農地売却時に使える800万円の特別控除とは?1500万・5000万までの控除の特例もあるの?
この記事でわかること
- 農地を売るときに発生する4種類の税金がわかる
- 農地を売った際にかかる税額を計算できるようになる
- 農地保有の合理化施策の概要がわかる
- 農地売却で利用できる800万円や1,500万円の所得控除がわかる
現在、日本国内の農地や農業は大きな転換期を迎えています。
1990年代スタートの「生産緑地」の税制優遇も2022年には期限が到来するため、多くの農地が売りに出されるのではないかと予測されています。
また、生産緑地とは無縁な地域でも就農者の高齢化が問題であり、土地の処分を検討する人も少なくはありません。
若い世代の新規就農や、異業種からの農業分野参入もありますが、バランス的には供給過多の状況といえるでしょう。
このような背景から農地の売却は早いタイミングがベストともいえますが、売却益にかかる所得税なども気になるところですね。
しかし農地売却には所得控除の特例があり、条件次第では納税額がゼロ円になるため、農地の維持・承継に悩んでおられる方は売却も検討してみるべきでしょう。
今回は農地を売った際にかかる税金や、所得控除の特例などを詳しく解説します。
目次
農地売却時に発生する税金
一般的な土地売却と同様に、農地を売った場合にも売却益(譲渡所得)に対して税金がかかります。
売買契約時に発生する税金などもあるので、まずは税金の種類を整理してみましょう。
- ・譲渡所得税と復興特別所得税
- ・住民税
- ・印紙税
- ・登録免許税
農地を売った際の譲渡所得は給与所得との分離課税であり、確定申告が必要になります。
また農地の所有期間によって税率が変わる税金もあるため、それぞれの特徴などについて詳しく解説します。
譲渡所得税と復興特別所得税
農地を売った収入額が、農地の取得費や譲渡費用の合計を上回る場合は、譲渡所得税が課税されます。
譲渡所得:譲渡収入金額-(取得費+譲渡費用)
取得費が不明な場合は、売却額の5%として計算してください。
譲渡所得税は農地の所有期間によって税率が変わり、2037年12月31日までは所得税率に2.1%を乗じて計算する復興特別所得税も上乗せされます。
- ・短期譲渡所得(所有期間が5年以下):譲渡所得税30%、復興特別所得税0.63%(30%×2.1%)
- ・長期譲渡所得(所有期間が5年超):譲渡所得税15%、復興特別所得税0.315%(15%×2.1%)
では、農地の譲渡所得が500万円の場合で税額を計算してみましょう。
- ・短期所有の税額:500万円×(30.63%)=153万1,500円
- ・長期所有の税額:500万円×(15.315%)=76万5,750万円
住民税
農地の譲渡所得には住民税も課税されますが、譲渡所得と同じく所有期間によって以下の税率が適用されます。
- ・短期譲渡所得(所有期間が5年以下):住民税9%
- ・長期譲渡所得(所有期間が5年超):住民税5%
では先ほどの計算に住民税も反映させてみます。
- ・短期所有の税額:500万円×(30.63%+9%)=198万1,500円
- ・長期所有の税額:500万円×(15.315%+5%)=101万5,750円
税率が軽減される長期所有でもかなり高額な税金になりますが、一定の条件を満たすと所得控除の特例や控除が使えます。
印紙税
不動産の譲渡契約書など、課税文書となる書類には印紙税が発生し、納付税額は下表のようになっています。
なお、2014年4月1日から2022年3月31日までは「不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置」が適用され、印紙税額も軽減されています。
契約金額 | 印紙税額 | 軽減後の税額 |
---|---|---|
1万円未満 | 非課税 | – |
10万円以下 | 200円 | – |
10万円超 50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超 100万円以下 | 1000円 | 500円 |
100万円超 500万円以下 | 2,000円 | 1,000円 |
500万円超 1,000万円以下 | 10,000円 | 5,000円 |
1,000万円超 5,000万円以下 | 20,000円 | 10,000円 |
5,000万円超 1億円以下 | 60,000円 | 30,000円 |
1億円超 5億円以下 | 10万円 | 6,0000円 |
5億円超 10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超 50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超 | 60万円 | 48万円 |
参考:国税庁
1つの契約で複数の契約書を作成した場合はそれぞれに印紙税がかかるため、売買契約では売り主、買い主ともに印紙税が発生します。
登録免許税
農地を売却すると売り主から買い主へ所有権が移るため、所有権の移転登記手続きが必要になります。
売り主側は所有権を抹消する手続きになりますが、時期によって税額は以下のように変わります。
- ・2021年3月31日までの所有権移転:売却価格の15/1,000
- ・2021年4月1日以降の所有権移転:売却価格の20/1,000
