相続空き家の譲渡所得3000万円特別控除とは?併用可能な特例も紹介
この記事でわかること
- 相続した空き家を売った際に使える特別控除が理解できる
- 3,000万円の特別控除が使える条件がわかる
- 3,000万円の特別控除と併用できる特例がわかる
- よくある質問から共有不動産などに使える特例の範囲わかる
国内の空き家戸数は年々増えており、総務省統計局の「平成30年住宅・土地統計調査」では、全国の空き家数を848.9万戸と公表しています。
また、空き家の60%近くは旧耐震基準で建てられており、耐火性能も低いことから、災害時の倒壊や延焼リスクも指摘されています。
建物にも新旧交代が必要なので、空き家を相続した場合は売却も検討したいところですが、問題は所得税などの税金です。
空き家を売って利益が出ると譲渡所得税などがかかりますが、税率が高いため売却に踏み切れない方もおられるでしょう。
しかし2016年の税制改正により、空き家の譲渡益から3,000万円を特別控除できるようになりました。
特別控除の適用には一定条件があり、併用できる特例や併用不可の特例などもあるため、空き家を相続する方は制度内容を理解しておくとよいでしょう。
今回は相続空き家の譲渡に有利な「相続等により取得した空き家を譲渡した場合の3,000万円特別控除」を解説します。
目次
相続空き家の譲渡所得3000万円特別控除とは
遺言または遺産分割協議で故人が住んでいた空き家を承継し、その空き家(土地と建物)を売った場合、一定条件にマッチすれば譲渡所得から3,000万円を控除できます。
通常、不動産の譲渡益にかかる税金は、所有期間が5年以下で約40%、5年以上は約20%と高い税率ですが、特別控除を利用すると税負担は大幅に軽減されます。
古い空き家を減らし、新しい建物を増やすことが制度の趣旨なので、今後の居住や活用の見込みがない空き家であれば、売却を検討してもよいでしょう。
特別控除の適用には様々な条件もあるので、次に各条件をわかりやすく解説します。
控除を利用する条件
相続した空き家の売却で3,000万円の特別控除を受ける場合、空き家の状態や売却時期などいくつかの条件が指定されています。
建物の状態によっては取り壊しも必要になり、空き家のまま長期間保有すると特別控除が使えなくなる場合もあるため、それぞれの条件をよく把握しておいてください。
亡くなった方が1人で住んでいたこと
3,000万円の特別控除を使う場合、亡くなった方が「おひとりさま」の状態で住んでいたことが条件になります。
なお、2019年(平成31年)4月1日の税制改正によって適用範囲が拡大されたため、以下の条件であれば、被相続人が自宅に住んでいなくても特別控除が使えます。
- ・被相続人が、介護保険法に規定する要介護認定等を受けて老人ホーム等に入所し、相続開始の直前まで入所していたこと
- ・老人ホーム等に入所してから相続開始の直前まで、その家屋について被相続人による一定の使用があり、事業や貸付けの用途、または被相続人以外が居住用に使っていないこと
一定の使用とは、老人ホームからの外泊に使用していたり、光熱費を支払っていたことを指しますが、外泊記録や領収証などの証明書類が必要となります。
昭和56年5月31日以前に建築された家屋とその敷地であること
建築物の耐震基準は昭和56年6月1日から大きく変わり、震度6以上の地震に耐える構造が基準となっています。
昭和56年5月31日以前に建築された建物は旧耐震基準であり、震度5強程度の中地震にしか耐えられない建築物が多いため、建て替えや補強が促進されています。
相続した空き家も同じく、昭和56年5月31日以前に建てられたものは特別控除が使えないため、解体して更地にする、または耐震補強して売却することになります。
新旧どちらの耐震基準なのかは建築確認通知書を確認し、発行日が昭和56年5月31日以前になっていれば、旧耐震基準による建物ということになります。
なお、耐震補強して売却する場合は、一級建築士が発行する耐震基準適合証明書が必要になります。
相続開始から売却日まで継続して空き家であること
特別控除を受けるためには、相続開始から売却する日まで、空き家の状態が続いていなければなりません。
空き家を貸している、あるいは更地にした土地を貸駐車場などに利用していると、特別控除は使えないので注意してください。
