農地売却にかかる税金の計算方法【普通の土地を売却するときとの違い】
この記事でわかること
- 農地売却時にかかる税金の種類を理解できる
- 農地売却時にかかる譲渡所得税の計算方法がわかる
- 農地売却と普通の土地売却の税金の違いがわかる
農業を営んできたがリタイアしたいという方や農地を相続した方の中には、農地の売却を検討する方もいるでしょう。
農地売却を考えるとき、気になるのが税金です。
そこで、この記事では農地売却時にかかる税金、税金の計算方法、農地売却時の税金の特例などを解説します。
また、農地売却時にかかる税金以外の費用相場もお伝えします。
農地の売却につきものの農地法許可にかかる費用や、不動産会社の仲介手数料なども解説しますので、ぜひ参考にしてください。
目次
農地売却時にかかる税金の種類
一般的な土地売却時にかかる税金と同様に、農地売却時にも税金がかかります。
5つの税金について確認しておきましょう。
譲渡所得税
譲渡所得税とは、農地を売った利益に対して掛かる税金です。
たとえば、100万円で買った農地を売却し、800万円の利益を得たとします。
この800万円の利益が「譲渡所得」であり、税金がかかります。
譲渡所得は、サラリーマンの給与とは分離して課税されるので注意してください。
譲渡所得税の税率や、計算方法など詳しい内容については、後述します。
住民税
所得税は国税ですが、住民税は地方公共団体が課税する税金です。
所得が上がれば住民税も上がってしまいます。
農地を売却して利益を得れば所得があがったことになり、住民税もその分上乗せされてかかるということです。
住民税の税率など詳しい内容については、後述します。
復興特別所得税
所得税納税義務のある個人は、所得税と併せて復興特別所得税という税金を支払わなければなりません。
この復興特別所得税は東日本大震災からの復興を図る財源を確保するために、平成25年から課税が始まった税金です。
農地を売却して利益を得れば、譲渡所得税を支払わなければなりません。
この譲渡所得税を払う人は、復興特別所得税を支払う義務があります。
印紙税
印紙税とは国が課税する税金です。
印紙税は一般的に「印紙代」と呼ばれていますが、一定の書面を作成すると印紙税を支払わなければなりません。
農地の売買契約書を作成すると、契約書に印紙税がかかります。
売買契約書に掛かる印紙税は、10万円以下の場合は200円、10万円を超え50万円以下の場合は400円など、売買代金額により定められています。
登録免許税
農地売却時には、農地の名義移転登記をおこないます。
この登記をおこなう際に払う税金が登録免許税です。
農地の買主の名義に移転するときは、通常は買主が登録免許税を負担し、農地の売主は登録免許税を払いません。
ただし、農地売却時にかかる登録免許税を売主と買主で折半することはあります。
また、農地の相続による名義移転登記が終わっていなければ、農地を売却する前提として登記をしなければなりません。
相続による農地の名義移転登記では、相続人が登録免許税を負担します。
農地売却にかかる譲渡所得税の計算方法
農地売却時にかかる譲渡所得税を実際に計算してみましょう。
基本的な算出方法と、特別控除を理解する必要があります。
取得費と譲渡費用の控除
農地売却時の譲渡所得税の計算はまず、収入金額から、取得費と譲渡費用を合計した額を控除します。
収入金額とは、農地の売買代金額です。
取得費とは、農地を購入したときの購入額や、契約書に添付した印紙代、不動産会社に支払った仲介手数料等です。
譲渡費用とは、譲渡した際にかかった仲介手数料や印紙代などのことです。
たとえば、次のケースで考えます。
- ・農地の売却代金が20,000,000円(収入金額)
- ・農地の取得費(購入費)が6,000,000円
- ・農地の譲渡費用が1,000,000円
課税譲渡所得金額は以下の計算式により算出します。
20,000,000円-(6,000,000円+1,000,000円)=13,000,000円
この13,000,000円が課税譲渡所得金額です。
特別控除
農地売却時の譲渡所得から特別控除額をひくと、譲渡所得が低くなります。
先ほどの例で、農地売却時に適用できる800万円の特別控除を利用すると、譲渡所得は以下のようになります。
20,000,000円(収入額)-(6,000,000円+1,000,000円)(取得費+取得費用)-特別控除額8,000,000円=5,000,000円(課税譲渡所得)
課税譲渡所得金額に後述する税率を乗じて税金を計算します。
したがって、課税譲渡所得金額が13,000,000円から5,000,000円になれば、所得税は安くなります。
特別控除の特例を適用できると節税になるということです。
特別控除については詳しくは後述します。
税率を乗じる
先述の算式で算出した課税譲渡所得に、所得税の税率を乗じて税額を算出します。
所得税の税率は、長期譲渡所得と短期譲渡所得で異なります。
長期譲渡所得とは所有期間5年を超える場合、短期譲渡所得とは所有期間が5年以内の場合です。
この「所有期間」は「居住期間」ではありません。
また、「5年を超える」が長期譲渡所得の要件なので、所有期間が満5年だと短期譲渡所得になり、税率が高くなるので注意してください。
