「時価申告」が肝!不動産売却で節税する方法
目次
今回の記事は、相続財産として不動産を取得した場合における、売却を通じた「時価申告」による節税メリットを紹介します。
不動産の相続税評価額は「売却価格」でもOK
相続税評価額の原則は「時価」
財産評価通達では、相続財産の課税価格は原則として「時価」であるとしています。
この場合の時価とは、「課税時期において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額」とされています。
実務では財産評価通達に定めた形式ルールに従う
ただし、相続財産の種類は上場株式・非上場株式・公社債・現預金・土地・建物と多種多様であり一律に時価を定義するのは容易ではありません。
なおかつ上場株式のように市場取引で価格が形成されているなら別ですが、相対取引が多い不動産取引では「不特定多数の自由な取引」がそもそも成り立ちません。
そこで財産評価通達では、各資産の評価額計算式を別に定めています。
例えば市街地に所在する土地は路線価方式により評価額を算定します。
売却価格=評価額もOK
ただし、申告期限までに不動産を売却した場合は売却価格=評価額としての算定も認められます。
つまり売却価格が路線価による評価額を下回る場合は、売却価格を相続税評価額として選ぶこともできるのです。
一方で路線価による評価額は、市場における取引価格の概ね8割とされています。
売却価格が路線価評価額を下回る、そんなことが本当にあるのでしょうか。
不動産は買い叩かれる場合もある
例えば上場株式等の金融資産は不特定多数が取引する市場(東証1部2部・ジャスダック・東証マザーズ)で客観的な市場価格が形成されます。
一方で不動産の場合は閉鎖的な相対取引が基本であり、高額な取引価格・物件の個別性(地域・用途・土地形質など)も相まって流動性も低くなりがちです。
こうした取引では、売主・買主の個別事情が色濃く反映されます。
たとえば買主がどうしてもその土地を欲しい(人気エリア物件・特定の学区に所在など)場合は、取引価格は高めに張り付きがちです。
逆に、遺産分割や相続税納付の関係で売主が売り急いでいる場合は、逆に買主から買い叩かれます。
とくに貸地や借地物件の場合は、買主が借地権者・底地権者に限られるので、より足元を見られがちです。
不動産を売却しなければならない事情
以前よりはウエイトが下がったとはいえ、相続財産に占める不動産の価格は現在でも4割前後を占めています。
対インフレ対策、活用の多様性(居住用・事業用)などアセットとしてさまざまなメリットを享受できる不動産ですが、相続財産を処分しなければならないさまざまな事情にぶつかります。
事情1
1番目の壁は、相続税の納付です。相続税は現金での一括納付が原則であり、相続財産の大部分が不動産の場合は相続財産を相続税納付に充てることができません。
延納税額が10万円以上、金銭による一時納付が困難であるなど一定の条件が延納も認められますが、延納期間に応じ一定の利子税が加算されます。
相続財産に占める不動産の割合が高ければ利率も優遇されますがそれでも年利0.7%です。
けっして低い率ではありません。
不動産自体を金銭の代わりに納める物納制度も認められていますが、物納処理件数はここ20年で激減しています(平成10年:6398件 → 平成29年:87件)。
不動産価格の長期下落傾向もあって不動産の物納によるメリットが急速に薄れたことが影響しているといわれています。
事情2
2番目の壁は、相続人による遺産分割協議です。
遺産が現預金・上場有価証券・公社債など換価性の高い金融資産なら、相続人間での分割も容易です。
ところが不動産の分割は、複数の不動産を所有している・土地が広くて分筆も容易であるなどのケースを除いては非常に難しいのです。
例えば同居していた長女が持ち家を全部相続する、商売を一緒に営んでいた長男が店舗を丸ごと相続する場合、他の兄弟は黙っているでしょうか。
こうしたケースでは、他の兄弟が代償分割つまり金銭による代償を求めてくることが多いのです。
まとめ
相続により取得した財産はさまざまな事情で売り急がなければならない場合があり、こうしたケースでは買いたたかれることも少なくありません。
次善の策として、売却価格が財産評価通達による相続税評価額を下回るような場合には、時価評価による節税策が有効です。