不動産の売却・贈与・相続の違いとは?法律と税のルールを解説
「不動産の売却・贈与・相続の違いにはそれぞれどのようなものがあるんだろう?法律や税のルールが知りたい!」
不動産を売却したり贈与したりしようとすると、それぞれの違いが気になりますよね。売却と贈与が違うということはなんとなく分かっていても、詳しい違いについてはうまく説明できないという方もいるでしょう。また、売却・贈与と相続との違いについても合わせて押さえておくとよりよく理解ができるはずです。
このほかにも、不動産を売却・贈与したり相続したりすると、それぞれについてかかる税金の種類や計算方法も変わってきます。税金を納めないままでいるとペナルティが課せられることもあるので、それぞれの場合でどのような税金がかかるのかを知っておくことも重要です。
この記事では、不動産の売却・贈与・相続の違いや、それぞれの法律と税のルールについて解説しています。
この記事でわかること
- 不動産の売却・贈与・相続の違い
- 法律と税のルールについて
目次
不動産の「売却」と「贈与」の違いとは
不動産の「売却」と「贈与」の違いについてご説明します。
「売却」と「贈与」の意義
不動産の「売却」とは、売買契約を締結して不動産を有償で譲り渡すことをいいます。
これに対して、不動産の「贈与」とは、贈与契約を締結して不動産を無償で譲り渡すことをいいます。
売買契約は民法555条以下にそのルールが定められているのに対して、贈与契約は民法549条以下にそのルールが定められています。
このように、不動産の売却と贈与は契約の種類やルールを定めた条文が異なります。
このことに関連して、不動産の売却と贈与には次のような違いもあります。
違い1:不動産の売却と贈与の最も基本的な違いは「対価」の有無
不動産の売却と贈与の最も基本的な違いは、「対価」の有無です。
不動産を売却した場合には、必ず不動産の対価(代金)が支払われます。
これに対して、不動産を贈与した場合には、基本的には不動産の対価が支払われることはありません。
違い2:不動産の売却と贈与は手続きの流れも異なる
不動産の売却と贈与は、手続きの流れも異なります。
不動産を売却する場合には、売却しようと決めた段階では誰に売却するのかが決まっていないことも多くあります。一般的には、売主が不動産会社と媒介契約を締結して買い手との間の仲介を依頼したうえで、販売活動を行ってもらって買い手を見つけ、買い手との間で売買契約の締結や残金決済・引渡しといった売却手続きを行います。
これに対し、不動産を贈与する場合には具体的に誰に不動産を贈与するのか決まっていることが一般的で、不動産会社に仲介を依頼するのではなく個人間のやり取りで贈与手続きを進めることも多くあります。
違い3:不動産の売却と贈与ではかかる税金と支払義務者が異なる
不動産の売却と贈与では、かかる税金と支払義務者が異なります。
不動産の売却では不動産を売却した側に対して「譲渡所得税」がかかります。一方、不動産の贈与では不動産の贈与を受けた側に「贈与税」がかかります。
譲渡所得税と贈与税は税率や計算方法が全く異なるため、自分の場合にはどちらの税金がかかるのかをしっかりと意識して対応することが必要です。
なお、不動産を相場より著しく低い価格で売却した場合には、形式的には不動産の売却であるために贈与税がかかる場面ではないようにも見えます。しかし、相場より著しく低い価格での売却は実質的には贈与と変わらないともいえるため、買主は不動産の時価と売却価格との差額について贈与を受けたものとみなされて贈与税の支払義務を負うことがあります。
このような相場より著しい価格での不動産の売却のことを「低廉売買(低廉譲渡)」といいます。
不動産の売却が低廉売買に該当すると判断されると買主が贈与税の支払義務を負うため、注意が必要です。
不動産の売却・贈与と「相続」との違いとは
不動産は、売却や贈与のほかに「相続」によって取得されることもあります。
不動産の売却・贈与と「相続」との違いについてご説明します。
「相続」の意義
「相続」とは、亡くなった方(被相続人)の遺した財産(遺産)を受け継ぐ資格のある人(相続人)が、その遺産を受け継ぐことをいいます。
売却・贈与と相続との違いには、次のようなものがあります。
違い1:売却・贈与は契約によって行われるが相続は被相続人の死亡によって開始する
相続は、売却や贈与と異なり、契約によって財産が移転するのではなく被相続人の死亡という事実によって財産が移転します。
これにより、売却や贈与はその当事者がいつ不動産を移転させるのか自由に決めることができる一方、相続は不動産の移転時期を自由に決めることは基本的にはできません。
違い2:相続では遺言書で指定しなければ不動産を受け継ぐ人を指定できない
