相続した土地を農地転用するのにかかる費用は?手続きや注意点を解説
この記事でわかること
- 転用できる農地、転用できない農地についてわかる
- 農地転用にかかる費用がわかる
- 農地転用をするときの注意点がわかる
相続によって、被相続人が保有していた農地を相続することがあります。
相続人も農業を行うのであればそのまま農地として利用していくと思いますが、相続人の中には農業をしない人もいます。
すると、相続した農地を他に利用できないか、検討することとなるのです。
ここでは、農地を他に利用するための農地転用手続きでかかる費用や注意点について解説します。
目次
農地を相続しても農業をしないときにすべき選択
農業をしない相続人は、相続した農地をそのまま保有していても固定資産税などの負担が発生するだけで意味がありません。
そこで(1)農地を売却するか、(2)農地を他の用途に使えるようにする(農地転用)かを選択する必要があります。
農地を売却するには、農地のまま他の農業従事者に売却するのが一番簡単な方法です。
しかし、農地を購入できる人は限られるため、どれだけ時間をかけても買い手は見つからないかもしれません。
そのため、農地をいったん農地以外に転用してから売却するということが行われています。
農地転用とは
農地転用とは、田や畑などの農地を、それ以外の用途に用いることのできる土地にすることです。
農地転用の対象となる土地は、登記上の地目が「田」や「畑」になっている場合だけでなく、実際に耕作を行っている土地のことを言います。
本来は保有する土地をどのように使っても自由なのですが、日本国内の農業生産を維持するために農地法という法律があり、農地を勝手に他の用途に転用することはできません。
そのため、農地転用を行う際には、法律に定められた手続きを行う必要があるのです。
また、農地を農業従事者以外の方が購入することにも制約があり、農地が簡単に他の用途に利用できないようになっています。
農地転用にかかる費用
農地転用の申請は自分で行うこともでき、届出や許可に費用はかかりません。
よって、自分で申請を行うと農地転用は0円でできます。
しかし実際には専門家である行政書士に依頼するケースが多いと思います。
行政書士に依頼する際の費用は、その手続きの難易度や複雑さによって変わります。
市街化区域内・市街化調整区域内それぞれの農地転用の手続きにかかる費用は次の通りです。
農地がある土地の区分 | 手続きの方法 | 行政書士への依頼費用 |
---|---|---|
市街化区域 | 農業委員会の届出 | 4万~7万円程度 |
市街化調整区域 | 都道府県知事の許可 | 8万~十数万円程度 |
農地法4条・5条に基づいて行う届出の費用は4万~7万円程度、許可申請の手続きの費用は8万~十数万円程度が相場で届出の2倍以上となることが多いでしょう。
ただ、これもあくまで一般論であり、内容によってはそれ以上の費用がかかることも十分に考えられます。
このほか、登記事項証明書や公図などの必要書類をそろえる際にも費用がかかります。
また、実際に農地を転用する際には測量を行い、あるいは所有権移転登記や地目変更・分筆を行う必要がありますし、転用後の土地に建物を建てる際の開発許可も取得しなければなりません。
例えば、測量だけでも数十万円あるいはそれ以上の費用がかかるなど、総額では非常に大きな出費となります。
自分で手続きを行う場合も、届出や申請は0円でできますがその他の費用が必要となるので気をつけておきましょう。
行政書士に農地転用を依頼するのであれば、どこまでの内容を依頼するのか、そしてトータルでどれくらいの費用になるのか、あらかじめ確認しておくようにしましょう。
農地の種類
農地には種類があり、転用できるものと転用できないものがあります。
ここからは、農地の種類について確認していきましょう。
第2種農地
第2種農地とは、将来的に市街地として発展する環境にある農地や、農業公共投資の対象外であり生産力の低い小団地農地をいいます。
具体的には、以下のいずれかです。
- ①鉄道の駅や官公庁、バスターミナルなどの所在地から500m以内にある農地
- ②市街化区域から500メートル以内に所在し、10ha以上の集団農地に該当しないもの
第3種農地
第3種農地とは、市街化が進んでいる地域にある農地をいいます。
具体的には、以下のいずれかです。
- ①上・下水道またはガス管のうち2種類以上が前面道路まで埋設されており、かつ500m以内に教育機関・医療機関・その他の公共施設が2つ以上ある農地
- ②鉄道の駅や官公庁、インターチェンジ等から300m以内にある農地
- ③街区の面積に占める宅地化率40%以上の区画にある農地
- ④用途地域内にある農地
転用できない農地
第2種農地や第3種農地にあたる農地であっても、以下のような場合は転用が認められません。
- 転用することに確実性が認められない場合
- 周辺農地への被害防除措置を適切に行われていない場合
- 一時転用で農地への原状回復が確実でない場合
また、以下項目については、原則として転用は認められません。
- 農用地区域内農地
- 甲種農地(市街化調整区域内にある生産性の高い農地)
