相続した不動産を売却するときの注意点とは?売却の流れも解説
「不動産を相続することになった。相続した不動産は売却しようと思うけれど、どんなことに気をつけて売却するべきなのかな?」
相続は突然発生することも多く、急に相続した不動産を売却することになってどのように手続きを進めていけばよいのかとまどうことも多いでしょう。また、不動産を売却する経験が多い人は少なく、相続した不動産を売却する際にはどのような点に注意して売却手続きを進めればいいのかわからないという方もいるかもしれません。
相続した不動産を売却するにあたっては、いくつか注意しておくべき点があります。注意点を踏まえて相続した不動産の売却活動を行うことで、売却に失敗するリスクを減らすことができます。
この記事では、相続した不動産を売却する流れや、相続した不動産を売却するときの注意点について解説しています。
この記事を読むことで、よりスムーズに相続した不動産を売却することが可能となります。
相続した不動産を売却する流れ
相続した不動産を売却する流れは、大きく分けて「相続開始から相続登記を完了させるまでの流れ」と「不動産会社を通じて不動産を売却する流れ」とに分けることができます。
相続した不動産を売却する流れについて、この2つに分けてご説明します。
相続開始から相続登記を完了させるまでの流れ
相続開始から相続登記を完了させるまでの流れについてご説明します。
これは、相続によって誰が遺産である不動産を取得するのかを決める流れです。
法定相続人を確定させる
まずは、法定相続人を確定させます。
「法定相続人」とは、亡くなった方(被相続人)の遺産を受け継ぐことができる人のことです。
法定相続人は、民法によって親族の中で順位が定められており、次の順位に従って法定相続人が決まります。
- 第1順位:被相続人の子ども(直系卑属)
- 第2順位:被相続人の親、祖父母(直系尊属)
- 第3順位:兄弟姉妹また、被相続人に配偶者がある場合には、配偶者は常に法定相続人となります。
例えば、被相続人に配偶者と子どもがいる場合には、この配偶者と子どもが法定相続人として被相続人の遺産を受け継ぎます。
法定相続人を確定させるにあたっては、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取得して子どもなどがいないかを調べます。被相続人が結婚前に子どもをつくっていた場合など、知らないところに法定相続人がいる場合もあるので、戸籍の調査は必ず行います。
法定相続人を確定させるための戸籍の調査は、慣れていなければ難しいところもあります。少しでも難しいと思ったら、相続手続きを取り扱っている弁護士に依頼するようにしましょう。
遺言書の有無や内容を確認する
被相続人が遺言書を遺しているかどうかを確認しましょう。
被相続人が遺言書を遺していた場合には、基本的にはその内容に従って遺産を分けます。遺言書が遺されていた場合には、家庭裁判所で検認という手続きをしたうえで遺言を開封し、内容を確認します。
遺言書が遺されていなかった場合には、相続人の間で遺産分割協議を行い、話し合いによって遺産を分けます。
遺産の内容を調査する
遺産としてどのような財産が遺されているのかを調査します。
遺産の中に不動産が含まれている場合には、その不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を取得します。登記事項証明書を取得するために不動産を正確に特定するにあたっては、土地については「地番」を、建物については「家屋番号」を特定することが必要になります。
遺産に不動産が含まれているかどうかを調査して地番や家屋番号を把握するには、いくつかの方法があります。
- 固定資産税の納税通知書を確認する
- 権利証や登記識別情報通知を確認する
- 市区町村の役所で「名寄帳」を確認する
「名寄帳」とは、市区町村の役所が管理する台帳で、固定資産税を課税するために作られているものです。納税義務者ごとにその市区町村に所在する不動産が一覧になって記録されています。
これらの方法によって、被相続人が所有していた不動産を調べることができます。
相続放棄をするかしないかを決める
