不動産を売却して赤字だったら確定申告は必要?節税に使える特例も解説
「不動産を売却したところ赤字になってしまう見込みだけれど、赤字の場合でも確定申告は必要なのかな?」
不動産を売却したら確定申告をしなければならないという認識を持っていても、不動産を売却して赤字だった場合にも確定申告をしなければならないのかどうかはよく分からないという方も多いかもしれません。
不動産を売却して赤字だった場合には、確定申告をする義務はありません。
しかし、赤字の不動産売却の場合でも任意に確定申告をすることはでき、確定申告をすることで納める税金を減らせるケースもあります。納める税金を減らせるケースでは、積極的に確定申告をすることがおすすめです。
この記事では、不動産を売却して赤字だった場合に確定申告が必要かどうかということや、赤字の不動産売却について確定申告をするメリット、赤字の確定申告の注意点などについて解説しています。
この記事を読むことで、赤字の不動産売却について確定申告をするべきかどうかについての基本的な考え方が分かります。
不動産を売却して赤字になったかどうかの判断方法
確定申告の前提として、まずは不動産を売却して利益が出ているのか赤字なのかを判断しなければなりません。
不動産を売却して赤字になるということは、譲渡所得を計算した結果がマイナスになるということです。譲渡所得がマイナスになることを、「譲渡損失の金額が生じる」とも表現します。
このことについてご説明します。
譲渡所得の計算方法
不動産を売却して得た利益(譲渡所得)に対しては、譲渡所得にかかる税金(所得税・住民税)が課せられます。
不動産を売却したときの譲渡所得にかかる税金は、給与所得や事業所得などの他の所得と分けて計算します。このことを「分離課税」といいます。
譲渡所得や譲渡所得にかかる税金は、次の計算式によって算出します。
- 譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用
- 課税譲渡所得=譲渡所得-特別控除
- 譲渡所得にかかる税金=課税譲渡所得×税率
「収入金額」とは、不動産を売却した対価として買主から受け取る金額のことです。
「取得費」とは、売却した不動産の購入代金など、不動産の取得のために要した費用に、設備費・改良費を加えたもののことです。
「譲渡費用」とは、不動産売却の際の仲介手数料など、不動産を売却するために要した費用のことです。
例えば、不動産の売却代金が1,000万円である一方、その不動産を購入した当時の購入代金が3,000万円だったとすると、譲渡所得は計算上マイナスであって不動産の売却結果が赤字だったということになります。
譲渡所得がプラスの場合には必ず確定申告が必要
譲渡所得を計算した結果がプラスであれば、確定申告が必要です。
確定申告をしたうえで、計算結果に応じて譲渡所得にかかる税金(所得税・住民税)を納めなければなりません。
なお、譲渡所得がプラスであるかどうかは、特別控除を差し引く前の数字で判断しなければならないことに注意が必要です。先ほどの計算式における課税譲渡所得ではなく譲渡所得に着目しなければなりません。
特別控除を差し引く前は譲渡所得がプラスだったものの、特別控除を差し引くことで課税譲渡所得がマイナスになるというケースでは、確定申告をする義務があります。
譲渡所得に関する3つの特別控除
「特別控除」とは、特別控除の種類ごとに定められた要件を満たした場合に、一定の額を所得から差し引いて税額を計算できる制度のことです。特別控除は政策的に設けられたものであり、特定の場合に税金の額が高くなりすぎないようにする役割があります。
不動産を売却したときの譲渡所得に関する特別控除には、次の3つがあります。
- ・マイホーム(居住用財産)を売却したときの長期譲渡所得の軽減税率の特例
- ・マイホームを売却したときの3,000万円の特別控除の特例
- ・特定のマイホームを買い換えたときの特例
これらはいずれもマイホーム(居住用財産)を売却・買換えしたときの特例です。居住用ではない投資用物件を売却する場合には使えません。
不動産を売却して赤字だった場合に確定申告は必要?
