委任状による不動産売却ができるケースとは?書き方も併せて解説
「委任状を使って不動産を売却したい。どのようなケースなら委任状で不動産売却ができる?」
何らかの事情があってご自身では不動産の売却活動ができず、委任状を使って不動産を売却したいというケースがあります。
不動産の売却は、一部のケースを除いて基本的には委任状によってすることもできます。
委任状を使って不動産を売却することで、ご自身で不動産の売却活動を行う負担を減らせます。
この記事では、委任状を使って不動産を売却することができるケースや、不動産売買の委任状の書き方などについてご説明しています。
この記事を読むことで、ご自身のケースでは委任状を使って不動産を売却できるか、委任状を使って不動産を売却する方法、委任状の書き方などが分かり、委任状を使った不動産の売買をスムーズに行うことができます。
目次
不動産の売却における委任状とは
「委任状」とは、ある人が他の人に対して、自己に代わって法律行為(契約等)を行うことを任せたうえで代理権限を与える書面のことです。
任せる側の人を「委任者」(本人)、任せられる側の人を「受任者」(代理人)ともいいます。
不動産の売却においても、委任状は重要な役割を果たします。
不動産の売却において委任状を作成・交付することで、売主が不動産の売買手続に自ら立ち会えない場合などに、代理人に売却手続を代わりに行ってもらえるようになります。
これにより、不動産の売却のために必要な活動を他の人に任せて不動産売却を実現することが可能となります。
委任状の2つの効果
不動産の売却において、委任状には大きく分けて2つの効果があります。
効果1:代理人が行った法律行為の効果が本人に帰属する
本人と代理人との間で委任契約を締結し、本人が代理人に対して代理権を授与することで、代理人が行った法律行為(契約など)の効果が本人に帰属するようになります。
これにより、代理人が契約を締結することで本人が自ら契約を締結したのと同じものとして取り扱われることとなります。
効果2:代理人が代理権限を有することを証明する
委任状は、本人が代理人に対して代理権を授与したことを証明する役割を有する書面です。
法律上は委任状を作成することは代理行為に必須の要件とはされていません。このため、口頭で委任をしても代理権を授与することはできます。
しかし、特に不動産取引においては、実務上は代理権を証明するために必ず委任状が作成されます。
作成された委任状は代理人に交付され、代理人から契約の相手方に示されます。
これにより、契約の相手方はその代理人が本当に代理権限を有しているかどうかを確認し、安心して代理人との間で不動産の売買手続を進めることができるようになります。
不動産の売却で委任状が使えるケース
不動産の売却で委任状が使えるケースはたくさんあります。
不動産の売却で委任状が使えるケースについてご説明します。
ケース1:忙しくて不動産を売却する手続きのための時間が取れないケース
不動産を売却しようとしている本人が忙しく、不動産を売却する手続きのための時間が取れないケースがあります。
不動産を売却するにあたっては、代理人を利用しない限り、さまざまな場面で本人が直接手続きをしなければなりません。
例えば、売買手続の最終局面である決済・引渡しの場には、売主が当事者の一人として直接立ち会わなければなりません。
売主が忙しくてなかなか立会いの日時を設定することができなければ、不動産の売却完了がどんどん遅れてしまいますし、いつまで経っても不動産の売却を完了させることができません。
このような場合には、委任状を作成して代理人を活用することで売主本人が立ち会わなくても売却手続を進めることができます。
ケース2:遠方にある不動産を売却するケース
遠方にある不動産を売却するケースでは、売り出し時点での物件の状態を確認したり物件周辺の環境を確認したりするために、売主が不動産の所在する現地に足を運ぶ必要があります。
また、買主がその遠方の不動産の近くに住んでいる人であれば、買主と直接対面して信頼を獲得するためにそこまで足を運んで買主と会うことが効果的となることもあるでしょう。
このように、遠方にある不動産の現地に行くことには一定の意味があり、現地に全く行けないというのであれば売却準備が十分にできず、不動産の売却活動がうまくいかない可能性が高まります。
遠方にある不動産の現地に売主本人が直接行くとなると負担がかかってしまいうまく対応できないというケースでは、委任状を作成して売却手続を代理人に任せることで、売主の負担を減らすことができます。
