老人ホーム入居者の相続も空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は利用可能!
この記事でわかること
- 老人ホームに入居しても、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除が利用できることがわかる
- 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用要件がわかる
- 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用するときの流れがわかる
- 空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除以外に、相続税対策になる減税措置の内容がわかる
目次
老人ホーム入居者の相続でも空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は利用できる
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、被相続人が老人ホームに入居した後に発生した相続についても利用できます。
3,000万円特別控除は平成28年に創設された時限的減税措置で、元々は老人ホーム入居者が被相続人となった空き家については、3,000万円特別控除を利用することができませんでした。
しかし、令和4年税制改正により3,000万円特別控除を利用する条件が緩和され、老人ホームに入居した被相続人が亡くなったときに発生した相続で取得した空き家の売却についても、3,000万円控除を利用することができるようになりました。
3,000万円控除は令和5年12月31日までに空き家を売却する必要がありましたが、令和4年税制改正により期間が延長され、令和9年12月31日までに空き家を売却すれば適用されます。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用要件
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除の適用要件は、数多くあります。
令和4年税制改正で改正された3,000万円特別控除の適用要件は、次のとおりです。
- 相続で取得した空き家は、被相続人が1人で住んでいた
- 要介護などになった被相続人が、老人ホームに入居後亡くなった
- 空き家が建築されたのは昭和56年5月31日以前である
- 空き家のまま売却する場合は耐震補強をするなど一定の耐震基準を満たす必要がある
- 空き家を解体して売却する
- 相続開始から3年目が経過する日の年の12月31日までに売却する
- 相続で取得した空き家の売却代金は1億円以下である
- 買主が配偶者や親戚など特別な関係にない
- 相続から売却までに空き家を貸す、あるいは誰も住んでいない
- 空き家を解体した場合売却までに新たな建物を建築していない
- 売却した空き家に対して、特定の特例を受けていない
- 同じ被相続人から取得した他の空き家に対して、空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を利用していない
上記の適用要件をすべてクリアした上で、空き家を売却した年の翌年2月16日~3月15日までに確定申告で空き家の3,000万円特別控除の適用申請をします。
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除を適用する流れ
老人ホーム等に入居していた被相続人が亡くなった場合に、空き家の譲渡所得の3,000万円控除を適用する流れを紹介していきます。
- 被相続人が要介護認定など介護保険法に規定された状態で、一定条件に該当する老人ホーム等に入居する
- 被相続人が老人ホーム等に入居中に亡くなり、相続が発生した
- 昭和56年12月31日以前の築年数の空き家を相続する
- 上記空き家を相続開始から3年の日の属する年の12月31日までに売却する
- 3,000万円控除が適用される条件がすべて整っている場合、空き家を管轄する市区町村に「被相続人居住用家屋等確認書」の交付申請をして、書類を受け取る
- 空き家を売却した年の翌年の確定申告で3,000万円特別控除の適用申請を行う
なお、空き家を管轄する市区町村から被相続人居住用家屋等確認書の交付を受けるときや、確定申告で3,000万円特別控除の適用申請をするときには数多くの書類が必要になります。
被相続人居住用家屋等確認書を管轄の市区町村に交付申請するときの必要書類は次のとおりです。
- 被相続人居住用家屋等確認書の申請書
- 被相続人の除票住民票の写し
- 相続人の住民票の原本
- 相続から売却まで空き家であったことがわかる書類で以下の中から1種類
1.電気ガスの閉栓証明書
2.水道の使用廃止届出書 - 空き家取り壊し後の閉鎖事項証明書の写しなど
管轄の市区町村によって、提出しなければならない書類は異なることがあるため、被相続人居住用家屋等確認書交付の前には、管轄の市区町村に必要書類の確認をしておきましょう。
また、確定申告で空き家の3,000万円特別控除の適用申請をするときに必要な書類は、次のとおりです。
