じく所得に応じて納める額が決められる税金ですが、所得税が国に納める国税であるのに対し、住民税は市区町村などの地方自治体に納める地方税であるという点で異なります。
不動産売却で翌年の住民税が上がるケース
不動産売却で翌年の住民税が上がるケースとは、不動産売却で利益が出たケースです。
具体的には、譲渡所得が生じて特別控除などを適用してもなお課税対象がある場合に、譲渡所得にかかる税金が生じ、翌年の住民税が上がることとなります。
これに対し、不動産を売却しても譲渡所得が生じなかったり、特別控除の適用により課税対象がゼロになったりした場合には、譲渡所得にかかる税金は発生せず、翌年の住民税は上がりません。
譲渡所得にかかる税金とは
譲渡所得とは、不動産の売却によって生じた利益のことです。譲渡所得は、売却代金などを元に所定の項目を計算していくことによって算出します。
課税対象となる譲渡所得が生じている場合には、譲渡所得にかかる税金を納めなければなりません。
譲渡所得にかかる税金は、所得税と住民税の2つから構成されます。
譲渡所得にかかる税金が生じた場合には、所得税の確定申告をしなければなりません。所得税の確定申告をすれば、住民税については別途申告をする必要はありません。
所得税の確定申告では、自分自身で譲渡所得やそれにかかる所得税の額を計算して申告・納付します。税務署が自動的に計算して課税してくれるわけではありません。
確定申告をして納税しなければ、無申告加算税などのペナルティとしての税金が課せられるおそれがあるなど、不利益が生じます。不動産を売却して利益が出たら、必ず確定申告が必要です。
確定申告の際に自分だけで計算・申告の手続きができないと思ったら、税理士のような専門家に依頼して手続きを代行してもらうこともできます。
譲渡所得にかかる税金の税率
譲渡所得にかかる税金の税率は、不動産の所有期間に応じて2種類に分けられます。
所有期間が5年以下の場合を短期譲渡所得といい、5年超の場合を長期譲渡所得といいます。長期譲渡所得のほうが税率は低く抑えられています。
譲渡所得にかかる税金の税率は、具体的には次のとおりです。
- ・短期譲渡所得:39.63%(所得税:30.63%、住民税:9%)
- ・長期譲渡所得:20.315%(所得税:15.315%、住民税:5%)
譲渡所得にかかる税金の計算方法
譲渡所得にかかる税金は、次の計算式によって計算します。
- ・譲渡所得=譲渡収入-取得費-譲渡費用
- ・課税譲渡所得=譲渡所得-特別控除
- ・税額=課税譲渡所得×税率
「譲渡収入」とは、不動産の売却代金のことです。
「取得費」は、不動産を取得するために要した費用のことです。不動産の購入金額などがこれに該当します。
「譲渡費用」は、不動産を譲渡するために要した費用のことです。不動産の仲介手数料などがこれに該当します。
この式によって計算し、譲渡所得がプラスの場合には、確定申告をしなければなりません。
課税譲渡所得がゼロでも譲渡所得がプラスなら確定申告をしなければならないのであり、課税譲渡所得がプラスの場合にのみ確定申告をするのではありません。
「特別控除」は、税負担を軽減するために政策的に設けられた制度であり、いくつかのものがあります。
特別控除の適用により初めて課税譲渡所得がゼロになるケースでは確定申告をしなければなりませんが、納める税金はゼロになるため納税の必要はありません。
不動産売却の税金の目安を確認したい方はこちら
不動産売却税金計算シミュレーション
不動産売却の住民税はいつ納める?
不動産の売却で住民税が発生した場合にいつ住民税を納めるのかについてご説明します。
不動産売却の住民税は翌年納める
不動産売却の住民税は、売却した年の翌年に納めます。
具体的に何月に納めるのかは、住民税の徴収方法によって異なります。
なお、所得税については確定申告後に所得税の納期限までに納めるものであり、住民税を納める時期とは少しずれます。所得税と住民税は一緒に納めるわけではないので、間違えないようにしましょう。
2種類の住民税の納め方
住民税の納め方には、「普通徴収」と「特別徴収」の2種類があります。
「特別徴収」は、会社員など勤務して給与の支払を受ける者についての納め方です。特別徴収では、まず毎月の給与から住民税が天引きされ、勤務先が天引きした住民税をまとめて代わりに納めます。
特別徴収では、毎月の給与から住民税を天引きの形で支払うため、「自分はこの額の住民税を納めているのだ」という住民税の負担感が少ないことが特徴です。
「普通徴収」は、特別徴収の対象者以外についての納め方です。自営業者などが主な対象となります。
普通徴収では、毎年6月ごろに住民税の納付書が役所から送られてきて、その納付書を用いて一括で、または6月、8月、10月、1月の4回に分けて納めます。
普通徴収での納付方法は、振込みや、役所窓口や銀行窓口での直接支払いなどです。普通徴収では、納期限までに自分で税を納めなければならず、納めるのを忘れると滞納してしまうことになります。納め忘れのないように注意が必要です。
給与に対する住民税については、特別徴収の対象者が普通徴収の方法に切り替えて住民税を納めることはできませんが、譲渡所得に対する住民税は給与と異なり普通徴収を選択して納付することもできます。
