知らないと損をするから…売却の基礎知識を勉強しましょう
「不動産売却のことはよくわからないので仲介業者に任せておきたい」そんな風に考えていませんか?売り買いで人任せにしておいては、ろくなことはありません。
車の話を例にとると、今まではディーラーへ下取りに出すのが当たり前だったのを、最近は買取店を回って少しでも高く売却するスタイルが相当普及してきました。
投資の世界も、今や個人投資家の8割がオンラインで株取引しています。
店頭で営業マンを通して売買する古典的なスタイルはもはや少数派です。
一方、不動産取引は相対取引が中心で価格形成や取引プロセスも複雑かつ不透明です。
プロの仲介業者に売却を任せざるを得ないのは確かです。
だからといって、丸投げはいけません。
自らもアンテナを高くし、情報武装・知識武装したうえで売却に臨みましょう。
今回の記事では、不動産売却で損しないための基礎知識を解説します。
目次
不動産取引の特徴は地域性と閉鎖性
インターネットを始めとしたITテクノロジーものもと、アマゾンに代表されるプラットフォーマーは、あらゆる商品・サービスの情報をネット取引の渦に飲み込みました。
数少ない例外の1つが、不動産取引です。
ネット市場での取引を拒むもの、それが地域性です。
例えば不動産の価格は、駅が1つ違うだけで、その駅が各駅か特急かによって全然変わってきます。
その他にも、病院・学校施設・道路の整備状況、騒音・河川や空気の汚染といった周辺環境など、さまざまな地域特性が価格を左右します。
一見便利そうな地域も、河川や線路で街が分断されている、バイパス沿いでトラックがひっきりなしに通る、さらにカルト系宗教施設と、地元にいないとわからないネガティブファクターも絡んできます。
さらに同じ地域でも、道路1本隔てただけで不動産価格は変わってきます。
その土地が受ける土地規制・土地の形状(奥行・間口・傾斜地など)、さらには周辺の再開発計画(自分の土地が引っかかるかなど)といった個別要因が価格を左右するのです。
こうしたさまざまな個別情報はクローズ化され、地域のインナーな仲介業者が情報を握っているのです。
ちなみに不動産業者の数は全国で30万社を超え、その2/3が資本金1千万円以下の中小事業者、いわゆる「街の不動産屋さん」です。不動産の地域性・閉鎖性が強いからこそ、これだけの数の不動産業者がやっていけるのです。
不動産取引の基本的な流れ
不動産の売却は、一般的には下調べ→査定→媒介契約→買主募集の販売活動→契約の取り交わしと進みます。
下調べで方向性が決まる
ご自分が長年暮らした住まいや、事業を営んできた店舗などならある程度「土地勘」が働くでしょう(最近増えている相続物件はそうもいかないケースが多いようですが)。
それでも、自分の不動産はいくらぐらいで売れるのか、足は速そうなのか、改めての下調べは必要です。
その前にまずやるべきは、「なぜ売却するのか」を明確にすることです。
自分の生活拠点と離れた土地を相続し居住用や事業用として利用し辛い、子どもたちが独立し夫婦2人では広すぎる、借入の返済に充てたい、親から継いだ家業をやめ店舗を売り払うなど、事情はさまざまでしょう。
理由によって、急いで売るべきか、それともじっくり待ってできるだけ高く売りたいかも決まってきます。
むしろ「売却しない」、つまり賃貸に回す方が得策という結論が出るかもしれないのです。
次に登記簿を眺めてみましょう。
例えば隣接地との境界線でもめ事はないか、賃借権(借地権や地上権)が記載されているか、銀行からの融資など抵当権が記載されているかなどは要点検項目です。
査定で売却価格の見当をつける
査定とは、自分の不動産がどれくらいするのかの見積で、不動産会社に依頼します。
査定方法は一般的に以下の3つです
- ・取引事例比較法
周辺の類似取引を参考に、不動産価格を形成する要素(立地・築年数・個別事情など)を点数化して比較算出する方法で、中古住宅では最もよく用いられます。