売却や贈与は、契約によってなされるものであり、売主・贈与者が誰を買主・受贈者にするのか自由に決めることができます。
これに対して、相続では遺産を受け継ぐ相続人が誰なのかが民法で決められており、相続人以外の人が相続によって遺産を受け継ぐことは基本的にはありません。
ただし、相続の場合でも被相続人が有効な遺言を遺している場合には、基本的には遺言に従って遺産が分割されるため、遺言で不動産を受け継ぐ人を指定することは可能です。
違い3:不動産の相続でかかる税金は売却・贈与でかかる税金とは異なる
不動産の相続では、相続によって遺産を得た相続人に対して「相続税」がかかります。
これに対して、売却の場合には売主に対して譲渡所得税がかかり、贈与の場合には贈与を受けた者に対して贈与税がかかります。
このように、不動産の相続でかかる税金は売却や贈与でかかる税金とは異なります。
不動産の売却・贈与・相続でかかる税金の種類と税率、計算方法
不動産の売却・贈与・相続でかかる税金の種類と税率、計算方法についてご説明します。
不動産の「売却」でかかる税金の種類と税率、計算方法
不動産を売却すると、売却した人は譲渡所得税を納めなければなりません。
不動産の売却でかかる譲渡所得税の税率は次のとおりです(実際にはこの所得税に加えて復興特別所得税がかかります)。
- 長期譲渡所得:15%(所得税)、5%(住民税)
- 短期譲渡所得:30%(所得税)、9%(住民税)
このように、譲渡所得税の税率は「長期譲渡所得」か「短期譲渡所得」かで変わります。
不動産を売却した年の1月1日時点でその不動産の所有期間が5年超である場合には長期譲渡所得となり、5年以下である場合には短期譲渡所得となります。
譲渡所得税の計算式は、次のとおりです。
- 譲渡所得=譲渡収入金額―取得費―譲渡費用
- 譲渡所得税額=譲渡所得×税率
なお、譲渡所得に関する控除の適用を受けることができる場合には、譲渡所得の額から控除額を引いた額が課税対象となります。
譲渡収入金額とは、基本的には不動産の売却代金のことです。
取得費とは、不動産の購入にかかった代金や費用の合計であり、不動産が建物である場合にはさらに建物の減価償却費を差し引きます。ただし、取得費が不明である場合などには「譲渡収入金額×5%」を代わりに取得費とみなして使用することができます。
譲渡費用とは、仲介手数料や印紙代など売却するために直接かかった費用のことです。
例えば、土地を3,000万円で購入し、20年所有した後に3,500万円で売却した場合には、譲渡所得税額は次のとおりとなります(ここでは譲渡費用はゼロとして考えます)。
- 譲渡所得税額=(3,500万―3,000万円)×(15%+5%)=100万円
不動産の「贈与」でかかる税金の種類と税率、計算方法
不動産を贈与すると、贈与を受けた人は贈与税を納めなければなりません。
贈与税の税率は、基礎控除後の課税価格に応じて10%~55%です。
贈与税は、贈与財産の価額から基礎控除である110万円を差し引き、税率を掛けてから税の控除額を差し引いて具体的な税額を算出します。
贈与税の税率は、直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受けた場合(特例贈与財産用)とそれ以外の場合(一般贈与財産用)とで異なります。直系尊属(父母や祖父母など)から贈与を受けた場合のほうが納める贈与税の額が少なくなります。
例えば、直系尊属以外の親族や他人から贈与を受けた場合の贈与税の計算は、次のようになります。
【贈与財産の価額が1,000万円の場合】
基礎控除後の課税価格:1,000万円―110万円=890万円
贈与税額:890万円×40%―125万円=231万円
不動産の「相続」でかかる税金の種類と税率、計算方法
不動産の相続があった場合には、相続税を納めなければなりません。
相続税は、受け継いだ遺産の価額が基礎控除額を超えている場合に納める義務があります。
基礎控除額は、次の計算式によって算出します。
- 基礎控除額=3,000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人が1人だけのときは、受け継いだ遺産の価額が3,600万円を超えている場合に初めて相続税を納める義務が発生するということになります。
相続税の税率は、法定相続分に応ずる取得金額に対応して10%~55%の範囲内で決まります。取得する遺産の額が大きくなればなるほど税率は高くなります。
不動産を売却するときの注意点
不動産を売却するときの注意点についてご説明します。
注意点1:不動産の売却条件をしっかりと確認する
不動産を売却するにあたっては、売却条件をしっかりと確認しましょう。