ケース3:本人が海外滞在中に不動産を売却するケース
本人が海外滞在中に不動産を売却しようとするケースでは、本人が日本に戻って来ない限り、日本国内で行われる不動産売却手続に参加することが一切できません。
例えば、不動産売買契約書にサインしたり決済に立ち会ったりすることは日本国内で行われることです。
決済への立会いなどが一切できないのであれば、不動産の売却を行うことはできません。
このような場合でも、日本国内にいる者を代理人に選任して委任状を作成・交付して代わりに売却手続を行ってもらえば、本人が海外に滞在したまま不動産の売却手続を進めることができます。
本人が海外に滞在したまま不動産を売却しようとするならば、委任状を作成して代理人に任せることが欠かせないため、積極的に代理人の活用を検討するようにしましょう。
ケース4:共有名義の不動産を売却する場合で共有名義人が複数いるケース
共有名義の不動産を売却するケースでは、不動産の所有者(共有名義人)が複数います。
不動産を売却するにあたって複数いる共有名義人の意向をまとめることは簡単ではありません。
いくらで売却するか、誰に対して売却するかなど、複数の共有名義人の考え方が一致しないことも多く、一致しなければ売却手続を進めることができません。
また、そもそも共有名義人が多くてそれぞれの意向を取りまとめる作業が大変だということもあるでしょう。
このようなケースでは、共有者の中から代表となる者を選び、この者が他の共有名義人から委任状を受け取って売買手続に関する判断を一任してもらうことで、不動産の売却を速やかに進めることが可能となります。
このように、共有名義の不動産を売却するケースでも委任状を使うことは効果的であり、上手に委任状を使うことでスムーズに不動産の売却手続を前に進めることが可能となります。
ケース5:入院などの都合で決済に立ち会えないケース
けがや病気による入院などの都合で、決済に立ち会えないケースがあります。
けがや病気で入院しているからといって、決済などに立ち会わなくてもいいということにはなりません。
必ずご自身で立会いなどの手続きをするか、それができなければ代理人を選んで代わりに手続きを行ってもらう必要があります。
このようなケースでは、委任状を利用して代理人に決済に立ち会ってもらうことで不動産の売却手続を滞りなく進めることができます。
ケース6:弁護士など不動産の専門家に売却手続を任せるケース
売主本人が不動産の売却手続をしようと思えばできるという場合でも、委任状を利用することは有意義です。
不動産の売却手続には専門的な知識が必要であり、売主に有利な判断を適切に行うためには弁護士などの不動産の専門家に売却手続を任せたいというケースがあります。
弁護士などの不動産の専門家に売却手続を任せる場合には、委任状を作成して専門家に不動産売却手続の代理権を与えたうえで、売却のための活動を行ってもらうこととなります。
委任状を利用して専門家に手続きを任せることで、売主本人が不動産売却手続の手間や負担を負う必要がなくなり、専門家の判断の下でより適切に不動産を売却することが可能となります。
不動産の売却で委任状を使うことができないケース
基本的には多くのケースで委任状を用いて不動産の売却手続を進めることができますが、一部には委任状を使うことができないケースもあります。
不動産の売却で委任状を使うことができないケースについてご説明します。
ケース1:本人が成年被後見人や未成年者であるケース
売主本人が成年被後見人や未成年者であるケースでは、本人が委任状を作成して代理人に不動産売却手続を任せることはできません。
これは、成年被後見人や未成年は単独で法律行為を行うことができないからです。
代理権を授与する行為は法律行為であり、成年被後見人や未成年者が単独で行うことはできません。
成年被後見人が売主となる場合には、法定代理人である成年後見人が不動産売却手続を進めます。
この場合、成年後見人が委任状を作成して専門家などを代理人に選任して手続きを依頼することはできます。
未成年者が売主となる場合には、法定代理人である親権者が不動産売却手続を進めます。
親権者も、委任状を作成して専門家などに手続きを依頼することができます。
ケース2:不動産を所有する本人の破産手続が開始しているケース
破産手続が開始すると、一定の処分が許された財産を除き、本人が自由に財産を処分することは基本的にはできません。