被相続人が遺した遺産を調査する過程で多額の借金が見つかることがあります。それをそのまま相続すると故人の借金を肩代わりして返済しなければなりません。
借金の額が大きい場合には、「相続放棄」をして故人の遺産を全て受け継がないようにすることができます。
相続放棄の手続きは家庭裁判所で行ないます。相続放棄ができるのは自己のために相続開始があったことを知ってから3か月以内です。3か月という期限を過ぎると原則として相続放棄ができなくなるので、この時までに遺産の調査を終えて相続放棄の必要があるかどうかを判断しましょう。
遺産分割協議を行う
遺言が遺されていない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行い、遺産をどのように分けるのかを話し合って決めます。
遺産分割協議が成立したら、相続人全員が遺産分割協議書に署名押印をします。そのうえで、遺産分割協議書に基づいて遺産を分けます。
相続登記を行う
被相続人の遺した不動産を取得することになった相続人は、遺産分割協議書に基づいて「相続登記」を行います。
「相続登記」とは、相続を原因として不動産の名義を変更することです。故人の名義から相続人の名義へと不動産の名義変更をします。
相続登記を行って不動産の名義を相続人の名義に変更しておかなければ、被相続人が遺した不動産を売却することができません。相続によって得た不動産を売却しようとする場合には、その前提として必ず相続登記を行うようにしましょう。
相続登記の手続きは、ご自身だけでは行うのが難しいかもしれません。相続登記の手続きは、登記の専門家である司法書士に相談・依頼して行うのがおすすめです。
不動産会社を通じて不動産を売却する流れ
被相続人の遺した不動産を受け継ぎ、相続登記を終えて不動産の名義が相続人のものとなったら、その不動産を売却することができます。
ここからは、相続によって受け継いだ不動産を、不動産会社を通じて売却する流れについてご説明します。
不動産の価格を査定してもらう
まずは、売却しようとしている不動産の価格を査定してもらいましょう。
不動産の価格を査定してもらうことで、その不動産がおおむねいくらで売却できそうかということを知ることができます。
不動産の価格を査定してもらうには、不動産会社に査定を依頼します。一般的には、不動産価格の査定だけであれば無料で対応してもらえます。
不動産価格の査定は、複数の不動産会社に依頼してもかまいません。査定依頼を通じて不動産会社の対応を見て、信頼できそうな不動産会社を見極めましょう。
不動産会社と媒介契約を締結して売却活動を開始する
不動産の価格を査定してもらい、不動産を売却する意向が固まったら、不動産会社と媒介契約を締結して不動産の売却活動を開始します。
「媒介契約」とは、不動産会社との間で不動産の売買契約成立に向けた売却活動を任せる契約のことです。
媒介契約を締結することで、不動産会社が具体的に不動産の売却活動を開始してくれます。
媒介契約には、3種類のものがあります。
- 専属専任媒介契約
- 専任媒介契約
- 一般媒介契約
一般媒介契約であれば、複数の不動産会社との間で契約を締結して不動産の売却活動を依頼することができます。これに対して、専属専任媒介契約や専任媒介契約では、不動産会社1社だけとの間でしか契約を締結することができません。また、専属専任媒介契約は、専任媒介契約と異なり、依頼した不動産会社が見つけた売却先にしか不動産を売却できません。
3種類の媒介契約のうちどの契約を選ぶのが最もよいのかは個別の事情によって変わるので、うまく不動産を売却するためには適切な媒介契約を選ぶことが重要です。
買付証明書を受け取る
「買付証明書」とは、不動産の購入を希望する買主が売主に対して実際に不動産を購入する意思があることを示すために提出する書類です。不動産は高価なものであるため、購入する意思があることを示す際にも口頭ではなく書面で示すことが商慣習となっています。
買主にとっては、買付証明書を売主に提出することで、不動産購入の意思を示すことができるほか、優先的に交渉できる可能性があったり購入条件の交渉の第一歩とできたりすることなどがあります。
もっとも、買主が買付証明書を提出したとしても、そのこと自体によって直ちに売買契約が成立するわけではありません。売主は、買付証明書を受け取ったうえで売却条件を検討するなど売却交渉を進めていくことになります。