不動産の売却により譲渡所得が生じた場合(黒字だった場合)には、必ず確定申告が必要です。これは、黒字の場合には基本的に税金を納めなければならないからです。
これに対し、不動産を売却して赤字だった場合(譲渡所得が計算上マイナスだった場合)には、必ず確定申告をしなければならないという義務はありません。赤字になったことを自分で確認したうえで確定申告をしないでいることもできます。
もっとも、不動産を売却して赤字だった場合の確定申告が禁止されているわけではなく、任意で確定申告をすることもできます。
不動産を売却して赤字だった場合に確定申告をすることには、いくつかのメリットがあります。赤字の場合の確定申告によるメリットも踏まえつつ、確定申告をするかどうかを判断することが大切です。
不動産を売却して赤字だった場合に確定申告をする2つのメリット
不動産を売却して赤字だった場合に確定申告をすることには、いくつかのメリットがあります。
メリット1:一定の場合には損益通算により納める所得税・住民税を減らせる
「損益通算」とは、ある所得における損失と別のある所得における利益とを相殺して利益から損失を差し引くことをいいます。損益通算をすることにより、課税対象となる利益を減らすことができるので、結果的に納める税額は少なくなります。
もっとも、譲渡所得のマイナス(譲渡損失)は、基本的には事業所得や給与所得など他の所得と損益通算することができず、一定の要件を満たす場合に特定の損失に限って行うことができます。この損益通算ができるようになる要件については、後で詳しくご説明します。
メリット2:一定の場合には譲渡損失の繰越控除が使える
一定の要件を満たす場合には、譲渡損失の繰越控除をすることができます。
「繰越控除」とは、不動産を売却した年に事業所得や給与所得など他の所得との損益通算を行ってもなお控除しきれない損失の金額について、その売却の年の翌年以後3年にわたり繰り越して控除することができることをいいます。
譲渡損失の繰越控除ができるようになる要件についても、この次に詳しくご説明します。
不動産を売却して赤字だった場合に損益通算と繰越控除が使えるケース
先ほどご説明したとおり、不動産を売却して赤字だった場合に譲渡損失についての損益通算と繰越控除を使うためには、所定のケースに該当する必要があります。
なお、これからご紹介する特例の要件は主なものを挙げたものであり、ほかにも検討しなければならない要件はあります。実際に特例の適用を受けられるかどうかの判断には専門的な知識が必要であるため、特例の適用を受けようとする場合には、税理士や税務を取り扱う弁護士といった税の専門家に相談することをおすすめします。
ケース1:マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
マイホーム(居住用財産)を2025年12月31日までに売却し、新たにマイホームを購入した場合に、譲渡損失が生じたときは、一定の要件を満たせばその譲渡損失をその年の給与所得や事業所得など他の所得から差し引いて損益通算することができます。
また、損益通算を行っても控除しきれなかった譲渡損失は、売却した年の翌年以後3年間にわたって繰り越して控除をすること(繰越控除)ができます。
なお、2024年5月現在、特例の対象期間は2025年12月31日までですが、この対象期間は延長される可能性があります。
特例の適用を受けるための要件には、主に次のものなどがあります。
- 特例の適用を受ける年の合計所得金額が3,000万円を超えていないこと
- 所有期間が5年を超えるマイホームを売却すること
- 売却の年の前年の1月1日から売却の年の翌年12月31日までの間に新しいマイホームを購入すること
- 購入する新しいマイホームの床面積が50平方メートル以上であること
- 購入した年の翌年12月31日までに新しいマイホームに住み始めること
- 新しいマイホームについて償還期間10年以上の住宅ローンがあること
ケース2:特定のマイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例