類似取引の抽出に当たっては、取引が正常に行われたこと(または特殊事情を補正しやすいこと)、地域・個別要因の比較が容易なこと、時点修正(取引発生時と査定時点の不動産市場変動)がしやすいことを考慮します。 - ・原価法
建物の再調達価額(もう一度新築した場合にかかるコスト)を算出したうえで、経年劣化に伴う減価補正を差し引いて査定価格を弾き出します。
再調達価額の算出は、直接法(建物の素材価格・工数と時間単価などを積算する方法)または間接法(ハウスメーカー・建設業者等から購入した場合の価格を用いる方法)が用いられます。
再調達価額の算出が容易な建築物に対しては、有効な査定方法です。 - ・収益還元法
賃貸不動産や事業用不動産に用いられることの多い査定方法で、将来収益の総和を現在価値に割り戻した価格に基づいて査定価格を弾き出します。
査定価格は、合理的かつ客観性な収益を予測できるかどうかで妥当性が変わってきます。
言い換えれば、収益予測のベースとなる運用事例の抽出などがいい加減だと、査定価格の信頼性も落ちてしまうのです。
収益還元法には、直接還元法(各年の収益から維持管理費・修繕費などの年間経費を差し引いた純収益を還元利回りで割って査定価格を算出する)、DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法、将来収益の現在価値=査定価格とする)の2種類ありますが、一般的には直接還元法が用いられます。
なお、不動産市場が過熱気味又は冷え込んでいるときには、収益還元法による査定価格と、実際の取引価格に乖離が生じるケースも見られます。
媒介契約は3種類ある
媒介契約とは、不動産売却におけるトラブルを未然に防止し円滑な取引を進めるために、あらかじめ仲介業者から受けるサービスと対価を取り交わす契約です。
締結する媒介契約は3種類あります。
- ・一般媒介契約
複数の仲介業者との契約が可能なのが一般媒介契約で、もっとも縛りが少ない契約形態です。
自ら買主(親せきや知人など)を見つけてきて、直接売買契約を結ぶことも可能です(専任媒介契約も同様)。
一般媒介契約には、他の仲介業者と契約を結んだ場合に通知義務を課す明示型と、課さない非明示型の2種類あります。 - ・専任媒介契約
1社のみとの契約に拘束されるのが、専任媒介契約です。
仲介業者は契約後7日以内に指定流通機構(レインズ)への登録を義務付けられ、物件への問い合わせ状況等を2週間に一度は売主に報告しなければなりません。
契約期間は3か月以内とされています。 - ・専任専属媒介契約
基本的に専任媒介契約と同じ契約形態ですが、自分で買主をみつけて直接契約することはできません。
レインズへの登録は5日以内、売主への報告は1週間以内とされています。
契約期間上限3か月は専任媒介契約と変わりません。
その他、ローン特約の有無も確認しておきましょう。
買主が見つかり売買契約を結んだ後に、ローン審査ではねられ契約解除といったケースはしばしばあります。
媒介契約時にローン特約を結んでおけば、売主は一旦支払った仲介手数料の返還を受けることができます。
どの契約形態を選ぶべきかは、売主や物件の個別事情によって変わります。
人気の高い物件でしたら、一般媒介契約を複数業者と結んで互いに競わせるのも選択肢の一つです。
仲介業者と連携を密にして二人三脚で売却活動を進めたいなら、専任媒介契約・専任専属媒介契約を取り交わすべきです。
仲介手数料はいくらするのか
ちなみに、宅地建物取引業法に定める仲介手数料は以下の通りで、ほとんどのケースで業者は上限金額を請求します。
不動産仲介業務は手間暇かかる仕事であり、それを考えるとやむを得ないかもしれません。
仲介手数料を値切るより、むしろ仲介業者に頑張ってもらって、好条件での売却を目指す方が得策といえそうです。
売却金額 | 手数料(税抜き) |
---|---|
~200万円 | 売却金額×5% |
200万円~400万円 | 2万円+売却金額×4% |
400万円~ | 6万円+売却金額×3% |
販売活動がうまくいくポイント
仲介業者がWEB広告やチラシを通じて買主を募集していると、やがて見込み客の中から内見希望者が現れます。