売買契約を締結する
どの買主にどのような条件で不動産を売却するのかといった交渉がまとまったら、売買契約を締結します。
売買契約の締結にあたっては、不動産会社の宅地建物取引士が重要事項説明書に基づき一定の重要事項を買主に説明します。
そのうえで、売主と買主が不動産の売買契約書に署名押印して買主から手付金を受け取ったら、売買契約が成立します。
「手付金」は、無事売買が完了した場合には売買代金の一部として扱われます。一方、売買契約を締結した後でも、買主であれば手付金を放棄し、売主であれば手付金の2倍の金額を買主に支払うことで、一定の段階までであれば売買契約を解約することができます。
手付金の額は売買代金の5%~20%程度が目安とされています。
残金決済を行い、不動産を引き渡す
「残金決済」とは、買主が売主に対して売買代金の残り(手付金以外の分)を支払い、同時に売主が買主に不動産の引渡しを行うことです。
残金決済では、さまざまなことが一日のうちに行われ、これによって不動産の売却手続きが完了します。残金決済では、次のようなことなどが行われます。
- 売買代金の残りの支払い
- 金融機関の融資実行
- 司法書士による所有権移転登記のための書類の説明と署名押印
- 権利証などの書類の受け渡し
- 鍵の引渡し
残金決済の場には、基本的には次のような当事者が集まります。
- 売主
- 売主側の仲介会社
- 買主
- 買主側の仲介会社
- 司法書士
売主にとって残金決済の場は、直接その場に出る必要があり、また売却手続きを完了させる最後の手続きなので、とても重要な場であるといえます。
残金決済までが無事完了したら、不動産の売却手続きは全て完了です。
相続した不動産を売却するときの注意点
相続した不動産を売却するにあたっては、いくつかの注意点があります。
注意点を押さえて売却活動を行うことで、相続した不動産の売却につまずいてしまうリスクを減らすことができます。
相続した不動産を売却するときの注意点をご説明します。
注意点1:共有名義の不動産を売却するには全員の同意が必要となるのでできれば避ける
相続人の間で不動産が共有名義となるように相続登記をした場合には、その不動産を売却するには共有名義人全員の同意が必要となります。
共有名義人全員の同意として必要となるのは、「売却することそのものについての同意」と「いくらで売却するのかという売却価格の同意」の2つです。
特に共有名義人全員の同意が得にくいのは「売却価格の同意」です。不動産の買い手が見つかっても、売却価格について共有名義人の間で意見がまとまらず、売買契約成立に至らないということもあります。
例えば、査定価格が5,000万円の不動産を4,000万円でならすぐに購入したいという買い手が現れたとします。共有名義人の中には、4,000万円でもいいからすぐに売却に応じたいという人と4,000万円は安すぎるからほかの買い手を探すべきだという人とに分かれてしまうことがあります。こうなってしまうと、4,000万円でその不動産を売却することについて共有名義人全員の同意が得られないため、不動産を売却することはできません。
できるだけスムーズに売却手続きを進めるためには、相続登記の段階から不動産を共有名義にするのではなく単独名義にしておくのがよいでしょう。
もし共有名義で相続登記をしてから不動産を売却するのであれば、不動産を売却するにあたって事前に「いくら以上であれば売却していいのか」という最低売却価格を決めておくようにしましょう。最低売却価格を決めておくことで、買い手から値引きの要望があった場合にもどのように対応するのかスムーズに決めることができます。
最低売却価格を決めるにあたっては、複数の査定結果を出してもらって一番低い査定結果を参考にして決めるようにするとよいでしょう。
注意点2:換価分割を前提に相続人が単独で不動産を取得する場合には遺産分割協議書に明記する
換価分割を前提に相続人の一人が単独で不動産の所有名義を取得する場合には、その旨を遺産分割協議書に明記しておきましょう。
「換価分割」とは、遺産である不動産を売却して得たお金を相続人の間で分ける方法で遺産分割をすることをいいます。