特定のマイホームを売却して譲渡損失が生じた場合に、損益通算や繰越控除を受けられる特例の適用を受けられる条件を満たすときは、新たなマイホームを購入しない場合であっても損益通算や繰越控除をすることができます。
「特定のマイホーム」とは、2025年12月31日までに住宅ローンが残っているマイホームのことです(この対象期間も延長される可能性があります)。
住宅ローンが残っているマイホームを住宅ローンの残高を下回る価額で売却して譲渡損失が生じたときは、一定の要件を満たす限り、損益通算および繰越控除の適用を受けることができます。
特例の適用を受けるための要件には、主に次のものなどがあります。
- 自分が住んでいるマイホームを売却すること(以前住んでいたマイホームであれば住まなくなった日から3年後の年の12月31日までに売却すること)
- 所有期間が5年を超えるマイホームを売却すること
- 売却したマイホームの売買契約日前日においてそのマイホームについての償還期間10年以上の住宅ローンの残高があること
- マイホームの売却価額が残っている住宅ローンの残高を下回っていること
不動産を売却して赤字だった場合の確定申告の注意点
不動産を売却して赤字だった場合に確定申告をすることに関しては、いくつかの注意点があります。
注意点1:事業として貸し付けている不動産や日常的に居住していない別邸については特例の適用を受けられない
不動産の売却で赤字が出た場合に確定申告をして損益通算や繰越控除の特例の適用を受けるにあたっては、不動産が特例の対象であることを確認することが必要です。
次のような不動産は、特例の対象となりません。
- 事業として貸し付けるための不動産
- 投資目的で保有しており自分で住んでいない不動産
- 別邸・別荘・セカンドハウスなど日常的に居住しているものではない不動産
- 法人が所有・売却する不動産
- 国外にある不動産
例えば、中古一戸建て不動産投資を事業として行っている個人が他人に事業として貸しているその中古一戸建てを売却する場合には、損益通算や繰越控除の特例の適用を受けることはできません。
また、特例の適用対象となるのはメインの住居としてそこに住んでいる家屋・土地であって1か所だけに限られるので、メインの住居として住んでいる家屋・土地以外の別邸・別荘・セカンドハウスなどを売却する場合には、たとえ他人に貸すなどしておらず自分しか住まない物件であっても特例適用の対象外です。
特例適用の対象となるのは個人なので、法人が所有・売却する不動産も特例適用の対象外です。このため、たとえその法人の株主や役員が自分ひとりだけであって実質的には個人の不動産売却と変わらないように見える場合であっても、その法人が所有・売却する不動産については、ご自身が損益通算や繰越控除の特例の適用を受けることはできません。
特例の適用対象となるマイホーム(居住用財産)は、主に次のものなどです。
- 不動産を売却する個人が現に住むために使っている家屋
- 不動産を売却する個人が過去に住むために使っていた家屋(住まなくなってから3年後の年の12月31日までに売却されるものに限る)
- これらの家屋の敷地として使われている土地
- 個人が住むために使っていた家屋が災害により滅失した場合において、家屋を引き続き所有していたとすれば所有期間が5年を超えることとなるその家屋の敷地(災害の日または住まなくなった日から3年後の年の12月31日までに売却するものに限る)
例えば、ご自身が自宅として居住してる建物はもちろん、その敷地も特例適用の対象となる不動産に該当します。
また、引っ越しなどで住まなくなった後でも、約3年以内に売却するのであれば、その家屋・敷地は特例適用の対象となる不動産です。
さらに、例えば、地震で自分が12年間所有して住んでいた家屋が全壊してしまい、地震の1年後に転居のためその敷地を売却する場合には、災害による滅失のケースの要件を満たすため、売却するその敷地は特例適用の対象となる不動産です。
注意点2:特別控除の適用によって初めて課税譲渡所得がマイナスになる場合には確定申告が必要
譲渡所得を計算する段階で譲渡所得がマイナスになる(赤字になる)ケースでは、確定申告をする必要はありません。
しかし、譲渡所得そのものはプラスであり、特別控除の適用を受けることによって初めて課税譲渡所得がマイナスになるというケースでは、譲渡所得自体は黒字であって確定申告をしなければなりません。