最低限いくらで売却したいのかということや、どのようなスケジュールで売却したいのか、いつまでに売却を完了させたいのかなど、条件を明確にしておくことが大切です。
これらのことがはっきりと決まっていなければ、購入希望者からの値引き交渉にどこまで対応するのかがあいまいになってしまったり、売却完了までのスケジュールが必要以上に伸びてしまったりするなど、うまく不動産の売却を行えない可能性があります。
不動産の売却条件は、不動産を売り出すにあたって最初にしっかりと決めておくようにしましょう。
注意点2:不動産の所有期間が短いとかかる税率が高くなる
不動産の所有期間が短いと、譲渡所得税の税率が高くなります。
すでにご説明したとおり、不動産の所有期間が5年超であれば長期譲渡所得、5年未満であれば短期譲渡所得に該当し、短期譲渡所得は長期譲渡所得と比べて税率が高く設定されています。
不動産の所有期間を確認し、ご自身のケースで適用される譲渡所得税の税率を確認しておくようにしましょう。
注意点3:不動産の売却によって利益が出た場合には確定申告をして納税する
不動産の売却によって利益が出た場合には、確定申告をして納税をしなければなりません。不動産の売却で利益が出た場合には譲渡所得税を納める義務があります。
不動産を売却するにあたってはさまざまな作業をしなければならず、あわただしくてつい納税のことは忘れてしまうかもしれません。しかし、納税の義務があるのに税の申告・納付を忘れてしまうと、後からペナルティとしての税が課せられるおそれがあるなど、大きなリスクがあります。
不動産の売却で利益が出たら納税しなければならないということをしっかりと覚えておき、必要に応じて申告・納税を行うようにしましょう。
不動産を贈与するときの注意点
不動産を贈与するときの注意点についてご説明します。
注意点1:贈与契約書を作成する
不動産を贈与するときには、必ず贈与契約書を作成するようにしましょう。
贈与契約書を作成することには、次のようなメリットがあります。
- 不動産の所有権をめぐるトラブルを防ぐことができる
- 贈与が行われたことの客観的な証拠になる
- 不動産の所有権移転登記(名義変更の登記)を行うために使うことができる
贈与は、口頭での約束だけでも有効に成立します。しかし、口頭での約束だけでは贈与が行われたことを示す目に見える証拠が残りません。もし口頭での贈与がなされた後に贈与者が亡くなってその相続人が実際に贈与のなされたことを争った場合には、贈与を受けた側は本当に贈与があったことを証明するのが難しくなり、不動産の所有権をめぐるトラブルに巻き込まれてしまうかもしれません。
贈与が行われたことの客観的な証拠を残すためにも、贈与契約書をしっかりと作成しておくようにしましょう。
注意点2:贈与が行われたら必ずすぐに所有権移転登記手続きをする
贈与が行われたら、必ずすぐに不動産の所有権移転登記手続きをすることが大切です。
不動産の所有権移転登記手続きを終えていなければ、第三者に対して自己が不動産の所有権者であるということを示すことができず、その不動産を売却するなど処分することができません。
また、贈与者やその相続人が不動産を別の第三者に売却するなどしたうえでその第三者に対して所有権移転登記手続きを終えてしまうと、後から所有権移転登記を得た第三者が確定的に所有権を取得することとなります。これにより、あなたが先に贈与を受けていたとしても、そのことにかかわらず不動産の所有権を失ってしまうことになります。
所有権の登記は、その不動産の所有権を確定的に取得したことを示すために非常に重要なものです。贈与を受けたら必ずすぐに所有権移転登記手続きを済ませるようにしましょう。
注意点3:贈与を受けた側は必ず贈与税の申告・納付をする
不動産の贈与を受けたら、不動産の価格によっては贈与税を納めなければなりません。不動産の価格が高く贈与税が発生するようであれば、必ず贈与税の申告・納付を済ませるようにしましょう。
贈与税の申告・納付をしないままでいると、無申告加算税などのペナルティが課せられる可能性もあります。
不動産の贈与を受けたことは黙っていれば税務署にはばれないのではないかと思う方もいるかもしれません。しかし、税務署は税の徴収のためにさまざまな情報を確認しています。例えば所有権移転登記などから税務署に不動産の贈与がばれることもあります。税務署にばれることはないと考えるのはやめたほうがいいでしょう。
不動産を相続で受け継ぐときの注意点
不動産を相続で受け継ぐときの注意点についてご説明します。
注意点1:遺言書があれば遺言書に従い、なければ遺産分割協議で受け継ぐ人を決める
故人が不動産を所有したまま亡くなった場合には、不動産は遺産の一部として扱われます。