換価分割を前提に単独で不動産の所有名義を取得した場合には、その相続人が一人で不動産の売却手続きを進めることができます。これにより、ほかの相続人との間で売却価格などについての意思のすり合わせなどをする必要がなく、スムーズに不動産の売却を進めることができるというメリットがあります。
もっとも、不動産の売却によって得たお金をほかの相続人に分配することになるため、換価分割を前提としていることを遺産分割協議書に明記しておかなければその分配行為がほかの相続人への贈与と判断されてしまうリスクがあります。
贈与と判断されると、贈与税の負担が発生することがあるなど本来は必要がなかった税の負担を負うことにもなりかねません。
遺産分割協議書に換価分割であることが明記されていれば、遺産分割の方法としてお金を分配していることが分かるので、贈与税が発生するリスクを抑えることができます。
相続人のうち一人が単独で不動産の所有名義を取得する場合には、遺産分割協議書に換価分割をすることを明記するようにしましょう。
注意点3:譲渡所得の計算上、取得費は被相続人の取得費を引き継ぐ
相続によって取得した不動産を売却した場合には、譲渡所得税を納めなければなりません。
譲渡所得税とは、不動産などを譲渡した人がそれによって得た利益(譲渡所得)について負担する税のことです。
不動産を売却する場合、譲渡所得は次の式によって計算します。
譲渡所得=不動産の売却価格―取得費―譲渡費用
このようにして計算した譲渡所得に、不動産の保有期間に応じた一定の税率を掛けて譲渡所得税が算出されます。
このうち、「取得費」は不動産を購入した時の価格(不動産が建物である場合には、購入価格から減価償却費を差し引いた額)、「譲渡費用」は不動産仲介手数料や収入印紙代など売却手続きの中で必要となった費用のことです。
相続した不動産はご自身が購入したものではないので取得費はどうなるのだろうと思われるかもしれませんが、この場合の取得費は被相続人の取得費を引き継ぎます。
例えば被相続人が親である場合には、親がその不動産を購入した時の価格が取得費となります。このため、親がその不動産を購入した時の売買契約書など、取得費が分かる資料を探しておくようにしましょう。
注意点4:被相続人の取得費が不明な場合はできるだけ代わりの資料を探す
被相続人が不動産を取得した時の売買契約書が見つからないなど、被相続人の取得費が不明なケースもあります。このような場合には、できるだけ代わりの資料を探すことが大切です。
取得費を明らかにするために代わりとなる資料としては、次のようなものがあります。
- 新築の建物であれば不動産販売会社から、中古の不動産であれば仲介を担当した不動産会社や売主からあらためて交付してもらった、不動産を購入した時の売買契約書の写し
- 不動産販売会社が不動産購入当時に作成していた不動産価格の記載があるパンフレット
- 住宅ローンを組んでいる場合には、ローンの金銭消費貸借契約書
- 抵当権の設定金額の記載がある不動産全部事項証明書
- 購入費用の支出の記載がある通帳
また、これらに加えて、次のような方法で購入価格を推計する方法もあります。
- 土地の場合、一般財団法人日本不動産研究所が公表している「市街地価格指数」を使って購入当時の価格を推定する
- 建物の場合、「建物の標準的な建築価額表」を基にして、購入当時の価格を推定する
このように、購入当時の売買契約書が見つからなくても、取得費を知るために代わりとなる資料はいくつかあります。できる限り代わりの資料を用意するようにしましょう。
どうしても取得費が不明であるという場合には、「概算取得費」を用いて計算します。
「概算取得費」は、具体的な取得費が不明である場合に代わりに使われるもので、一律に「不動産の売却によって得たお金の5%」を取得費とみなして扱います。
概算取得費を用いて計算すると、通常は取得費が大幅に小さく見積もられることとなり、譲渡所得税の額が大幅に高くなってしまいます。
例えば、5,000万円で購入した土地を5,500万円で売却した場合、取得費を実額で計算すると「譲渡所得=5,500万―5,000万円=500万円」となるのに対し、取得費を概算取得費で計算すると「譲渡所得=5,500万―(5,500万×5%)=5,225万円」となります(譲渡費用はないものとして計算しています)。
