取得費加算の特例とは?適用要件や手続きまとめ【他の控除や特例は併用できる?】
この記事でわかること
- 取得費加算の特例の内容や適用要件がわかる
- 取得費加算の特例と併用できる減税措置があるのかわかる
- 取得費加算の特例の申告方法や申告に必要な書類がわかる
- 取得費加算の特例を利用するときの注意点がわかる
取得費加算の特例とは
取得費加算の特例とは、相続で取得した不動産や株などを一定期間内に売却するときに、納税した相続税を取得費として計上できる特例です。
たとえば、相続財産として2億円の不動産を相続し相続税を5,000万円納税したとします。
この不動産を相続したときから3年10ヶ月以内に売却するときに、取得費用として納税した5,000万円を計上することができるわけです。
納税した相続税を取得費に計上することにより売却益(譲渡所得)が抑えられるため、譲渡所得税の課税額を抑えることができます。
なお、取得費加算の特例は譲渡所得のみに適用できる特例です。
そのため、株式などの売却による事業所得や、雑所得については適用できません。
取得費加算の特例の適用要件
取得費加算の特例の適用を受けるには、4つの条件を満たす必要があります。
取得費加算の特例の4つの適用要件は次のとおりです。
- 相続か遺贈によって取得した財産であること
- 相続税が課税され、納税していること
- 相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内に財産を売却していること
- 不動産売却した年の確定申告で取得費加算の特例を申告すること
この4つの条件を満たすことにより、取得費加算の特例を利用することができます。
財産は売買や贈与で取得した場合や、相続しても相続税が課税されない場合、相続開始から3年11ヶ月に達してしまった場合は取得費加算の特例は利用できません。
また、条件を満たしても自動的に適用されないため、確定申告にて取得費加算の特例の適用申請をする必要があります。
取得費加算の特例と他の特例の併用可否
取得費加算の特例は他の特例と併用できるもの、併用できないものが決まっています。
ここからは、取得費加算の特例と併用できる特例と、できない特例を紹介していきます。
取得費加算の特例と併用できる特例
取得費加算の特例と併用できる特例は次のとおりです。
概算取得費5%ルール
取得費加算の特例と概算取得費5%ルールは併用することができます。
概算取得費5%ルールとは、売却する不動産の取得費が分からない場合、売却金額の5%を取得費として計上できるルールです。
たとえば、取得費加算の特例と併用して売却した不動産が2億円、納税した相続税が5,000万円の場合は以下のような計算となります。
居住用財産の3,000万円控除
取得費加算の特例と居住用財産の3,000万円控除は併用することができます。
居住用財産の3,000万円控除とは、自宅を売却したときに一定条件を満たしていると、譲渡所得から3,000万円を控除できる特例です。
亡くなった方(被相続人)と同居し、自宅として使っている不動産を相続したときなどで利用できる特例です。
特定の居住用財産の買換えの特例
取得費加算の特例と特定の居住用財産の買換えの特例は併用することができます。
特定の居住用財産の買換え特例とは、令和5年12月31日までに一定条件を満たす自宅を売却し、新居を購入したときには、一定の要件のもと、譲渡所得税の課税を繰り延べることができる特例です。
この特例はあくまで譲渡所得税の繰り延べのため、新居を売却するときには、本来自宅の売却で課税されるはずだった譲渡所得税が新居売却時に課税されます。
小規模宅地等の特例
取得費加算の特例と小規模宅地等の特例は併用することができます。
小規模宅地等の特例とは、一定条件を満たした場合、被相続人から相続した不動産の評価額が50%~80%減額でき、相続税の課税を抑えることができる特例です。
ただし、同居親族が自宅を相続した場合と賃貸物件を相続した場合は、相続開始から10ヶ月の間は売却してはならないという条件があるため、売却のタイミングには注意が必要です。
なお、小規模宅地特例を使った土地を売却した場合、取得費加算の特例の計算は、小規模宅地等の特例を利用した後の金額を基準として算出します。
そのため、小規模宅地等の特例を適用していない土地と比べると、取得費加算の恩恵は小さくなります。
取得費加算の特例と併用できない特例
取得費加算の特例と併用できない特例は次のとおりです。
空き家の3,000万円控除
取得費加算の特例と空き家の3,000万円控除は併用することができません。
空き家の3,000万円控除は、取得費加算の特例との選択制になっています。
空き家の3,000万円控除とは、被相続人から相続された空き家を売却するときに一定条件を満たしている場合、譲渡所得から3,000万円を控除することができる特例です。