- 第1種農地(10ha以上の集団農地や、農業公共投資の対象となっている農地、生産性の高い農地)
農地転用できない農地については、以下の記事に詳しく書かれていますのでご覧ください。
これらの農地を転用するのに認められるのは、農業用の施設を作る場合や集落接続の住宅等を作るために転用する場合など、かなり限定的です。
転用しようと考えている農地がどの農地に該当するのか、事前に市役所や農業委員会で確認しておく必要があります。
農地転用許可に必要な手続きと書類
農地転用の手続きの方法は、農地転用する土地の区分によって異なります。
農地が市街化区域内にある場合は、各市町村の農業委員会に届出を行います。
一方、農地が市街化調整区域内にある場合の農地転用は、都道府県知事からの許可が必要です。
ただ、農地の大きさが4haを超える場合には、都道府県知事ではなく農林水産大臣の許可が必要となります。
転用許可を得るための手続きの流れ
申請を行ってから許可を得るまでの流れを、農地の種類に応じて確認しておきましょう。
4ha以下の農地の場合(都道府県知事の許可)
- (1)申請者は、農地転用の許可を得るために必要な書類を農業委員会に提出する
- (2)農業委員会は、申請内容についての意見書を付して、申請者が提出した書類を都道府県知事に送付する
- (3)都道府県知事は申請の内容を農業会議に諮り、農業会議は意見を提出する
- (4)都道府県知事から農地転用許可が申請者に通知される
4haを超える農地の場合(農林水産大臣の許可)
- (1)申請者は、農地転用の許可を得るために必要な書類を都道府県知事に提出する
- (2)都道府県知事は、申請内容についての意見書を添付して、申請者が提出した書類を農林水産大臣に送付する
- (3)農林水産大臣から農地転用許可が申請者に通知される
市街化区域内にある農地の場合(農業委員会への届出)
- (1)申請者は、農地転用を届け出るために必要な書類を農業委員会に提出する
- (2)農業委員会から届出が受理されたとする通知が申請者に通知される
農地転用許可に必要な書類
農地転用許可を得るためには、農業委員会や都道府県知事に書類を提出しなければなりません。
実際に必要となる書類にはどのようなものがあるのでしょうか。
必ず必要となるのは、以下の3つです。
- (1)転用予定農地の登記簿謄本(登記事項証明書)
- (2)転用予定農地の公図
- (3)転用予定農地の図面(農地の位置や近隣の状況が確認できる地図など)
このうち、(1)の登記事項証明書と(2)の公図は法務局で取得するか、インターネットで取得することができます。
また、(3)の図面については、住宅地図を図書館やインターネットで取得し、どの農地を転用としているのかわかるようにしておきます。
また、農地や周辺の写真もあわせて準備しておく必要があります。
このほか、農地転用後に住宅を建築する予定の場合にはその建物の図面や、金融機関の残高証明書、住宅ローンの融資決定通知書など(ない場合には事前審査結果通知書など)の書類も必要となります。
また、農地を転用した後に申請した内容どおりに利用できることを証明するため、預貯金の残高証明書や資金計画書の提出が必要となることがあります。
農地転用の内容によって必要な書類は異なるため、必ず事前に確認するようにしましょう。
農地転用の注意点
農地転用を行う際、あるいは農地転用後の注意点をまとめました。
農地転用にはメリットばかりでないため、その内容を理解したうえで農地転用を行うようにしましょう。
農地転用の手続きに時間がかかる
農地転用の手続きは、その流れを見てもわかるように、多くの過程を経なければなりません。
また、申請書類の受付や農業委員会の開催は常時行われているわけではないため、その許可を受けるまでに時間がかかります。
その農地の状況にもよりますが、農地転用には申請から許可を得るまで、通常1か月半程度かかるとされます。
農地転用を行う際には、同時に転用後の準備も進めなければならないため、確実なスケジュールを前提に進めるようにしましょう。
また、転用後の土地を他人に貸したり売却したりする場合は、申請前に契約を締結する必要があります。
契約せずに申請することはできないため、注意が必要です。
農地転用後は固定資産税が上昇する
農地は農地としてしか利用することができないため、固定資産税が低く設定されています。
しかし、農地転用を行って宅地に地目が変更されると、様々な用途に利用することができるため、その分固定資産税が上昇します。
農地によっては、その税額が大幅に上昇することとなるため、注意が必要です。
まとめ
農業を行っていない人が農地を相続しても、その相続人にとっては財産にはなりません。
固定資産税を支払ったり、農地を管理したりするために多くの負担をしなければならないからです。
農地は簡単に売却したり賃貸したりすることはできないと思っている方は多いかもしれませんが、その農地の所在地によっては、きちんと手続きを行えば売却することも可能です。
まずは、相続した農地が転用できるものかどうかを確認し、転用できることが確認できればそのための手続きを進めていきましょう。
手続きをご自身で行うことが難しい場合は、専門家への相談を検討してみてはいかがでしょうか。