このため、不動産を所有する本人の破産手続が開始しているケースでは、本人が委任状を作成して代理人による不動産売却手続を進めることはできません。
不動産の売却で委任状を使うときの注意点
不動産の売却で委任状を使うときには注意しておくとよい点がいくつかあります。
不動産の売却で委任状を使う時の注意点についてご説明します。
注意点1:委任する内容を明確にして代理人の権限を過度に広くしない
委任状では、委任する内容を明確に記載するようにしましょう。
また、代理人の権限を過度に広くしないように留意することも大切です。
委任する内容が明確でなければ、「このような内容は委任していないのに」と思うような内容のことまで代理権に基づいて行われてしまうリスクがあります。
また、代理人の権限を過度に広くすると、やはり思っていたのとは違う行為がなされてしまう可能性があります。
あなたが思っていたとおりの範囲で代理行為がなされるように、委任状では委任する内容を明確にしたうえで代理人の権限は過度に広くしないように注意しましょう。
注意点2:「一切の件」という表現は使用しない
委任事項などを記載するにあたって、「……その他一切の件」などの表現が用いられることがあります。
しかし、このような「一切の件」という表現は委任状を作成するにあたっては使用しないほうが望ましいです。
これは、「一切の件」という表現は具体的に何を指しているのかがはっきりしておらず、委任者が思っていたのとは異なる内容として解釈されるおそれがあるためです。
場合によっては、過度に広い権限を委任したものとして扱われてしまい、あとから「思っていたのと違う」ということにもなりかねません。
必ず具体的な内容を記載して、何が委任事項などに含まれるのかを明確にするように心がけましょう。
注意点3:白紙委任状は使用しない
「白紙委任状」とは、記載事項の一部が空欄になっている委任状のことです。
例えば、委任事項の全部または一部が空欄になっているものや、委任する売却代金の範囲が空欄になっているものなどがあります。
何らかの事情で委任する時点においては委任状の全ての欄を埋めることができないこともあるかもしれません。
しかし、このような白紙委任状はできるかぎり使わないようにするべきです。
白紙委任状の空欄部分は委任を受けた代理人が後で埋めることが予定されていますが、必ずしも代理人が本人の意向どおりに空欄を埋めてくれるとは限りません。
場合によっては、本人にとっては許容できないような内容で白紙委任状の空欄が埋められてしまうこともあります。
こうなると、本人の意思に反した売却活動が行われることにもつながりかねません。
白紙委任状は使わずに、必ず委任状を作成・交付する際には全ての欄を埋めるようにしましょう。
注意点4:委任状への捨印は慎重にする
「捨印」とは、他人に文書の訂正・修正を許す意思を表示するために文書の作成者があらかじめ余白部分に捺印しておくその印影のことです。
委任状にも捨印をすることがあります。もっとも、不動産売買の委任状への捨印は慎重にするべきです。
これは、捨印があることで、委任状を所持している代理人が簡単に委任状の内容を書き換えられることとなり、委任者の本来の意図に沿わない書き換えがなされる可能性があるからです。
特に不動産売買の委任状は、不動産という価値の高い財産の売却を可能とするものです。
委任者の本来の意図に沿わない書き換えがなされると大きな損害が生じたりトラブルになったりする危険があります。
無用なトラブルをできるだけ避けるためにも、不動産売買の委任状にはできるだけ捨印をしないようにするとよいでしょう。
これに対し、代理人が弁護士などの不動産売買の専門家であるケースなど、特に信頼できて判断を委ねられる者が代理人となり、その者に委任状を交付する場合には、その専門家の求めに応じて捨印を押捺しても差し支えないといえます。
捨印を押捺するかどうかは、どこまで代理人を信頼して判断を委ねられるかも考慮しながら、慎重に判断するようにしましょう。
注意点5:委任した日付を記載する
委任した日付は、いつから代理権が発生しているかを明らかにするために重要です。委任した日付がはっきりと記載されていなければ、代理人が行った行為が委任後のものなのかあいまいになってしまい、場合によっては代理人の行為が代理行為として有効に本人に帰属するのかがあらそいになってしまうリスクもあります。
いつ代理権を授与したのかをはっきりさせるためにも、委任状には必ず委任した日付を記載しましょう。
注意点6:委任の期間を記載する