ここまでに解説した税金も合わせると、2021年4月1日以降に500万円の農地を売却した場合、税額は以下のようになります。
- ・短期所有の税額:500万円×39.63%+5,000(印紙税)+(500万円×0.02)=208万6,500円
- ・長期所有の税額:500万円×20.315%+5,000(印紙税)+(500万円×0.02)=112万750円
移転登記を司法書士に依頼した場合は、司法書士への費用も発生しますが、手続きに不慣れな方は利用を検討してもよいでしょう。
では次に、農地の売却時に利用できる控除や特例について、適用条件などを解説します。
農地保有の合理化などのために土地を売った場合の800万円の特別控除の特例とは
個人や農業法人が農地を売った場合、譲渡益(売却益)が所得税や法人税の課税対象になります。
しかし農地拡大を希望する人など、意欲的な認定農業者へ農業委員会の斡旋により売却した場合は、譲渡益から800万円を控除できる特例が使えます。
特例の利用条件などは後述しますが、国内農業の維持には国や自治体レベルの政策があるため、売却後も農地を継続できる場合は税制面も優遇されるということです。
農業委員会には農地拡大の希望者や、新規就農希望者の情報もストックされているため、個人で買い手を探すよりもスムースに売却できるでしょう。
また農業委員会や農地中間管理機構が間に入るため、買取代金の支払いも迅速かつ確実です。
ただし、抵当権などの権利設定がある場合は、特例が使えないので注意してください。
農地保有の合理化とは
日本国内の農業は小規模営農が大部分であり、後継者育成など様々な課題を抱えています。
そこで都道府県や市町村単位の農地保有合理化法人を設置し、農地の売買や貸付信託、農業研修などを行い、農業の基盤強化を目指しています。
売買事業では、農地の売り手と買い手の間に入るため、売り手は個別に買取先を探す必要がなく、買い手も売買交渉がないため、円滑な売買が可能になっています。
各自治体によって合理化事業の名称は異なりますが、事業を介した売却により譲渡所得の特例が使えるようになっています。
ちなみに農地保有合理化では、買い手にも認定農業者であることや経営状態などの制限がありますが、登録免許税や不動産取得税も軽減措置も用意されています。
売り手、買い手の双方にメリットがある仕組みといえるでしょう。
特例の適用要件
800万円の特別控除を利用する場合、対象は農用地区内の農地となり、以下のような条件が必要となります。
- ・農用地利用集積計画または農業委員会の斡旋等により譲渡した場合
- ・農地中間管理機構または農地利用集積円滑化団体に譲渡した場合
農用地利用集積計画は有効な農地活用を目的としており、各自治体の農業委員会や関連団体によりスムーズな農地売買や貸し借りを実現する取り組みです。
農業委員会の斡旋があれば行政計画への協力にもなり、譲渡所得にも優遇税制が適用されるようになっています。
農地売却時に使える他の特例
一定の条件を満たせば、農地中間管理機構へ農地売却すると1,500万円の特別控除があります。
また、土地収用法による買い取りの場合は5,000万円の控除があるため、承継者のいない農地でも有利に売却できるでしょう。
具体的な条件や必要書類なども解説しますので、農地売却を検討している方はぜひ参考にしてください。
農地中間管理機構への譲渡による1,500万円控除
農用地区域にある農地を譲渡する場合、農業経営基盤強化促進法にもとづく買入協議であれば、譲渡益から1,500万円を控除できます。
買入協議とは、農地所有者が農業委員会に売却の斡旋を申し出た後、農業委員会から要請された各自治体が買入の可否を協議するものです。
買入協議の結果は農家と農地中間管理機構に通知されますが、買入となった場合は一旦機構に譲渡され、その後認定農業者へ譲渡される流れになっています。
農業委員会への提出書類は「農地法第3条の規定による申請書(例)」となりますが、申請書だけでも10ページ近くあり、その他の添付書類も必要です。
農地面積も記入するため登記簿なども必要になりますので、詳しくは農業委員会に問い合わせるとよいでしょう。
農地転用目的の売却による5,000万円の特別控除
土地収用法によって農地が買い取られる場合、5,000万円の特別控除が適用されます。
主に公共事業が目的であり、国の指定業者が農地を買い取った場合に使える特例ですが、確定申告は必ず行わなければなりません。
申告の際には買取証明などの添付書類も必要になるので、業者から交付された書類は失くさないように注意が必要です。
まとめ
現在、農地の評価額は下落傾向にあるため、跡継ぎがいない場合は早めに売却を検討してもよいかもしれません。
引き続き農地として活用される売却であれば、800万円や1,500万円の特別控除もあり、代金の支払いも速やかに行われます。
ただし「農地法第3条」により、農地売買には農業委員会の許可が必要なため、勝手に売ることはできません。
無許可の売買や貸付には厳しいペナルティもあり、売買契約や貸付契約なども強制的に無効になります。
農業継続が困難な場合は、まず地域の農業委員会に相談し、売却可能かどうか判断してもらいましょう。
また、具体的な税額計算や確定申告、所有権の移転登記など、初心者には少々ハードルの高い作業も発生するため、専門家への相談も必要になるでしょう。
税金関係は税理士、法務局での手続きは司法書士が専門ですが、どちらも在籍している法律事務所であれば、時間や労力も軽減されます。