からくりを教えます!タワーマンションで相続税対策
目次
平成26年税制改正により、相続税の基礎控除が4割も引き下げられました。
例えば遺族が妻と子供2人の場合、改正前の基礎控除額が5,000万円+1,000万円×3名=8,000万円だったのに対し、改正後は3,000万円+600万円×3名=4,800万円までダウンしたのです。
追い打ちをかけるように、不動産に関しては「小規模宅地等に係わる課税価格の特例」の適用範囲が縮小されました。
さらに富裕層に対して課税当局は「超富裕層プロジェクト」を創設し、相続税逃れに対する追及の手を強めています。
そうした中で、残された数少ない節税スキームの1つが「タワーマンション節税」です。
相続税の仕組み:時価と相続税評価額のずれ
相続税は、相続・遺贈により取得した財産に係わる「相続税の課税価格」に超過累進税率を適用して課税額を計算します。
財産評価通達総則においては、「相続税の課税価格」を、「不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる時価」によるものとされています。
ここで注目すべきは、財産評価通達で定めた算定方式による評価額と時価との「乖離」です。
この乖離を活用したのが「タワーマンション節税」です。
建物の相続税評価額は時価の5~6割
例えば都市近郊などの市街地に所在する土地に関しては原則として路線価に基づき評価額を定めますが、この路線価は一般的に時価の8割程度とされています。
そして建物に係わる相続税評価額のベースとなる固定資産税評価額は、再建築価格により計算されます。
つまり外壁・屋根・内装などの各パーツの価格や工賃を点数化、積算します。
こうして計算される建物の固定資産税評価額は、一般的に土地よりも低い時価の5~6割であり、その旨が記載されている地方自治体のホームページも散見されます。
タワーマンションの場合、部屋数の多さに比例して土地の持ち分割合は極端に低くなります。
その結果、評価額に占める建物部分の割合が非常に大きくなることもあり、これだけでも充分に節税策になります。
上層階ほど節税メリットが大きくなる
ただし、タワーマンションの節税はそれだけではありません。
マンション各部屋の固定資産税評価額(建物部分)は、建物全体の固定資産税評価額を専有面積で按分して計算します。
つまり専有面積が同じなら、1階も最上階も固定資産税評価額は同じなのです。
一方で、マンションの分譲価格は1フロア上がる毎に価格は3%違うとされています。
つまり30階建てのタワーマンションで、地上階と最上階では同じ専有面積でも2倍の価格差が生じます。
この結果、最上階の部屋における固定資産税は時価の3割前後まで圧縮されるのです。
マンションの販売業者も、この辺りの節税メリットをセールストークで盛んに使ってきたこともあり、「タワマン=節税」のイメージが購買層に定着しました。
その結果、居住目的の実需層だけでなくチャイナマネーも含めた海外投資家も呼び込み、都心一等地を中心としたタワーマンション人気に火をつけたというわけです。
タワーマンション節税が否認されることはあるのか?
一方で、国税局が最近タワーマンション節税をいよいよ標的にし始めたという噂がありますが、果たして本当でしょうか。
国税庁はちゃぶ台返しができる
財産評価通達の第6項は、別名「伝家の宝刀」と呼ばれています。
条文は「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する」と定めていますが、要は「通達で何を定めていようと長官はすべてをホゴにできる」というちゃぶ台返しのルールです。
つまり、評価通達により計算した相続税評価額と時価とに著しい乖離が生じ、かつ、乖離を利用して極端な節税策が横行している場合には、たとえ通達に従って申告していても法の趣旨に反した「租税回避行為」として税務否認できる訳です。
そしてタワマン節税に関しては、すでにこの第6項が適用された事例があり、裁判まで持ち込まれましたが国税庁が勝訴しています。
何をもって「著しく不適当」とされるのか
何が租税回避行為とされたのでしょうか。
国税不服審判の裁決記録によると、相続人Bさんはマンション30階90.15㎡を父親Aさんからの相続財産として財産評価通達により固定資産税評価額(約5,000万円)として申告、これに対し課税当局はこれを租税回避行為として認定、マンション取得代金2.93億円を課税価格として計算、更正処分を下しています。
さらにBさんの行為を不正行為とみなし、重加算税を課しました。
この裁決では、以下の理由により課税当局の判断を妥当と認め、Bさんの審査請求を棄却しています(ただし重加算税は行き過ぎとして取り消しました)。
- ・Aさんが認知症で入院している間にBさんが勝手に委任状を書き購入していること
- ・マンション購入時期とAさんの死亡時期が極めて近いこと
- ・Aさんはこのマンションを訪れたことが一度もないこと
- ・Bさんは相続開始後4か月でこのマンションを売却していること
課税当局による否認を避けるには
上記事例は、「タワーマンション節税」自体が標的にされたわけではありません。
節税目的があからさまであったため、租税回避行為と認定されたのでしょう。
つまり、賃貸目的または居住目的でマンションを購入、副産物として節税メリットを享受しているのなら、おそらく租税回避行為として否認はされません。
税制改正の行方
一方で固定資産税については、平成29年税制改正で階層の違いによる価格差が固定資産税評価額に加味されることとなりました。
つまり平成30年以降に分譲されるマンションについては、1フロア上がる毎に、0.2564%差ずつ固定資産税評価額が加算されるのです。
例えば1階と30階では、約7%ほど固定資産税評価額に差が出る計算です。
新築の価格差2倍とは大きく乖離しており、階層差による節税効果を相殺するまでには至っていません。
加えて見直しは固定資産税にとどまり、相続税に関しては従前の評価方法で変わっていないのです。
上層階ほど節税メリットは享受できるが
分譲時の価格だけで判断すると、上層階の節税メリットが大きいのは確かです。
では、売却時はどうでしょうか?
一般的に中古マンションの価格は、専有面積が同じなら1フロア上がる毎に1%前後の差が生じるとされています。
つまり1階と30階では3割ほど価格が違う計算です。分譲時の価格差2倍とはずいぶん開きがあります。
確かに30階で60㎡の部屋が1億円として、同じ1億円を出せば1階なら120㎡の部屋が手に入るわけです。
そう考えると、新築時の価格差は相当のプレミアムを載せているとも思えてきます。
つまり、上層階は分譲価格が高くても、いざ売ろうとしたときには買った時ほどはプレミアムが付かない、そうした可能性も懸念されます。
節税メリットが享受できても、売却時に損が出ては元も子もありません。
特に最近は都心のタワマンも供給過剰気味で、募集後も全戸数がさばき切れないともささやかれています。
こうした事実を踏まえると、私たち購買層は「節税メリットを強調する営業のうたい文句に踊らされているのではないか」とも思えてきます
まとめ
居住用や賃貸用にタワーマンションを購入する限りでは、節税メリットが税務調査で問題になることはなさそうです。
ただし、タワマンの購入は節税メリットだけではなく、将来の売却や資産価値を見据えたうえで判断すべきでしょう。