内見は、販売活動の成否を握る一大イベントです。
内見希望者が多い場合は、オープンハウスの形態をとり、仲介業者の営業が張り付くようなケースもあります。
内見では、いかに好印象を与えるかどうかがポイントです。
ホームステージング(モデルルームのようにインテリアや小物で飾り付ける手法でアメリカでは広く普及)まで手を付けるかはコストもかかることなので議論の分かれるところですが、床の水拭きや水回りの清掃、部屋の片づけなどは極力完璧を期しましょう。
リフォーム・リノベーションに関しては、買主の意向(できるだけ安く買いたい・キッチンには自分の嗜好を反映させたい)もあるので、よほど劣化のひどい箇所は除いてそのままにしておくのが賢明です。
売主が立ち会うにあたっては、極端にアピールしたりましてや値引きをほのめかす必要はありません。
あくまで自然体がベストです。
ただし、質問されたことにはなるべく答えられるよう、事前に想定問答を整理した方が良いでしょう。
例えば給湯・ガス設備の更新時期、床暖房の不具合、周辺環境(騒音等)など、思いついたことを列挙してみましょう。
内見希望が入ってこなくなったら要注意
購入希望者には、物件の広告掲載から2-3週間ほどで情報が行きわたります。
つまり、1か月ほどで問い合わせや内見希望がさっぱりと入ってこなくなったら、その先は見込み薄の可能性が高いのです。
そうなってくると、次は希望売却価格を切り下げていくべきです。
購入希望者も切り下げのタイミングを待ち、じっと我慢しているケースも多いようです。
切り下げる単位は100万円、より細かく50万円単位で落としていく場合もあります。
両手ねらいの仲介業者に要注意
専任専属媒介契約または専任媒介契約を結んだ場合、レインズへの登録時期は契約より5日または7日以内です。
ですので、仲介業者は手持ちの見込み客を連れてきて売り・買い両方の仲介手数料ゲット、いわゆる「両手」をねらうケースがしばしば見られます。
仲介業者も営利企業なので、「両手ねらい」はある程度やむを得ませんが、度が過ぎると考えものです。
悪質な仲介業者は、レインズに登録後も他業者からの問い合わせをシャットアウトし、自分のところで囲い込もうとします。
そうすると内見も入ってこず売却活動は滞ります。
こうした事態を防止するために、レインズへの登録内容をネットでチェックするのも対策の1つです。
売却物件が「申し込みあり」「売主都合で紹介停止中」となっていたら要注意です。
購入希望者との価格交渉はケースバイケースで
購入希望者との価格交渉では、先方から価格を切り下げてくるケースがしばしば見られますが、これがいわゆる指値です。
5000万円の物件に対し4800~4900万円の指値なら応じても良いかもしれません。
では、4500万円で指してきたらどうでしょう。
こうした場合に受けるかどうかは、売る主側の状況にも左右されます。
他の購入希望者から引き合いがある、あるいは急いで売る必要がないなら、強気に出るのも悪くありません。
価格を4800万円程度に下げて広告を出すのも、選択肢の1つです。
切り下げにより、新たに引き合いがあるかもしれません。
指値に応じる場合は、「その代わり」追加で付帯条件は付けないことを念押ししなければなりません。
「調子が悪いガスコンロを交換してほしい」「床暖房を直してほしい」といった「後だし」が出てこないよう、値下げとの交換条件で「現況渡し」をリクエストしましょう。
まとめ
不動産の売却は、知識・情報武装が必要なだけでなく、こまごまとした手続きも多く神経を使います。
スケジューリングをきちんと組んだうえで、順序だててステップを踏んでいく着実さも求められます。
この道のりをどう乗り切るか?解決策の1つは「楽しむこと」です。
不動産について知識を身に付けていると、今までは実感できなかった社会や経済のさまざまな側面が見えてきます。
そんな世界を垣間見るのは、ある意味で刺激的で新鮮です。
それに計画的に段取りを進めていけば、努力は必ず数字に表れます。
その日を信じて、売却活動を楽しみながら進めましょう。