特別控除は、確定申告をすることで初めて適用されるものであり、確定申告をしない段階では特別控除の適用を受けることができていないものとして扱われるからです。
譲渡所得の計算上、どの段階で赤字になっていることが必要なのかをしっかりと意識して、確定申告が必要かどうかを判断するようにしましょう。
不動産を赤字で売却した後に確定申告を行う流れ
不動産を売却したものの赤字だった場合に確定申告を行う流れについてご説明します。
確定申告を行う期間を確認する
譲渡所得の確定申告は、資産を譲渡した日の属する年の翌年の2月16日から3月15日までの間に行います。
例えば、2024年6月1日に不動産の売買契約を締結して同日引渡しをした場合には、この不動産売却に関する確定申告は2025年2月16日から3月15日までの間に行います。
「資産を譲渡した日」とは、原則として、売買契約等に基づいて不動産を買主に引き渡した日のことです。もっとも、売買契約等の効力発生日(基本的には契約を締結した日)をもって「資産を譲渡した日」とし、確定申告をすることもできます。
例えば、2024年12月24日に不動産の売買契約を締結し、2025年1月5日に不動産を引き渡した場合には、原則として2026年2月16日から3月15日までに確定申告をしますが、2025年2月16日から3月15日までに確定申告をすることも許されます。
このように、不動産の売買契約締結日と引渡し日が年をまたいでいる場合には確定申告をする年を選択することができるので、その他の事情を考慮して自己に有利なほうを選んで確定申告をすることも可能です。
なお、損益通算の結果として納めすぎた所得税が還付される場合には「還付申告」となり、不動産を譲渡した年の翌年1月1日から申告をすることができます。
還付申告となる場合も、申告の手順は基本的には変わりません。
必要書類を準備する
確定申告の必要書類を準備します。
必要書類には、確定申告書とそれに添付して提出する書類があります。
赤字の確定申告をする場合とは基本的には特例の適用を受けようとする場合であり、所定の必要書類を添付しなければなりません。添付しなければならない書類はたくさんあり、準備に時間がかかることもあるので、できるだけ早めに準備に取り掛かるようにしましょう。
マイホームを買い換えた場合の譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例を受けようとする場合
この特例の適用を受けるためには、譲渡損失が生じた年の分の所得税について確定申告を行う必要があります。
また、確定申告書には、この特例の適用を受けようとすることが記載されていなければなりません。
確定申告書には次の書類全てを添付して提出しなければなりません。
- 居住用財産(マイホーム)の譲渡損失の金額を明らかにするための明細書(確定申告付表)
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の対象となる金額を明らかにするための計算書
- 譲渡資産(売却した不動産)についての登記事項証明書、売買契約書の写しその他これらに類する書類であって、譲渡した年の1月1日時点で譲渡資産の所有期間が5年を超えること、および譲渡資産に土地等が含まれている場合のその面積を明らかにするもの
- 買換資産(新たに買った不動産)についての登記事項証明書、売買契約書の写しその他これらに類する書類であって、買換資産を取得したことおよび取得の年月日、家屋の居住用部分の床面積が50平方メートル以上であることを明らかにするもの
- 取得した買換資産についての住宅ローンの残高証明書
- 〔確定申告書提出日までに買い換え後の建物に住んでいない場合〕その旨および住み始める予定年月日その他の事項を記載した書面
差し引ききれない損失があって繰越控除の特例の適用を受けるためには、譲渡損失が生じた年の分の確定申告を行うことに加えて、その後の年分についても連続して確定申告書を提出しなければなりません。
また、その際の確定申告では次の書類を添付しなければなりません。
- 繰越控除の特例の適用を受けようとする各年の12月31日時点での買換資産についての住宅ローンの残高証明書