委任の期間は、いつからいつまで代理権があるのかを明らかにするために重要です。
委任の期間を記載していなければ、当初の委任時から相当時間が経っており、もう委任が終了しているつもりの時点になっても、代理人が本人の意図に反して委任状を使用して代理行為をすることが可能です。
本人は委任が終了しているつもりなのに代理人が委任状を使用して代理行為を行ってしまうと、トラブルに発展してしまう可能性があります。また、場合によっては、本人の意思に反して代理行為が有効と判断されてしまうこともあります(このようなことを「表現代理」といいます)。
委任の期間をはっきりと記載して、いつまで代理権があるのか、いつの時点で代理権が消滅するのかを明確にしましょう。
注意点7:実印を押捺して印鑑証明書を添付する
一般的には、委任を有効に成立させるために実印(市区町村の役所に印鑑登録をした印鑑)を押捺して印鑑証明書を添付することは、法律上の要件として必須のものとされているわけではありません。
しかし、不動産売買の委任状は不動産という重要な財産を処分するものであることから、委任状には実印を押捺して印鑑証明書を添付するという慣行があります。
印鑑証明書は、住所地の市区町村の役所で実印の印鑑登録をしたうえで、取得することができます。
不動産仲介会社や買主から求められることもあるため、委任状には必ず実印を押捺し、印鑑証明書も用意して添付するようにしましょう。
注意点8:登記事項証明書に記載されている氏名や住所を正確に記載する
もし委任状に記載されている氏名や住所が、不動産の登記事項証明書などの公的な書類に記載されている氏名や住所と異なっていれば、不動産の所有者が委任状を作成したのかどうかうまく判断できないこともあります。
こうなると、取引がスムーズに進まないことにもなりかねません。
不動産の所有者が委任状を作成したことが分かるように、委任状には不動産の登記事項証明書に記載されている氏名や住所を正確に記載するようにしましょう。
注意点9:取引の相手方には代理人による売買であることを伝える
不動産仲介会社や取引の相手方には、最初にしっかりと代理人による売買であることを伝えましょう。
代理人による売買であることがはっきり伝わっていなければ、不動産の所有者とは無関係の人が不動産を売却しようとしていると思われて、取引がスムーズに進まないこともあります。
注意点10:法定代理人による売却の場合には委任状は不要
不動産の所有者が成年被後見人や未成年者である場合など法定代理人がある場合に、法定代理人が本人のために不動産を売却することを示すためには、委任状は不要です。
委任状は、本人の意思に基づいて委任をする場合の書面であり、法定代理人は本人の意思に基づく代理人ではないからです。このため、委任状を作成する必要はありません。
代わりに、必要に応じて、法定代理人であることを示す書類を用意しましょう。
不動産の売却で使う委任状の書き方
不動産の売却で使う委任状には、主に次のような事項などを記載します。
- ・本人の氏名・住所
- ・代理人の氏名・住所
- ・不動産の売却手続を代理人に委任し売却契約締結権限を代理人に与えること
- ・売却する不動産を特定する事項(所在や地番など)
- ・委任の範囲・代理権限の内容
- ・委任状の有効期間
- ・委任した日付
「委任の範囲・代理権限の内容」としては次のようなものなどがあります。
- ・売却金額
- ・手付金の額
- ・引渡し・残代金支払の時期
- ・違約金の額
- ・所有権移転登記手続の時期
委任状には、これらの事項がはっきりとわかるように記載して作成しましょう。
まとめ:委任状で不動産を売却できるケースはたくさんある
委任状で不動産を売却できるケースは、たくさんあります。
忙しくて不動産売却手続のための時間を取れないケースや、不動産が遠方にあってご自身では直接対応できないケースなど、さまざまなケースで委任状を活用して不動産を売却できます。
このように、不動産を売却する多くのケースでは委任状を用いて売却手続を進めることが可能です。
委任状で不動産を売却することには、代理人に不動産売却の手続きを全て任せたり判断を任せてしまったりできるというメリットがあります。
不動産売却手続のための委任状を作成するにあたっては、委任の期間や委任の範囲・内容など、必要な事項をできるだけ明確かつ詳細に記載することが大切です。
トラブルなく不動産売却手続を委任できるように、注意点を押さえて適切に委任状を作成しましょう。