遺産である不動産をどのようにするかについて、遺言書があれば遺言書に従い、遺言書がなければ遺産分割協議によって誰が受け継ぐのかを決めるようにしましょう。
もしも遺言書に記載された内容に納得がいかないのであれば、相続人全員の同意によって遺言書と異なる内容の遺産分割協議を成立させることもできます(相続人以外の受遺者が不動産を取得するという内容の遺言が遺されていた場合には、その者が遺贈を放棄する旨の了承も必要です)。
また、遺産分割協議を成立させるためには相続人全員の同意が必要ですが、どうしても話し合いがうまくいかず相続人全員の同意が得られないという場合には、裁判所の「調停」という手続きを利用するという方法もあります。
調停によって遺産分割を進めようという場合には、適切な法的主張をすることが大切です。もっとも、ご自身だけで適切な法的主張をすることは簡単なことではありません。ご自身だけではうまく調停手続きを進めることができないという場合には、弁護士に相談・依頼して代理人となってもらうようにしましょう。
注意点2:不動産を相続で受け継いだら必ず相続登記を済ませる
不動産を相続で受け継いだら、必ず相続登記を済ませるようにしましょう。
「相続登記」とは、相続によって不動産の所有権を取得した場合に行う名義変更の登記のことです。
相続登記を済ませなければ、あなたが不動産の所有権を相続によって受け継いだということを対外的に示すことができません。このため、相続登記を終えていなければ相続によって取得した不動産を売却したり処分したりすることができません。
また、2024年4月1日以降は相続登記を行うことが義務化されています。不動産を相続した人は、相続によって所有権を取得したことを知った時から3年以内に相続登記を行わなければなりません。正当な理由がないのに相続登記義務に違反した場合には、10万円以下の過料という行政上のペナルティが課されることもあります。
このように、相続登記はとても大切な手続きなので、不動産を相続したらすぐに司法書士に相談・依頼するなどして相続登記の手続きを行うようにしましょう。
注意点3:不動産の相続で相続税が発生したら忘れず申告・納付する
不動産を相続したことにより相続税が発生したら、忘れずに相続税を申告・納付するようにしましょう。
相続税の納付期限は、相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内です。被相続人が亡くなったその日に死亡の事実を知っていた場合には、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内ということになります。
相続税が発生するのかどうかということや、相続税の計算をどのようにしたらいいのかということは、ご自身だけでは判断できないかもしれません。少しでも相続税のことで分からないことがあれば、相続手続きを取り扱っている税理士に相談・依頼して相続税の申告・納付を済ませるようにしましょう。
まとめ:不動産の売却・贈与・相続ではかかる税金の種類などが異なる
不動産の売却・贈与・相続では、それぞれさまざまな違いがあります。例えば、どのような種類の税金がかかるのかということや税金の計算方法などが異なります。
不動産の売却・贈与・相続では、それぞれの違いに応じた注意点に留意したうえで手続きを進めることが重要です。また、不動産の売却・贈与・相続のいずれのケースであっても、登記手続きを済ませることや税の申告・納付を行うことなどは共通して注意しておくべき重要な点です。
不動産の売却・贈与・相続の違いを把握し、それぞれの注意点に留意したうえで、確実に手続きを進めるようにしましょう。
不動産の売却・贈与・相続を行ううえで分からないことがあれば、弁護士などの専門家に相談するのもひとつの方法です。弁護士は法律の専門家であり、どのような点に気をつけるべきか、どのように手続きを進めていくべきかなどといったことを詳しくアドバイスしてくれます。
弁護士以外にも、登記に関することであれば司法書士に、税に関することであれば税理士に相談するのもよいでしょう。司法書士は登記手続きの専門家であり、税理士は税の専門家です。いずれも分からないことがあれば教えてくれたり代わりに手続きを行ってくれたりします。
不動産の売却・贈与・相続を行うにあたっては、必要に応じて専門家に相談・依頼する必要があります。まずは専門の不動産コンサルタントに相談することで、適切な専門家に依頼しながら、トラブルに巻き込まれることなく手続きを終えることができるでしょう。
執筆者:弁護士 岡島 賢太
経歴: 東京大学文学部卒業(中国語・中国文化専攻)。出版社にて書籍編集者、新聞社にて校閲記者として勤務し、最高裁判所における司法修習を経て、弁護士(第二東京弁護士会所属)。