居住用財産の3,000万円控除と名前が似ていますが、適用要件は異なる上に、空き家の3,000万円控除は取得費加算の特例と併用できないため、注意が必要です。
相続人が配偶者の場合など相続税の課税が少額のときは、空き家の3,000万円控除を利用した方が節税になるケースがあります。
そのため、取得費加算の特例と空き家の3,000万円控除、どちらを利用するかは税理士などの専門家に確認した上で判断するようにしましょう。
取得費加算の特例の申告手続き・必要書類
取得費加算の特例を利用する場合、申告手続きや申告時提出書類が決められています。
ここからは、取得費加算の特例の申告手続き方法と申告時提出書類を紹介していきます。
取得費加算の特例の申告手続き方法
取得費加算の特例の申告は、該当する不動産を売却した年の翌年2月16日~3月16日までに確定申告にて行います。
なお、確定申告の期限と相続税の申告期限は異なることには注意が必要です。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10ヶ月です。
取得費加算の特例の申告時提出書類
前述した確定申告をするときに取得費加算の特例を申告する場合、次の書類を添付して提出する必要があります。
必要な書類
- 相続財産の取得費に加算される相続税の計算明細書
- 譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
取得費加算の特例を活用する際の注意点
取得費加算の特例は、適用条件が緩く節税効果もある特例ですが、活用の際には注意しなければならないこともあります。
ここからは、取得費加算の特例を活用する際の注意点を紹介していきます。
相続税評価額から控除されるわけではない
取得費加算の特例は、不動産などを譲渡したときの取得費に計上できる制度であり、相続税評価が控除されるわけではありません。
つまり、取得費加算の特例は相続税を抑えるための減税措置ではないということです。
遺産分割協議は早めに終わらせる
取得費加算の特例を利用するには、不動産を相続したときから3年10ヶ月以内に売却する必要があります。
そのため、遺産分割協議などを早く終わらせておく必要があります。
遺産分割協議とは、相続財産をどの相続人に分配するのか協議し、決定することを言います。
遺産分割協議が終わらないと相続財産を相続できないため、取得費加算の特例は遺産分割協議が終わらないと利用することはできません。
複数の不動産を相続する場合は売却順位をつける
複数の不動産を相続する場合は、売却する不動産の順位を付ける必要があります。
不動産売却時に譲渡所得が発生しない不動産であれば特例を利用する意味がないため、特例を利用して減税できる不動産から売却を検討していきます。
たとえば、取得費加算の特例と居住用財産の3,000万円控除が併用できる不動産で、併用しても譲渡所得が控除しきれないほどの不動産であれば、この不動産の売却順位は高いと言えます。
代償分割だと不利になる
遺産分割協議には、代償分割という方法が利用されることがあります。
代償分割とは、たとえば複数の相続人がいるにもかかわらず1人が不動産を相続し、その他の相続人に対して、不動産を相続した相続人が金銭などを支払い、相続財産の均衡を取る方法です。
この方法を取ってしまうと、取得費加算の特例の計算方法が変わってしまい、納税した相続税を全額取得費に計上することができなくなります。
そのため、代償分割したときには取得費がどのくらい認められないのか、あらかじめ確認しておく必要があります。
相続税が課税されなければ取得費加算の特例を利用できない
取得費加算の特例は、相続税を納税していなければ利用することはできません。
また、納税している相続税が少額の場合、取得費加算の特例の効果は薄れてしまいます。
相続には配偶者控除など高額な控除が認められるケースがあり、このようなケースに該当すると相続税額が低くなることや、課税されなくなりします。
このようなケースに該当してしまうと、ほとんどの場合、取得費加算の特例を利用することができなくなります。
まとめ
取得費加算の特例とは、相続で取得した不動産などを売却したときに一定条件を満たしていれば、納税した相続税を取得費として計上できる減税措置です。
取得費が多いと譲渡所得税額が減るため、相続財産を売却する方にとっては利用価値が高い特例です。
また、取得費加算の特例は適用要件が緩いため、利用しやすい特例というのも魅力的です。
取得費加算の特例は居住用財産の3,000万円控除や概算取得費5%ルールなど併用できる特例が多いのもポイントです。
ただし、空き家の3,000万円控除は取得費加算の特例と選択制のため、利用には注意が必要です。
その他にも取得費加算の特例を利用するときには、代償分割を利用することや、相続税をほとんど納税していなかった場合にも注意しなければなりません。