空き家状態の継続は確定申告の際に証明する必要があるので、以下の書類等を市町村へ提出し、被相続人居住用家屋等確認書を交付してもらいます。
- ・売買契約書の写し
- ・電気またはガスの閉栓証明書、水道の使用廃止届出書
- ・空き家の使用状況がわかる写真
- ・固定資産税の課税明細書の写し
役場が交付する被相続人居住用家屋等確認書は、確定申告書の際に必要なので紛失しないよう厳重に保管しておきましょう。
売却代金が1億円以下であること
相続した空き家を譲渡する場合、売却代金(譲渡価格)が1億円以下でなければ3,000万円の特別控除は使えません。
売却が複数回にわたる場合は通算で1億円以下かどうかを判断します。
2023年(令和5年)12月31日までに譲渡すること
特別控除の特例には期限があるため、相続した空き家は2023年(令和5年)12月31日までに譲渡することも条件のひとつです。
不動産は買い手が見つかるまでに時間がかかる場合もあるので、売却を決定した後は早めに不動産会社へ相談するとよいでしょう。
相続空き家の3000万円特別控除と併用可能な特例
居住用財産の譲渡には他にも特例が創設されており、相続空き家の3,000万円控除と併用できるものもあります。
譲渡所得からの特別控除や、譲渡益を将来に繰り延べできる買い換え特例もあり、どちらかを相続空き家の特別控除と併用できます。
併用可能な特例の概要も詳しく解説しますので、有利に譲渡できるように適用条件などをしっかり把握しておいてください。
居住用財産の3,000万円特別控除
マイホームを売って利益が出た場合、以下の条件を満たしていれば譲渡所得から3,000万円を控除できます。
自宅の所有期間に関係なく利用できる特例で相続空き家の3,000万円控除と併用できますが、控除額の限度は3,000万円までとなっています。
- ・居住用財産(マイホーム)であること
- ・親子や夫婦など、特別な関係にある者への売却ではないこと
- ・空き家になった日から3年後の12月31日までに売却する
- ・家屋の解体日から1年以内に譲渡契約を締結し、空き家になってから3年後の12月31日までに売却
- ・家屋の解体日から譲渡契約の締結日まで、賃貸業などに使っていないこと
特定の居住用財産の買換え特例
令和3年12月31日までに自宅を買い換えた場合、新たな自宅を売るまで課税を先送りする制度です。
以下の条件を満たせば利用でき、相続空き家の3,000万円特別控除と併用も可能です
- ・居住期間、所有期間ともに10年超であること
- ・空き家になった日から3年後の12月31日までに売却
- ・売却代金が1億円以下
- ・家屋の解体日から1年以内に譲渡契約を結び、空き家になって3年後の12月31日までに売却
- ・家屋の解体日から譲渡契約の締結日まで、賃貸業などの用途に使っていないこと
- ・親子や夫婦など、特別な関係にある者への売却ではないこと
- ・新居の床面積が50㎡以上、土地面積が500㎡以下
- ・売却した年の前年から翌年までの3年の間に買い換えること
- ・中古住宅に買い換える場合、取得日から起算して25年以内の建築または、一定の耐震基準を満たしていること
住宅ローン控除
自宅を購入する際の税負担を軽くする制度であり、住宅ローンの年末残高の1%を所得税から控除できます。
控除限度額は40万円、控除期間は10年ですが、一定条件を満たすと控除期間が13年に延長されます。
適用条件は以下のとおりで、相続空き家の3,000万円控除と同時利用できます。
- ・自分が住むための住宅購入であること
- ・床面積が50㎡以上、1/2が居住部分であること
- ・新築した日または取得日から6ヶ月以内に居住し、控除を受ける年の12月31日までに居住すること
- ・年収が3,000万円以下
- ・住宅ローンの借入期間が10年以上あること
- ・居住した年の前後各2年間に、3,000万円の特別控除等の特例を使っていないこと
- ・中古住宅の場合は築年数が20年以内、マンション等は25年以内であること
- ・築年数20年以上の建物の場合、耐震基準適合証明や住宅性能評価を受けていること
小規模宅地等の特例
自宅を相続する際、小規模宅地等の特例を使えば、330㎡までの敷地の評価額を80%減にできます。
以下の条件で自宅を相続した場合に使えますが、相続税の申告期限まで自宅を所有し、住み続けていなければなりません。
- ・被相続人の配偶者が取得する