長期譲渡所得の所得税の税率は15%、短期譲渡所得の所得税の税率は30%となります。
課税譲渡所得が5,000,000円の場合で計算してみましょう。
譲渡所得税がかかれば、住民税もかかりますから、すべてを合わせた金額を算出してみることにします。
長期譲渡所得の場合
長期譲渡所得なら、所得税の税率は15%なので、以下の式になります。
課税譲渡所得5,000,000円×15%=750,000円(譲渡所得の税金)
次に、長期譲渡所得の住民税の税率は5%ですので、譲渡所得に住民税の税率5%を乗じます。
5,000,000円×5%=250,000円(譲渡所得の住民税)
つまり、5,000,000円の長期譲渡所得が出た場合にかかる譲渡所得税と住民税の合計は1,000,000円となります。
さらに復興所得税2.1%がかかりますので、5,000,000円×2.1%で105,000円となり、農地譲渡にかかる税金の合計額は1,105,000円となります。
短期譲渡所得の場合
短期譲渡所得なら、所得税の税率は30%なので、以下の式になります。
課税譲渡所得5,000,000円×30%=1,500,000円(譲渡所得の税金)
次に、短期譲渡所得の住民税の税率は9%ですので、譲渡所得に9%を乗じます。
5,000,000円×9%=450,000円(譲渡所得の住民税)
所得税と住民税の合計は5,000,000円の短期譲渡所得が出た場合1,950,000円かかるということになります。
さらに復興所得税2.1%がかかりますので、長期譲渡所得の計算で出た105,000円となり、短期譲渡所得にかかる税金の合計は2,055,000円ということになります。
つまり、仮に農地売却時に5,000,000円の利益を得ると、所有期間が5年以内の場合は2,100,000円程度の税金がかかってしまいます。
いつ売却するかなども、十分に検討するとよいでしょう。
譲渡所得税と住民税の税率
所有期間 | 所得税の税率 | 住民税の税率 | |
---|---|---|---|
長期譲渡所得 | 5年超 | 15% | 5% |
短期譲渡所得 | 5年以内 | 30% | 9% |
農地売却と普通の土地売却にかかる税金の違い
農地の売却時も、普通の土地売却時と同様の税金がかかることや譲渡所得税の計算方法がわかりました。
次は、農地売却と普通の土地売却の税金の相違点を解説します。
農地売却と普通の土地売却で大きく違うのは、譲渡所得税の特別控除です。
普通の土地売却では、居住用財産譲渡の特別控除や土地収用による特別控除がありますが、農地売却では次の特別控除があるのが特徴です。
農地売却時の特別控除
注意点 | 控除額 | |
---|---|---|
農地保有の合理化のため農地を売却した場合の特例 | 農業経営基盤強化促進法の農用地利用集積計画等による譲渡 | 800万円 |
特定住宅地造成事業などのために農地を売った場合の特例 | 農地中間管理機構に譲渡 | 1,500万円 |
農地中間管理機構に譲渡した場合の特例 | 農業経営基盤強化促進法の農用地利用規程に基づく譲渡 | 2,000万円 |
農地売却時にかかる税金以外の費用相場
最後に、農地売却時にかかる税金以外の費用相場を確認します。
行政書士費用
農地の売却には農地法の許可が必要です。
仮に、農地を買いたい人がみつかったとしても、その買主に農地を売却してよいという許可をもらえなければ、所有権移転の効果は発生しません。
農地法の許可は、原則として農業委員会に申請します。
この許可申請手続きを自分でおこなうこともできますが、専門的な知識が必要なため行政書士に依頼する人が多いでしょう。
行政書士の農地法許可申請の報酬は、5万円から10万円が相場とされていますが、買主の耕作計画及び所在する区域などによっては許可の手続きが煩雑になるため、行政書士費用がかさむことがあります。
農地法許可申請を行政書士に依頼する前に、費用の見積もりを頼むとよいでしょう。
仲介手数料
不動産会社に農地の売却を仲介してもらう場合、仲介手数料が発生します。
仲介手数料は売買が成立した場合に払う成功報酬です。
農地であっても、通常の土地であっても仲介手数料の相場は変わりません。
仲介手数料の速算法は、農地の売買価格を基準に、以下の通りです。
- ・売買価格…200万円以下の場合は5%
- ・売買価格…200万円を超え400万円以下の場合は4%+2万円
- ・売買価格…400万円を超える場合は3%+6万円
まとめ
農地売却時にかかる税金や、農地の譲渡所得税の計算方法、農地売却時の特別控除などを見てきました。
農地売却においては、通常の土地売却時と同様、税金についてよく理解しましょう。
特に、農地売却時特有の特別控除を上手に活用することが大切です。
農地保有の状態によっては税制の優遇を受けられたり、逆に優遇が消えてしまったりします。
相続した農地等の保有で発生する税金についても、早めに税理士に相談するとよいでしょう。
また、農地の売却では農地法の許可がおりなければ、農地を売却できないので注意してください。
農地の売却を検討する方は、税金に加えて、農業委員会や都道府県との交渉、農地関連法の知識も併せ持った不動産会社に相談することをおすすめします。