取得費を実額で計算した場合と比べて、取得費を概算取得費で計算すると課税対象である譲渡所得は4,725万円も高くなります。譲渡所得に対して所定の税率を掛けて譲渡所得税が計算されるので、譲渡所得が高くなればなるほど税金の額も高くなってしまいます。
概算取得費で譲渡所得税を計算するのは最後の手段と思って、できる限り代わりの資料を探すようにしましょう。
注意点5:譲渡所得の計算上、不動産の所有期間は被相続人の所有期間を引き継ぐ
譲渡所得税の税率は、不動産の所有期間に応じて決まります。
売却する年の1月1日時点で不動産の所有期間が5年超の場合は「長期譲渡所得」、5年以下の場合は「短期譲渡所得」となり、それぞれ税率が変わります。
- 短期譲渡所得:30%(所得税)、9%(住民税)
- 長期譲渡所得:15%(所得税)、5%(住民税)
なお、現在はこれに加えて復興特別所得税として所得税に対して2.1%を掛けた税額が加わります。
このように、5年超というより長い期間不動産を所有していればより譲渡所得税の金額が安くなるため、不動産をどれだけの期間所有していたかということは重要です。
相続によって不動産を取得した場合、相続の時から不動産を売却した時までの期間が5年以内ということも多いでしょう。そのような場合には短期譲渡所得として譲渡所得税を計算しなければならないのかと思ってしまうかもしれません。
しかし、相続によって不動産を取得した場合には、不動産の所有期間は被相続人の所有期間を引き継いで計算することとされています。これにより、多くの場合で短期譲渡所得ではなく長期譲渡所得として計算されることになります。
例えば、被相続人が20年間不動産を所有してから亡くなり、相続によって不動産を取得してから1年で不動産を売却した場合には、不動産の所有期間は1年ではなく21年として取り扱われます。これにより、譲渡所得の計算上は短期譲渡所得ではなく長期譲渡所得としてより低い税率が適用されることとなります。
相続によって不動産を取得した場合には、被相続人の所有期間を引き継ぐ結果として長期譲渡所得として税率が計算されることが多いので、よく確認して間違って短期譲渡所得として高い税率で計算してしまわないようにしましょう。
注意点6:節税につながる特例をしっかりと把握して利用する
相続した不動産を売却する場合には、通常の不動産の売却と異なりいくつかの節税につながる特例を利用できることがあります。
利用できる特例には、次のようなものがあります。
- 相続財産を譲渡した場合の取得費の特例
- 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
「相続財産を譲渡した場合の取得費の特例」は、一定の要件を満たした場合に相続税額のうち一定金額を譲渡所得の計算上取得費に加算できるというものです。
「被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例」は、一定の要件を満たした場合に譲渡所得の金額から最高3,000万円までを控除できるというものです。
このほかにも、相続した被相続人(親など)の家に相続人(子どもなど)が住んでいた場合に利用できる特例がいくつかあります。
節税につながる特例にはさまざまなものがあり、適用されるための要件も細かく定められているため、ご自身ではどの特例が適用されるのかよく分からないということもあるでしょう。ご自身だけで判断して適用されるはずだった特例を見落としてしまったり、本来は特例が適用されないのに適用されると誤解してしまったりすると、税の支払いで損をしてしまうこともあり得ます。
少しでも節税につながる特例が適用されるかもしれないと思ったら、なるべく早く税理士などの専門家に相談するようにしましょう。
注意点7:相続した不動産を売却すると決めたらできるだけ早く売却する
相続した不動産を売却すると決めた場合には、できるだけ早く売却するようにしましょう。具体的には、相続した不動産の売却は相続開始日から3年以内を目安に行うべきです。
3年以内を目安にするべきなのは、不動産の相続で使うことのできる税の特例がおおむね3年以内の売却を対象としているからです。