- ・被相続人と同居していた相続人が取得する
- ・被相続人に配偶者や同居親族がいない場合、相続前の3年間借家住まいの相続人が取得する
ただし、相続後に空き家となっても一定条件を満たせば小規模宅地等の特例が使え、相続空き家の3,000万円控除とも併用可能になります。
では、どのようなケースで併用できるのか、詳しい条件をみていきましょう。
小規模宅地等の特例と併用できるケース
相続後に自宅が空き家になった場合でも、以下の条件を満たせば小規模宅地等の特例が使えます。
- ・被相続人と同居する配偶者や法定相続人がいないこと
- ・自宅を相続した者が、相続開始前の3年以内に自分の持ち家や配偶者の持ち家、3親等内の親族および同族会社、一般社団法人等の所有する家屋に住んでいないこと
- ・相続した自宅を過去に所有していないこと
つまり賃貸マンションや社宅などに暮らす相続人であり、持ち家がないことから「家なき子特例」とも呼ばれる制度です。
家なき子にあたる人が自宅を相続した場合、まず小規模宅地等の特例を使い、相続税の申告期限まで住み続けた後に、相続空き家の特別控除を受ける手順になります。
なお、相続税の申告期限は相続発生から10ヶ月後なので、相続後すぐに売却しないよう注意してください。
相続税の取得費加算とは併用不可
自宅を相続した後に売却し、利益が出た場合は譲渡所得税などが課税されますが「相続税の取得費加算」を利用すると税額を圧縮できます。
相続した自宅などを一定期間に売却した場合、その財産に課税された相続税を取得費として計上できるため、譲渡所得を少なくできる制度です。
適用条件は以下のとおりですが、相続空き家の3,000万円控除とは併用できず、どちらか1つを選択することになります。
- ・相続または遺贈により取得した財産であること
- ・相続税を納税していること
- ・相続開始日の翌日から3年10ヶ月以内に売却していること
なお、併用できないのは同一不動産だけで、売却する不動産が自宅と店舗などに分かれている場合は、それぞれ別に特例を適用できます。
不動産に応じてベストな方法が使えるよう、特例の種類もよく把握しておきたいですね。
相続空き家の3000万控除に関するよくある質問
実際の相続には様々なケースがあるため、3,000万円の特別控除が使えるかどうか、判断に迷う場合もあります。
よくある質問をまとめましたので、共有名義や店舗兼自宅など、不動産が特殊な状態にある方は参考にしてください。
控除の条件に売却代金1億円以下とあるが、共有名義ではどう適用される?
共有不動産の場合は、共有者との合計金額で1億円以下かどうかを判別します。
なお、共有者が異なる時期に譲渡した場合は、相続開始後の最初の譲渡日から3年後の12月31日までの譲渡を合計して、1億円以下であるかを判別します。
売却代金1億円以下の条件について、店舗兼自宅の場合はどう判断する?
不動産が店舗と自宅を兼ねている場合は、不動産全体の売却代金で1億円以下かどうかを判断します。
居住部分だけで判定はしないので注意してください。
共有名義の自宅を売却した場合、各共有者の控除額はいくらになる?
それぞれの共有者が3,000万円の特別控除を使えます。
共有者が2人であれば合計6,000万円の控除になり、3人の場合は9,000万円になります。
1次相続と2次相続の2段階で自宅全体を相続した場合、控除の対象はどうなる?
仮に父親の相続時に母親と子1人が1/2ずつ自宅を相続したとします。
次に自宅に住んでいた母親が亡くなり、母親の持ち分1/2を子が相続して自宅全体を取得した場合、母親から相続した部分(1/2)だけが3,000万円控除の対象になります。
まとめ
実家には様々な思い入れがあるため、空き家になったからといって簡単には処分できないでしょう。
法事の際に親戚や兄弟が寝泊まりできるよう、いつまでも残しておきたいと考える方も多いようですが、管理できるかどうか、よく考えておかなければなりません。
所有しているだけで固定資産税や都市計画税が発生し、管理が不十分であれば家屋の傷みも早くなります。
傷みが激しく倒壊などの危険性も出ると、最悪の場合「行政代執行」によって強制的に解体されますが、解体費用は所有者に請求されます。
相続空き家の3,000万円控除以外にもいくつか特例があるため、空き家が負の財産になる場合は、税理士に相談してベストな対策を練っておきましょう。