- 通算後の譲渡損失の金額およびどのようにその金額を計算したかなど参考となる事項を記載した明細書
特定のマイホームの譲渡損失の損益通算および繰越控除の特例を受けようとする場合
この特例の適用を受けるためには、譲渡損失が生じた年の分の所得税について確定申告を行う必要があります。
また、確定申告書にこの特例の適用を受けようとすることが記載されていなければならないことや、確定申告書に所定の書類全てを添付して提出しなければならないことについては、ここまでと同様です。
提出しなければならない書類は、次のとおりです。
- 居住用財産の譲渡損失の金額を明らかにする明細書
- 居住用財産の譲渡損失の損益通算および繰越控除の対象となる金額を明らかにする計算書
- 売却した居住用財産に関する登記事項証明書や売買契約書の写しなどで所有期間が5年を超えることを明らかにする書類
- 譲渡資産についての住宅ローン等の残高証明書(売買契約日の前日のもの)
差し引ききれない損失があって繰越控除の特例の適用を受けるためには、次のことが必要です。
- 譲渡損失が生じた年分について、必要書類全ての添付がある確定申告書を期限内に提出していること
- 譲渡損失が生じた年分の翌年から繰越控除を適用する年分まで連続して確定申告書を提出すること
確定申告の書類を提出する
確定申告の書類は、所轄の税務署に提出します。
提出方法には、次の3つがあります。
- 書類を受付窓口まで直接持参する
- 書類を郵送する
- e-Tax(国税電子申告・納税システム)を利用して自宅から電子申告する
自営業の方のように毎年確定申告をしなければならない人は、e-Taxでの提出ができるようにしておくと便利です。税務署の窓口は平日しか開いておらず、混雑していることも多いので、e-Taxを使えば窓口に並ぶことなく自宅から確定申告の手続きをすることができます。
e-Taxでの確定申告をするためには、あらかじめ所定の手続きが必要です。
還付金を受け取る
申告の結果として税の還付を受けることができる場合には、申告書に記載した金融機関の口座に還付金が振り込まれます。
還付金が振り込まれるまでの期間は、窓口への申告書類の直接提出や郵送提出の場合には、申告の時からおおむね1か月~1か月半程度です。これに対し、e-Tax(電子申告)により還付申告が提出された場合には、3週間程度を目安として還付金が振り込まれます。e-Taxのほうが還付までの期間が短くなる傾向にあるので、この点でもe-Taxを利用して電子申告する意義があります。
以上のことに対し、申告内容に誤りなどがあって申告書を提出し直さなければならない場合や、特に申告書の提出が集中していて税務署内での事務処理に時間がかかってしまう時期などには、これらの期間内に還付金の振込みがなされないこともあります。あくまでも目安として考えるようにしましょう。
確定申告を税理士に依頼するメリットとデメリット
「赤字の不動産売却について確定申告をしようと思うけれど、自分でできないかな。それとも税理士に依頼したほうがいいのかな?」
確定申告は、ご自分で行うという選択肢もありますが、税の専門家である税理士に依頼して行うという方も多くいます。
簡単な申告であれば、ご自分だけで行うこともできるでしょう。もっとも、どのような申告であれば自分でできる簡単な申告といえるのかは人によるため、税理士に依頼するメリットとデメリットを踏まえて判断するとよりよいといえます。
赤字の不動産売却の確定申告は、損益通算や繰越控除の特例の適用を受けるために行うことが一般的です。そして、特例の適用のためにはさまざまな要件を検討したり添付書類を準備したりする必要があることに注意が必要です。
このような特例の適用がある確定申告が、税理士に依頼するまでもない簡単な申告といえるのかは、慎重に考える必要があります。
ここからは、確定申告を税理士に依頼するメリットとデメリットをご説明します。
メリット1:手続きを全て税理士に任せて確定申告の手間と時間を減らせる
確定申告を税理士に依頼すれば、書類の作成や提出などの手続きを全て税理士に任せることができます。手続きを全て任せれば、あなたが何か事務処理をしなければならないということは基本的にありません。