特別徴収では勤務先に住民税額が知られることにより不動産を売却したことが分かってしまうこともあり得るため、事情によりそれは避けたいという方は、不動産の譲渡所得に対する住民税については普通徴収を選択するとよいでしょう。
不動産売却の住民税負担を軽減できる控除や制度
不動産売却の住民税負担を軽減できる控除や制度があります。利用には一定の条件を満たす必要がありますが、使える場合には使うことでできる限り納める住民税額を減らせます。
マイホーム売却の3,000万円特別控除の特例
マイホーム(居住用財産)を売却したときは、所有期間がどれだけかに関わらず、最高3,000万円までの部分には譲渡所得が課税されません。
この特別控除の適用を受けるには、所定の条件を満たしていなければなりません。所定の条件には、例えば、次のようなものなどがあります。
- ・現在自分が住んでいる家屋・敷地等を売却すること、または以前住んでいた家屋等であれば住まなくなって3年目の12月31日までに売却すること
- ・売却の前年・前々年にこの特例その他の所定の特例の適用を受けていないこと
- ・売却した年について併用できない他の特例の適用を受けていないこと
- ・売主と買主が親子など特別な関係にないこと
マイホームを売却した場合には、比較的幅広くこの特例の適用を受けることができます。また、最高3,000万円まで課税されなくなるなど税の軽減効果が大きい特例です。
適用を受けられる場合にはぜひ活用したい特別控除の特例であるといえます。
ふるさと納税
ふるさと納税は、自分が選んだ好きな自治体に対して寄付をすることができる制度です。
所定の条件を満たしてふるさと納税をすれば、上限の枠内で所得税・住民税から寄付金額のうち一定額が控除されます。これにより、納める所得税・住民税を減らすことができます。
ふるさと納税の上限枠は、所得に応じて変わります。所得に応じて上限まで寄付をすることで、控除額を増やせます。
ふるさと納税をすれば、寄付先の自治体から返礼品という形でさまざまな品物などをもらうことができます。このため、ふるさと納税は、実質的には返礼品をもらったうえで所得税・住民税への課税額を減らせる制度といえます。
譲渡所得にかかる税金や特別控除について相談できる専門家
譲渡所得にかかる税金や特別控除については、税の専門家である税理士に相談することができます。
税理士に相談・依頼すれば住民税を含めた譲渡所得にかかる税金を詳しく計算してくれます。また、確定申告の手続きも代行してくれます。
確定申告にあたっては、特別控除の適用を受けられないかを判断し、受けられる場合にはそのための手続きもしてくれます。
ご自身だけで正確に税の手続きをすることは難しく、失敗してしまうリスクもあります。また、忙しい中で期限を守って正しく確定申告手続をすることは想像以上に難しいものです。
確定申告手続や特別控除の適用に関して少しでも相談したいと思ったら、まずは税理士に相談してみましょう。
住民税を納められないときにはどうすればいい?
不動産の売却でいつもより多くの住民税がかかってしまい、想像以上に高い住民税を納めることができないというケースがあります。
特に普通徴収の場合には自分で納めない限り住民税を滞納することが可能ですが、住民税を納期限までに納められないときには、決して放置してはいけません。
住民税を滞納すると、延滞金として納める税が追加されます。また、督促・催促の書面が届き続けることとなります。最終的には、預金や不動産などの財産に対して差押えがなされることもあります。
住民税を納期限までに納められない場合には、まずは役所の住民税を担当する窓口まで相談しに行くようにしましょう。役所の窓口で住民税が支払えない事情を詳しく説明して、どのようにすればいいのかを相談します。
役所の窓口で相談すれば、分割払いや納税の猶予について案内をしてくれることがあります。案内に従って申請すれば、分割払いや納税の猶予を受けられることがあります。
また、役所の窓口で事情を説明しておくだけで、何もせずに放置している場合に比べて差押えのような強制的な処分を受ける可能性を少しでも減らすことができます。役所としても、事情を把握しておけば対応がしやすく、なぜ住民税が納められないのかを詳しく相談しておくことは意味のあることです。
さらに、もし生活のためのお金に困っているという事情があれば、生活の困窮を助けてくれる公的な制度などについて案内してくれるかもしれません。
このように、住民税を納めることができない場合には、必ず役所の窓口に相談するようにしましょう。
まとめ:売却益が出ると基本的に翌年の住民税が上がる
不動産の売却により翌年の住民税が上がるケースとは、基本的には売却益が出たケースです。
不動産の売却益に対しては住民税などの譲渡所得にかかる税金が課せられ、売却の翌年に納付しなければなりません。
もっとも、マイホーム売却の3,000万円特別控除など、税負担を軽減できる特例が存在します。所定の条件を満たす場合には、この特別控除を活用することで、納める住民税の負担を減らせます。
譲渡所得にかかる税金の計算や確定申告、特別控除が使えるかどうかの判断などは、税理士のような専門家に任せてきっちりと行うことが大切です。
住民税は売却翌年の支払いなので、住民税が上がってもしっかりと納税できるように準備しておきましょう。