- 確定申告書付表兼計算明細書(土地・建物用)
- 空き家の全部事項証明書(登記簿謄本、空き家を解体した場合は閉鎖謄本)
- 売却代金が1億円以下と分かる書類(不動産売買契約書など)
- 耐震基準適合証明書や建設住宅性能評価書の写し(空き家のまま売却した場合)
- 被相続人居住用家屋等確認書
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除以外に使える相続税対策
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は適用条件が多く、人によっては利用できないケースがあります。
3,000万円特別控除が受けられないとしても、他の税金対策である小規模宅地等の特例や居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除が受けられる可能性があります。
ここからは、空き家の3,000万円特別控除が利用できなかったときに備え、小規模宅地等の特例と居住用財産の3,000万円特別控除を紹介していきます。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、一定条件を満たした土地を相続したときに、一定面積まで土地の評価額が50%もしくは80%減額して計算できる相続税の減税措置です。
あくまで土地の評価額が減額される制度であって、相続税額が減額される制度ではありません。
小規模宅地等の特例を利用する場合、相続を受けた土地をどのように利用していたかが重要となります。
小規模宅地等の特例で区分されている土地の利用方法は、次のとおりです。
- 特定居住用宅地等(自宅の敷地として利用していた土地)
- 特定事業用宅地等(被相続人が事業を行っていた土地)
- 特定同族会社事業用宅地等(同族会社が事業用に利用していた土地)
- 貸付事業用宅地等(賃貸アパートなど賃貸事業に利用していた土地)
この土地の利用状況を元にして、誰が相続したのか、相続した後どのように土地を利用するのかにより、特例が利用できる面積制限や減額率が決まってきます。
たとえば、被相続人が住んでいた土地を配偶者が相続した場合は、土地面積330㎡までの評価額を80%減額できます。
なお、このケースでは配偶者が相続後どのように土地を利用するのかは、特例の内容に影響しません。
居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除
居住用財産の譲渡所得の3,000万円特別控除とは、一定条件を満たす自宅を売却し、売却により発生した譲渡所得から3,000万円を控除することができる譲渡所得税の減税措置です。
被相続人と同居し、自宅として使っている住宅を相続した場合、居住用の3,000万円特別控除が適用できます。
居住用の3,000万円特別控除の適用要件は次のとおりです。
- 下記のいずれかの自宅であること
1.現在住んでいる自宅であること
2.転居している場合、転居後3年目の年末までに売却すること
3.自宅を解体する不動産売買契約の場合、解体から1年以内で引き渡しなおかつその土地を賃貸していないこと
4.単身赴任で自身が自宅に住んでいない場合配偶者が住んでいる住宅であること - 自宅の買主が親族や配偶者、同族会社など、売主と特別な関係でないこと
- 売却した年の前年や前々年に、居住用の3,000万円の特別控除やマイホームの譲渡損失が出たときの損益通算、損失の繰越控除の特例の適用を受けていないこと
- 自宅を売却した年やその前年もしくは前々年に、マイホームの買換えや交換の特例を受けていないこと
- 売却した自宅で、収用等の特別控除など他の特例の適用を受けていないこと
- 災害によって自宅を売却する場合、自宅に住まなくなった日から3年後の日が属する年の12月31日までに自宅を売却すること
なお、居住用の3,000万円特別控除は、あくまでも自宅の売却に適用される減税制度です。
そのため、店舗併用住宅や賃貸物件の一部が自宅である場合には、自宅面積部分にしか居住用の3,000万円特別控除は適用されません。
また、自宅として認められるのは、実生活をしているところなのかどうかで判断されます。
居住用の3,000万円特別控除を利用するためだけに一時的に住んだ、住民票だけ置いてあり、他の住宅で生活をしていたなどの場合は、居住用の3,000万円特別控除は利用できないため注意が必要です。
まとめ
空き家の譲渡所得の3,000万円特別控除は、令和4年税制改正により適用条件が緩和されました。
元々は被相続人が1人で住んでいた住宅を相続で取得した場合のみ適用されました。
しかし、緩和により被相続人が老人ホーム等に入居後、相続が発生した場合においても適用できます。
老人ホーム等に入居している方の相続は現実的にも発生する可能性が高く、相続対策が必要な方にとってはありがたい緩和となりました。
一方、元々空き家の3,000万円特別控除は利用条件が多く、複雑なため適用されない方も多くいます。
特に相続する建物の築年数が昭和56年5月31日以前に限定していることが、大きな障壁になっています。
そのため、空き家の3,000万円特別控除が利用できない場合に備え、その他の相続税対策が行える減税措置を知っておくことも重要です。