それぞれの特例の適用対象となる不動産の売却は、次の期限までに行われたものに限られます。
相続財産を譲渡した場合の取得費の特例:相続開始日の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで(相続開始日の翌日から3年10か月以内)
被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例:相続開始日から3年を経過する日の属する年の12月31日まで
これらのことから、相続開始日から3年以内を目安に不動産を売却すれば確実にこれらの特例が適用されるための期限を守ることができます。
このほかにも、相続によって取得した不動産を売却せずに所有し続けていると、その間は固定資産税を支払わなければならなかったり不動産を放置することなく管理しなければならなかったりするなど、さまざまな負担が発生します。
相続によって得た不動産を売却する方針が固まっているのであれば、できるだけ早く不動産を売却してしまうようにしましょう。
注意点8:複数の不動産会社を比較して最も信頼できる不動産会社に依頼する
相続によって不動産を取得したものの、これまで不動産を売却した経験はほとんどないという方もいるでしょう。相続した不動産を売却する際には、不動産会社選びも重要です。
不動産の売却手続きを依頼する不動産会社を選ぶ際には、安易に決めてしまうのではなく、複数の不動産会社を比較して最も信頼できる不動産会社に依頼するようにしましょう。
信頼できる不動産会社を選ぶにあたっては、分からないことを質問した際にしっかりと答えてくれるかどうか、誠実に対応してくれるかどうか、売却しようとしている不動産と同じような不動産の取扱い実績が豊富にあるかどうかなどの点に注意しながら選ぶとよいでしょう。
また、不動産会社によっては、古い一戸建ての売却を得意としている会社やマンションの売却を得意としている会社など、会社によって取り扱う不動産の種類に特色があります。
ご自身が相続した不動産が、例えば土地と古い一戸建てであるならば土地と古い一戸建ての売却を得意としている不動産会社を選ぶなど、売却しようとしている不動産に応じて不動産会社を選ぶようにしましょう。
まとめ:相続した不動産を売却する際の注意点に気をつけて売却を成功させよう
相続した不動産を売却することになったら、まずは不動産を売却する流れをしっかりと把握しましょう。不動産を売却するためにはその前提として遺産分割や相続登記などさまざまな手続きを踏まなければなりません。ひとつひとつ着実に進めていくことが大切です。相続登記が完了したら、不動産の売却手続きに入ることができます。
遺産分割や相続登記などは、ご自身だけで全てを行うことは難しいかもしれません。そのような場合には、相続手続きを取り扱っている弁護士や司法書士に相談・依頼して代わりに相続手続きを進めてもらいましょう。
相続した不動産を売却するにあたっては、いくつかの注意点に気をつけて売却手続きを進めることが重要です。注意点をしっかりと把握して売却手続きを進めることで、なるべくスムーズに不動産を売却することができます。
不動産の売却手続き自体は依頼した不動産会社に任せておくことができますが、売却後の譲渡所得税の申告・納付などはご自身で行わなければなりません。相続した不動産であれば譲渡所得税の軽減につながる特例もあるので、特例が使えそうであればしっかりと特例を使って税の負担を軽減することも大切です。
税の計算や特例の適用については、ご自身だけで判断することは難しく、誤った判断をすることで税の負担に関して損をしてしまうリスクもあります。少しでも分からないことがあれば、税理士などの専門家に相談・依頼して適切に納税を行うようにしましょう。
相続した不動産を売却するにあたっては、段階に応じて弁護士、司法書士、税理士などの専門家の力も借りつつ確実に進めていくことが必要です。適切な専門家のサポートを受けながら、相続した不動産の売却を成功させるためにも、まずは不動産売却マップのコンサルタントへのご相談をおすすめします。
執筆者:弁護士 岡島 賢太
経歴: 東京大学文学部卒業(中国語・中国文化専攻)。出版社にて書籍編集者、新聞社にて校閲記者として勤務し、最高裁判所における司法修習を経て、弁護士(第二東京弁護士会所属)。