あなたが確定申告に不慣れであれば、どのような書類を用意してどのように記入・作成するのかなどをひとつひとつ調べなければなりません。正しい情報を見極める必要もありますし、分からないことがあっても誰かに質問することは基本的にはできません。このため、自分で確定申告の手続きを行うには大変な手間と時間がかかってしまいます。
税理士に確定申告の手続きを任せてしまうことで、あなたは基本的に何もしなくてよくなるので、確定申告にかかる手間と時間を減らすことができます。
メリット2:税に関する正確な知識に基づいて特別控除や特例が適用できるか判断してくれる
税理士は税の専門家であり、正確な知識を持っています。
あなたのケースでどのような特別控除や特例が適用できるかを正しく見分けるには、税に関する専門的な知識が欠かせません。
もしあなたが自分で確定申告をしようとすれば、特別控除や特例の適用のための要件をひとつひとつ検討し、判断しなければなりません。要件の中には理解・判断が難しいものもあり、十分な知識がなければ判断を誤ってしまうリスクもあります。
税理士であれば、特別控除や特例が適用できるかもしれないという場合には、そのことを漏らさずアドバイスしてくれます。また、税の専門家としての正しい知識に基づいて、特別控除や特例の適用のための要件に該当するかを正確に判断してくれます。
正しい判断に基づいて特別控除や特例の適用に漏れがなくなることは、税理士に確定申告を依頼する大きなメリットのひとつです。
デメリット:申告内容にかかわらず報酬を支払う必要がある
確定申告を税理士に依頼するデメリットは、報酬を支払う必要があるということです。たとえ簡単な申告であり、あなたが自分で行えるようなものであっても、税理士に依頼すれば相応の報酬を支払わなければなりません。
もっとも、確定申告が自分で行えるかどうかの判断は難しく、結果的には簡単に見えたとしても自分だけで行った場合に同じように簡単にできたかどうかは分からないということには注意が必要です。
不動産を売却した場合の確定申告を税理士に依頼する場合の報酬の相場は、一般的にはおおむね10万円~20万円程度です。もっとも、申告にかかる手間や書類の量などに応じて、この幅より増減されることもあります。
実際に必要となる税理士報酬がいくらであるのかは、税理士に相談した際に見積もりを出してくれることが一般的です。報酬に関して少しでも疑問があれば、しっかりと確認するようにしましょう。
まとめ:不動産を売却して赤字になった場合でも確定申告をするメリットはある
不動産を売却して赤字になった場合には確定申告をする義務はないというのが原則です。
しかし、不動産を売却して赤字だった場合でも、確定申告をすることで、一定の要件を満たせば損益通算や繰越控除が可能になるというメリットがあります。損益通算や繰越控除は納める税金の額を減らせる制度であり、使えるのであればできるだけ使いたい制度です。
赤字の不動産売却の確定申告は、ここまでにご紹介した特例の適用などを求めて行うのが一般的であり、用意しなければならない書類が多くあります。このため、ご自分だけで手続きを進めることは難しいことも多くあります。
ご自分で確定申告の手続きを進めることが難しいという場合には、手続きを税理士に依頼して代わりに行ってもらうという方法もあります。
確定申告を税理士に代行してもらえば、あなたは基本的に何も手続きをしなくても済むため手間と時間が減らせたり、税の専門家である税理士の知識により特例の適用などについて正確な判断をしてもらえたりするなどのメリットがあります。
不動産を売却したものの赤字だった場合には、まずは税理士などの専門家に相談してみるようにしましょう。あなたの場合にあわせて、確定申告をするべきかどうか、どのような手続きを取るべきかなど、適切なアドバイスをしてくれます。
また、実際に赤字の不動産売却について確定申告をすることになったら、税の専門家である税理士に依頼して確定申告の手続きを代行してもらうようにしましょう。
執筆者:弁護士 岡島 賢太
経歴: 東京大学文学部卒業(中国語・中国文化専攻)。出版社にて書籍編集者、新聞社にて校閲記者として勤務し、最高裁判所における司法修習を経て、弁護士(第二東京弁護士会所属)。