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親が認知症に…不動産売却、どうしたらいいの?

今回取り上げるのは、親が認知症になった場合の不動産売却方法についてです。

親が一人暮らしをしていて認知症を罹患したケースでは、子供が引き取って世話をするか、施設に入所させるか、いずれかの手段をとる場合が多いようです。

この場合、もともと暮らしていた家は空き家になります。

一方で、認知症の親の面倒を看るにはなにかとお金がかかります。

その相場は、有料老人ホームで月30万円、特別養護老人ホームで13万円、自宅介護でも6万円かかるとされています。

空き家となった自宅を売却してこうした費用に充てたいところですが、認知症だからといって親の自宅は子どもが勝手に売却できないのです。

まずは医師による診断から

成年後見制度を考える前に

認知症の親が所有する不動産の売却では、真っ先に成年後見制度などの公的制度利用を思い浮かべがちですが、そもそもやるべきことは親が認知症であるか、どの程度進行しているかの確認です。

認知症でも不動産売買契約ができる?

不動産売却に限らず、取引契約は本人の意思・判断能力があってはじめて有効とされます。

具体的には不動産の移転登記時に司法書士が本人と面談を行う際に、意思能力が確認できなければ登記が実行されません。

では、認知症の場合はどうでしょう?認知症は、初期症状を見せてから重度に至るまでに平均10年前後かかると言われています。

実は認知症だからといって、直ちに意思・判断能力が欠如しているとはされないのです。

後々のトラブル未然防止

ただし売主が認知症の場合、後々で意思能力が問題になりがちです。

意思能力に関して民法は規定していませんが、「私的自治の原則」から契約に際して当然不可欠なものとされ、意思能力を欠いた契約は無効とされます。

そして意思能力の有無判断は、判例に依拠します。

こうしたケースでは医師の診断書(意思能力が欠如していない旨の確認)を取得しておくべきです。

ちなみに裁判所の判例によれば、アルツハイマー型認知症の場合、中程度の進行で「意思能力が欠如している」と判断されるようです。

契約時のやりとり確認・司法書士による証明・公正証書作成などの対応も有効です。

ちなみに公正証書とは、公証人立ち会いのもと利害関係者全員が公証役場(出張による作成も日当等を支払えば可)で作成する契約書・遺言などです。

法務大臣が任命する公証人は強い公的権限を有し、公証人が認めた公正証書は裁判所の検認等を受けなくても有効性が保証されます。

もう1つ忘れていけないのが、推定相続人全員の承諾です。「今回の売却・移転登記に将来異議を唱えない」旨の承諾書を取っておくのです。

将来の認知症進行に備えておく:任意後見制度

まだ認知症を発病していない、または、まだ初期症状の場合でも、将来に備えておくことは大切です。

任意後見契約を結ぶ

任意後見制度は、親がまだ契約行為などの意思能力を有している段階で、将来意思能力が欠如した場合に備えて、信頼できる人物をあらかじめ後見人として指名しておく制度です。

任意後見契約締結の手続きは公証人役場で実施し、公正証書を作成します。

公正証書作成には基本手数料11,000円、登記嘱託手数料1,400円、登記手数料2,600円の計15,000円がかかります。

判断能力が落ちてきたら

その後、「認知症が進行してきたな」と本人が不安を自覚した時点で本人が住んでいるエリアの管轄家庭裁判所に申し立て、任意後見監督人を選任してもらいます。

そして選任した時点で、初めて任意後見契約の効力が生じます。

選任後、任意後見受任者は任意後見監督人のチェックを受けつつ、契約に基づき適切に財産管理を遂行します。

申し立てができるのは、本人・配偶者・4親等以内の親族・任意後見受任者とされています。

申し立てに必要な費用は、申し立て手数料800円と登記手数料1,400円の合計2,200円です。

その他、判断能力鑑定が必要な場合は、別途料金がかかります。

その他、任意後見監督人から請求があったら、報酬を支払わなければなりません。

ちなみに任意後見監督人の候補を申し立てることはできますが、そのとおりになるとは限りません。

最近の傾向では弁護士・司法書士などの有資格者が選ばれるケースが多くなっています。

任意後見受任者本人やその親族は任意後見監督人の候補として指名できません。

任意後見契約は不動産の売却が容易

後述の成年後見契約が静的な財産管理が原則であるのに対し、任意後見契約は動的な財産管理も可能です。

ですから不動産の処分も比較的自由で、たとえ親の自宅であっても裁判所や任意後見監督人の許可が無くても売却可能です。

ただし実務的には、任意後見監督人に事前相談、了承を得たうえで進めることが多いようです。

ちなみに任意後見制度は、成年後見制度と違って取消権が認められていません。

取消権とは、判断能力の欠如した本人が脅かしや訪問販売などにより高額な商品を購入した場合に、契約を無効とすることができる権利です。

認知症が進行したら:法定成年後見制度

すでに認知症が進行し、意思能力を欠如しているようなら、今度は法定成年後見制度の活用を検討しましょう。

法定成年後見は3種類ある

法定成年後見は、認知症の進行度合いに応じて補助→補佐→後見の3種類に区分されます。

区分に応じ、財産処分についての同意権・代理権が広範な範囲に及びます。

申し立て人の範囲は、任意後見監督人の選任申し立てとほぼ同等で、補佐を受けている場合には保佐人が申し立てることもできます。

任意後見受任者の場合と異なり、法定選任後見の場合は候補者を申し立てできても、最終的には裁判所が選任します。

親に高額の資産があったり親族間で財産管理に関して揉めたりしている場合には、候補以外の有資格者(弁護士・司法書士)が選任されるケースが多いようです。

ただし任意の場合と異なり、監督人の選任は必要ありません。

成年後見人に対する報酬は、裁判所が公正な見地から決定します。

この報酬は、管理財産から支払わなければいけません。

自宅の売却には許可が必要

法定成年後見制度において親の自宅を売却しようとする場合には、家庭裁判所に「居住用不動産処分許可」を申し立てなければなりません。

許可を受けずに売却した場合、その取引は無効です。

他の不動産に関しても、本人の利益に反する行為(贈与・定額譲渡)などは法律で禁止されています。

まとめ

65歳以上の高齢者は3,000万人を超え、そのうち認知症予備軍MCIは400万人、認知症発病者は500万人に達するとされ、有病率は15%に達します。

2025年になると、発病者は700万人に増加すると予測されています

認知症の問題は、もはや他人事ではありません。

親の所有不動産を事前に把握しておくとともに、イザというときの対応策などを親族間で話し合っておくべきでしょう。

認知症になっても節税対策ができる信託契約については「相続の基本知識VOL22 後見人では節税できない!認知症になっても節税対策に有効な「信託契約」とは?」をご参照ください。

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